14話 豹変
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生徒会役員は基本的に定員5名と決められているらしい。
ぼくは最初のルートでそうそうにバッドエンドとなり心が折れてしまい、全ルートをプレイしたわけではないが、ぼくがプレイしたルートにおいて登場した生徒会役員は3名であったため、その3人以外の生徒会役員がいるという可能性については認識の外に吹っ飛んでいたのだ。
そりゃゲームじゃないんだから、ヒロイン以外も定員通りの人数が生徒会にいて当然。その中に男がいても全くおかしくはない。
15年もこの世界で生きてきたから、前世の記憶が蘇ったところで、現実とゲームの混同はしていないと思っていたけど細かなところではやっぱりちょっと影響はあるな。
「生徒会で男ってボクだけだし、去年も役員は全員女子だったから結構話題になってたのに、知らなかったの?」
「知りませんでした」
「なんで敬語?同級生なんだからタメ口でいいよ!それからボクのことは要って名前でよろしくね?」
陽キャ固有奥義である縮地ばりの距離詰めに、愛想笑いを浮かべながら頷くしかない哀れなぼく。なんでこんなにほぼ話したことないクラスメイトにぐいぐい来れるんだ。
まあ来てもらわないと話しづらいのでぼくとしては有り難くはあるけど。
「生徒の代表である生徒会としては男女比は半々が良いのだろうが、聖歌を崇拝する生徒もいるからな、基本的に女子生徒で固めているわけだが、要は例外だ」
そういえば、男、それもこんなイケメンが生徒会に入るだなんて、あの校内で一大勢力を築いているらしい『神宮寺聖歌』崇拝者達が黙っていなそうなものだ。実際、そういった輩がいるから聖歌さんは必要以上に他人と仲良くしないようにしていたみたいだし。
その疑問の答えは至極シンプルで簡単だった。
「何せ要は、聖歌の従姉弟、身内だからな」
そりゃイケメンなわけである。
男版聖歌さんみたいと感じたぼくの感性も強ち間違いではなかったわけだ。微笑んだ感じとか特に良く似てると思う。
「生徒会役員の選定は生徒会長に委ねられていますから、私が任命しました」
生徒会長は生徒による投票で決定することは知っていたけど、その他の役員は生徒会長が決定するのか。
理事長の孫である聖歌さんが生徒会長だから、というわけではなく、そもそもぼくらの高校は生徒会に委ねられる権限が大きい。ゲームの設定を引き継いでいるからか、その辺は問題になっていない様だけど、とても一学生に与えられていいようなものじゃないんだよね。
例えば生徒会で催しを行う場合、自由に動かせる予算の桁が違う。数百万円単位の金銭を生徒会の裁量で動かせるらしいのだから。
だから聖歌さんも生徒会役員の選定にはかなり気を使ったはず。
それだけの権力を持つ生徒会だから、その役員になることはとても名誉なことで大学進学に有利になったり、そもそも無条件で大学側がスカウトしたりするくらい。学生にとってこれからの将来に大きなアドバンテージとなる。
一高校の生徒会役員としては多大な恩恵ではあるけど、そこはゲームの設定があるから間違いない。
ただでさえ『聖女』に近い立場になれるポジションなのに、それだけの恩恵があるなら皆が入りたいと思うのが心情。身内なら信頼もできるし、『聖女の従兄弟』ということなら批判も出ない。
要が選ばれるのは必然だったのだろう。
「お店に用事があるのですよね?」
要の紹介は一通り済んだと判断したのか、聖歌さんが首を傾げて訊ねる。
そういえば、お店がどうとか言っていたな。
「はい、今週発売した自分の商品の売れ行きが気になっちゃって」
要が答えてくれたが、ぼくのハテナは何も解決しない。言葉の意味は分かるけど、高校生が言うような台詞でしたかね?
混乱するぼくの様子を察してか、要はぼくに向けて丁寧に説明を開始する。
「元々女子向けのファッションブランドである『ダイヤモンドメイデン』が、男性向けに新しく立ち上げたブランド、『ブランシール』で、デザイナーをやっているんだよ」
高校生にしてファッションデザイナーって、どれだけオシャレが溢れればそんなことになるのだろうか。世界が違い過ぎて言葉も出ない。
そんな唖然としたぼくの様子に、要は苦笑いを浮かべると、そのからくりを話してくれた。
「『ダイヤモンドメイデン』は父のブランドなんだ。『ブランシール』は若年層を狙うために若い新人デザイナーを多く起用していて、ボクもその一人ってわけ」
新人を積極的に採用することで、優秀なデザイナーの卵が集まりやすくなる上に、コスト的にも抑えられる、という戦略で動いているらしく、要もデザイナーとして登録しているのだとか。
『ダイヤモンドメイデン』は多少オシャレに興味があれば誰でも知っているようなハイブランドらしく、その肝煎りとあって『ブランシール』は順調に業績を伸ばしているとのこと。
『ダイヤモンドメイデン』が元々女子向けのブランドとあって、『ブランシール』の名が女子たちにも知れ渡っており、おしゃれをアピールしたい男子にとって格好のブランドというわけだ。
たまにしか採用されないから発売する度にドキドキして見に行っちゃうんだ、と語る要ではあるが、たまにでもなんでも、プロに混じって商品として世に出るものをデザインするなんてすごいことだと思う。それをひけらかさないで恥ずかしそうに話すのが、たぶん人柄の良さなのだろう。
「あ、ここです」
4人で、ぼく以外の3人の途轍もない顔面偏差値によって、男女問わず視線を集めながら歩くこと数分。駅前の一等地に建てられたその店には確かに『ブランシール』とオシャレな字体で書かれた看板がある。
