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3話 優等生の覚醒

「皆さん、私をなんでも出来て、誰にでも優しいと思っているんです……」


生徒会長という立場故か、理事長の孫娘という身分か、元来の性格か、会長は聖女と言われるほど、学園内の『優等生』として相応しい振る舞いをしている。誰にでも優しく、成績は優秀、運動神経は抜群で、非の打ち所がない完璧な人。それが生徒達が会長に抱く印象。


「そんなことないのに……。

苦手なものも、苦手な人もいて……それなのに、否定したり、断ったり、何も言えない自分がいて――本当の私は誰にも分かってもらえなくて」


それが露出の原因だったんだ。

本当の自分を見てもらいたい、という抑制された願望が、裸の自分を見せるという形で表面化してしまい、それに快楽を覚えるようになってしまった。

誰にも言えなかった悩み・コンプレックスは水風船の様に膨らみ続け、それは些細なことで破裂する。思春期なら、誰にでも大なり小なりあることかもしれない。


「最初は偶然でした」


大体数ヶ月前、会長が1年生の頃の話。

ちなみに会長は1年生の時から生徒会長である。


「最後の授業が体育の日、片付けを手伝っていて遅くなってしまったので体操着のまま生徒会室に向かいました。到着すると生徒会室には誰もいなかったので、丁度いいと思って着替えを始めたんです」


真面目な会長は生徒会活動に遅れてしまったことが申し訳なくて、着替えもせずに生徒会室へ向かったものの、やっぱり運動をした後の体操着のままというのは女子としては気になるところ。いないのならばと、着替えをすることにしたらしい。

更衣室は体育の授業が終わった後施錠されてしまうため、着替えの制服は持ってきていたとのこと。


「すると、下着姿になったところで副会長の薫が入ってきてしまったんですね。

そのまま堂々としていれば良かったのに、なんだかいけないことをしている気がして咄嗟に隠れてしまったんです。カバンがテーブルに置いてあったからか、薫は私を探している様子で、それを、出るに出れずに、下着姿で隠れて息を潜めているのが、その、すごくドキドキして……とても興奮したんです」


遅れて来ておいて着替えをしているという罪悪感、更衣室でもないのに着替えをしていて、はしたないという羞恥心。

それが、親友であり生徒会副会長の二階堂 薫(にかいどう かおる)から、身を隠すという行動に繋がり、一度隠れてしまえば出るに出られないのが心情。息を潜めた会長は、そのドキドキにハマってしまった。


「それから私はそういった行為に及ぶようになりました。初めは少しスカートの丈を短くするとか、そういう些細な、小さなことで満足していたのですが……」


「段々、満足できなくなってしまった」


「……はい。そこからどんどんエスカレートしていって、自分でも止められなくなり、やがて――」


「用務員に撮られてしまった、と」


会長がどんな行為に及んでいたのかは、完全にR18な、あんなことそんなこと、つまりは、色々履かない・着けないで学校生活をしてみたり、そもそも何も身に着けずに校内を巡回したり、と露出狂間違いなしなハイパー変態行為である。


まあ、あれだけ怖い目にあったのだ。これで流石に会長のその癖も収まるだろう。

今後は今までの行動を反省し、何か別の方法でストレスを発散するしかない。ゲームとか貸してみようか。偏見というかイメージだけどもあまりやったことなさそうだし。


「私、おかしいのでしょうか……」


「まあ、普通ではないでしょうね」


会長の呟きに正直に答える。一応、直球で「はい、おかしいです」と答えなかっただけ優しさだと思って頂きたい。


「ええ!?そこは励ましの言葉をかけるべきなのでは!?」


「いや、露出狂の変態を普通とは流石に」

 

