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恩返し! 仇討ち!

「ここまでまた、手を伸ばしてくる、積極的だな! いくつかの触手を底に隠していたのかもしれない。あちらのクラゲは水分すべてが失われているというのにだ。それを手繰り寄せているのなら、漁をしているのはあちら側になるな。手の網を張り終えたわけだ。引きも強いし、タイミングも僕はいいな。ここまでして、出会ってくれるんだからな。豊富な餌場の元になる珊瑚や苔の形や光を触覚が記憶しているんだ。旺盛だね。すぐに、戻るよ。デーナ・クロスの準備をする。交叉の表現はするけれど、邪魔はしない。クイーンの体を一目見たいだけさ。ゲノムを元にした体をさ」

「キュ キュー キュ キュイー キュネ」

チーシャがバイザー模様の顔でこちらを見て、強くタンポポ・タネの手を握っている。水上から、超音波を受け取り、自分も行かなければならないというはっきりした意味を作っていた。

「さっきの僕達についてきてくれた時の声とは違っているな。お礼という理由の意味を飛ばして、もう自分から言ってしまっている。指揮者の死が思い浮かぶのか。僕も向き合わないといけなかった。だから、自己生存のための意を決しているわけだ。一人で生きてこれたわけではない記憶は大事よね。これは僕にもよくわかる感情で、人間の反応だよ」

「本体に近くなると予想される今回の海溝付近は、危険ではあります。ミイラ取りがミイラになる恐れもあります。指揮者だって、望んではいないでしょう。子どもだからこそ、強く言わなければなりません。手強いクイーンクラゲですがマクロ船やデーナ・クロス・カシアで手助けはできるはずです」

バイオミーの子機は水の世界でも離れずに、肩に止まっていた。深い水位から外へ上がろうとチーシャが引っ張ってくれたので、差し込んでくる光と空の色が変わり始めていた。

「確かに。ずるいけど、指揮者の許可も今は得られないし、理由はつくっておかないと。意識も記憶もしっかり、あることだ。チーシャが行く必要は無いさ。僕達や駆除のバイザー人達に任せてくれて、大丈夫! 手の届かないところのほうが、安全だ」

「キュイネー キュザ キュカ キュア キュシャ」

バイザー人の角は強く振動させるほど、頭に響くというより、人の声として処理できることがタンポポ・タネにはわかった。水面近くが揺らいで動き、耳にはチーシャのまだ足りない言葉ではあっても、この手でもう離したくないし、思いっきりその手を振って叩きたいと意味が届いた。

「触る手だけに? ははは。触手を恐れず、でも手にこだわるのは、手影絵の表現とチーシャの記憶がはまったかな。うん! もう少し音を受け取って、成長していけば、きっとクラゲに対抗する手段も手に入れて、乗り越えられるかもしれないが、今チーシャがそう僕に音と声で伝えてくれるならば、いいね! 試したわけじゃない。本当にそう思っていたけど、どちらにせよ、バイザー人とのモデル展開をする必要があったし、これが文字通りのタイミングとサインだな。一手目は偶然の鶴の恩返しでも、二手目のこれは人間の運命だ。今度は、僕の番だ。バイオミー。チーシャと僕達のデーナを賭けるよ。バイザー人の原則が流れの力で元なら、まさしくここで乗るべきなのさ! マクロ船の準備とカシアも手伝ってくれ。クイーンクラゲへ仇討ち、そして恩返しだな。チーシャを追い込んだのも救ったのも、クラゲだからな。こういのは恩を仇としてきちんと返すと言うのかな。こんなに言語処理や思考をするのは、チーシャ、君の音のおかげさ。僕が強い決意をしたこともね」

「もう決めたのなら、決して無理はなさらないでください。発進準備はすすめておきます」

チーシャの人に近い手を強く握って、水から引っ張り上げた。そこで、体すべてが光に注がれてくる。カシアを呼び、治療や建築のバイザー人達から音と意味を聞き取り受け、珊瑚の壁から、マクロ船を出してもらうお願いをした。

「駆除達が向かった海溝もわかった。マクロ船にチーシャも乗せて、クイーンクラゲにお返しをしてくる。彼女の手を解いてきた僕達に船と小さいバイザー人の超音波のご協力を授けて頂きたい。診てもらった、受け取る体に毒は無い。風と海の流れ、指揮者が受け入れ、任せてくれた僕達の音体へ模様を合わせて欲しいとお願いする」

声と言葉を周りのバイザー人に伝えた。両手を自分の胸に当て、それら指先をつまむ形にして、角を指したり、空中に波を描くことをして、音を合わせた。彼らの超音波がないと珊瑚壁が開かないのなら、こちらも言葉を響かせ、モデルへクロスする自分の体の限りを表す必要があると考えたからだ。強く振る両手とチーシャの角で、マクロ船の壁を開けてくれ、最後に指揮者を頼むと声が入った。

「声と意味の受け取りに感謝するよ。一宿一飯の恩も僕達にはある。モデルの展開もだ。さあ! いくぞ!」

「通信で聞いていましたけど、チーシャとクロスですか。クイーン御相手にはまだ早いのではありませんか。未発達の部分もあります。まあ、私より水の世界に適応するかもしれませんが」

マクロ船は珊瑚の壁から発進し、カシアはチーシャとともにデーナの準備を進めていた。

「立ち向かえる体には早い。でもバイザー人にとっては、クラゲのことを知ることは危機回避になる。恋や愛を知るまえに、まず生き抜く術を覚えることさ。複雑に紡がれてきた戦略を持つ生物がたくさんいる水の世界では、命を守ることがもっとも、それらよりも早く知るべき行いだと僕は考える。そして、クラゲの記憶を今まさに更新するべきタイミングなんだ。指揮者に危険が迫っているからこその決意、影絵を映し出す僕達の手との結びつきと振動や表現から、まさしく僕の体と頭の中で想像できているから、これらの言語処理も振動になって、加わる。生きる力になれるということだ。体に合ったスーツはこの時間では作製が難しい。だから、チーシャのゲノムと体だけでも、データを取っておく。ちょっと、くすぐったいけど、手首からで十分さ。やっぱり、力強いヒレだ。その後、デーナに乗り込み、複転写する。カシアとバイオミーはマクロ船での援護をお願い」

タンポポ・タネはバイオミーの子機で全体と、手に持っている小さい十字型抽出機の先端部繊維をチーシャの両手首に軽く当て、ゲノム配列識別とデータベースでの照合を行った。

「子機でチーシャとリーダーの確認できました。チーシャはやはり未発達ですが、体に異常や症状はありません。痺れや腫れといったものは操作に支障を来たしますから、気をつけねばなりません。強いていえば、緊張ぐらいです。リーダーのほうにも、地球環境に似た成分の大気や水中のこの惑星で十分、体を正常に保てています」

「ゲノムも確認できた。照合しても、近しい配列や遺伝子が見つからないものもあるな。だが、染色体の長さや数は交叉条件が満たされているのが、面白い。あとはデーナで試してみるしかない。毒への耐性、スーツ繊維と皮膚の相性、血液の抗体や傷の再生、水の世界の微生物から細菌までの侵入経路と感染リスクを求める材料にはなった。これらで導き出せる限りにおいては、対応できる。ともに体は知っておいて、丁重に扱わないといけないな」