「あれ?このブランド……」
要が立ち寄ったのは、つい昨日、歌成と一緒に買い物をしたファッションブランドの専門店だった。まさかここが『ブランシール』だったとは。聞き流していてブランド名を覚えていなかったから思いもしなかった。歌成に聞き流していたことがバレると面倒なので今度は覚えておこう。あいつ、そういうとこねちっこくて機嫌悪くなるから気をつけないと。
高校生の間で人気のブランドだというのは歌成が言っていた通りで、店内は今日も盛況だ。それ故に、店へ入ってきた顔面偏差値が暴力的に高い3人に集まる視線も相応に多い。止めろ、不思議そうにぼくを見るな。
こうなるのが分かっていたから、ぼくはなるべく他人に思われるようにこそこそ付いていこうとしたのだけど、聖歌さんはぴったりぼくの横にいるし、そんな聖歌さんの横に副会長が、聖歌さんとは反対側のぼくの隣に要がいて、ぼくのステルス機能は完全崩壊している。
副会長はともかく、なんでこの二人はぼくを挟むようにしてポジショニングしてるんだ。軽く公開処刑なんだが。
そんな感じで周囲の視線に刺されながら店内に目を向けていると、ぼくのつぶやきが聞こえてきたのか、要がややテンション高めに話しかけてきた。
「真白君は良く来てくれてるの?」
「ごめん、友達に紹介された店ってだけでそんなに詳しくないんだ」
全身ここで買った服を着ているし、そりゃそう思うだろうけど、これに関しては全くの偶然で、期待するような要の問い掛けにはそう答えるしかなかった。
「やっぱり!全身ボクのデザインした服なのに全然反応ないから不思議だったんだよ」
「ちょっと脱ぐわ」
拗ねたように言う要に、ぼくは条件反射でそう答えていた。
デザインした本人の前で全身コーデしてたとか、恥ずかし過ぎる!ごめんね、ダサく見えたとしても、それは君の服が悪いわけではないからね!?
「えっ脱ぐんですか♡」
「全力で着させて頂きます。最高のデザインだぜ、イエーイ!」
喜色たっぷりに聖歌さんが呟いたのを聞き逃さなかったぼくは、即座にテンションをブチ上げて掌を返す。服って素晴らしい。温かいや。
「君にとても似合っていると思うよ。それを選んだ人はセンスがいいね、君との相性もきっとバッチリさ」
ぐっとサムズアップしてくる要。
デザイナーまでやっている人に似合っていると言われると、お世辞かもしれないけど多少自信になる。これからも服は歌成に選んでもらうことにしよう。
「そうだ、ボクの服を気に入ってくれたなら、新作のサンプル品あげるから、是非着てみてよ」
ぼくがおしゃれ方面は完全に歌成に委ねようと画策していると、要が何やら店の奥からダンボールを持ってきて、中から服を取り出しては並べていく。
見たところ、明らかにおしゃれ上級者にしか着こなせなそうな服ばかりで遠慮願いたいのだが、いつの間にか現れた店のスタッフが、それらの服を要の指示通りに試着室へ次々と運んでいた。はい、着ろってことですね。
こういう強引かつ勝手な振る舞いには、素の聖歌さんに近いものを感じる。それでいて不快感を感じさせずに実行させてしまえるのがカリスマ性というやつなのか。
「あ、店には出さないんだけど、ボクが練習でデザインしたレディース物のサンプル品もあるから、ついでに副会長も試着お願いしますね!」
「わ、私か!?そ、そういうのは聖歌の方が良いだろ」
「私も薫にきっと良く似合うと思いますよ」
ニコニコの聖歌さんに売られ、哀れ店員さんに連れ去られる副会長。それを他人事のように眺めていると、ぼくの両サイドに店員さんが現れる。スルーしてくれるかと思ったけど、無理でしたね。
副会長に続き、ぼくも未知のオシャレ服が用意された更衣室へとブチ込まれてしまったのであった。もうどうとでもなれ。
「さて、これで二人きりになりましけど……なーにか言いたいことがありそうですねー、姉さん」
真白と薫の姿が見えなくなると同時に、要は聖歌にとびきりの笑顔を向けた。対する聖歌はいつもの微笑みを崩さずに、静かに口を開く。
「……そうですね。単刀直入に聞いてしまいますが――目的は何ですか?
アナタが私と楽しくお買い物したい、なんて思うわけもありません」
聖歌の口調には確信と僅かな怒気が含まれており、それに要は意外そうな顔を向けた。
「怖いなぁ。そんなに怒っちゃって珍しい。仲良くしてくださいよ、生徒会長」
「白々しいのは止めましょうか。アナタが私を姉と呼ぶのなら、私もアナタを生徒会書記の金剛要とは思いませんから」
至って事務的に、今度は僅かな怒気もなく答えた聖歌に要は降参とばかりに両手を挙げてにやりっと笑った。
「はぁ……そうですね。休日に姉さんと仲良し小好しでお買い物なんて虫酸が走りますよ。全く以て気持ちが悪い」
「それを聞いて安心しました。相変わらずのようで嬉しいです」
「正気で真剣に根本から、そう思っているであろう貴女が、心底恐ろしくて悍ましいですよ」
明確に敵意を持たれているというのに嬉しそうに笑う聖歌に、要が怯んだ様子を見せた。しかし、要は自分の優位をアピールしたいのか、すぐに言葉を続ける。
「それで、目的でしたっけ?」
要には明確な目的があった。
要が合流したのは偶然でもなんでもない。目的があって、今日3人の元へ――正確には真白の元へやってきたのだ。
薫が来るであろうことは何となく予想が付いていたし、真白と聖歌の合流場所は――真白本人から聞かされていた。
「明解。ボクは親友が悪い女に捕まらないように見守っているだけーーいつも側で、ね」
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