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2話 転生損

エロゲーの世界において、用務員は今時の小学生にとってのYouTuberくらい人気の花形職業だ。

その理由は、その職業の舞台装置としての優秀さにある。

学生と接点を持ちやすく、学校内を時間に縛られず行動でき、どの場所にいても怪しまれず――と、どんなエロシーンにも繋げやすい稀有な職業なのだ。

学校内の様々な施設の鍵を持っていたり、夜中に学校を利用しても不自然でないなど、他にも利点は多く、その使い勝手の良さ、シチュエーションの生みやすさはダントツだろう。


全国の至って真面目な用務員さん方には申し訳ないが、R18業界においては用務員というのはえっちな職業なのである(偏見)。 


つまり、その用務員が夜中に女生徒と一緒にいる状況は、もうR18展開スタート間違いなしな訳で、反射的に殴ってしまったけど問題ないと思われる。


さて、こんなに言っておいてなんだけど、ぼくは別にエロゲーに詳しいわけではない。友人にすすめられて何作かプレイしたくらいなもので、ぼくは生粋のアニオタなのである。


だからこそ思う。なんでエロゲーなんだよ!と。


転生したいアニメいっぱいあったよ!?好きなヒロインだって沢山いる!なのに、なんで、大してやったこともないエロゲーの世界なんですかね!

友達に滅茶苦茶おすすめだからと押し付けられてプレイしたものの、いきなりバッドエンドで鬱になって投げ出したゲームなんですが!ヒロイン全員酷い目に遭う悲惨な展開だったために覚えていただけなんですが!?


転生できるならさ!

ファンタジーの世界で無双したり!SFの世界でチートしたり!異能バトルで俺Tueeeしたり!そういうのだろ!なんだよエロゲーの世界って!しかも良く知らないゲームだし!


そ・れ・に!


ぼくは!清楚なヒロインしか認めないんだよ!!このゲームのヒロイン、全員変態じゃん!文字通りR18級の変態達じゃん!こんなの転生損だよっ!前世の記憶がないままの方が良かったよ!


「あ、あの……」


ぼくが自らの状況と境遇を嘆いていると、困惑した様子の会長が近づいてきた。

ぼくが一方的に知っているだけで、勿論会長はぼくのことなんて知らないだろうから、会長視点では通り掛かった謎の男が、用務員を殴り倒した上にブツブツ何やら呟いているという、とんでもないカオスな状況というわけだ。正直、前世の記憶が蘇ったものの転生先がエロゲーの世界で絶望している、という状況のぼくの方がカオスといえばカオスだけど、何の説明もしないままでは、通りかかっただけで男をぶん殴った超ヤバい奴になってしまう。


「ぼくは貴女と同じ高校の生徒で、1年の綾辻真白(あやつじましろ)って言います。……その、会話が聞こえてしまって、会長が脅されている様だったので咄嗟に殴ってしまいました。まずかったでしょうか?」


まずはぼくの素性を知り安堵するが、それと同時に、会話が聞こえてしまって、のところで自らの行為がぼくにバレてしまっていることを悟り、顔を真っ赤にして、それでもぼくの問にはなんとか答えようとしたのか、フルフルと首を横に振った。

まあ、実際には殆ど話は聞こえていなかったのだが、ぼくは前世の記憶から彼女が何をしでかして用務員に脅されていたのかを知っているので、知られている、という点では一緒なので慰めにはならない。


で、彼女のやらかしたこと、というのが……露出である。自ら裸体を晒して楽しむという、ハイパー変態行為であるが、それを校内で実行し、用務員にその姿を撮影されてしまったことで脅されていたというわけだ。用務員の趣味は盗撮で、校内に隠しカメラを仕掛けているという設定だったはずなので、それで撮られたのだろう。

その写真をダシに、学園の理事長の孫娘が校内で露出なんてことになったらお前もお前の家族も終わりだな、とかなんとか、そんな感じで脅していたはず。


ぼくは1ルートしかプレイしていないけど、彼女は所謂メインヒロインという扱いなのか、選択肢が出てくる前に用務員に脅されてR18展開に移行したから、どのルートでも必ずそうなるのであろう、ある意味可哀想なキャラ。メインヒロイン故に、詳細な描写があったから、その程度の概要は知っていた。


「じゃあ、用務員さんは神宮寺家で適切に対処するということで」


「はい、学園の職員が逮捕となると良くないので一先ず内々に処理した後で、どうするか決定をすると思います……」



会長が落ち着くのを待ち、一先ず状況を整理する。

この状況をどうしようか話し合ってみると、この用務員の処遇について内々に処理、とか怖そうなことをさらっと言う会長。この用務員がどうなるのかは、聞かない方が良さそうだ。知らない方が良いことって世の中にはあると思います。例えばこの世界の真実(R18エロゲーの世界)とか、会長の性癖(露出狂)とかね!


「まあ、とにかく、これに懲りたら、その、露出とかするのは止めて下さい」


「あぅ……」


湯気が出そうなくらい、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯く会長。後輩に性癖晒されて、それを諭されるというのはとんでもない黒歴史だろう。とはいえ、黒歴史どころの騒ぎじゃないことになるところだったのだから、このくらいは代償として胸に刻んで欲しい。


「今回は何とかなりましたけど、こんなこと続けてたらこういうことはいくらでもありますからね」


「ご、ごめんなさい……」


シュン、として謝る会長に思わず慰めそうになったが、ここはしっかり反省してもらわないと。そもそもの原因は会長の露出性癖にあるわけで、このまま続けてたら用務員ではない誰かに同じような状況に追い込まれる可能性も全然ある。

そういう破滅願望的なリスクを犯しているドキドキが堪らないのかもしれないが。


「さて、いつまでもこんなところにいてもですね。送りますから、帰りましょう」


会長がどこかに連絡すると、何やら清掃員のような格好をした人達が気絶した用務員を車に詰め込んでどこかに連れて行ってしまったためここにいる意味はもうない。これから内々に処理(意味深)されるのだろうが、もうぼくは知らん。だって怖いもの。


怖いといえばスマフォの着信履歴もだ。

ポテチが届かないからか、姉から鬼電が入っている。こちとらアニメのリアル視聴を諦めてやってるんだ。ポテチごときで構っていられるか!

姉の電話を無視してスマフォの電源切ると、会長と一緒に歩き出す。


さっき呼び出した人達に車で送ってもらえばと思ったが、なんでも会長はこっそり家を抜け出してきていたらしくバレないように帰りたいのだそうだ。道理で、呼び出した人達が来ても、こそこそ隠れていたわけだ。どういう言い訳をして呼び出したのかは知らないが、今、会長は家にいることになっている。このまま歩いて帰るしかなさそうだ。


あんなことがあった後だからか、会長はぼくの服の袖をぎゅっと片手で握っていた。


それを特に指摘せず、暫く無言で歩き続けていると、会長は沈黙に耐えかねたのか、ポツリポツリと話し始めた。



会長が露出という凶行に及んでいた、その理由を。

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