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ひとり立ち、ともにいっしょに

演奏会で出会い、励めばいいとヒトの頭へ豊かに意味を送るトーベン・メイウーに笑顔とお礼の言葉を送った。案内され、広い珊瑚空間にバイザー人達が集まり、笛貝や光を発生させる珠を飾り、響き渡り、輝いている。超音波や壁が演奏を分けているので、混ざることなく、好きな場所に座り、聴いている風景である。指揮者の演奏はまだ先と教えてもらったので、カシアとバイオミーの子機を肩に乗せ、両手には珊瑚棒に刺さった振動熱を加えられている大魚を持って、歩いていた。

「両手に大魚! いいものをバイザー人、くれたなあ。サバがあったら、サバ缶でもつくろう。珊瑚筒に入っているものをさっき、見たら、欲しくなったんだ。駆除をした分、もらえるのはバイザー人の振動の伝わり方が考えにも影響しているんだな。観察に、さらに観察と想像だ。自然による発現もそうだけと、意識や体現はやっぱり、互いに顔を合わせないと、わからないよな。大魚もいいけど、ここでしか咲かない種苗もその手で持てば、さらに想像力が刺激されるし。細かい音も拾えるし。あとは、海よりも深く広く暗い宇宙に飛び込んでくれるかだな。モデルと僕の複転写が彼女達への芽生えの決め手と条件になることを信じて、愛を求め、問うてみよう」

「もう手にこだわらなくてもいいでしょう。御相手に会ったら、条件や刺激による反応見ておきます」

バイオミー子機がきちんと肩にとまって、カシアは珊瑚筒に澄んだ水をもらって、いっしょに歩いていた。筒に寄せる口元に右手の大魚を添えた。

「カシアも食べてみる? アレルギーはないし、水と光はもちろん、タンパク源は取る必要のある体ではある。この部分がいいかな。あーん」

「これは頂かないといけませんね! あーん。はい! おいしいです!」

タンポポ・タネも味わっていると頭に聴き覚えのある声音が響いた。ベルーシュにオリヴァンもいた。渦を巻く形で女性のバイザー人達が固まって、歩いている。楽器を持った男性のバイザー人達の中には渦に弾かれているものいた。彼らの声が入ってきて、美模様揃いだと叫んでいるようだ。

「こういう集団構成での防御か。なるほど。声と音の振動で、めぐり合ったね。呼ばれているなら、渦に飛び込ませてもらってと、二人とも素敵なバイザーと化粧線の描き方だな。同じコロニー郡同士か。触爪で引っ張った子もいるな。類は友を呼ぶは、発現ではなくて、好みの食べ物とかの体現が集まるものと思っていたけど、線が磨かれる清流への潮は同じ向きになるのなら、今ここで一気に引き寄せられたのはラッキーだ。一手の攻めに、もう答えてしまおう。ともに僕といっしょに深い宇宙の中で、僕の体そして、デーナに掛けて欲しいんだ。新しい潮流で、強い引力の軌道で、ここから離れることになっても、清い流れを広げることを誓うよ」

両手を彼女達二人に思いっきり広げてから、招く手の動きで川の流れをつくり、天に向かって振った。二人は珊瑚天井を見上げ、バイザーをつけずに、タンポポ・タネへ美しい化粧線が流れる顔で人目にわかる迷う表情をつくっている。デーナの体現と発現には魅力があるが、ベルーシュもオリヴァンも強い流れに飲まれることを嫌い、水の無い深い空の向こうで音がつくれるかもわからないから、恐ろしいのだと角をタンポポ・タネに直接当てた。ここで流れに乗り、体を引き寄せてくれるならば、二人とも、ここにいる触爪で救われた美模様のバイザー人達とも、身を任せてもよいとバイザーをつけて、頭に強く響かせてきていた。

