第4話〜暁闇の勇者vs盗賊〜
ボクは暁闇の勇者・ゴマに転身した姿を、ユーリとシエラに見せつけた。2人とも、目を丸くしている。
「す、すげー! それ、本物の剣と鎧なんだな! 猫サイズだけど!」
「可愛い! 小さな勇者さんね!」
……可愛いだと? フン、舐めるなよ。
見せてやるぜ、本物の勇者の力‼︎
「これはオモチャじゃないんだぜ。見てろ、ギガ・ダークブレイクッ‼︎」
「やめろ‼︎ 兄ちゃん! バカ!」
「ぐわあッ⁉︎」
ボクはルナに尻尾を噛みつかれ、必殺技ギガ・ダークブレイクを発動する事が出来なかった。
「こんなとこでそれをやると、孤児院が吹っ飛んじゃうよ!」
「ちぇっ。ボクの凄えところを見せてやろうと思ったのに。ま、とにかくボクは、地底にあるネコばっかが住む国と、ボクの住処の近くの林の中にあるネズミの国……2つもの世界を救ったんだ。ボクはみんなのヒーローなんだぜ?」
「ヒ、ヒーロー……!」
シエラが、ボクの話を聞いて目をキラキラ輝かせてやがる。フフフ、ボクの凄さを分かってくれたか。気分がイイぜ。
「自分で言うなよ、兄ちゃん。兄ちゃんだけが世界を救ったんじゃないでしょ。ソールさんたち、ライムさん、ミランダ、それにドラゴンさんたち……みんなで力を合わせて、世界を救ったんだから」
「ま、まあそれもそうだな」
相変わらず、ルナはしっかりとツッコミを入れて来やがる。
「うん……わたし、決めた!」
「決めたって……シエラ、一体何を?」
「……ひみつ!」
シエラはさっきからずっとボクの姿を見て、嬉しそうに目を輝かせてる。ふふん、シエラも、ボクみてえなヒーローに憧れたか? 何を決めたのか知らねえが、まさかコイツも〝世界を救う〟とか思い立っちゃいねえだろうな。ハハハ。
それにしてもシエラの奴、どことなくボクに似ている気がするんだよな。何か思い立ったら、きっと鉄砲玉のように飛び出しちまう——見ててちょっと危なっかしいタイプだ。まあそれはボクも自覚はしてるんだが。だからこそ——ルナみてえなストッパーが、ボクには必要だっんだ。シエラにとっては、ユーリがきっとそうなんだろう。
「ふあ……あーあ」
「ユーリ、お前眠そうだな」
ユーリの奴が、大きなあくびをした。シエラは、相変わらず目をキラキラさせてやがるが。
「夢中で話してたら、遅くなっちゃったな。そうだ、2匹ともうちに泊まってくかい?」
「お、いいのか?」
「ダメだよ。またメルさん怒らせたら謹慎だよ?」
ユーリの提案を快く受けようとしたが、またしてもストッパーのルナに止められちまった。まあ、またメルさんたちに心配かけちまうのも悪りいし、今日はこの辺にしておくか。
「さ、兄ちゃん。帰るよ」
「チッ、何でこーいう時ほど時間が経つのは早えんだろうな。あ、そうだ。あの光る花……少しばかりもらってもいいか?」
池のほとりに咲いていた、光る花。この街では、明かりは全てあの光る花を使っているみてえだ。
「灯花かい? ショーハの池にたくさんあるから、摘んでいきなよ」
「わたしたちも、そこで摘んでるの!」
「いいのか? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぜ」
ユーリとシエラの許可をもらったので、土産に灯花をいくつか摘んで帰る事にした。
——て事で、帰る前に、また山道を通ってあの池の所へ向かうんだ。
「またいつでも来いよ、ゴマ、ルナ!」
「きっとまた遊びに来てね! ゴマくん、ルナくん! おやすみ」
「ああ、絶対行くぜ。今度はどっか探検しようぜ。じゃあな、ユーリ、シエラ!」
「ありがとうございました、ユーリさん、シエラさん!」
ユーリとシエラは、ボクらを門の前まで見送ってくれた。楽しい思い出を胸に、ボクらは小さな、でも幸せに満ちた孤児院を後にした。
♢
ボクは転身を解いてフツーのネコの姿に戻り、ルナと一緒に来た山道を戻っていく。鬱蒼としげる木の隙間から、上弦の月の光が差し込んでいる。
ボクらは迷う事なく、池にたどり着く事が出来た。池の周りが光っているから、すぐに場所が分かるんだ。
「すげえな。池の周りがあんなに明るい。よし、1番キレイなやつから頂いて帰ろう」
「兄ちゃん、1番キレイなやつはスピカへのプレゼントだよね」
「うるせえな、ほっとけ!」
光る花がたくさんある場所へ急ごうと、ダッシュした時だった。ドシンと音がして、何かに思い切りぶつかっちまった。
よく見たら、小汚いニンゲンの足だ。イラッとしたボクは、上を見上げて怒鳴った。
「痛え! チッ、どこ見て歩いてやがんだ、ニンゲンめ!」
「……何だぁコイツ? 猫が喋っただとぉ?」
見るからにワルそうなニンゲンの男の顔が見えると同時に、そいつのしゃがれた声が聞こえた。ボクはイライラがおさまらず、そいつの売り言葉に買い言葉で返した。
「何だ、ネコが喋っちゃ悪りいのか? テメエ、ぶつかっといて何もナシか? あん?」
「兄ちゃん、面倒な事になるからやめようよ!」
ルナが止めに入ったが、謝ろうともせず顔を歪めてナメた態度をとるそのニンゲンが、ボクは気に入らなかった。
「チッ! 襲撃前に様子見をしようと思ってたが、変な猫に絡まれちまった。……そうだ。おい、猫! 白い髪の女の子と会わなかったか?」
「知らねえよ。テメエにくれてやる情報など無え」
「ほーぉ。お前、猫のくせに生意気だな……ああ⁉︎」
「うぉっと!」
何とそいつは突然刃物を取り出し、ボクを切りつけてきやがった。間一髪でボクはそれを避ける。
——間違いねえ。白い髪の女の子といえば——シエラだ。このニンゲンの男、シエラをどうする気なんだろうか。何にせよコイツを止めなきゃ、シエラが危ねえ。
よし、いっちょやってやるか!
