表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

16話 ランチタイム

高評価・ブックマーク・感想、ありがとうございます!

白く無機質なタイルと温かみのあるレンガを組み合わせた外観から抱くイメージを裏切らない、フルフラットカウンターキッチンが特徴的な洋食レストラン。鹿の頭とか飾ってあるし、木の家具で纏められたアンティークな雰囲気も良い。

そのオシャレが過ぎるレストランにて、ぼくらは四人で(・・・)席に着いた。

席順は、ぼくの隣に副会長、対面に要、その隣に聖歌さんという変則的な組み合わせとなっている。ぼくと副会長が二人共左利きだから気を使ったのかもしれない。


さて、聖歌さんがぼくとのデートのためにお店を予約していたことから、四人で食事をすることが困難となりかけていたぼくらであったけど、それは些細な奇跡で解決することができた。


「偶然とはいえ良かったな、まさか聖歌が予約していたレストランと同じ場所を要も予約していたとは」


「いやー、本当偶然(・・)ですねぇ」


流石は従姉弟同士と言うべきか趣味趣向が似ているのだろう。なんと要は、聖歌さんが予約したレストランと同じ店を殆ど同じ時間に予約していたというのだから驚きだ。どうやら要は自分の商品の売行きを確認したら、暇そうな友人を探してここで食事しようと考えていたらしい。

お店を予約してから暇な友達を探すとか友達が多い陽キャにしか出来ない奥義でしょ。ぼくなんか歌成に断られたら詰みである。まあ、そんな状況ないとは思うけど、もしそうなったら今後は要に頼るしかあるまい。


「私はオムライスだな」


「あ、ぼくもそれです」


メニュー表を開くとどれも魅力的な料理ばかりで迷ってしまうがぼくの興味はページの最初にあったオムライスに引き込まれた。デミグラスソースにふわふわのオムライスが浮かぶその写真があまりに美味しそうで、見た瞬間にもうぼくの口はオムライスを求めてしまっていたくらいだ。


ぼくが副会長に便乗する形で注文を決めると、何故か控えめに微笑む聖歌さん。


「ふふ、薫は必ずオムライスを選ぶと思っていましたよ」


「むっ、どうしてだ?」


「だって、外食する時は必ず卵料理を注文するじゃない」


「そ、そうか?」


無意識だったのか、聖歌さんに指摘されて恥ずかしそうにする副会長。食べ物の好みに恥ずかしいも何もない気がするけど、自分の無意識な行動を指摘されたりすると何となく気恥ずかしいものだ。


「考えてみれば昔からそうかもしれない……」


「あーあ、これから副会長が卵料理食べてるの見ただけで笑っちゃいますよ、ボク」


「ごめんなさい、私はどうにか堪えますから」


「私はもう金輪際お前達の前で卵料理は食べないからなっ!」


どうも要はイタズラ好きというか、人をからかうのが好きなようで、副会長も果敢に弄っていく。それに聖歌さんも便乗するものだから副会長は完全に拗ねてしまった。

この人、一見クールで堅そうなイメージだけど、実際接してみると感情豊かで子供っぽささえ感じる。イメージより親しみやすいという良い意味での感想だけど、本人にバレたら怒られそうなので口には出さない。豊かな感情の『怒』しかぼくは向けられてませんからねっ!


聖歌さんは副会長を宥めつつ、自身はビーフシチューに決め、要も同じものを頼むことにした。やはりこの二人相性バッチリだな。


「それでは頂きましょうか」


料理はそれ程待たずに運ばれてきて、それぞれの前で美味しそうな香りを放っている。出来立ての温かい内に口に運びたいが、その前にどうして聞いておかねばならない事象が生じていた。


「あの聖歌さん、配膳してくれたのが明らかにこの店のオーナーシェフだったんですが……」


服装や貫禄もそうだけど、そもそも名札にオーナーシェフって書いてあるから!普通、オーナーシェフって配膳しますかね?ウエイトレスさんも普通にいるし、このランチ時で忙しい時間に!というか、まだ物陰からこっちを窺ってるし!


「私の名前で予約してしまいましたからね」


ぼくの疑問に聖歌さんが苦笑い気味に答えた。どうやらぼくは、『神宮寺聖歌』がただの露出狂ではなく、表面上完全無欠のお嬢様であることを正しく認識できていなかったらしい。


「ここのオーナーシェフは元々我が家に出入りしていた料理人なんですよ。ですから開店時から、それなりに援助をしておりまして」


「土地・建物・仕入先・従業員を斡旋して開業資金の大部分を援助したのがそれなり(・・・・)ならそうだろうな」


呆れたように副会長が補足した通り、『それなり』どころの話ではなかった。何から何まで援助してるじゃないですか。

それじゃあ、シェフからして見ればお店の実権は完全に神宮寺家に握られているようなものなわけで、その娘が来店するとなればそりゃ滅茶苦茶気になりますよね!