「駆け引きの醍醐味だよなあ。これはさ。体と心が整う条件と刺激を、感じ取っているぞ。僕も揺さぶられる」

「モデルの展開は悪くない手ごたえです。聞いただけだと思われるオリヴァンも駆除の話し声で想像できて、提案しているのでしょう。それでも、惑星の環境と社会のほうが強いですね。当然です。やはり、恋や愛よりも心体にとっては、未知なるものが多すぎて、リスクも高いです。すべての彼女達にとっては、宿す到達点の高さとリスクの低さが必要十分なんですよ」

肩にのった子機は頬に寄って、羽を押し付けていた。カシアは毛細飾りを高く伸ばし揺らしながら、バイザー人との動きに注意している。

「小さいときから、生まれ育った環境ですから、仕方はありません。引くか、駆けるかはお父さんが決めることですからね」

「ああ! デーナに自信を持たせるお声はいいものだ。これなら、新しい潮流も受け入れられる環境だと求められている感じだね。君たちと同じ表情を僕もしているだろう。すごく迷わせるじゃないか。時間はない。ここからは旅立つよ。発現と体現過程をつぶさに見たかったが、使命を託されているんだ。星の天命の全うを願って、少しくすぐったいご挨拶はさせて欲しい」

ベルーシュ達のバイザー模様に自分の頭を当て、両腕でヒレのある滑らかな黒から、まぶしい桃鯛色の肌の隅々まで感じ取らせてもらった。残念と小さく声が届いたが、きれいに対称になっている自然美の模様顔をこちらに預けてくれ、寄せ合っている中で、上から振動が伝わってきた。

「キュタ キュネ キュシャ キュイ キュザ」

「おっ! チーシャの声か! 上からということは、超音波を反射させたな。愛の告白とは、参上したって感じでいいね!」

集団の中にいたので、チーシャの姿は見えないが、いっしょに行くという言葉が伝わってきた。

「私の頭にも響いてできました。あっ! あそこですよ。ヒエンブーツで飛び上がったのが見えました。しかし、ついて来るなんて。深海でクイーンと手合わせしたのに」

伸びていた触爪が方向を示すと、そこにバイザー模様のチーシャ高く跳ねて、ヒレンファーも振っていた。タンポポ・タネの顔を見て、鮮やかな模様や化粧線のバイザー人達が道を開けてくれ、目の前に立って、再び伝えていた。

「キュタ キュネ キュミ キュシャ キュザ」

「強く、響くね。実際、チーシャはデーナでクロスしたからか、大胆に言ってくれるなあ。ならば、指揮者に僕もお願いしてみよう。可愛い愛情を受け取ったらさ、応えたくなってしまうんだよね。来てくれるなら、引き寄せられるなら、星一つも出来上がる、そんな気がする。交叉を認めてもらうにしろ、ゼロから和をつくるにしろ、どっちも平坦ではないなら、つくるほうを選ぼうじゃないか」

少し腰を落とし、黒い目に合わせ、まだ変形の型が定まっていないヒレンファーのある手を握った。チーシャは引っ張って、指揮者のところに行こうとヒエンブーツを叩いては歩いていく。ベルーシュ達もお別れについてきてくれると音と意味を送り、演奏空間に流れていく。その中でも珊瑚イスが立派にたくさん生えているところに着いた。大きく広がった珊瑚台の上に指揮者や多くのバイザー人が珊瑚や貝でつくられた楽器を持っていた。チーシャが角を振動させると、指揮者がすぐに気付き、下りてきた。

「演奏の前でしたか。ですが、チーシャが呼んだ今、お伝えします。指揮者からその子へ、さらに孫へと受け継がれた模様をクイーンの手すら届かない宇宙へと流れ行くこと、僕達の船に、体にデーナに丸ごと乗って、掛けて欲しいのです。ここに帰ることはないでしょう。僕は進むだけですから。しかし、絶えることと悲しませることは決して致しません。一つのヒトゲノムに、すべての人間として誓います」