「フン、このボクにケンカをふっかけたのが運の尽きだったな、ハハハ!」
「な、何……⁉︎」
ボクは天に向かい、右腕を掲げて叫んだ。
「
」
ボクは転身し、再び振り下ろされた刃物の攻撃をかわした。男は目を丸くして、後退りする。
「な、何だコイツは!」
さあ、どう料理してくれようか。
——ここであの技を使うと、山の木が丸コゲになっちまう。だったら、あの池の真ん中で一発、ブチかましてやるか!
「ルナ、お前はそこの岩に隠れてろ!」
「……うん!」
ルナを安全な場所に避難させてから、ボクは池の真ん中まで一瞬で飛んで行き、水中へと飛び込んだ。
——行くぞ!
「……ホワイト・ヒート‼︎」
瞬時に周りを高温にして敵を焼き尽くす火属性の魔法、ホワイト・ヒート。
今回はこれを水中で発動させたので、瞬時に池の水が蒸発して大爆発を起こした。水蒸気爆発ってヤツだ。
その後ボクは体に炎を纏ったまま、男のいる場所へ突撃した。だが男はすでに、水蒸気爆発で起こった熱気の暴風をモロに浴び、地面にブッ倒れていた。間違いなく、全身大火傷だ。
「あ、あぢい‼︎ わ、分かった! 悪かったよ! 俺の負けだ!」
丸焦げにしちまう前に、男は土下座してそう言うと、すぐに山の中の暗闇へと逃げて行っちまいやがった。
「ざまあみやがれ! ニンゲンなど敵じゃねえ! ……あっ、ルナ。もう大丈夫だ」
「兄ちゃん、やり過ぎだよ。どうすんの、池の水がほとんど干あがっちゃったよ」
「雨でも降ればすぐ戻るだろ。それかマーキュリーさん呼ぶか?」
「マーキュリーさんは忍びの里に帰ってゆっくり過ごしてるんだから、急に呼ぶと悪いよ。もうとにかく、早く灯花摘んで帰ろ」
ボクは転身を解き、ルナと一緒に池のほとりに咲くたくさんの灯花から、キレイなものを家族分摘み取った。
さて、あとは帰るだけだ。ボクはミランダを呼ぼうとした。が、その時——。
「お、おい見ろ、美味そうな鳥だ」
池のほとりから山の奥に、丸々とした白い鳥が、パタパタと飛んで行ったのが見えた。
「兄ちゃん、まだ食べるの?」
「急げ! あんな美味そうな鳥、逃すわけには行かねえ!」
「ああもう! 待ってよ兄ちゃんー!」
ボクは興奮しながら、山道を全力疾走して白い鳥を追いかけた。見失ってたまるか。絶対逃さねえぞ——。
ドカッ‼︎
またしても、何かにぶつかってしまった。
「チッ……、またニンゲンか」
見上げると、ヒョロッとした体型の髪の長いニンゲンの男が、飛んでいく白い鳥の方をジッと見ている。ボクには気付いてねえようだ。
コイツも、あの白い鳥を狙っているんだろうか。
「おい、テメエ! あの白い鳥はボクの獲物だ」
大声を出してみるも、その男は気付いていねえ。男はそのまま白い鳥の方へ、足を進めて行きやがる……。
「聞いてやがんのか⁉︎ 無視するってんなら…… 」
「ダメだよ兄ちゃん‼︎ これ以上騒ぎを起こさないでよ……!」
ボクはルナの忠告を無視し、その男の脚にガブリと噛み付いてやった。さすがに気づいたその男は足を止め、こっちをジーッと見た。
しばらく間を置くと、その男は口を開いた。
「……異界の猫か。言葉を話す猫……奴の仕業か……? だが、何者だろうが――シジミに手を出すというのなら……容赦はしない!」
男はそう言ってボクの方を見ると、長い髪の間から覗かせた片方の碧い眼を光らせた。