照合の画像が導き出されている手持ちの液晶本体にはりついていた目をチーシャの顔に合わせた。

「クイーンクラゲを御相手するかは、行ってみないことにはわからない。モデルを展開することはもう、決めたよ。駆除できた場合、立派なクイーンを運ぶ手伝いはそれでできる。百聞は一見に如かずだけど、言葉の納得を手に入れないと感情を持つ心身にはよくない。受け取り合いができるんだ。一度、チーシャは見たし、指揮者とともに話も聞いたにしてもね。チーシャと僕の模様を重ね合わせて、つくられる新しいバイザーや角といった楽器が奏で出す音体をデーナは現してくれる。未来の流れを映すんだ。僕と君が手を等しく取り合ったときに発生する振動波が、水の世界で通用するかはバイザー人の想像に委ねるほかはない。今僕に伝えられるのは、これぐらいだな。想像できる限りの音と意味を選んだけど、あとはやっぱり、二人の目でみてみたいんだ。この手で掴みあって、求め合った二対の結合の形をさ」

「その一つが私のデーナ・クロス・カシアですよ。水の世界では、譲ってしまいますが、愛を受け取りあった時の体の感覚はお互い必要でしょう。未来に進むためにね。子どもだとしても、手加減はしませんよ。しっかり、泳ぎと超音波での御相手を頼みます」

カシアは伸ばした触爪をすべて下ろして、体幹得た背筋を伸ばし、胸を張った低い姿勢で声を腹から出した。タンポポ・タネは腰を落として、自分の手振りと表情をチーシャの角や黒い瞳の真ん中に映した。小さいバイザー人はタンポポ・タネの手の振りにヒレや両手での空中を切る動きで応え、後ろに流れている角も振動させて、強く二人に意味を伝えた。手を握り合っていたら、想像できたから、大丈夫という少女の声がはっきりと聞こえた。

「振動が声にできているし、よく、感じてくれている。当然、僕もできているさ!」

「準備がお互いできたところで、海溝と巧みの触手が見えてきましたよ。やはり、手繰り寄せないようにしているバイザー人達が駆除を行っています」

バイオミーから通信が入った。映像も送られてきたので、確認すると、深く、長い溝に水が集まっている。そこから伸ばされている触手がエイクに乗っているバイザー人達を狙っていたり、地に這わせて、道を探っている。這っているのがわかったのは、たくさんの角の振動や超音波の力で剥き出しにされていたからだ。しかし、エイクが何匹も溝や地に落とされており、出てくる手の数や勢いは止まらない。

「想像を超えるクイーンの力だ。手広くやったからか、触手も再生している。生きている限りは、いつもぶっつけ本番さ。チーシャ。デーナの複座席まで案内しよう。クイーンの御相手だ」

デーナの首後ろまで案内し、カシアがデッキでアームによる光差剣銃やスーツの調整をしている。乗り込み、チーシャに自分の姿を見せて、複座の席に二人は並んだ。延髄に組み込まれて、バイオミーの通信が入ってくる。

「指揮者は無事です。確認できました。しかし、クイーンの手から逃れるのは、難しい状況です。それほど、手広いですよ。マクロ船でも援護しますが、光線が当たってしまったり、海深くのクイーンに届かない恐れもあります。デーナ・クロスの手のほうが早い場合は、お願いします。地を這う触手と海溝から距離を取ります」

「ああ! 降りてから、クロスする。この惑星の地に足を付けてから、デーナの感覚と誕生を掴む。チーシャ、こうやってトリガーを握るんだ。操作は見たほうが、やったほうが、早い。練習する時間も今はないなら、もう本番でいく。バイオミーやカシアの援護、そして僕の感覚もあるから、受け取ったら、素直に覚えればいい。複転写できるかは僕達の体や遺伝子、ゲノムが知っている。だから、想像を超えるのはこちらも同じで、それが生きている証なんだ」

「キュイネ キュナ キュア キュミー キュス」

チーシャはトリガーを握り、前屈みになって、座っている。デーナの乗り込みと複座式の並びと、タンポポ・タネの声でクロスの意味が想像できたと響いた。

「声や音はチーシャの想像の刺激になるのなら、言葉を声に出して伝える表現を僕も考えられるな」

マクロ船をこの惑星の地に寄せて、スーツと透明面を纏ったデーナをバイオミーがアームで外にゆっくり降ろした。デーナの複転写位置と段階を簡単な動作が行える部位にだけ、設定したので、タンポポ・タネ一人でも操作はできた。二十メートルあるデーナの右腕をその流れのまま斜め上へと指して、肘部分を左手首近くで押さえた。指の左はカニのハサミの形をはじめは取っていても、腕を交差している時には閉じて、印を結んだ状態になった。複転写設定を元に戻して、二人の手首やヒレに沿って繊維が柔らかく包み、画面には交叉対称、複転写可の表示が出ていた。

「いいね! チーシャ。トリガーを強く押すんだ。いくぞ! 交叉する二対の結合!」

「キュイ!」

左の印を強く前に主張し、デーナの右腕はこの地に向けて振り下ろされた。二人が乗り込んでいる巨大な物質は変化し、複座席の画面にも映されていく。

「やっぱり、バイザーが発現したぞ! えっ! 三本角! いいね!視界も変わっている。まだバイザーは下ろしていないが、色が細かくて、鮮明な風景になっている。影絵と水中での獲物を捉えるための視覚だな。ヒレ! いや、新しい形には新しい名を付けないといけない。ヒレンファーとヒエンブーツと名づけよう。今の形状はその名の通りだ。これが袖や羽に開かれていくんだろう。三本だから、サンバイザーだ! そられすべて、黒色だ。ん? でも、バイザー人よりも、違和感が。そうか、紺だ!。青味がまぶしてあるという表現がいいじゃないか。光を通す水の青い色覚は僕に記憶があるしな。皮膚は少し桜鯛色で照り返している。こちらはチーシャと変わりない。瞳も深海の暗さと水へと光入れた青色の中間だ」

大きいデーナの装着しているスーツの繊維はチーシャとの複転写状態をよく表していた。後ろに流しているサンバイザーの形にも逆らわずに、展開された体型に伸縮し、調整され、保護されていた。グローブやブーツもヒレのある部位が動かせるように変形していた。鰓の名残りがある長い耳は、クロスした状態ではヒトの方に近くなっている。透明面には黒曜の頂点部が鋭くなっているひし形と、銀と黒の六角形や打ち寄せあう波模様が鼻筋と目元口元に沿って並べられた。一本角は後頭部に流し結び、短い二本の角は耳元下にぴったりとくっついた。

「キュタ キュチ キュナ キュカ キュ」

「そう! チーシャと僕の体をつくる遺伝子同士を交叉し、結合したときに発現するであろうモデルさ。直観でわかってもらえるのはいいね! ただ、大きくならないと見出せないヒレの体の感覚があるだろうが、今は急ぐ。クイーンクラゲへと向かう。距離があるバイザー人達の姿もくっきり映ってわかるからな。発現した部位、特にサンバイザーについては御相手しつつ掴むしかない。いくぞ。マクロ船で援護と連携を頼む」