「キュイ キュ キュ キュイ キュア」

クイーンの手を断ち切れた体で、いっしょに手を繋いでいたいから、行きたいのとチーシャの声と意味が頭に入って来た。指揮者の角の振動は細かいので、音処理によるバイザー人の受け取りはもっと豊かだろうとタンポポ・タネは感覚を澄ませていた。欠けたバイザーからの黒目と水玉模様が自分達に向けられていた、角を後ろ頭に回して、軽く顔をさらすと、頷いた。

「キュ キュイ キュア キュイ キュ」

「指揮者の音はさすが細かく伝わってくる。音の高低も透明だ。タイミングが合っていましたか。あのクイーンの後ですしね。備えあれば、憂いなし。角が無くとも、声と体で大気を振るわせ、意味と指揮をバイザー模様で聴いたから悪くは無いと、そちらもお応えてくるのは嬉しいの一言しか思いつきませんよ。体現からの意識の芽生えへと導く光源を僕に示してくれます」

「複雑丁寧、単純明快に関わらず、求愛の手筋を掴みましたね。リーダーの考えるとおり、これは体と体で対面したからこそ、見出せたのでしょう」

「指揮者の声、私にも響きました。バイザー人の体現の筋道ですか。まあ、愛する気持ちって、どこかで何かで芽生えたのなら、ここまで育つんですよね。見ても、変化はありませんが、お父さんやデーナを認めてくれたのなら、私もチーシャを受け入れましょう。一応、心体の発現成長の先輩になります」

指揮者はしわになった模様の顔で笑った後、角やバイザーで隠し、超音波を送った。

「明日には旅立ちます。まだ始まりの原石なのは重々承知しております。惑星だって、最初はそうなんです。ゼロからつくるのならば、むしろ、そのほうが返って、早いです。思い切り、ぶつかり合えますからね。一回自転公転を待てば、チーシャの体現も変化があるかもしれません。僕の体の時間は過ぎるだけなので、その際は諦めも肝心にします。演奏会はきちんと聴き終えてから、行きます。お時間を取らせました。ここで指揮者の奏でる音、聴けますでしょうか」

珊瑚舞台にいたバイザー人を呼び、席を案内させてくれた。チーシャの手を握って、一番前の珊瑚椅子に座った。カシアもタンポポ・タネの隣に着くと、指揮者は舞台の上のバイザー人達に向け、珊瑚棒を振り、各々がバイザー模様を下ろし、角を振動させ、列や配置へと向かっていく。続々とたくさんのバイザー人達が集まって、席はいつの間にか、埋まっていた。

「色々な楽器があるな。それぞれの振動をよく理解している。やっぱり、言葉でも伝えたいから、笛撃系よりも、僕が選ぶなら打撃系か斬撃系だな。珊瑚棒と筒の組み合わせもいいけど、あの魚の骨体だな。鳴らす音、響くね! あれで求愛してもよかったな。手段は豊かでないと。譲ってもらえるか、聞いてみよう」

「キュ キュイ キュタ キュネ キュア」

チーシャは強く手を握ったまま、寂しくは無い、お母さんもお父さんもいないのはどこも同じだけれども、包み込む音と声があるから、いっしょに行くのと一本角を結んで、見える目を合わせた。

「嬉しい声で、光栄だね。この惑星が一つ回った明日にはマクロ船で乗り出すよ。最後に、これをしていかないと気がすまないんだ。クラゲの少なくなった海で泳ぐこと!」

「こういう人ですが、正直な声を持っている証ですから。チーシャの心体が決まったら、飛び立ちますよ」

「クラゲがいなくなったわけではないですしね。それも踏まえた指揮者の体現でしょうね。お父さんがいれば、寂しくはない気持ちはわかりますね。私の体に自信を持って、お伝えしますよ。チーシャには。あっ! 始まるみたいですよ」