「それもあるが……そもそも、ここのオーナーシェフは聖歌の信奉者だ。自らが作ったものを聖歌に配膳することさえ、栄誉と考えているんだ」


なんだかもう聖歌さんが露出狂になっても仕方ないんじゃないかと一瞬思ってしまうくらいビビった。聖歌さんの周囲には本当に聖歌さんを神か何かだと思っている人達ばかりだったのだろう。自分の一挙手一投足が与える影響の大きさが計り知れないと知った聖歌さんが、自身を『聖女』として相応しくあろうと抑制して押し殺してしまったのも無理はない。

とはいえ、露出は本当に良くないので何とかして止めさせなくては。

今後のことを考えると頭を抱えたくなるが、それはそうと食事が冷めてしまっては作ってくれた方に申し訳ない。ぼくらは会話を打ち切ってそれぞれが食事に意識を向けた。


「うわ、美味しい」


「そうでしょう?彼は神宮寺家を去った後、帰国するまでの間、海外の超一流レストランで腕を振るっていたんですから」


誇らしげな聖歌さんであるが、なんでも話を聞いてみるとこの店に出資したのは聖歌さんらしいのだ。

普通の高校生には考えられない話ではあるが、聖歌さんには神宮寺家が有する莫大な資産の一部を運用できる権限があり、こうして飲食店や企業に出資をすることがあるらしい。

聖歌さん曰く、趣味として気に入ったお店・企業や人を支援しているだけなので利益は『それなり』です、とのことだけど、聖歌さんの『それなり』がぶっ壊れていることは立証済み。怖くて具体的な金額は聞かなかった。

副会長も聞かない方がいいぞ、とその表情が語っていたし、たぶん、世間一般の思う『それなり』ではないんだろうなぁ。


「家は和食ばかりでな、こうした食事は滅多に出ないから子供の頃は憧れてすらいたよ」


「二階堂家は特に『和』を重じていますからね。お家も立派な日本家屋で、綺麗な庭園はそこらの観光地よりも壮観ですよ」


美味しい食事にすっかり機嫌を直した様子の副会長が冗談めいた口調で言うと、先程、聖歌さんの話に副会長が補足したように、今度は聖歌さんがその話に情報を加える。親友同士、お互いのことは知り尽くしてるって感じだ。


「ただ古くて広いだけだ。不便なことの方が多い」


古き良きって感じなんだろうけど、実際住んでいるのは現代人なわけで、今の文化に慣れ親しんだ若者にとっては不便さの方が上回ってしまうものなのかもしれない。

子供の頃に行って以来、もう何年も行っていないけど、祖父母の家が伝統ある日本家屋だったからその不便さはちょっと分かるな。エアコンがついてなかったり、階段が急だったり、意外と困ることが多い。


「ではここは私が」


談笑を交えながら、四人とも美味しく料理を完食したところで、聖歌さんがお会計に動き出した。追従するように副会長も席を立つ。


「悪いな、後輩だけじゃなく私の分まで」


「いえいえ、今度は薫のおすすめ店に連れていって下さいね」


お会計は聖歌さんが全て出してくれることとなった。

名目上とはいえデートということになっていたんだから男として出しておきたいところではあったのだけど、経済力で完全に負けている上に、レジにもオーナーシェフが居座ってチラチラ見ていたので、聖歌さんが払う流れになるのは当然でしかなかった。

聞けばオーナーシェフは聖歌さんが幼少の頃に神宮寺家に勤めていたとかで、筋金入りの聖歌さん信奉者らしい。ぼくらが来店して以来、配膳からお会計まで全部自分でやってるっぽいし、改めて『神宮寺聖歌』の異常なカリスマ性を見せつけられた。

……こんなの、嘘でもぼくと聖歌さんが付き合ってるなんて情報が出回ったら、ぼくはもう死ぬかもしれない。


「凄いよね、会長。大の大人が神様みたいに崇拝しているんだから」


聖歌さんが支払っている間、席で待っていると要がその様子を眺めながら声をかけてくる。

従姉弟ならばこんな様子を何度も見てきたのかもしれないけど、その要の瞳にはオーナーシェフと同じような『神宮寺聖歌』を神聖視するような色を感じる。崇拝、というわけではなさそうだけど『神宮寺聖歌』を特別だと思っていることは間違いなさそうだ。


「もしかして、引いちゃった?」


「――引かないよ。誰かが聖歌さんを神だと崇めても、ぼくにとっては、ぼくの知ってる聖歌さんが『神宮寺聖歌』だから」


まだまだ話すようになって数日だけど、ぼくは聖歌さんの色んなことを知っている。

それはたぶん、オーナーシェフや要が知っている『神宮寺聖歌』とは違うと思うし、学園の皆が思い浮かべる、文武両道、容姿端麗、羞花閉月の優等生、学園の生徒会長である『聖女』とも違うと思う。