「チーシャとのクロス状態のデーナはデータに取っておきます。潮が満ちても、対応できますが、油断は禁物です」

「これがチーシャのクロスですか。クイーンに目にものを見せられたら、まあ、ほんのちょっとだけ考える気になるかもしれませんが、そんなことはありませんよ」

バイオミーとカシアから了解の通信を受け取り、タンポポ・タネはトリガーを操作し、デーナを動かした。ヒトゲノムとの交叉対称なので、自分の体に感覚はあり、海溝に近づいていく中で、両足のふくらはぎに内外にあるヒエンブーツが大きく開かれ、足を勢いよく弾ませた。黒曜の筋肉部位はヒレの形をしているが、バイザー人よりも小さく折りたたまれて、全くの邪魔にはなっていなかった。

「開いた! チーシャのトリガーだね! 速い! ヒエンブーツの開閉で風を切って走る姿だけど、デーナに乗っている僕の感覚としては、大気でできたバネで跳ねている! そのまま、体の感覚と頭の記憶を想像するんだ。さあ! 今度こそ、クイーンとご対面だ」

地を這っている触手が飛び上がり、出てきた。大きい体を持ったデーナの振動と接近で標的を変え、警戒に入ったと思われた。周りにいたバイザー人達は驚き、角を振動させ、デーナに超音波を送っている。その映像にチーシャが気付き、デーナにサンバイザーを付ける動きをトリガーでさせた。しかし、そのままバイザーが下りてはこず、二本角がデーナの両耳を覆ってきた。

「キュイ! キュネ キュミ キュア キュタ」

「三本中、二本は聴く専門になっているな。ヒトゲノムに対応するためか。僕も驚いた。こう翻訳するのか。でも、より超音波の受け取りと音と意味処理ができている。実際に複座まで届いているな」

透明面付きのフードの中でも、両耳に下ろされたサンバイザーの角が必要な音だけを拾っていた。

「キュシャ キュカ キュオ キュイ キュベン」

「ああ! 僕にも聴こえる。クイーンの触手の振動、そして指揮者の声と駆除バイザー人のクイーンへの一手の打ち方の呼びかけが言葉としてデーナが処理している。意思疎通の強い音と微かに潜む振動だけを拾っているんだろう。触手の仰ぎを捉えたんだからな!」

右手に畳んだ短剣をデーナが逆手で取ると、チーシャがヒレンファーを鋭い角度に開き、這い出てきたクイーンの触手を手早く切った。

「鋭いな! ヒレンファーの動きはチーシャだね! サンバイザーの音感は想像と一致する?」

「キュイ キュー キュ キュ キュー」

バイザーはまだ付けていないので、幼い顔のまま複座式の中を見回し、タンポポ・タネに声を響かせた。ヒレはわかるが、バイザーの受け取りが一本角の自分よりも、はっきり音が分けられているという。

「その感覚、記憶しておいてくれよ。チーシャはもちろん、バイザー人すべてへの僕の一手だからな。もう二、三手をクイーンが打ってくるぞ」

バイザー人達からデーナに刺胞を向けた触手が、深い海溝と水が引いた地からたくさん出てきたと声が送られた。

「マクロ船の援護を頼む。さあ、チーシャ! 模様のある三本目のバイザーを下ろそう。角を結ぶ紐にもなっているバイザーが振動する角になるんだ。周りに伝えてくれ。少し、荒れるからな。サンバイザーを完全に付けたら、僕からも伝えようじゃないか!」

「キュイ! キュネ キュタ キュデ キュア」

チーシャはこうしたほうが早いと自分のバイザーを下ろし、角を振動させると、デーナの真ん中のバイザーが目を覆った。視界が狭くなったが、その範囲内では見る世界が変わった。向かい合っている触手先端の刺胞、角を振動させているバイザー人達の姿と表情までもを写し取って、ゲームグラフィック世界にめりはりの効いた陰影とデフォルメデザインをもって浮かび上がらせていたのだ。バイザーをつけていないときは風景が鮮やかで、今のデーナの視覚では物体を現実離れした映像として、しかし、一人一人の表情とクイーンがほんの少し狙い修正するためにうねった動きを捉えていた。

「立体的に映す眼鏡やバーチャルリアリティゲームで遊んだ記憶がある。これが世界をつくる土台になるとはね。遊びのときは、映像自体にも工夫があったけど、これは現実の世界を見ているんだよなあ。水の世界観だな」

「バイザー模様出来ていますよ。水滴がくるまって落ちる瞬間ではあるのですが、チーシャのものとは逆になっています。浮いてくるという表現がよろしいでしょうか」

「私から見れば、垂れ目になっています。目元から、細い滴がつたっています。マザーの言うとおり、引き上げられた水が、楕円の器に溜まってできていく模様です」

バイオミーとカシアの通信が入り、二人が伝えてくれた模様のあるバイザーを指揮者や駆除の者達に向けた。チーシャがトリガーの操作と自分の角を振動させる。デーナの複座席の中ではエコーが掛かったチーシャの声が響き渡り、グラフィック世界には音声が組み込まれていく。デーナが発した意味音は風に細かく波模様として描かれ、この目に映すことができた。画面やデフォルメデザインに即座に流れ込まれていき、視界に入っているバイザー人皆の角の上に、チーシャの声楽詞波が浮かんでいるのだった。

「音が視えるし、角に振動が残っている! 風に上手く乗せて、バイザーへ波模様が向かっている。大きいバイザーで引きつけるから、安全なところまで下がってという台詞声が、彼らの角から浮いている。デーナの角の上にもだ。物体が響くさらに、大気が動く振動をも見る感覚だな。音の強弱高低から、言葉の意味でさえもクロスした自然体はありのままに受け取るなあ。だからこそ、現せるこの世界観! いいね! 人間の言語処理も喉に伝わる振動や神経物質の流れ模様を微かでも角が受け取るんだな。そして、僕からも体感したならば、表現しなければならない!」

一先ず、クイーンの手から離れていき、その触手がこちらに向かってくる気配をデーナの中では荒く短い波模様が先端から全体に描かれ、グラフィックデフォルメに歪みが出ており、遠くできりきりと弦を締める音が二人に伝わっている。その音が止んだと同時にクイーンの無数の手が、飛んできた。矢の形に見えるのは、大気を鋭く切る音ということで、黒いハリセンボンがデーナのスーツや足元につくられ始めているのはこの音が行き着く場所と勢いだとタンポポ・タネはバイザーの世界観に入り込んだ。逆手の短剣と両手腕のヒレンファーを構え、届く音を停止するために、力強く剣とヒレを振った。チーシャもデーナのバイザーでつくられる世界観を掴み、指揮者も珊瑚棒を振って、次の一手を教えてくれたとヒレを開き、鋭角に動かした。激しい大気の振るえがクイーンの向かってきた触手を浮つかせ、一瞬デーナへの黒い音の影が無くなったことをバイザーの世界が現し、ヒエンブーツで飛び上がって、素早く右に左とそれらに切り入った。白いクイーンの手が開かれていく。

「未来へ予告する! さあ! 祝おう! すべての人類から託された、ただ一つの意志! 遥かなる祖先より受け継がれ、果ての無い子孫へと歩み進む、光へと指し示す角結晶! その名も! デーナ・クロス・チーシャ! 今まさに発現と体現の瞬間である! それらを持ってして、僕達の運命を試してみようか!」

刺胞になる触手がぼとりと落ちても、次の手を打ってくるクイーンと角を振動させているバイザー人に両腕両ヒレ袖を大きく広げ、振り返し、大きな声と喜びの調子をデーナ・クロス・チーシャの複座で伝えた。

