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コミュ障TS転生少女の千夜物語  作者: てぃー
3章

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南都散策、変わりゆく現状

 銀鉤協力の下、天使の目を掻い潜って聖堂を抜け出した。


 南都に来て半月以上。久しぶりの外出だ。

 全身で風を受けると心地よい開放感に包まれる。しかし日差し照りつける公道は夜人には厳しく、然しもの銀鉤も日光を嫌がるように影に籠って出てこなくなった。


 寂しそうな銀鉤が影の中からこちらを覗く。

 大聖堂の結界よりも日光の方が弱点らしい。


「銀鉤? ぎんこーう? ……あ」


 俺も1人は寂しかったので影に声をかけていたら、何故かヤトが出てきた。


「あ……」


 でも日光に焼かれてすぐに消えて行く。

 浄化された靄の残り香からヤトの嘆きが感じられた。


「ばいばい」


 お前、結界にすら勝てないのになんで出てきた?

 ……まあいっか。風に吹かれて飛んでいくヤトの残滓を見送った。


 一人取り残された俺は、どうしようかなぁと考えながらフラフラと足を進めて人通りのない路地裏を適当に進む。


 特に強い意志が有って外出した訳ではない。

 ただ、天使に監視されているような状況が気に食わなかったのと、街の状況が知りたくなったから聖堂を抜け出したのだ。


 色々あって忘れかけていたが、俺の目標の一つには「聖教会に対抗する力を保有する事」がある。


 天使のすぐ近くで敵対行動を取れるはずがない。

 俺は彼等に気付かれないようにしながら、聖教から排除されそうになった際の対策を用意する必要があった……のだが、なんか思ってたより闇の受け入れがいい。


 俺の最初の想定では、大人verヨルンと天使サナティオが出会った時のような状況を考えていた。

 真っ当な聖教信徒に出会った瞬間「闇は死ね!」と問答無用で排斥されると思っていた。そして、俺を庇護してくれた優しい聖女さんにも異端審問という形で害が及ぶと懸念していた。


 最悪を想定して、全てを打ち倒せるだけの力を求めたのだが……蓋を開けてみればそんな事は無く、何故か俺は聖教から守護対象にされている。


 ……襲われる想定だったから、守られるとか思ってない。

 まさか「外は危ないよ」って部屋に押し込められて、護衛に天使まで付けられるとか思ってない。


 でも理由は分かってる。全部、聖女さんのおかげ。

 彼女がどう言いくるめたのか分からないが、闇を嫌っている――というより、恐れている――天使すら説得して、『教団の被害者』たる俺を守る様に手配してくれたのだ。


「……んー?」


 改めて考えてみるが……これ、聖教会への対抗策いる?

 聖女さんが南都聖教会のトップに立って、天使たちまで俺を守る様な事を言い出したので、ちょっと必要性が分からなくなってきた。


 なんか天使って聖女さんの威光に平伏してない?

 サナティオすら聖女さんのお願いを聞いて動くとか……まあ分かるよ、聖女さんの純真さに触れれば、お願い位叶えてあげたくなるよね。分かるわかる。

 彼女が言えば黒も白になる。闇たる俺すら守る気になるよね。


 ……もう、聖女さんのおかげで聖教と天使が味方になったと考えて良い?


「うーん? ……うん」


 ちょっと悩んだが、でもまあ、戦力は無いより有った方がいいか。


 敵は聖教会だけとは限らない。

 一部には狂信者だっているはずだし、フクロウみたいな狂人もいる。なんなら本物の黒燐教団も気がかりだ。国家間の緊張がきな臭くなってきたとも聞く。楽観視はよくない。


 村から街に移住した事だし、非常事態を考えて簡易拠点の一つぐらい近くにあってもいいかもしれない。夜人へ新規拠点の構築をお願いしておこう。

 森の拠点は場所がバレたからね。安全策は幾つも講じて初めて安全となるのだ。


「そういう事で新しい拠点作って。簡単でいい。場所は……お任せ」


 周囲に人の目が無いことを確認してから、自分の影に向かって話しかける。

 これで、天使たちに聞かれて不味いお願いを夜人に伝達完了。よし。


「後は……」


 まずは一つ目的を達したが、街に来た理由は他にも有る。


 治安回復のための第一歩もそう。

 俺が乱した街の平穏がどうなったのか。現状を知らずして収めることなどできないから、これからどう行動するのが最適か、今日は街の下見に来たのだ。


 そしてもう一つ。フェレ君どこいった? 

 聖堂の建て直しでも白いフェレットの遺体は見つからなかったらしいし、実はまだ生きているんじゃないかと希望を抱いて探しに来た。


 初めて飼うペットは思ったよりも俺の心を占めていたようだ。

 柔らかい毛並みと可愛らしい仕草を思い出すと、どうしても諦めがつかない。そう言う意味でも部屋に書き残しておいた『フェレ君を探してくる』という文言は決して嘘ではない。



(だから今回の目的は、街の情報収集とフェレ君捜索……なんだけど、街の様子が前と随分と違うような?)