静かになったのは指揮者の角の振動が珊瑚空間に響き渡ったからだった。体は振動に合わせるように落ち着いていき、とまったところで珊瑚棒を振り上げた。一番前の席だからか、音の意味が強く伝わってくる。自分達だけでなく、チーシャにも向けているのだとわかった。

「キュイ キュ キュイ キュ キュア」

「振動で受け取る意味はバイザー人も僕達も、やっぱり似ているな。出会いと別れがあることを知っているからだろう。前へ前へと流れる波長だ。バイザーと楽器と珊瑚壁の力も合わさって、よく聴こえる。生きていて欲しいんだよ。もう一つは感謝の意味だな。見送りにはふさわしい」

目を閉じて、頭で出来上がってくる言葉を口に出し、彼らバイザー人達の送辞詩と音並びに感じ入った。バイザーを下ろしたチーシャはいっしょに聴ける人がいて、よかったと体を珊瑚椅子の背に抱えられている。バイザーの小さい頭は後ろへと流れたり、舞台へと向き直ったりしたが、タンポポ・タネのほうへぶつかり、寄りかかる姿勢でとまってしまった。バイオミーの子機はチーシャの周りを舞ってから、また肩に戻った。

「クイーン戦は激しかったからな。寝落ちしている。いっしょに聴けたと言うなら、このままでいいさ」

「この際ですが、リーダー。子どもでも、リスクを伝えたほうがよろしいのではないでしょうか。指揮者ともどもに伝えてはいますし、惑星の公転自転、それらからなる位置のデータを取ってはいても、戻ることがないことをあらためて、わかりやすく」

「本番しかないさ。星から出てみないと、結局のところは、伝えてもわからない。ならば、言葉は誓ったほうがいい。今流れてくる音楽を最後まで聴いたら、その誓いの詩の想像もできるのだからな」

「芽吹いて、咲いたなら、あとは踏ん張るしかないですしね。私の体現ですが、デーナクロスで、腕前をみせたチーシャのバイザーなら、応えられますよ。それでこその生きている体ですもの」

「カシア先輩! 心強い言葉、いいね! ゲノムからでは愛の発生条件なんて、わからないが、受け取ることができるのなら、デーナのモデル展開で厳密に見ていくことも使命だな。日が昇るまで、眠りにつくのが、いい。なんにせよ、弱っている体のままでは、お別れはできないからね。これは、バイオミーに誓うよ。体は大事に」

子機を顔に近寄せ、チーシャの頭を肩で支えながら、バイザー人演奏の声が頭に届いていた。眠ってしまったチーシャを抱えて、演奏を終えた指揮者とともに彼の空間に戻り、下ろした。石鹸や珊瑚棒で優しく磨いた後泡で包むと、タンポポ・タネ達にもゆっくり眠るようにと響いた。深い眠りの中で、振動ではなく、自然に目が覚めたのは、波の音が聞こえたからだった。光も差しており、指揮者もチーシャもまどろんでいる。淡い光が差す時は、もう少し長く泡の中にいるのだと角が振動した。寝言かと思われたが、語りかける声は続いた。五つの語の音が、昔話になっていく。水の無い、深海よりも遠い空にはクラゲもクイーンも従う満ちと引きを決めて、星に振動を伝えられる指揮者がいると子どもの頃、教わり、どんなバイザーをしているか想像していたと頭に物語ができた。チーシャが指揮を見ることができれば、きっとクラゲや悲しみに満ちた水の世界、空の中をも泳ぎ切れる手本になるから、放流し、上流に行かせようとする意志を持って託すと終わると、また眠りについていた。

「人間のすべての遺伝子に誓います。あとはチーシャのゲノムと体の条件と準備が整っていればです。目が覚めるまでは、もう少しです」

独り言になっているが、トーベン・メイウーへと言葉を向けた。皆が目覚めた後、バイザー人から養殖池で育てられた魚と貝をすすめられ、ゲノムから自分達へのアレルギーと成育環境確認、別の惑星に持ち込んだときの交雑リスクを考え、一種ずつに限定し、食料確保で貰い受けた。美しい色合いの珊瑚棒や弦骨楽器も、もらった。マクロ船が泊めてある珊瑚空間までチーシャに引っ張ってもらい、超音波で開かれたところから一旦乗り出すと、強い光と広がる水の世界で船も揺れ動いた。ハッチからこの風景を眺めていたタンポポ・タネはスーツを半身脱いでおり、体を伸ばしている。