「未来への予告! いいですね! ただ私のときは、祝いとかもなかったような」

「最初でしたし、お別れのときに祝うのは苦しかったのでしょう。今はデーナ・クロス・カシアのときから、考えていた言葉を言わせてあげましょう。それにしても、言いたいことを全部言いましたね」

「キュイ! キュワ! キュデ! キュナ! キュシャ!」

響き渡るタンポポ・タネの声にチーシャはトリガーを強く握り、クイーンの一手一手を恐れずに、ヒレを開き、大気を切っていく。

「バイザーのデフォルメもあって、掴んだから、熱さを秘めた動きをしてくれる! バイザー模様は音での見え方、捉え方、伝え方も影響がある。チーシャが感覚をしっかり、捉えている。世界観だよね。クイーンも触手も生きている。だから、大気を振るわせ、獲物を捕らえる準備、狙う先へと風を切る刹那の音がある。すべて捌いて、指揮するんだ」

矢の形の変化、触手全体に響きできる波模様、ハリセンボンやヒトデの形の黒影がバイザーの世界観から映し出されていく。触手の周りやクイーンの元近くに声楽詞が発生しないので、デフォルメグラフィックがデーナ・クロス・チーシャには重要になっている。矢変化は一手を切ろうとする強弱を、波模様は狙おうとする対象部位の指定と距離、様々な形の黒影はこれがクイーン触手の声なのだ。毒を刺す強さの影を弱めるために、デーナの中のタンポポ・タネが弱めるべき触手の音模様変化へ逆手の短剣を構え、大きく振る。チーシャはヒレンファーの展開で音風を叩く。それらは這い出てきた触手の動きをずらし、ヒエンブーツでその距離を跳ね上げ、一気に詰めていく。デーナ・クロス・カシアの動きと大気にリズムができ、それらの流れがクイーンの手数を狂わせ、絡ませていた。チーシャのバイザーは未発達で形状に違いがあっても、デーナがつくり上げるグラフィックの世界観や取捨する音に水玉模様を揺らし、角も振動させていた。

「チーシャのバイザーの中でも、世界観ができているか! クロス状態でのサンバイザーと共鳴し、音による物体や生物の表現を映し取ってくれているんだ。波模様や超音波の大気への描法がやっぱり、独特なんだね。矢だったり、イガだったり、揺れ模様を楽譜にしていたりするからな。 ん? 地面に波模様がたくさん出来ている。そうか。満ちる時か。水の世界はデーナ・クロス・チーシャの望むところだ」

「キュネ キュイ キュオ キュカ キュミ」

そのとおり、水の世界になるとチーシャも伝え、海溝からゆっくりと水がにじみ出てきていた。クイーンの手は一旦止み、流れを待つのか、残っているものは地に伏せられている。サンバイザーには海溝水面から小さく、黒いおたまじゃくしが一匹また一匹と出てきては大気中に消えるグラフィックがつくられている。バイザー人達はエイクに乗ったり、ヒレを大きく広げて、潮の満ちに備えていく。

「満ちていきます。海溝から水が湧いて来ていますよ。世界が本当に変わっていきますね。クイーンの手が止んではいますが、油断は禁物ですよ。チーシャ。水の世界でも生きる術を持っているのはクイーンも同じです。お父さんの言うとおり、デーナ・クロスの本番はここからですよ」

「ダミーや動きのない触手は他のバイザー人が切ってくれています。サンバイザーでも映し出されているように、彼らには振動でわかるんです。マクロ船でも光線で焼き切ります。クイーンの手数に対応していきましょう」

「サンバイザーで声楽詞を送るか。これはチーシャに委ねる他はない。バイザーの感覚は想像できてはいる」

「キュイ キュ キュ キュア キュイ」

通信の中でも波が寄せ歩く音が、デーナ・クロス・チーシャの複座に届いている。光線で刺胞が焼かれ、バイザー人の鋭い貝刀とヒレで、切れられると、広がる波に消えていく。巨大なサンバイザーの振動は駆除や指揮者の角上に声楽詞の泡中を吹き弾き、浮かせていた。気をつけるようにと大気の流れを読み、クイーンの声を掴むのだと響いてくれる。水はすでにヒエンブーツを引きずり込みつつある。海溝からは、魚達が飛び出してきている。

「驚いたな。水の世界を見通して、魚一匹一匹をグラフィックでありつつも泳ぐ姿をヒレや口まで捉えている。存在の形状認識がサンバイザーの無いときよりも、強くなっているな。対象が見えないと意味がないしね。ヒエンブーツの準備はいいか。チーシャ。クイーンの手が忍び寄ってくるのがわかる。かなり慎重な音だ。指揮者の言うとおり、読み取り、聞き取りして、僕達の音風飛奏の型、叩き込むしかないな。これが恩返しの、仇討ちにしておこうよ。最も、それならばとクイーンも本気を出してくるに違いない」

「キュイ キュア キュタ キュク キュン」

チーシャのバイザーでも、尾っぽつき模様が大きくなっていくのがわかると、ヒエンブーツを広げて、水面を叩く。波には模様ができて、デーナのバイザーにはおたまじゃくしの尾が消え、黒いイガに変わっていくグラフィックが映し出された。イガの形も歪んでいき、ぱんと破裂する音が複座に響く。海溝から白く濁った手の先の矢がしなって、放たれた。水面からも、抉る鉤爪デファルメになった触手が刈り取ろうとしてくる。一歩、デーナ・クロス・チーシャの足が早かったのは、サンバイザーで触手の声姿がすでにつくられており、手を出す瞬間の音を拾っていたからだ。ヒエンブーツで水面を叩くとしぶきが上がり、鉤爪を引っ込ませた。その勢いは力強く水上を走り、刺胞つきの手を掻い潜った。ヒレで散った水滴が光って、海に降り注がれていく。ヒレンファーで指揮する姿となり、大気を切る。柔らかい触手が風の流れに乗ってしまったところを見逃さず、光差剣銃に合体させ、光熱核を最大にすると、一太刀でまとめて切った。蒸気で覆われても、クイーンの手のデフォルメグラフィックで水面下から狙ってくるのがわかった。

「ヒレンとヒエンは、やっぱり、チーシャだからこそだね。いいね! これだけ、切り落としても、まだ手が残っているか。超音波で掴めているさ。ならば、こちらからも手を取ろう」

「キュイ! キュタ キュネ キュア キュキュ」

ヒエンブーツのヒレが大きく音を出し、水上を駆け出す。柱が二本、三本と次々と上がっていき、追いきれずに絡まるクイーンの触手がデザインされると、水の面をブーツ叩きの間合いで詰めて、また一太刀入れた。ヒレンファーの力もあり、何の抵抗もなく、大剣は振り下とされる。白い蒸気が広がる中で、一気にまだ浅い海を割って、おびただしく手が湧き出した。矢の向きはすべて、デーナ・クロス・チーシャを指している。触手全体に沿って、荒々しい波模様が浮かび、デーナの体には黒い針影が映し差されている。サンバイザーがつくるグラフィック世界観は人工衛星で見せてもらったバーチャル水族館や動物園の彼らよりも自在に姿を変え、体に迫っては、そこを通り過ぎていく。黒い影がまさしく、その映像だった。

