表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第4話〜暁闇の勇者vs盗賊〜


 ボクは暁闇(ぎょうあん)の勇者・ゴマに転身した姿を、ユーリとシエラに見せつけた。2人とも、目を丸くしている。



「す、すげー! それ、本物の剣と鎧なんだな! 猫サイズだけど!」


「可愛い! 小さな勇者さんね!」



 ……可愛いだと? フン、舐めるなよ。

 見せてやるぜ、本物の勇者の力‼︎



「これはオモチャじゃないんだぜ。見てろ、ギガ・ダークブレイクッ‼︎」


「やめろ‼︎ 兄ちゃん! バカ!」


「ぐわあッ⁉︎」



 ボクはルナに尻尾を噛みつかれ、必殺技ギガ・ダークブレイクを発動する事が出来なかった。



「こんなとこでそれをやると、孤児院が吹っ飛んじゃうよ!」


「ちぇっ。ボクの凄えところを見せてやろうと思ったのに。ま、とにかくボクは、地底にあるネコばっかが住む国と、ボクの住処の近くの林の中にあるネズミの国……2つもの世界を救ったんだ。ボクはみんなのヒーローなんだぜ?」


「ヒ、ヒーロー……!」



 シエラが、ボクの話を聞いて目をキラキラ輝かせてやがる。フフフ、ボクの凄さを分かってくれたか。気分がイイぜ。



「自分で言うなよ、兄ちゃん。兄ちゃんだけが世界を救ったんじゃないでしょ。ソールさんたち、ライムさん、ミランダ、それにドラゴンさんたち……みんなで力を合わせて、世界を救ったんだから」


「ま、まあそれもそうだな」



 相変わらず、ルナはしっかりとツッコミを入れて来やがる。



「うん……わたし、決めた!」


「決めたって……シエラ、一体何を?」


「……ひみつ!」



 シエラはさっきからずっとボクの姿を見て、嬉しそうに目を輝かせてる。ふふん、シエラも、ボクみてえなヒーローに憧れたか? 何を決めたのか知らねえが、まさかコイツも〝世界を救う〟とか思い立っちゃいねえだろうな。ハハハ。


 それにしてもシエラの奴、どことなくボクに似ている気がするんだよな。何か思い立ったら、きっと鉄砲玉のように飛び出しちまう——見ててちょっと危なっかしいタイプだ。まあそれはボクも自覚はしてるんだが。だからこそ——ルナみてえなストッパーが、ボクには必要だっんだ。シエラにとっては、ユーリがきっとそうなんだろう。