「深海から、光が届く浅瀬までの成分は海と同じだったし、最後は何より体で感じたいんだ。僕の中のすべての人が言っている。チーシャもいっしょに泳ごう。やっぱり、上手いからな。よっしゃ! 海だ! ざっぱーん!」

先に飛び込み、下半身部位にだけ纏っているスーツ繊維のおかげで、やや水位があっても、足を使えば、顔を空に向けられた。チーシャはきれいなヒレ飛びで、バイオミーの方はスーツを着て、触爪でゆっくり入って来た。たくさんのバイザー人達は水面を蹴り走ったり、高く飛び上がったり、水柱や光の反射をつくりあげていた。指揮者はエイクに乗り、静かに見つめていた。

「そうだ。あらためて、チーシャに誓っておかないとな。その前に、君に一つ覚悟を決めてもらえる手がある。誓いはそれからで全く構わないさ。ちょっと、待ってて」

存分に体を動かし、ハッチまで泳ぎ、バイオミーから白い繊維包みをもらった。チーシャと水面で向き合うと、彼女の手を握ってその包みに触れさせた。

「すごく、ずるいやり方だ。でも、知る手段としては、これ以上はない。チーシャの親のヒレンファーさ。最後まで握り締めていたから、溺れかけていたんだ。だから、僕のこの手で切り取り、バイザー人への毒の進行を調べていた。クイーンの手がおさまった今、ここで海にお返しする。君の生まれた元にね。僕達は水の惑星から旅立つ。デーナと生命が導く限り、クロスし、進み続ける。クラゲも少なくなった海で、チーシャは元の自由に戻っている。自由ならばこそ、体をどうするかを生きていくために決めなくてはいけない。駆けるか、引くかをね。準備はできている? 僕はこの命燃やし尽きるまで、やり通すことになっている」

チーシャは繊維で覆われたヒレンファーへ、タンポポ・タネへと顔を伏せたり、見上げたりしている。握っている手のヒレが大きく開いて、黒い袖が水面に浮かび、揺れていた。

「キュシャ キュタ キュネ キュイ キュ」

「ああ。君にも流れている黒袖だ。それだけではないよ。すべてだ。モデルの展開とクイーン戦で、僕は見たし、惚れた。今度は自分が駆けると伝えてくれるのは、体を信じてくれる証だ。ならば、僕も誓おう。悔いや恨みも、この先出てくる。交叉対称御相手だから、当然さ。でも、決して、チーシャを悲しませない。僕の遺伝子体のすべてを掛けて、約束する。これができなければ、ヒトゲノムを託された意味がないからな。この繊維包みは指揮者に預け、水の世界の天国へと弔ってもらう。渡したら、行くか!」

ヒレンファーを閉じ、二人は白く固くなっている袖を指揮者に渡し、言葉を伝えた。

「大変遅くなって、申し訳ございません。この御手をお返し致します。クイーンの手から抜け出せたのは、これだけです。しかし、チーシャに源が流れております。それらを持って、空に飛び立ちます。デーナのクロスでの発現の中で、歩み進める意志が体に現れています。水の世界から、行って参ります」

「キュ キュア キュイ キュイ キュ」

バイザーを下ろし、角を長く強く振動させたチーシャの声が指揮者にもタンポポ・タネにも聞こえてきた。お別れでも、今は違って、生きていこうと思えるよとできあがった意味だけではつくれない感情が頭に確かに響いた。指揮者も欠けたバイザーで同じく振動させたあと、白い繊維を受け取り、ヒレンファーやヒエンブーツを大きく広げて、自分達をハッチまで連れていってくれた。

