視点は頂点で
うすい湯気が立ち込めている黒い山の中に、大きな浴場が出来ていたのだ。赤い角と髪、山肌の艶のある黒色と同化し、湯に浸かっている体が見えた。片方は角一本であったが、もう片方は二本あった。額を覆い、そこから二つの角が頭から伸びていき、二又の隙間から赤い毛が突っ張り出ていた。立派な朱色の兜でも付けており、戦いの構えになっているのかと思ったのだが、その二人は風呂に入っているだけだった。特徴のある赤い瞳を大きく開いていたが、タンポポ・タネを見てから閉じて、頷いている。
「メッ メ マー モク」
「目? 瞳のこと?」
肩にはバイオミーの蝶型の子機をのせているが、赤い兜の二本角をしている方の声は低音で、聞き取れる音韻もあったが、意味を処理するにはまだ材料が足らないようだった。しかし、タンポポ・タネは先ほどの眼差しと頷きで決断した。
「この赤角人といっしょに温泉に入るか。二本角の声は人間の僕にとっては男性そのものだな。意味も話もそれから、なんだろう。でも、ここの温泉は熱いね。この温度に限るのかな」
「本当に成分も温泉そのものです。警戒音には当てはまりませんが、リーダーはお気をつけくださいって、脱ぐんですか?」
「スーツのまま入るわけにもいかないよ。交叉対象なんだ。体を見てもらう、ちょうどいい機会だ。あっ。これ、桶の代わりだな。掛け湯するんだろう」
壷を見つけ、湯を入れて、脱いだ体に掛けていく。二人の赤角人は目を見開いて、タンポポ・タネから温泉へと光っている視線を移していき、注いだ。そのまま、足から肩まで浸かっていく。
「めちゃくちゃ、湧いてきてるぜ。いい湯だ」
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