「ふあ……あーあ」


「ユーリ、お前眠そうだな」



 ユーリの奴が、大きなあくびをした。シエラは、相変わらず目をキラキラさせてやがるが。



「夢中で話してたら、遅くなっちゃったな。そうだ、2匹ともうちに泊まってくかい?」


「お、いいのか?」


「ダメだよ。またメルさん怒らせたら謹慎だよ?」



 ユーリの提案を快く受けようとしたが、またしてもストッパーのルナに止められちまった。まあ、またメルさんたちに心配かけちまうのも悪りいし、今日はこの辺にしておくか。



「さ、兄ちゃん。帰るよ」


「チッ、何でこーいう時ほど時間が経つのは早えんだろうな。あ、そうだ。あの光る花……少しばかりもらってもいいか?」



 池のほとりに咲いていた、光る花。この街では、明かりは全てあの光る花を使っているみてえだ。



灯花(とうか)かい? ショーハの池にたくさんあるから、摘んでいきなよ」


「わたしたちも、そこで摘んでるの!」


「いいのか? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぜ」



 ユーリとシエラの許可をもらったので、土産に灯花をいくつか摘んで帰る事にした。

 ——て事で、帰る前に、また山道を通ってあの池の所へ向かうんだ。



「またいつでも来いよ、ゴマ、ルナ!」


「きっとまた遊びに来てね! ゴマくん、ルナくん! おやすみ」


「ああ、絶対行くぜ。今度はどっか探検しようぜ。じゃあな、ユーリ、シエラ!」


「ありがとうございました、ユーリさん、シエラさん!」



 ユーリとシエラは、ボクらを門の前まで見送ってくれた。楽しい思い出を胸に、ボクらは小さな、でも幸せに満ちた孤児院を後にした。



 ♢



 ボクは転身を解いてフツーのネコの姿に戻り、ルナと一緒に来た山道を戻っていく。鬱蒼としげる木の隙間から、上弦の月の光が差し込んでいる。

 ボクらは迷う事なく、池にたどり着く事が出来た。池の周りが光っているから、すぐに場所が分かるんだ。



「すげえな。池の周りがあんなに明るい。よし、1番キレイなやつから頂いて帰ろう」


「兄ちゃん、1番キレイなやつはスピカへのプレゼントだよね」


「うるせえな、ほっとけ!」



 光る花がたくさんある場所へ急ごうと、ダッシュした時だった。ドシンと音がして、何かに思い切りぶつかっちまった。

 よく見たら、小汚いニンゲンの足だ。イラッとしたボクは、上を見上げて怒鳴った。



「痛え! チッ、どこ見て歩いてやがんだ、ニンゲンめ!」


「……何だぁコイツ? 猫が喋っただとぉ?」



 見るからにワルそうなニンゲンの男の顔が見えると同時に、そいつのしゃがれた声が聞こえた。ボクはイライラがおさまらず、そいつの売り言葉に買い言葉で返した。



「何だ、ネコが喋っちゃ悪りいのか? テメエ、ぶつかっといて何もナシか? あん?」


「兄ちゃん、面倒な事になるからやめようよ!」



 ルナが止めに入ったが、謝ろうともせず顔を歪めてナメた態度をとるそのニンゲンが、ボクは気に入らなかった。



「チッ! 襲撃前に様子見をしようと思ってたが、変な猫に絡まれちまった。……そうだ。おい、猫! 白い髪の女の子と会わなかったか?」


「知らねえよ。テメエにくれてやる情報など無え」


「ほーぉ。お前、猫のくせに生意気だな……ああ⁉︎」


「うぉっと!」



 何とそいつは突然刃物を取り出し、ボクを切りつけてきやがった。間一髪でボクはそれを避ける。

 ——間違いねえ。白い髪の女の子といえば——シエラだ。このニンゲンの男、シエラをどうする気なんだろうか。何にせよコイツを止めなきゃ、シエラが危ねえ。


 よし、いっちょやってやるか!



「フン、このボクにケンカをふっかけたのが運の尽きだったな、ハハハ!」


「な、何……⁉︎」



 ボクは天に向かい、右腕を掲げて叫んだ。





 ボクは転身し、再び振り下ろされた刃物の攻撃をかわした。男は目を丸くして、後退りする。



「な、何だコイツは!」



 さあ、どう料理してくれようか。

 ——ここであの技を使うと、山の木が丸コゲになっちまう。だったら、あの池の真ん中で一発、ブチかましてやるか!



「ルナ、お前はそこの岩に隠れてろ!」


「……うん!」



 ルナを安全な場所に避難させてから、ボクは池の真ん中まで一瞬で飛んで行き、水中へと飛び込んだ。

 ——行くぞ!



「……ホワイト・ヒート‼︎」



 瞬時に周りを高温にして敵を焼き尽くす火属性の魔法、ホワイト・ヒート。

 今回はこれを水中で発動させたので、瞬時に池の水が蒸発して大爆発を起こした。水蒸気爆発ってヤツだ。

 その後ボクは体に炎を纏ったまま、男のいる場所へ突撃した。だが男はすでに、水蒸気爆発で起こった熱気の暴風をモロに浴び、地面にブッ倒れていた。間違いなく、全身大火傷だ。

 


「あ、あぢい‼︎ わ、分かった! 悪かったよ! 俺の負けだ!」



 丸焦げにしちまう前に、男は土下座してそう言うと、すぐに山の中の暗闇へと逃げて行っちまいやがった。



「ざまあみやがれ! ニンゲンなど敵じゃねえ! ……あっ、ルナ。もう大丈夫だ」


「兄ちゃん、やり過ぎだよ。どうすんの、池の水がほとんど干あがっちゃったよ」


「雨でも降ればすぐ戻るだろ。それかマーキュリーさん呼ぶか?」


「マーキュリーさんは忍びの里に帰ってゆっくり過ごしてるんだから、急に呼ぶと悪いよ。もうとにかく、早く灯花摘んで帰ろ」



 ボクは転身を解き、ルナと一緒に池のほとりに咲くたくさんの灯花から、キレイなものを家族分摘み取った。

 さて、あとは帰るだけだ。ボクはミランダを呼ぼうとした。が、その時——。



「お、おい見ろ、美味そうな鳥だ」



 池のほとりから山の奥に、丸々とした白い鳥が、パタパタと飛んで行ったのが見えた。



「兄ちゃん、まだ食べるの?」


「急げ! あんな美味そうな鳥、逃すわけには行かねえ!」


「ああもう! 待ってよ兄ちゃんー!」



 ボクは興奮しながら、山道を全力疾走して白い鳥を追いかけた。見失ってたまるか。絶対逃さねえぞ——。

 ドカッ‼︎

 またしても、何かにぶつかってしまった。



「チッ……、またニンゲンか」



 見上げると、ヒョロッとした体型の髪の長いニンゲンの男が、飛んでいく白い鳥の方をジッと見ている。ボクには気付いてねえようだ。

 コイツも、あの白い鳥を狙っているんだろうか。



「おい、テメエ! あの白い鳥はボクの獲物だ」



 大声を出してみるも、その男は気付いていねえ。男はそのまま白い鳥の方へ、足を進めて行きやがる……。



「聞いてやがんのか⁉︎ 無視するってんなら…… 」


「ダメだよ兄ちゃん‼︎ これ以上騒ぎを起こさないでよ……!」



 ボクはルナの忠告を無視し、その男の脚にガブリと噛み付いてやった。さすがに気づいたその男は足を止め、こっちをジーッと見た。

 しばらく間を置くと、その男は口を開いた。

 


「……異界の猫か。言葉を話す猫……()の仕業か……? だが、何者だろうが――シジミ(こいつ)に手を出すというのなら……容赦はしない!」



 男はそう言ってボクの方を見ると、長い髪の間から覗かせた片方の碧い眼を光らせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