「バイザーって、素敵だ。クラゲの声も豊かだな。実際は体を動かす際の微かな振動なんだろうけどね。音があるなら、叩こう!」

タンポポ・タネは光差剣銃をまた二つに分けると、それらを逆手でデーナに持たせた操作の流れで、前や上へと両手や指を振っていく。チーシャは合わせてヒレンファーとヒエンブーツの開閉で、大気と水面を叩いている。触手の動きを指揮振動でぶれせるのもあったが、デーナの体から発せられる音を聞きたかったのだ。そのリズムを取れようとする前にクイーンの手による囲い矢が襲ってきた。その中にグラフィックの一部で矢が取れて、波模様にとげが無くなっているいくつかの手があった。こちらの風と水の振るえと模様につられたのだ。

「鋭敏な触覚ゆえだな。大きなデーナの体の指揮で、さらに踊ってもらおう。チーシャ! のせられた模様の手まで飛ぶ。いくぞ。よいせい!」

「キュイ! キュセ!」

ブーツで跳ねると、先の刺胞を避けたが、クイーンの手が体に絡み始めた。しかし、確かに手の中にはサンバイザーから発した音に振るわされ、グラフィックの波模様が指揮振りの動き、叩きと同じ揺らぎになっている数本を映している。ヒレンファーでそれらに触れるとチーシャがえいと大きく袖開いて弾き、囲おうとした触手は数本でも大きくつられてしまった勢いに巻き込まれた。デーナ・クロス・チーシャは飲み込まれる前に両足のヒレで飛び上がる。水の世界にクイーンの巧みでたくさんの手は激しく返されて、辺り一面にしぶき壁が出来上がった。壁も飛び越えており、水面に着地すると同時にまたヒエンブーツで踏みつけては、飛び上がっていく。

「飛び上がらないと! 海溝が見えるぞ。深いな。クイーンはまだ出てきてくれないか。触手が集まりつつあるのは、元に近づいてきたね。でも、まだ手が出せない。届かないところにいる。水の世界だとサンバイザーでも、僕の感覚では触手が捉えにくくなるかもしれないから、できるだけ手を打っておく」

「キュイ キュク キュセ キュタ キュ」

海溝は深く、そして遠くまで出来上がっている。とても飛び越えられないので、近くで着地するとすぐに後ろへとブーツヒレで下がった。水中に荒いグラフィックデザインの手とぎざぎざ模様が見えたとチーシャから、受け取る。

「後ろから、回って刺そうとして来るな。荒いグラフィックは、漂うゼラチン質が滑らか過ぎて、形作りにくいんだ。ヒエンブーツを頼む。チーシャ。バク転の感覚で、その手でも取る」

切られ、払われても、背後から回し伸ばしてくるクイーンの手にデーナ・クロス・チーシャはブーツもレンファーもすべてを大気と水面へと開き叩いた。クロス体は宙返りし、刺胞をかわすと、波模様が浮かぶ触手部分ごと水面に踏みつけて、着地した。水しぶきを両手ヒレで振り切って、次の手を読み聞こうとすると、デーナの体は水の世界に丸ごと入ってしまっていた。ヒレを様々な形にし、跳ね続けていたので潮が満ちていることに気付かず、水中に勢いよく飛び込む形になっていた。

「水の世界だ! 満ちたか。中々の飛び込みと着地になったね。恒星からの光はやっぱりここまでも、この目でも青色だ。きれいだけれども、周りには何も無いここでは、クイーンの手を見逃すことは危険だ。サンバイザーでお手並み拝見する気でいかないとな」

「マクロ船でも潜水します。バイザー人達も潜ってくれていますし、クイーンを捕捉していきます。デーナ・クロス・チーシャのサンバイザーのほうが早いかもしれませんが、デーナの潜水限界も調べておく必要もあります」

「私のクロス時よりも、体が安定していますね。深くなっても、溺れる心配がないのは、まあまあ、チーシャもやるじゃないですか。ならば、クイーンクラゲにも勝ってもらわないといけませんよ」

「キュイ キュカ キュシ キュレ キュア」

バイオミーとカシアの通信が入り、タンポポ・タネとチーシャにはデーナのサンバイザーでマクロ船と指揮者達の姿をグラフィックとしてこの目で見えていた。顔の形や模様までバイザーデザインではあるが映されている。水の中でここまで相手が見えれば、クイーンとお手合わせできるとチーシャはトリガーを強く握った。踏みつけた触手は流れに揺られ、海に入ってくる光で透き通っている。

「一本角の発する超音波をさらに二本角で、受け取り、サンバイザーでのグラフィックデザインは水中のクイーンの手にできているな。僕の目だったら、本当に透明に違いない」

「キュタ キュネ キュア キュエ キュス」

青い水の世界でのバイザーデザインは大気中よりも、クイーンの手をはっきりと、ふにゃり丸みのあるデフォルメをしており、チーシャは可愛らしく描かれすぎと戸惑いと少し怒りの意味を伝えた。しかし、クイーンクラゲの住む世界でもあって、水の中で流れ動く触手はサンバイザーからであっても、デザインが消えたり、出てきたりを繰り返し、掴みどころが難しくなっている。

「デフォルメは僕の音の想像力だよ。この漂流する手広い動きのせいで、超音波の向きがあっちこっちで迷ってしまうな。そして、クイーンクラゲのこの透明感! か弱さとか、守ってあげたくなるとかじゃあないな。水の世界ではハザードレベルを上げる力になっている。グラフィックからの一手の先読みと水中の微かな振動を拾っていくしかない。マクロ船や指揮者達の手も借りるけど、デーナ・クロス・チーシャの勝負どころだ」

「キュイ キュネ キュア キュエ キュモ」

サンバイザーのデザイン力をチーシャの角も受け取っており、動きも読めるよとヒレンファーとヒエンブーツを広げて、クイーンの一手に構えた。漂うだけにしか見えないクイーンの透明な触手であっても、グラフィックの一部に乱れと歪みが映し出されている。波模様は細かく刻まれているのが見えた。タンポポ・タネはつくられた手のデザインと模様から、網目の手で包んでくると考え、視界前の見える範囲の触手デフォルメ絵を観察しつつ、後ろへと種殻弾を撃ち込んだ。その後、チーシャは両手足のヒレたちの形状変化で深く素早く潜り、弾を転がしている触手達を見上げる。バイザーグラフィックには、種殻に絡み猛っている細く柔らかい毛並みを映し出していた。

「ヒレンとヒエンの動き、いいね! 姿勢を保ったまま水中を自由自在に動ける感覚はそれらがあってこそだ。泳いているんじゃあなくて、跳ねて飛んでいるわけでもなくて、水圧を一瞬で踏み射つ速さだったな。ヒレの開閉形状変化や移動はチーシャの感覚の意識で働くのなら、君の好きに動いても構わないよ! クイーンクラゲの透明感ある細い手の攻めとデーナ複座の中での体感で僕の感覚は今、ハイパーになっている。容易く手篭めになんてつまらなくはさせないし、ついていけるさ! ちょっと激しくなっても、動きが無意識であったとしてもね!」

「キュイ! キュタ キュタ キュカ キュシ!」

今の変化は自分で動かしているのとトリガーを握ったチーシャはデーナ・クロス体の動きを想像し、レンファーとブーツを全開にすると、ゆったり水中の流れに乗った。優美な金魚の姿になって、変形したまま身を任せていたと思うと、クイーンの流れる細い毛髪に触れそうなところに来ていた。漂う動きに合わせたのだ。静かに隣に来られた機を逃すまいと、デーナの右手に持っていた短剣とヒレンファーで縦横自在に切り流していく。転がしていた弾ごと、抜け落ちていくところで、サンバイザーは深く暗い水位に、艶やかな桃色の長髪を映していた。