「私の頭の中の経験で考えるならば、この気持ちのいい体現はきっと、お父さんの本音を受け取ったからですよ。決して悲しませないということと、絶対に遺伝子を広げて行くという心体の声による共鳴ですね」

「カシアも生きていますから、私よりも体と心の現われについて語っても、信用はしてもよいでしょう。決断までのそういった思考は、一つの本質として、私にとっても強く惹かれます」

触爪で水の中を歩いてきたカシアとバイオミーの子機が周りを舞いつつ、バイザー人達の一斉の角振動を受けて、チーシャとともにマクロ船に乗り込んだ。

「まだ、チーシャの声を拾えてないな。なに、デーナクロスで進めていって、僕の体で覚えていけばいいさ! バイオミー。僕達の体の検査とチーシャのスーツを作製したら、光熱核を動かして、飛び立ち、螺旋光路に乗って行くぞ」

「お父さん。やっぱり、行くのですね」

「当然さ。僕とデーナに、そして御相手に可能性がある限り、行く定め! カシアにもバイオミーにも、チーシャにも、すべての人間の僕の体で説明していくだけだ。託されているから、それぐらい、やっておかないと」

熱射床や風を進み受けて、スキャン機器をくぐると、バイザーを上げたチーシャは頷き、バイオミーの子機といっしょに作製室に行った。マクロ船はヒレの動きで、海を進んでいき、光熱核による発射準備ができた。周囲を見渡し確認を目でもしてから、発進すると伝えた。チーシャが纏うスーツもゲノムデータによる照合で体型や状態に合うように繊維を変化、作製し、フードを付けたり、下ろしたりしている。

「ジン・ハナサカから託された繊維培養技術と私達が積み上げてきたデータで気に入ってもらえました。それでは、発進します。この惑星の軌道から出た後、螺旋光路に乗ります。カシアもチーシャもリーダーも、席におつきください」

本体のバイオミーの顔が全員に向けられ、タンポポ・タネがチーシャにフードを被らせ、透明面を付け、座らせた。

「席の余剰はある。これからまた、つくっていくか。よし! カシアも準備ができたな」

水面から離れ、光熱が放たれたマクロ船は高く上がり、引っ張る惑星の手を振りほどき、真っ暗な宇宙に入った。再度、光路と自分達のゲノム状態を確認し、船内外の物質子並びに異常や異質が紛れこんでいないかも見終わった。見える水の惑星と浮かぶ体に驚いて、遊び、手や袖を大きく振るチーシャにマクロ船の案内と除去を手伝ってもらい、受け取った魚貝の保護及び培養成育環境をいっしょに行った。マクロ船の一ブロックを珊瑚庭園につくり、整える作業は手間が掛かったが、自然の創造力を自分の体に教えられた。バイオミーと機器の点検とバックアップを完了し、タンポポ・タネは腰を下ろし、宇宙を見据えた。

「ゼロからつくるのは、大変だが、刺激的だ。すべて生きているならば、影響も絶対にある。最小限にリスクを抑える義務が僕の体にある。それらを尽くしたら、後は歩むだけだ。遺伝子、ゲノムの状態確認も終わった。螺旋光路の線にもつなげた。さあ! 行くぞ!」

「キュ キュイ キュア キュイ キュ」

「チーシャも私も、準備はできています。デーナをクロスして、挑んでいきますよ。どこに星と生命があってもね」

「それでは、光路線にのって、いきますよ」

バイオミーと合図を交わすと、タンポポ・タネは自分の体が輝き、まぶしくなって、目を閉じ、頭の中で光で示される道を想像していた。

ノベルアップと小説家になろうに同時投稿。絶壁を登る山羊に驚いたので、次回は山羊モチーフの宇宙人と火山惑星です。山羊と火山の資料を読んだら、また書きます。

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