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キャラクリエイト

 ははーん、さては夢だな?


 目の前に浮かぶ半透明のディスプレイを前に俺はそう考えた。

 六畳一間の安アパートである俺の部屋は狭い。中央に陣取ったちゃぶ台の上にはビールがおかれており、肴にはスルメが用意されている。そしてその更に上、空中に浮かぶ謎の半透明ディスプレイ。


 なんだこれ? 

 突っついてみれば、ポヨンと弾んで逃げた。


 ……ははーん、さては夢だな。


 今日は飲むペースが早かったかなぁ。仕事終わりで疲れているからか、酔ったつもりはないのだけど幻覚が見える。

 

「えー、っと……キャラクリ?」


 年のせいか視力が悪くなってきたから、顔を近づけて半透明のディスプレイを流し見する

 画面の一番上には目も口も無いマネキンっぽい奴が映っていて、その下には文字の羅列。

 

 細かい字になんだと思ってディスプレイを摘まんで引き寄せる。その時、画面上で新たなウィンドウが立ち上がった。


 警告みたいなマークと注意文が出てる。

 どうやら同意書とキャラクリの説明を兼ねているようだ。なんか長い……注意書き長い。


 馬鹿め。酔っぱらいはこういうのは読まないのだ!

 それにこういうキャラメイクは大体ユーザーインターフェースが優れていて、感覚的に操作できる物なのだー!

 同意書だってまともに読む奴は存在しないのだー!


 流し見でも時間が掛かりそうな長ったるい説明書を次々スキップしていく。


 んで適当にボタンが現れたのでポチポチ押してみる。なんか数値増えた。減ってるのもある。

 キャラ画像の下にある数本の青いバーが微妙に伸びていた。

 筋力とか魔力とか書いてあるしたぶんこれがステータスだろうか? 減ったのは配分可能ポイント? 分からんねん。


「そんなことより、キャラ画像がマネキンから変わらない件について」


 ええい! ステータスは良い! 俺にかわいい子をメイクさせろォ!

 よく分からないから、ボタンを全部一回ずつ押していく。

 もう一度キャラ画像に目を戻すとマネキンは大人の女性に変わっていた。


「あ! おー…変わった」


 ここからはキャラ画像を触ることでも変更できるらしい。

 髪、目、口、胸、手足を触れると長さや色、形の変更欄が出てくる。他にも色々変更できるようだ。


 ふーむ……これはつまり、マイ・フェイバリット・キャラクターを作れと申すか幻覚よ。よかろう!

 ビールを一口。気合いを入れる。


「まず身長は小さ目。胸も控えめ。だけど女性と分かるぐらいは膨らんでる。ちなみに本人は小さいのがコンプレックス」


 貧乳はステータスだ! 希少価値だ! なんて開き直りは駄目でーす。ちょっと恥じらっているのがいいのです。

 そして好きな人に「小さくてもきれいな胸だよ」とか褒められて赤面してください。

 ほんと?とか呟いて頬を染める、はいかわいいー。


 髪型はロングもいいけど、今回は肩にかかる程度。ただし前髪は少し長めで片目が隠れるように。髪質はくせっ毛よりも、サラサラよねぇ。

 ここで隠れてる目をオッドアイにしてもいいんだけど……さすがに中二病が過ぎるのでそれは無しー。


 口や歯はどうしようか。ギザ歯も良い物だけど、この少女キャラにはあまり似合わない。無難に小さめで纏めておく。

 肌は褐色よりも不健康そうなくらい白い方が個人的には好きなのです。


「そして仕上げは髪の色となる。ファンタジー系統の青髪か、それとも和風の黒髪か」


 むむむ……。

 これは悩ましい。

 髪の長さは肩にかかるぐらいで片目が隠れてる。顔つきはまだあどけなさの残る少女。肌の色素が薄い程度で人外のような特徴は無し。

 良い所のお嬢様と言われれば素直に頷いてしまうような可憐さと儚さがある。

 

「……黒だな。ただし漆黒じゃなく、夜を閉じ込めた綺麗な黒」


 どっちも同じ黒じゃないかと思わなくも無いが、こういうのはイメージが大事なんだ。

 ただ暗く重いだけの常闇ではなく、晦冥たる夜闇の中にも光る星があるように黒く輝く夜の色。


 なんなら本当にそういう設定も良き。

 夜という概念が人型を取った姿……みたいな?


 人間が昼の世界の覇者なら、夜は怪物の世界。生命や繁栄が『日』なら、『夜』は死や破滅を司る。

 この少女はそんな夜の化身てきな、てきな?

 だけど冷徹なだけじゃない。星明りが夜を照らすように、あるいは闇夜に月虹が架かるように冷たいながら救いもある存在。それがこの子なのだ。


 酒が回ってきたのか昂る妄想。

 ……ちょっと中二が過ぎるが可愛いければ万事おーけー。


 さて、ついにキャラ作成完了。

 モニターには15才ほどの黒髪少女が映っている。はいカワイイ。


「でもちょっと無表情なのがこわい……」


 ビールを一口。

 たぶん俺、現実世界でこの子と対面したら、目を合わせられんわ……。


 ここまでの設定と矛盾するが、なんというか瞳に優しさが無い。

 生物が持っているはずの心や情など温かみが一切無い表情をしている。ただ無機質でガラス玉みたいな透き通った目。

 

「んー、まあいいか」


 それもそれで、キャラとしてありだ。

 夜のバケモノとして生まれたため愛も情も知らず凍ったままの美少女。


 だがそれは愛を知らなかっただけ。

 周囲を欠片も信用せず一人で生きていく覚悟を持っていた子が、主人公に絆され溶かされていく。少しずつ仲良くなって、そして恋仲へ。


 すごい! ありきたりな設定! でもカワイイやったー!


 この物語の主題は夜の化身を絆すか、それとも人類の破滅かってとこだろう。

 迫りくる夜の脅威から人間種を守るのは主人公(キミ)の手に掛かっている! 人類存亡をかけた勇者君の全力アプローチがいま始まる!


 ……なんで俺はヒロインを作成してるん?

 まあ野郎なんか作りたくないから仕方ないね。


「んで、終了ボタンはどこ……?」


 ビールを一口。するめが旨い。


 その瞬間なにか声が聞こえた。



 ――キャラメイク終了の意志を確認。同意書確認、資格適合クリア。

 ――サブ設定、「夜を閉じ込めた黒」と「凍った人格」を適用します。


 ――残ポイント判定。失敗。ポイントが不足しています。

 ――凍った人格によるデメリット補正を加味し再計算……成功。


 ――それでは、良い世界を



「へぁ?」


【夜を閉じ込めた黒】

世界の半分を押し固めた存在。それは強さ弱さの範疇でなく概念の存在。

明けない夜は無いが、暮れぬ日もまた存在しない。夜は必ずやってくる。


【凍った人格】

コミュニケーション能力および感情表出、人間関係に多大なマイナス補正

キャラメイクは肉体影響が大きいので、懐疑心や疑心暗鬼などの精神補正はあんまりない。つまり凄いコミュ障と化す。

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[気になる点] >>ははーん、さては夢だな? しつこい!
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