「恐ろしいんだけれども、人魚姫の豊かな髪に見えてしまったよ。漂ったり、獲物を捉える動きの違いでデザインが変わっていく。透明な手の大盤振る舞いと髪の見せびらかしはクイーンを火照らしてきたぞ。身をこちらに乗り出してくれたら、遠慮なく落とす機会を得させてもらうぞ。まずは、長い髪を掴み取る!」

「キュイ キュカ キュミ キュア キュタ」

グラフィックされた触手は桃色の髪から、真っ赤に染まった。刺胞部分には強いねじれがバイザーに映し出されている。チーシャはヒレ達をなびかせて、こちらのほうがきれいだしとクイーン相手のデザインと競い、自然美の体を海にみせつけていた。タンポポ・タネは頷くと、髪を振りほどく姿勢と、デーナの視界外にも広げているであろう手の動きを頭に描いた。

「マクロ船では影ぐらいしか映りませんが、手広い、やり手のクイーンです。デーナ・クロス・チーシャのサンバイザーの死角をカバーぐらいはできます」

「本当に厄介ですね。何が透明感ですか。容赦も手加減もないのに、言うものではありません。でも、バイザー人達には、マザーや私よりも見えているんでしょうか。彼らの影も映っていますね。触手を避」けています」

画面上でクイーンの手の影とバイザー人達の動きを送ってもらい、それらで両腕両足の向きを決めた。チーシャが合わせて、ヒレを撃つと、水中に素早く流れ動き、赤いねじれをかわす。まだ追ってくる手に、種殻弾を撃ち、ヒレを小刻みに変形させる小さいバイザー人の激しい操縦動作に感覚が離れないよう付いて行く。水の世界で後ろに向かって一瞬に、流れに乗って深く一瞬に移動する。巧みな触手は漂いながらも、潮の流れを掴み取り、攻める手に勢いも強さもあった。バイオミーやカシアからの通信は画面からではあるが、デーナ・クロス・チーシャの複座に入ってくる視界や音にはバイザー人達の言葉が映っている。水中では発した音は泡に包まれ、角周りに浮き、中に波線が描かれていた。

「大気とは違うな。音の視覚化と声が残るのに、違いは無いから、面白い。彼らも見える範囲内で死角を防いでくれるのか。クロス体での水の世界での受け取りは複座にも響くな。意味処理も出来ている。超音波の波模様が本当に言語になっている。どんな言語にも音があることを考えさせられるな。振動でできた泡を保ち、言葉の反芻もできるのは、バイザー人達の培ってきた意思疎通の結晶だね。感謝と僕達の見ている世界でのクイーンの手の染め具合を伝えたら、攻めていこう。手数を減らし、女王に仕掛けないと、申し訳ないからね」

チーシャは強く角を振動させ、デーナのサンバイザーのグラフィックで予想される手を彼らに伝える。複座からは青い水の世界に意味、音韻処理の想い響いたとおりの波模様が描かれるのがわかった。遠くで泳いでいるバイザー人達は受け取り、角を振るわせて、散らばっていった。彼らの動きを参考に、デーナ・クロス・チーシャはクイーン触手のグラフィックデザインから手の内を聴き取り、踏み打ち進んでは、瞬時に潜り抜けていく。その速さで真っ赤に染まって映るクイーンの手を短剣で切り落としていた。避け続けるだけでなく、ヒエンブーツとヒレンファーの変形で突き進み、流れを掴みかけたグラフィックの触手に一瞬で詰め寄り、数を減らしていく。サンバイザーが作り出すデザイン色も、水の世界から鮮やかさが消えつつあるのがわかった。

「巧みな触手が止み始めた。手筋を切り開けてきたな。海溝までの道が見えた。準備はいいか? チーシャ。クイーンクラゲの陣に入る。どこまで、どれくらいまで潜水できるかも確認したい。スーツを装着しているが、クロス体の変化は確認できる。激しい動きをしても、繊維と鰓の名残で、海の酸素やプランクトンでバイオ燃料は微弱回復だが、持ち堪えてもいる。早速、手を打つか」

「キュタ キュネ キュマ キュク キュロ」

クイーンとは会わなければいけないとヒレンファーとヒエンブーツを大きく開き、両手両足を水の世界にひらり振り広げると、海溝へ向かって飛んでいく。そこは深く、光が届かない、真っ暗な場所だった。切られた元の方の触手が戻っていく道はそこへと続いている。しかし、サンバイザーから見ると、奥底に真ん丸な泡が一つ浮かんでいるのだった。

「あれがクイーンだな。形だけだが、超音波が届いて、グラフィックデザインできている。お近づきになるか。潜水する姿勢を取ったほうがいい?」

「キュア キュデ キュナ キュマ キュシャ」

そのままで大丈夫、動きを入れるのはヒレのほうと伝えてから、レンファーとブーツは水中を振り回って、展開の形が決まると今度は一歩ずつの速度で深い水の世界へ降りていく。明るさが無くなっていくのだが、デーナ・クロス・チーシャの複座には、徐々に大きくなってくる泡と、流れ出てくる細い筋の泡が何本も映し出されている。デーナの体はスーツ繊維の補助もあり、水の世界の重さに潰されずに向かっていくことができた。それでも、深い場所に居座っているクイーンクラゲに会うまで耐えられるかを慎重に見極めようと、タンポポ・タネは感覚を想像し、研ぎ澄ませていた。

「キュイ キュタ キュネ キュデ キュス」

「軋む音もわかるんだね。確かに体からも、鼓動やバイオ燃料の流れの音が伝わる。うるさくなったら、危険というわけか。自覚症状を聴けるのは、いいね。まだ、いけるのか。すごいな。クイーンクラゲもさすが高嶺の花、いや、深海の泡だよなあ。これぐらいの高さ深さがあるのも、僕にとっては良い刺激さ。サンバイザーの明るい色を塗るデザインと聴き取りが無ければ、バイザー人達もここまで来ない世界ならば、まさに体現になる」

触手の元であろう筋泡が揺らいで、クイーンクラゲのグラフィックは濁った白から淡い赤になり、風船の勢いで膨らみ始めた。そのまま浮かび上がり、デーナに向かってきたのだ。筋泡の一つ一つが膨らんだクイーンに集まり、ぶら下がってついてきている。サンバイザーではその姿を消え入る赤いほうき星のデザインとして映し出していた。

「傘を開いているんだ。超音波に反応したのは、敏感じゃあないか。クイーンから、いらっしゃってくれるとは。バイザー越しでも、恐れ多い姿だ。捕食及び、陣内に入ったから、手を打ってくるわけだ。ならば、お誘いだ。手をすり抜けるぐらいが、くすぐるよ」

泡が膨らみ浮かんでくるのに合わせ、上へと体を両手足のヒレを広げ、浮かぶ。たくさんの泡の手筋がうねって、流れ散らばると、赤い風船は飛び上がってくる。足にクイーンの傘がぶつかったタイミングと感覚でヒエンブーツを食らわす操作をした。タンポポ・タネがデーナによって足場を掴み、チーシャがヒレで叩いたのだ。潰れずに泡はへこむだけだったが、細い無数の泡が翻って咲く形になり、纏わりついてきた。泡の先は真っ赤になった玉が付いているものがいくつかと、残りのほとんどは、白い一筋一筋の泡で、ただクロス体や勝手な方向へ流れ注がれていく。

