第6話〜帰還・異世界の真実〜
「池の水、元に戻さなきゃね。マナーよ、マナー」
「チッ。雨降りゃ何とかなると思ってたが……」
ミランダは、その小さな腕で×印を作りながら言う。
「ダメよ。マーキュリーさん呼ぶから待ってなさい」
「兄ちゃん、迷惑かけすぎだよ」
「チィッ。まあ、マーキュリーさんなら許してくれるだろうよ」
マーキュリーさんは、5匹組のネコ戦隊〝星光団〟のメンバーで、水属性の忍術を使う〝くの一〟のネコだ。そのチカラで、干上がった池の水を戻してもらうんだ。
ちなみにウチの親分のムーンさんは〝星光団〟のサブリーダーで、闇属性の魔法を使うんだよ。その後ボクも〝星光団〟のメンバーになって、いくつもの悪の組織と戦ったんだよな。
ミランダが地面に描いたワープゲートから、マーキュリーさんの影が見えた。
「……ああ、せっかく忍びの里でのんびりしてたのに……。わたしの大切な休みのひと時が……」
マーキュリーさんが姿を現した……泣きながら。——マーキュリーさんは忍術は超強いんだが、とんでもなくネガティブな性格なのが玉に瑕なんだよな。
「すまねえなマーキュリーさん。用件なんだが、あの干上がった池の水を、マーキュリーさんの力で元に戻して欲しいんだ」
「私なんかに、そんな事出来るわけないわ……」
ほら、またネガティブになってやがる……。いつものように、励ましてやらなきゃ。面倒臭え。
ミランダは率先してマーキュリーさんを励ます。
「マーキュリー、やってみなきゃ分かんないじゃない!」
「どーせダメよ。何日も戦いから離れてたんだから……」
「マーキュリーさん、大丈夫だ! 前の戦いで火の海になっちまったニャンバラの街を、マーキュリーさんの力で救ったじゃねえか! その時の事を思い出してくれよ!」
「今はマーキュリーさんの力が必要なんだ! お願い!」
ボクらの必死の励ましが効いたのか、マーキュリーさんはようやくやる気になってくれた。
「そ、そこまで言うなら分かったわ……。水遁の術‼︎」
マーキュリーさんは池の方に向かい、術を展開した。
空から瞬く間に大量の水が降り注ぎ、みるみるうちに池は元の姿を取り戻していった。
「ほらゴマくん! すかさず褒めるのよ!」
ミランダがそう言うので、ボクはマーキュリーさんを褒め称えた。が、上手く言葉が出て来ねえ……。
「や、やれば出来るじゃねえか!」
「兄ちゃん、何で上から目線なのさ」
ルナはポカリとボクをネコパンチする。
……が、それでもマーキュリーさんは喜んでいるようだった。
「や、やった! こんな私でも役に立てたんだね。じゃあ私帰って茶菓子食べるから。……あ、ムーンは元気?」
「ああ、ムーンさんは今も留守さ。あれからずっと、ニャンバラの復興を手伝ってる」
「相変わらず真面目なのね……。それに比べて私なんか……」
「ああ、ダメだ。マーキュリーさん、考えちゃダメだ」
「いいもん、私帰ってぐうたらするから」
マーキュリーさん、前の戦いで少しはポジティブに考えるようになったと思ったんだが、しばらく会わねえうちにまた元に戻っちまっている。ま、三つ子の魂百までって言うしな。
とりあえず池の水も元に戻せたし、ひと安心だ。
「じゃあボクらも帰るとすっか」
「ふー、やれやれ。じゃあゲート出すわね」
灯花に照らされたショーハの池の真上には、見た事もないくらいの満天の星空が広がっていた。
——きっとまた来るからな。この世界ではもっともっといろんな奴に会ってみてえから。
♢
「な、10000年後のチキューだと⁉︎」
住処のガレージに帰ってから、ミランダに聞かされた事実にボクは驚いた。ボクらが行った世界は、遥か未来のチキューだったというのだ。
「そう、人間がほとんど滅びた後よ。……核戦争でね」
「カクセンソウ? 何だそりゃ」
ニンゲンが滅びた? そんなバカな。
それに、戦争って言ったよな。まさか、ニンゲンも地底のネコどもと同じように、互いに武力で侵略や殺し合いをするって事なのかよ……!
