第3話〜似た者同士〜
シエラの奴から、半端じゃない魔力を感じたんだ。まさかニンゲンにも魔力を持つ奴がいるとは。コイツはビックリだ。
「なあ、シエラよ。お前……」
「? なあに、ゴマくん?」
「……いや、何でもねえ。気にすんな」
「え……? なになに、気になるじゃん!」
「お前、魔法使えるだろ」と訊こうと思ったが、やめておいた。それを訊いちまうと何となく、面倒な事になっちまいそうな予感がしたんだ。
その時、さっき料理してた女が台所から部屋に入って来た。
「みんな、ご飯出来たわよ。あら……?」
「ねえお母さん、見て。猫さんが喋るんだよ」
コイツが、みんなの母ちゃんだったのか。
「あらあら、本当ね。良かったら猫さんたちも、ご一緒にいかが? さっきのお肉、差し上げるわ」
母ちゃんは優しくボクらに微笑みかけ、そう言ってくれた。
「いいのか? じゃあ、ありがたく頂くぜ。良かったな、ルナ」
「兄ちゃんたら、もう。じゃあ折角ですから頂きますね。ありがとうございます」
「じゃあ、ゴマとルナも一緒に、みんなでご飯だー!」
「わーい!」
部屋じゅうに美味そうな匂いが立ち込める。
ボクらはこのボロ建物に住むニンゲンの家族と一緒に、晩飯を食う事になった。
♢
狭いが、物が整然と置かれていて居心地がいい食卓だ。テーブルの真ん中には、さっき池の近くに咲いていた光る花が置かれて、部屋じゅうを照らしている。
ボクとルナは、床に置かれた皿に盛られたジャウロンとやらの肉をむさぼり食った。
「お前がみんなの母ちゃんなんだろ? 肉だけじゃなく料理も分けてくれるたあ、太っ腹じゃねえか。しかもめちゃくちゃ美味え」
「ユリミエラよ。褒めてくれてありがとう。猫さんに褒められるだなんて、何だか夢みたい。うふふ。おかわりあるから、どんどん食べてね」
「母さん、ジャウロンの肉を盗み食いされてる事に気づいてなかったんだね……」
ユリミエラはボクらに遠慮なく食うよう勧めてきたが、ボクは踏みとどまった。何せ、玄関の扉すら直せねえ状態なんだ。食い物も、ろくに無えに違いねえ。
だが、みーんな幸せそうな顔してやがる。いい家族じゃねえか。この家族の幸せがこれからも、ずっとずっと、続くといいよな——。
「ごちそうさまでした!」
「さあ、みんな。2階に上がって寝る支度をするのよ」
「はーい!」
食事が終わり、ガキどもはすぐにバタバタと2階へと上がって行ってしまった。
さて帰るかと思ったが、ユーリとシエラがジッとボクを見つめている。
「僕、もう少しゴマとルナと話したいな」
「わたしも!」
「……しゃあねえなあ。ルナ、もうしばらく相手してやろうぜ」
「いいけど、余計な事しちゃダメだよ」
ま、ボクもこの2人とはもっと色々話してえと思ってたんだ。この世界の奴らにも、ボクの武勇伝――聞かせてやるか。
「じゃあ私は先に上がってるわね。ほら、ローリエおいで」
「あーい!」
ユリミエラも末っ子のローリエを連れて2階に上がり、この場にはボクらとユーリ、シエラだけになった。
♢
「コジイン?」
「そう、ここは親を亡くしたりはぐれたりした子供たちが預けられる場所なんだ。ユリミエラは僕の実の母さんで孤児院長なんだけど、他の子たちは他所からここに預けられてきたんだ」
ユーリは、部屋の中を見回しながらそう言った。
「そうだったのか。……ああ、ボクらも似たようなモンだ。なあ、ルナ?」
「そうだね。僕らの住処にも、ムーンさんっていうお母さん代わりのネコがいるんだけど、僕らの本当のお母さんじゃないんだ」
光る花を囲って、ボクらは話していた。——そうか、コイツらも大変なんだ。ボクらは本当の母親なんざ見つからなくても何とも思わねえが、きっとコイツらは違うんだろう。ガキどもはみんな、どこか寂しそうな目をしてやがったな。特に、シエラが。
「だけど、そんな事も関係ないくらいみんな仲良しなんだよ。なあ、シエラ!」
「……わたしはね」
ユーリがシエラの背をポンと叩いたが、シエラは俯いている。何か言うのを躊躇っているみてえだ。ボクは催促した。
「どうしたんだよ、シエラ」
「……樹から生まれたの」
「ん? どういう事だ?」
樹から生まれただと? 一体どういう事だ?
「生命の樹から、生まれたの」
「生命の樹だと? お前……」
——やっぱりコイツは、ただのニンゲンじゃなかった。だったら、一体何者なんだ……?
ボクは頭の中が疑問だらけだったが、構わずシエラは続けた。
「わたし、見た目がこんなでしょ? 村の子供たちからは、枯れ木のシエラなんて呼ばれたりして……。でもね、お母さんは優しいの。わたしは神様が送ってくださった宝物だから、何も恥じることはないんだって。それに、色が本来の人の価値を表したことは今まで一度もない……って、何回も何回も私に言ってくれたの。……わたしはね……」
シエラはボクらに、自身の生い立ちについて話してくれた。
——何でも十三年前、今はもう死んじまったユーリの父ちゃんが、生命の樹とやらの根本で泣いている赤ん坊のシエラを見つけて、保護したんだそうだ。
生命の樹ってのは、とても大きくて白い樹らしい。そいつから生まれたシエラは、髪の毛と目の色が青みがかった白い色になった。
髪や肌の色が濃いここいらの村人の中では、どうしてもシエラの髪色、目の色は目立ってしまう。それがとても嫌だったそうだ。
「わたし、人間の両親から生まれればどれだけ良かったかと、ずっと思ってたの。だけど今は……わたしを大切に思ってくれるお母さん、ユーリ、ファネルラ、エド、ルイ、ローリエがいる。もうどんな嫌がらせをされても……わたしは、わたしはもう大丈夫! だからわたしもね、みんなに恩返しをしたいの」
「シエラ……お前」
全く、泣ける話じゃねえか。
コイツらは血こそ繋がってねえが、それでも大事な大事な家族なんだ。
ボクはメルさんたちに何か恩返ししようなんて思った事、あっただろうか? ——毎日ボクの我儘で振り回してばかりで、少々情けなくなっちまった。
そんな立派な心がけを持つ奴を悪く言う奴らが、憎らしい。何が〝枯れ木のシエラ〟だ。テメエの白い髪色は、ボクにはとても綺麗に見えるんだぜ。
「あっ……! ごめんねゴマくん、私ばかり話しちゃって」
「気にすんな。それより、シエラを悪く言う奴なんざ、ボクが一発ブチのめしてやるぜ。……強いんだぜ、ボク。実は〝転身〟出来るんだ」
「テンシン?」
フフ、お前らに見せてやるぜ。2つの世界を救った正義の〝ヒーロー〟の姿を!
「見てろ! ……聖なる星の光よ、我に愛の力を‼︎」
ボクは天に向かって手を挙げ、叫んだ。
——紫色の光がボクを包み、黒い鎧、剣、盾が現れ、装備されていく。
「暁闇の勇者、ゴマ‼︎」
ボクは二足で立ち、右手に魔剣ニャインライヴ、左手にルーンバックラー、そして漆黒の鎧を身につけた姿を、目を丸くしているユーリとシエラに見せつけた。