「キュタ キュネ キュク キュン キュカ」

「ああ! 赤い火花が巧みの刺胞だ。残りはダミーだ。動きを紛らわせてくれる。無駄に動くと絡まる。あえて、囮の手には身を任せ、火の手にだけ絞ろう。デーナ・クロス・チーシャのサンバイザーと複座での感覚と想像の刺激で僕は一手を打てる」

注がれてくる白い手にデーナの身を隠しつつ、火の手の映える赤色だけでなく、導火線が燃える音が複座に響くのをチーシャは後ろから伝わってくるよと警戒した。記憶にあっても、怖がらず、デーナの構えにヒレンファーを備えさせるのは複転写での発現やグラフィックデザインによる表現が支えになり、チーシャの体を動かしているのだろうとタンポポ・タネは自分の手の操作にも力を入れる。ダミーの泡手に逆らわずにいれば、それらはただ通り過ぎていくだけだった。しかし、赤い刺胞の手は見逃さずに、突き刺してくる。そちらをヒレンファーと短剣で破り、後ろから抱く手には種殻弾で振動を頼りに打ち込めば、白い泡筋とともに巻き込まれていった。ダミーの手に触れて、指で優しく束ねて押し返すと、巨大な赤い風船元に戻っていく。サンバイザーから見れば、クイーンはまた大きく膨らんでいる。それが萎む姿に映り、稲妻模様が周りに描かれた。デーナ・クロス・チーシャのヒレンやヒエン開閉射ちよりも、長い距離を一気に進み、巨体を浮かび上がらせてきた。完全に追い越されたが、クイーンの本体を見ることができた。暗い水中で形だけでなく、色をデーナの視覚は見事につくりあげていた。

「レースのドレスを纏った、引き締まったスタイルだなあ。赤みを帯びているのは、妖しげだ。触手は傘から流れ出ている。数珠卵線はまさしく、そのとおりだな。数多の数珠が傘を彩って絡み、蓄えられている」

「キュク キュイン キュタ キュネ キュア」

傘の元は太く、先のほうはほっそりとした器官に、赤いひだ何枚も重なっている。傘の直径はデーナの巨体を覆い隠せ、ドレスの体は先までを比べれば、四十メートルにもなる大きさにバイザーに映った。複座で映し出される姿は赤い膨らみの中で巡っている数珠とそこから流れ漂うたくさんの桃長髪、揺れ動くひだの重なりで恐ろしくも女王という意味に結びつくのだった。チーシャはクイーンクラゲの傘の開きと中の数珠模様が巡る音に角を振動させた。高く響く音色をつくり出すから、手が止まってしまったらしい。

「うん! それは、クイーンも体を持っているからさ。交叉結合の想像力でもある。だが、僕達への攻め手は止めない。赤い火の手は少なくなってきたけど、まだ内にある。お互い、生きているんだ。決着をつけさせてもらう」

クイーンはデーナの隙を感じ取り、頭上の位置まで傘で飛び、触手を垂らしてくる。タンポポ・タネは種殻弾を打ち上げた。傘元に当たり、手を遠ざけた。チーシャのバイザー模様や角は強く振動し、手加減しないってことねとレンファーとブーツで踏み射ち、浮き上がった。弾はレースの中に消えていった。

「消化器官まで、長いレースで絡み取って、運んだか。傘の元がそうだな。サンバイザーが弾の移動音を映している。赤いひだレースに誘われて、入ってしまえば、文字通り、おいしく食べられ、頂かれてしまう。大きい体でぶつかり合うのは初めてだとしても、お手柔らかになんて言い合っている場合じゃあない。再度声に出させてもらえば、お互い、その体でまだ生きているからさ! 打てる手を打つ! 打ち込んで、打ち上げる。光差剣銃で差し込める場所までね」

クイーンのレースには触れずに、ダミーの触手にデーナ・クロス・チーシャの体を潜り込ませ、種殻弾を打ち込む。さらに上昇し、火の手も流れに乗ってしまっていた。合わせてクイーンの白い泡手を絡ませ握り、ともに浮かび上がっていく。赤い重なりは激しく揺れ誘う動きをするが、デーナは一筋一筋の白い手を隠れ蓑にして、引き込まれるのを防いでいた。サンバイザーがつくり出すレースの中に起きている竜巻模様と膨れ上がる勢いと赤く染まっている数本の刺胞から手を読み、模様が無い白い泡の手を借りた。絡まり合っては、レースに引っ掛かり、その隙にさらに種殻弾を傘に向けて撃つと、光が見えてきた。

「たくさんの触手を逆手に取る。手が込んでいると言ってくれても、いいよ」

「手にこだわるのはよろしいですが、クイーンの様子がおかしいですよ。ようやく、マクロ船でも姿形を捉えられました」

「手を煩わせましたね。水の世界の重さから、よく、引き上がってきましたよ! クイーンの名に恥じない、大きさと不気味さです」

バイオミーやカシアの通信が入り、マクロ船が待機していた水位まで上がってきたのもわかった。

「キュタ! キュネ キュシュ キュテ キュカ」

クイーンが嘘みたいに自分の手を切っているとチーシャが声を届かせる。ひだひだのレースの中にダミーの手を纏わせ入れ、大きく揺らして、底に落としていた。デーナ・クロス・チーシャの体もさらけ出されていく。

「自ら、ダミーの触手を断ち切るとは! 狙いを定めやすくなったか。どちらが詰みになるかは、次の一手だろう! 種殻弾もあと少しだ。マクロ船でも援護弾を頼む!」

デーナに燃え滾る刺胞を向けて、赤いレースを存分に揺れ回している。サンバイザーで見える手と姿から、クイーンが勝負を仕掛けてきていると想像し、タンポポ・タネは残りの種殻弾を撃った。膨らんだ風船は高く飛んだが、まだ手を強く刺し、伸ばしてくる。マクロ船の援護射撃が間に合い、水面へと追い込んでいく。

「キュイ! キュク! キュネ! キュオン! キュキ!」

チーシャがヒレンファーとヒエンブーツの全開変形から射ち込んだ。これが悪いと手を切るのなら、手を叩くよとクイーンクラゲに大胆に向かっていったのだ。サンバイザーで竜巻模様や膨らみが無い器官を見定め、タンポポ・タネが両手のヒレで叩き込むと、光で満ちている世界に飛び出て、触手の一本一本が大気に揺れ散る。

「ようやく、体を見せてくれた! かなり、手間が掛かったが、これもいい。よし! 光差剣銃の大剣と最大の光熱核刃でいかせてもらう!」

デーナも水の世界から勢いよく乗り出し、クイーンの手を掴み引っ張り、ヒエンブーツで揺れる触手を跳ねる台にもして、大気をも駆けていくと、数珠模様が映し出されるクイーンの傘の上まで飛ぶ。ヒレンファーの力で両手を動かし、光差剣銃を言葉にした通りに変形させた。最後まで火の手を突き動かし、打ってくるのに、恐れずにヒエンの速さを使って、透明感のある巨体へ飛び込めたのは二人とも、サンバイザーから見えるクラゲの音模様が絶対に倒れないという意味処理で強く頭に響いたからだった。

