第4話
イバンの軍勢は、王国の城下にまで迫った。
彼は民家に火を放ち、城下は火の海となった。
もはやここまで、と国王は、王女とアリシアと数名で城を逃れるように指示した。
自身は最期まで城を守るとのことだった。
アリシアの父エンリケも城に残ることになった。
アリシアたちは鎧を捨て、雑兵姿に着替えた。
イザベラ王女は最期まで泣き続けた。
「父上もお逃げになってください」
「ワシは足も動かん。おまえはアリシアのいうことを聞くんだぞ」
アリシアは父のエンリケに何をいえばいいのかわからなかった。
「お父様…」
「騎士は死ぬべきときに死なねば、死以上の恥となる… ここが私の死に場所だ…」
「……」
「アリシアよ… わが娘… 武運を祈る…」
「お父様に神様のご加護がありますように…」
父に彼女はこういうしかなかった。
そして秘密の通路で、アリシアたちは城を出た。
国王がいった。
「エンリケ、よく今まで働いてくれた…」
彼が答える。
「王の臣下でいられたことは私の誇りです」
護衛の騎士たちを討ち取り、イバンの部下たちが入ってきて、真っ先に彼らに立ち向かったのは犬のチコだった。
彼らに怒りの鳴き声を浴びせたが、あえなく剣でその首をはねられてしまった。
次に立ち向かったのは、エンリケとその部下たちだった。
「我こそはエンリケ・ド・カセレス! 国王の前で無礼だぞ! ひざまずいて頭を下げよ!」
「ほざいたな! 老いぼれ!」
一対一ならエンリケが負けることはなかったであろう。
しかし、何人もの敵に同時にかかられては、歴戦の勇士も勝つことはできなかった。
エンリケを倒した敵は、国王に剣を上げた。
そして、国王はその剣が輝くのを見た…
アリシアが城外に出ると、城から火の手が上がるのが見えた。
王女が涙を流していった。
「父上…」
アリシアは王女の手を引いた。
「…行きましょう」
森の中を進むうちに、王女がこれ以上歩けないといった。
もともと体力のない王族に森の中を歩かせるのも無理な話だった。
敵の馬を盗もうということになり、危険を冒して敵に近づくことになった。
もっとも危険な仕事にアリシアが向かうこともできず、もっとも身分の低いものが選ばれた。
そろそろと近づき、馬の手綱を引く。
しかし馬がいうことを聞かず、敵に見つかってしまった。
捕らえられた男は、おそらく仲間の居場所を吐けば命だけは助けてやる、といわれたのであろう。
アリシアたちの居る場所を指さした。
その瞬間、敵は男の首を斬り落とした。
敵がこちらに迫ってくる。
アリシアたちを見つけると叫んだ。
「なんだ? 女がいるぞ」
目ざとく王女を見つけたのだ。
アリシアは、剣を抜いて叫んだ。
「やあ、我こそはアリシア・ド・カセレス! 賊どもめ、覚悟せよ! 手並み見せて、懲らしてくれん!」
「なんだ、こっちも女か!」
ニヤリと敵が笑っていった。
「こいつはオレの獲物だ!」
野獣と戦うには、自らも野獣とならねばならない。
兄の言葉が、アリシアの頭によぎった。
「ええい、まどろっこしい」
そういうと彼女は服を脱いで、肌着姿となっていった。
「これで動きやすくなった」
敵は鼻の下を伸ばして、アリシアの体を上から下まで凝視した。
「私を犯したいんだろう? 下郎ども!」
敵がアリシアに集まってくる。
仲間のラファエルがその隙に周りの敵を斬り、王女を連れ去るのが見えた。
「誰が先に斬られたいんだ?」
「ほざけ!」
向かって来た敵を、アリシアが斬る。
「うわあ!」
彼女の腕前を見て敵が叫んだ。
「コイツ、なかなかやるぞ!」
じりじりと間合いを詰めてくる。
「やあ!」
一人、二人、アリシアは敵を斬っていく。
「おい! 手伝え!」
敵がさらに集まってくる。
アリシアは逃げて敵を散らし、さらに一人、二人、と斬っていく。
敵の死体が周りに出来上がっていく。
アリシアは剣を払って、走り続けた。
しかし敵が増え追い詰められたアリシア。
腕を斬られ脚を斬られ、息もあがり進めなくなる。
「もう終わりだぞ!」
敵がいった。
「賊ども! おまえたちは、私を犯すことはできん」
「?」
アリシアは敵に向けていた剣を、自身の首に付けた。
「あの世に私を犯しに来い!」
そして、アリシアは剣に倒れこんだ。
アリシアの首は、体を離れて転がった。
血は地面に流れだし、広がっていった…
イザベラ王女はラファエルらとミラベル国を脱出し、国王の親戚が嫁いだ隣国セレホンに亡命したという。