 人目に付かぬように聖堂から路地裏に【影渡り】で転移した後、主要道路に移動して違和感に気が付いた。俺たちがこの街に来た当初より、人の密度が減っている。


 今はお昼を少し回ったところ。

 一番人通りが激しい時間帯にも関わらず、メインストリートは歩きやすい状態になっていた。

 人同士がぶつかることは無いし、スリに会う事もない。まるで違う街に来たような光景を不思議に思いながら進むと、あちこちで賑やかな声が飛び交っていた。


「はい、らっしゃい! 北海直送! 新鮮な冷凍海鮮の入荷だよー!」

「聖女様公認、聖書の最新版だ! 新たに綴られる神話の真実! 今なら抽選でサナティオ様の直筆サインが当たるキャンペーン中だ! さあ買った買った!」

龍穴坑(レイライン)から未使用の魔結晶を大量入荷! 魔力切れの魔具をお持ちの貴方は必見だ! 10個買えばオマケに1個付いてくる!」


 元気に叫ぶ客引き達。

 それ以外にも客と店のやり取りも聞こえてくる。


「店主。ダメだ、香辛料が少なかったようで、あんまり美味くできなかった。彼女に怒られてしまったよ」

「あぁん? お前、昨日あれだけ買い込んで、まだ足りないってか? ……はあ!? 全部使った!? それ本当に料理なのか……? 錬金術じゃねぇのか?」

「もちろん料理だ! やはり"らしさ"を出すためにターメリックを入れ過ぎたか? 次はバランスよく入れてみるか」


「バランス良くねぇ? とりあえず、その彼女さんはなんて言ってたんだ? それを参考に味の改良をするか」

「ウンコを食わすな、だそうだ」


「調味料で錬金術するのは止めろッ!」

「そんな事はしていないッ!!」


 盗み聞きしながら、買い物中の男の横を通り過ぎる。

 探索者(シーカー)風の武装姿なのに料理とは、異世界は男女平等が進んでいるようでなによりだ。でも料理の腕はお察しらしい。


 そのままメインストリートの散策を続けて、あちこち見て回る。

 お店はみんな景気が良いらしく、気前よくセールしている所が目についた。住民も高価な食材や何かの記念品をバンバン買っている。


 ふむ……。


 ふむふむ……。


「治安の乱れ……どこ?」


 なんか平和じゃねぇ?

 街に来た当初の悲壮感がどこにも無い。あちこちで威勢のいい声は止まず、住民達は笑顔で満ちている。


 なにが嬉しいのか、屋台のおっちゃんが笑顔で串焼きをくれた。

 どうやら子供に配っているらしいが……俺は子供ではないよ?


「……塩味」


 串焼きはタレ派です。

 でも久しぶりに食べるチープな味付けの串焼きは大変おいしゅうございました。

 聖女さんの手作り料理は好きだが、毎回野菜が多いからね。たまにはこういうのも良いよね。え、もう一本くれるの? ありがとー。


「沢山食って早く大きくなるんだぞ!」


 無表情で受け取る俺にも優しいおっちゃん良い人。でも頭を撫でる許可は出してない。


「おいし」


 ぺろりと串焼きを完食。残った鉄串を店主に返して、バイバイと。


 さて、犯罪溢れる街がどうして優しい街に変貌したのか。

 そろそろ本格的に調べて行くとしよう。





 はい判明しました。

 大人たちの会話を盗み聞きして統合した結果、俺は驚くべき一つの事実に行き付いた。


 どうやら街の潮流が変わったのは、天使の降臨が切っ掛けらしい。

 神聖にして至高に近いサナティオを叙任式で召喚したのは聖女ディアナ。しかもその聖女が司教として南都に赴任した……かと思いきや、ここで聖教会本部がディアナさんの位階を司教ではなく「大司教」に変更すると、更なる昇進を通達。


 天使と聖女という絶対的な守護者が南都アルマージュを守ってくれるという安心感は、住民の荒んだ心に染み渡った。そして二つの威光にて街に平和が訪れ万々歳――という精神論だけで終わらないのが聖女さんの凄い所。