文武両道だけど、それをこっそり家を抜け出すためや、早着替えのために使ったり。

容姿端麗・羞花閉月だけど、露出に目覚めて盗撮されて、なんか興奮して僕の目の前で脱ぎ出したり。

優等生だけど、親友にも平気で嘘ついて、ぼくの学園生活を終わらせようとしてきたり。


意外とお転婆で、我儘で、悪戯好き……後、露出狂。

それがぼくの知る聖歌さんで、そんな聖歌さんだから、ぼくはこれからも仲良くしたいと思うし、露出を止めさせて、真っ当な清楚ヒロインとして幸せになってもらいたいと願うんだ。


「ぼくが好きな『神宮寺聖歌』さんは、こうして後輩にご飯を奢ってくれる素敵な先輩、なんだよ」


要や学園の皆も、もっと聖歌さんの本当に良い所を見て欲しい。聖女だなんだと、聖歌さんの努力を、優しさを、正しさを、当たり前だなんて思ってほしくはない。



「ん、どうした聖歌?顔が真っ赤だぞ?」


「ひゃっ、えっ、いえ!問題ないですよ!?ええ、問題ないです!」


「いや、問題ないようには見えないが!?」


なんだか急に聖歌さん達の方が騒がしくなったから、そちらに気を移そうとすると、要がズイッと近づいてきて、思わず一歩下がってしまった。

えっ、なんか凄い迫力を感じるんですが……。


「…………会長のことが好きなの?」


ややビビりながら構えていたけど、聞かれたのはそんなことで。ああ、確かに誤解を招いてしまう言い方だったかもしれない。


「あ、要も副会長も同じくらい(・・・・・)好きだよ?副会長とか最初怖かったけどさ」


危ないところだった。

ぼくの言い方じゃ、要や副会長は好きじゃない、みたいな感じに受け取られてしまう。ぼくのコミュ障な部分が出てしまったが、何とかカバー出来たので及第点だろう。これはもう『言葉選びが時折致命的に最悪』という汚名も返上だな。歌成に叩き返してやる。


「同じくらい?」


キョトンとする要に、分かりやすいように少し言い直してみる。


「うん、今日一緒に過ごしてみて、聖歌さんも副会長も要も、同じくらい好きになったよ」


食事しながら話している内に、副会長は友達思いで、何なら聖歌さんよりも真面目で律儀な性格なんだと理解した。副会長の方もぼくへの攻撃的な意図は無くなってきたし中々打ち解けられたと思うんだよね。


「…………」


「お、おーい聖歌?急に静かになってどうした?て、手に持ってるイヤフォンが粉々になっているぞぉ?」


またも騒がしさが伝わってくるが、今は要に伝えることが最優先だ。実は今日一番嬉しかったのは要と仲良くなれたことなんだよね。

クラスに友達のいないぼくにとっては、クラスメイトの男友達は憧れだったし、要は凄く良いやつで話しやすい。ぼくと会話のテンポが凄く合うのだ。まるで慣れ親しんだ親友の様に上手く噛み合う。


「要はぼくが高校生になって始めての友達だよ。

今度ぼくの友達に、学校外の友達なんだけど自慢してもいいかな。あいつ、強がってるけど、口悪いし、我儘だし、傲慢だから、ぼくしか友達いないからさ、ちょっと悔しがらせてやりたいんだよ。もし、泣いちゃったら謝るけどさ!」


ぼくは歌成の良い所を沢山知っているけど、あの尖りまくった性格で友達なんてぼく以上に作れないと思うんだよね。よって、要という友達が出来た今、ぼくは友達作りにおいて歌成より優位に立ったわけで、これはもう自慢するしかない。

毎度毎度やられっぱなしだから、たまにはこっちがからかってやらないとねぇ!


ぼくが親友の悔しがる姿を思い浮かべ、僅かばかりの愉悦に浸っていると、急に複数方向から寒気を感じた。その一つは目の前、いつの間にかさらに距離を詰めてきていた要から感じられて……。


「はぁ……なるほどね。――あ、それはそうと殴っていい?」


「良いわけないよねっ!?」


今のどこに殴られる要素が!?冗談かと思えば目が笑っていない本気中の本気だ。

助けを求めるようにお会計を終えた聖歌さんの方を見ると、聖母のような微笑みを返してくれて――


「真白君こっちへ来てください。ちょっと引っ叩かせてもらうので」


「嫌ですよ!?えっ、なんでぼく唐突に同級生と先輩にボコられそうになっているんですか!?」


この従姉弟、沸点が分からないよ!

ご覧頂きありがとうございます。


高評価・感想・ブックマーク、作者のモチベーションになりますので、よろしければお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