涙目で驚愕している会長であるが、ここで甘やかしてはいけない。折角用務員から救ったのに、また露出されてはたまったものではないからね。

そんなぼくの厳しくも論理的な愛の鞭だったわけだけど、自分から訊いておいて、お気に召す回答ではなかったのかぷりぷりと怒り出す。


「貴方、さてはモテませんね!?」


励まし・慰めをご所望だったらしい会長の鋭利な言葉のナイフが突き刺さる。酷いことを言われた。けど、その通り過ぎるので反論は出来ず。バレンタインのチョコレートってあれ、都市伝説ですから。何なら無理矢理姉さんにチョコ渡されて、ホワイトデーに散々巻き上げられるわけで、言うならば、カツアゲ準備デーだから。


「顔みたら分かりません?」


「わ、私は……別に、その……良いと、思いますよ?」


「わー、うれしー(棒)」


冗談混じりに言ったのだが、会長はやや俯いてぼしょぼしょと答える。そういう反応、逆につらい。

性癖以外は聖女な会長のお世辞を真に受ける程、ぼくは自意識過剰ではない。

童顔、低身長のフツメンってどこにも需要ないからね。

一応の感想を伝えると、会長はぼくの明らかな棒反応にぷくっと頬を膨らませて、本当なのにっ、とプンプンだ。


そんな感じで会長に案内されるまま歩いていると。


「あ、ここです」


もう随分前からこの馬鹿デカイ豪邸が目に入っていたのだが、やはりここが、神宮寺邸らしい。

白を基調とした、デザイン性の高い角ばった豪邸は、家というより、城とか要塞とか、そんな雰囲気がある。ただ、ここは正面玄関の真裏で入り口のようなものは見当たらない。


「こっそり抜け出してきたのでここから帰るんです」


なんでも、ここだけがセンサーが作動しないらしく壁を乗り越えても警備にバレないのだとか。いや、気がついているのなら直そうよ!


「そしたら抜け出せなくなってしまうではないですか」


こういう抜け穴がエロゲー界では悲劇のタネになるんですがねぇ!

この言い草では、何度も抜け出している様だし、聖女とか言われている割に、意外とお転婆な面もあるらしい。


「今日は本当にありがとうございました。また後日、正式にお礼をさせて下さい」


「お礼なんて良いですよ。たまたま通り掛かっただけなんですから」


「だからこそ感謝しているのです。

貴方は義務でも仕事でもなく、ただ通り掛かっただけなのに私を助けてくれた。中々出来ることではありません」


ただ通り掛かっただけ、というのは確かだが、そこに義務感や使命感が無かったか、といえば嘘になる。


ぼくだけが知っている世界の真実。これから起こるであろう彼女の悲劇。


それを無視するなんて、ぼくでなくてもある程度の良心があればしないはずだ。


黙り込むぼくに、会長は下から見上げるように、ぐいっと顔を近づける。


「ですから、貴方は胸を張って私の感謝を受け取って下さい」


コツンっと胸を軽くその白くて小さな拳で小突かれる。

やや赤くなった会長の顔がくるっとひるがえるようにして離れる。


「では、おやすみなさい」



会長は、そのまま振り返ることなく、普段のどちらかというとおっとりした印象とは裏腹に、軽やかで俊敏な動きで壁を乗り越え、帰っていった。スタントマン顔負けである。

そういえばあの人、運動神経抜群だった。露出性癖がなければ、本当に有能な人なのである。


だから――彼女のきっと輝かしいのであろう未来を守れたということは、素直に誇ることにしよう。


感謝されるのはこそばゆいけど、せめて、胸を張って誇る。そうしなければ会長に失礼な気がした。


はぁ、何はともあれ、ぼくがエロゲーの世界に転生していると分かったものの、用務員が捕まった時点でゲームのシナリオは崩壊。ゲームとしてはエンディングを迎えている。


もうゲームの世界とかそんなことは関係ないし、ぼくも明日からいつもの日常に戻るのだろう。


とはいえ、世界がどうとか、そんなことより、今大事なことは。



「姉さん、絶対怒ってるよなぁ」



ぼくの命が危ない、ということだ。

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