「核戦争……。それは核兵器という、人類が開発した最も強力な兵器が使われる戦争ね。核兵器の爆発は一発で都市を壊滅させて、その後何十年も化学物質が残留して地球環境を汚染するの。ここ日本でも過去に2回、核兵器が落とされたのよ。多くの人が亡くなったわ」
「何てこった……。ニンゲンってそこまで恐ろしい奴らだったのかよ……」
まさか、その核兵器……。
あの時、地底国ニャルザルがニャガルタに侵略する時に使おうとした、〝ニャークリアー・ウェポン〟と同じモノじゃねえのか——。
あのプルートのジジイが嘆いてたな。本来は発電などに使う技術が、戦争に使われる事になるなんて、って……。
「核兵器を禁止する国際条約があるものの、今現在も世界に存在する核兵器の数は、10000を超えてるの」
「何だと……⁉︎」
ニンゲンもニャルザルみてえなマネをしちゃいけねえって、前の戦いの後に伝えたばかりなのに。すでにボクらの住む世界が、こんな事になっていただなんて。
「じ、じゃあ絶対ニンゲンはカク戦争とやらでほとんど滅びちまう運命なのか? それにニンゲンが滅びなきゃ、ユーリやシエラも生まれねえって事なのかよ⁉︎」
「……いいえ、違うわ」
何が違うんだ。ボクは頭が激しくこんがらがった。
「ちょっと難しい話になるけど、この世界というのは、人々の意思と行動次第でいくつもの世界線に分かれていくの。だから滅びるかもしれないし、滅びないかもしれない」
「よく分からねえが……。じゃあボクらが行った世界は、そのうちの1つに過ぎねえって事か」
「そう。あたしたちはたまたま、あの世界を引き当てたのよ。だけどメモリーされたのはあの世界だから、次に行くとしても、そこはまた人類が滅びかけた10000年後」
カク戦争が起きてニンゲンがほとんど滅びた世界……。そんな世界には、なって欲しくねえ。だけどユーリやシエラ、そしてあの謎の男に会うには、その世界に行かなきゃいけねえって事だ。
「そんな世界にならねえで欲しいが……そしたらユーリもシエラも始めから生まれねえ事になるかもしれねえのか。ああ、複雑だぜ……」
「分からないわよ。人類が滅びない世界線でも……ゴマくんたちが会った人たちは、生まれてくるかも知れない」
「……そうであって、欲しいよな」
ボクは信じる。戦争なんか起こらねえ世界で、きっとユーリもシエラもあの男も生まれて来るって。
「……ミランダ。テメエのワープゲートは、戦争がなくてニンゲンが滅びねえ世界での10000年後の、ショーハの池近くで、そこにユーリとシエラたちがいる世界を……引き当てられねえ……のか?」
「理論的には不可能じゃないけど、何千億分の1の確率ね」
それでもボクは、今度はその世界でアイツらと会ってみたい。
争いなんか、無い未来で——。
♢
——てな訳で、ボクらは核戦争でニンゲンが滅びかけた10000年後の世界をちょっとばかり、冒険してきたんだ。どうだ、少しはテメエの退屈しのぎにはなったか?
何だと。もっとその世界の話を聞いてみたいってか。
だったら、だな……。
実は——その10000年後の世界で、ボクらが出会ったユーリとシエラの、その後の運命が書かれた物語があるんだ。全部で170話以上もある超大作なんだが、ユーリとシエラのその後が気になるなら、是非読んでみてくれ。
……眠くなってきたぜ。またボクの話が聞きたきゃ、ガレージに来い。
じゃあな。ボクはもう寝る。
(終わり)
読んでいただき、ありがとうございました(*´ω`*)
本編の、中村天人様の作品
ライオット オブ ゲノム 〜孤児でいじめられてた私ですが、どうやら魔女だったようなので、悪いやつをやっつけて国を大改造することにしました〜
のリンクは、活動報告の方に貼付させていただきます(*´ω`*)