 どうやら俺が体調不良でダウンしてる最中にも、彼女は精力的に働いていたらしい。


 南都領主と会談して人口対策を打ち立てたり、多くの司祭を動員して民心の掌握と慰撫を実施。結果、南都外縁部で街の拡張工事が始まった。


 南都の面積を倍にするほどの大規模工事だ。街に溢れていた浮浪者や移住者を新地に移動してもまだまだ余裕がある。

 加えて大量の移住者――つまりは失業者――を雇用しての建設ラッシュは、街に犯罪率低下と好景気を齎した。


 急転直下。たった一つの行動で人口増加と治安対策を一挙に解決するとか意味分かんない。

 仮にその案が浮かんでも、大金を出す南都領主をどう納得させんのって話だが、それは建設予算を南都聖教会持ちにする事で強引に決行。


 はえー。


 もう大司教の権力が凄いのか、聖教会の懐事情が暖か過ぎるのか分かんないが、着任すぐさま快刀乱麻する聖女さんの決断力は凄いですねとしか言えない。

 しかも結果が出ているのだから、住民達の聖女さん株が更に上がっていくという好循環。そんな事情を知って絶句してしまう。


 つまり、街が優しくなったのは全部、聖女さんのおかげだったんだよ!


「……私の出番は?」


 無いかな? ……無いな。


 いや俺だって治安の回復頑張ろうと思ってたんだよ? その為に今回、聖堂を抜け出したんだよ? でも、動こうとした時には終わってるとか意味分かんない。……俺要る? 要らないよね?


「…………フェレ君探そ」


 どこかなー?

 俺の可愛いフェレット君どこかなー? あっちかなー?


 別に拗ねている訳では無い。無いのだ。だっていい事だし……。





 フェレ君どこにも居ない件について。


 路地裏探してみたり、ゴミ箱開けてみたけど見つからない。広い南都から一人で探し出すのはやっぱり無理が有ったのだろうか。


「どうしよう」


 夜の時間帯に夜人に捜索して貰おうかとも考えたが、フェレ君は夜人達からの受けが悪いから悩んでいる。特に幹部級である銀鉤から大顰蹙を買っているから頼んでも大丈夫か不安。

 たぶん犬とフェレットという、同じ動物括りでライバル視してるんだと思うんだが……。さてどうするか。


「……聞き込み?」


 一人で探して見つからないとなると、街人から目撃情報を聞けるといいのだが……それも不安だ。


 なにせ、この体はまだまだコミュ障が強い。

 夜に暴言を吐かなくなったり、クシャミが消えたりと、最初期よりだいぶマシになったとはいえ口数が少ないのは変わらず。初対面の人と上手にお話しできるのか、俺はこの体の言語野を司る【夜の神】が心配です。


 ―― ……。


 なんか不満げな気配を感じたが、心配なものは心配です。


 この体に馴染み、だんだん体の理解も進んできた。

 最初はキャラクリで設定したと思われる「凍った人格」の影響で無口になったと考えたのだが、実はそうじゃない。


 夜になると言葉の棘が強まったように、俺が放つ言葉は【夜の神】フィルターを通される。そして神の意志の下、昼間は台詞の取捨選択がされて、夜なら"添削"される。

 つまり、俺の言語能力は【夜の神】のコミュ力に左右される仕組みとなっていた。


 行ける? 知らない人との会話でも、言葉の選択ちゃんとできる?

 そう聞けば【夜の神】は自信があるような感情を見せてきた。


 えー本当、大丈夫? じゃあ行くよ?


 ―― 待って。ちょっと待って。


 と思ったら、ストップがかかった。どっちや。


 緊張をほぐす様に何度も深呼吸する夜の神。

 数分待つと、ようやくOKの合図が出たので通行人の女性に声を掛けてみた。


「白いフェレット。知らない?」

「え? な、なに……?」


 俺に声を掛けられて、目を瞬かせる中年女性。でもそれもすぐ困ったような表情に変わる。……だろうね。


 これでも俺は「すみません、俺のペットで白いフェレットがいるんですけど逃がしちゃって。どこに行ったか知りませんか?」と言いたかったのだが、出てきた言葉はさっきのあれ。

 会話というより、むしろ単語の羅列。うーん、すごい言語省略を見た。


「知らない?」

「……貴方、白いフェレットが欲しいのかしら? それならペットショップはあっちの通りよ?」


「ありがと」

(ありがとうございます。でもそうじゃなくて、俺はペットのフェレットを探して――あれ?)」


 悲報【夜の神】会話をあきらめる。

 お前、台詞の後半どこに捨ててきた?


 去って行く中年女性の背中を黙って見送る、俺と神。


 ―― ……ん。


 なんかドヤ顔のイメージが送られてきたんだけど。


 いいえ、これは失敗です。

 そんな満足げな感情を出さないように。



キャラクリの謎――

▼主人公の当初の認識

「凍った人格」:体に無口、無表情を追加

「夜を閉じ込めた黒」:体に神の力を内包。夜人の使役能力を獲得


▼今の認識

「凍った人格」:特に効果なし?

「夜を閉じ込めた黒」:夜の神と同化(無口、無表情も追加)?



ヨルン「こういうこと?」

夜の神「……」 ←コミュ障の元凶

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