「これは、僕達のクラゲへの想像力だな! だから、その柔らかい体と蓄えた数珠に剣を差し入れる! よいせー!」

「キュネ キュク キュラ キュゲ キュイセ!」

赤い手をすりぬけ、光差大剣とヒレン、ヒエンの起こす風に乗って、自在に宙回りを繰り返し、クイーンの傘と体を十字、もうひとつ十字に切り開いた。チーシャは最後への言葉に私も倒れてはいけないのと声を送っていた。蒸気が周りに広がって、模様が描かれなくなった体は水の世界に落ちて、見えなくなった。デーナ・クロス・チーシャは頭から飛び込み、ヒレンファーとヒエンブーツを広げていた。

「血が出ませんでした。クラゲも不思議です。クラゲの死亡はよくわかりません。これで死んだという認識が私にはできないのですが、やっぱり沈んでいく姿は考えるものがありますね」

「リーダーやチーシャのサンバイザーには水の世界の生死を見分ける力がありますか?」

「体が発する音は無かったな。数珠も弾けていた。生きているならば、必ず死もある。だから、つなぐ意志があれば、触手からクラゲの子どもであるポリプが発生しているかもね。その遺伝子はあった。これは止めるのが難しいんだ。ただ、小さくなった体で生き残るには難しい水の奥の世界。今は見送ることにしておく。これ以上の過ぎる手を止めたことは確かさ。クイーンを相手によく動いてくれた。子どもだからって、関係はないね。ここまでやってくれたんだから、もう、素直にチーシャに惚れたよ!」

「キュイ キュア キュ キュ キュモ」

後ろに振り向くのに合わせて、バイザーを上げ、丸い黒目と整った淡い化粧線は笑顔をつくっていた。クイーンやタンポポ・タネの音模様や色は、私のバイザーにとっても響いたと指で角を叩いた。

「バイザー人にとっては、それが意志を決める一手なんだろうな。指揮者達も迎えに来たし、水の世界にも模様が出来ている。潮が引くか」

サンバイザーには、小さくなっていく波模様や遠い空で丸い月から伝わってくる渦巻き線が映されていた。バイザー人達はデーナの周りを泳ぎ、深い海溝と散り落ちていくクイーンを見つめていた。指揮者が珊瑚森で腰を下ろそうと超音波で案内と言葉を伝え、ゆっくりとヒレンファーとヒエンブーツを動かしていく。優雅な泳ぎなのは、仲間同士に見せられる姿だなと複座から、両手足を、彼らについていかせる操作をしながら、眺めていた。潮は引き、海溝から離れた、珊瑚の森でデーナ・クロス・チーシャは膝を折り、フードと透明面を外して、サンバイザーを後ろに流し、角を結んだ。

「顔が拝見できますね。目や口、耳や変形鼻孔に顔に描き入っている人相線とでもいいましょうか。デーナの発現をデータに取っておきます」

「サンバイザーにヒレンファーとヒエンブーツ、えらの名残りの発現ですか。水の世界で生きる姿ですね。まあ、これもお父さんが生き残る術の一つとすればね。チーシャもよく頑張りましたと、一歩先をいく私から言葉を授けますよ」

マクロ船も着地し、バイオミーの子機やカシアが上空に飛び、大地に立って、声を掛けていた。複転写を止めて、デーナの延髄部分から、タンポポ・タネとチーシャは出てきた。クロス体から徐々に初期物質状態に戻っていく。集まってきていたバイザー人達は巨大なモデル物質を見上げて、二人がいっしょに降りてきたのを迎えた。

「キュイ キュア キュミ キュデ キュナ」

「そうです。さきほどの状態がバイザー人と僕達の交叉結晶モデルです。チーシャが力を掛けてくれました。指揮者やバイザー人達へのチーシャの心配と、そして僕のモデル展開を示したい意志がここにあります。感情を露にするべき際、何卒御一考をお願い致します」

タンポポ・タネがバイザーを上げた指揮者と顔を合わせた。隣についてきたチーシャの角やバイザーをなで、流れが来ただけに過ぎず、それが我々の波模様になったのを見たと、微笑の表情を浮かべた。周りのバイザー人達や競争相手も角を振動させ、共鳴していた。ベルーシュが近寄って来て、手を取り、踊り飛ぼうと変形したレンファーにチーシャが止めていた。

「一人を愛するためには、皆を愛さないといけないんだ! とっても素敵に芽生えたのなら、受け取らざるを得ないし、伸ばすことが僕の使命なんだ! とりあえず、飛び上がるか!」

女性のバイザー人達を両手で握り締めて、腕を上げた。ヒレンファーも開き、三人は飛び上がっていた。指揮者がクイーンの駆除も確認したので、生きている皆で帰ろうと角と手を振っている。ベルーシュにまた後でと伝え、チーシャをバイザー人達に預けると、タンポポ・タネはほぼ初期状態になったデーナに乗り込み、マクロ船のハッチへ納めに行く。複座の画面には、新たに螺旋光路が映し出されていた。

「この惑星での交叉対称及び複転写は完了したということか。データもバイオミーが取ってくれたし、光路があるのなら、進まなくてはいけない」

「こちらにも届きました。遺伝子複転写体デーナの使命なんでしょう。しかし、どうしましょうか。進むと決めているのならば、ここで残すか、何かはしないといけません」

「き、気が早いですよ。チーシャはまだ未発達ですし、ベルーシュ達だって、芽生えただけかもしれません。お父さんのモデル展開は、よく出来ていましたが」

バイオミーやカシアの船の開閉とアーム操作でデーナを固定し、複転写を終えた。横になったデーナの検査やスーツの点検をしながら、タンポポ・タネは螺旋光路への未来を想像していた。

「時間が掛かるな。受け継がれていく過程も見なければならない。よし! ならば、いっしょに来てもらえるかを素直に伝えるほかは無い。断られたら、次に行く。道は続くわけだしな。僕の体が生き続けている限りね。早速、バイザー人達や指揮者にご挨拶とお別れを僕から言おう。御相手は振動も音も意味も処理するんだし、口でも言っておかないと」

この惑星にある日も暮れ始めており、青い珊瑚の長城にマクロ船は到着した。指揮者、バイザー人達が広い珊瑚空間まで自分達を連れて行き、演奏会を開くと意味ができた。クイーン駆除と新たな出会いを迎えると伝わる。タンポポ・タネは彼らのような超音波を発することはできないが、今頭の中で考えている言語処理の響きを受け取られる前に、指揮者の真正面に出た。道を開けてくれたのは、人間が認めるように駆除の功労があったからだろうと思い切って、歩んでいく。

「モデル展開の協力と認識を感謝致します。演奏は僕達にとっては、これ以上ない、お互いへの可能性の光です。改めて、ヒトとゲノムを考える想像力になります。ですので、終えたら、自信を持って真っ暗な宇宙に旅立つことにします。すべての生物に、そしてその一人である僕にも使命を託されております。その際、さらに求愛と繁栄へいざなうことを持って、バイザー人をお迎えの問いを掛けることを伝えます」

「キュイ キュア キュエ キュ キュ」

流れが交わり、広がるのがそうであると頷き、しわの線になっている顔で向き合った。

ノベルアップと小説家になろうに同時投稿

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