1ー8 不安と誓い
ローレンは、ふと先日の事を思いだし笑みをこぼした。
アルが急に深々と頭を下げると好きな子と婚約させてくれと言ってきた。
内心びっくりしたが相手がトンファである判ると、俺が死んだら誰もあいつの家族がいない事を考えれば、アルを理解する最良の伴侶だと思えた。
向こうの両親とも仲が良さそうなので、快諾した。
今日はいい日だ。出来るなら一生、真実は伏せて若者の背を押すべきだなと。
アルの肉親であると嘘をついて生きてきたこの人生も報われるかもしれないと思った。
△▽△▽
そんな中、心の深くで一抹の不安を覚える。
あれさえここに無ければ、、、。
数年前に旅人がこの村に来た。彼は最初はただの行商のふりをしていた。
ローレンは、違和感を感じるながらもその、気さくな語りに打ち解けた。
だが、彼がこの村を去る前に言った言葉がいまでも不安にさせる。
「実は、私はとあるお方から例のものを探すように言われて旅を続けている」
詳しく聞けば、かの王が消滅した際に持っていた唯一無二のアームズがまだこの世に存在する事。そして、かの王の息子がそれを持って消えた事。旅人自身は、こんなおとぎ話の為に苦労を続けている事にだいぶ嫌気が差しているようだった。
だが、それを真実と知るものからすれば背筋が凍る話であった。
旅人が去ったあともローレンは、何とかしてあれを処理する方法を模索したが
ただ、捨てる選択肢以外には思い付かなかった。
一度、自分自身もバースト覚悟で試したが何の反応もせず。ただそこに存在するだけであった。登録者以外が起動した場合、アームズがバーストするのは常識だったことからすると
このアームズがいかに異なるルールの上に存在する異物なのか理解し不安に襲われる。
もし、これが王の血縁者にのみ反応するものならばアル、またはその血縁が未来に背負うであろう重責に果たして耐えられるのであろうか。これが彼らに渡らなければ全てが丸くおさまるのか?。考えても答えなど出てこなかった。
△▽△▽
ローレンが目を覚ましたのは、真夜中の事である。
その日は、月光が明るく夜空も遠くまで見通すことが出来た。
ローレンは、気を落ち着かせる為に夜風を当たりに外に出た。
ふと、山脈に目をやると空を浮かぶものがあった。
過去の記憶に一つ思い当たるものがあった。今よりも絶対的な力を保持していた帝国が竜の力を具現化しようとした空中移動要塞バハム。
帝国の力の象徴がなぜか、あそこに浮かんでいる。
空中移動要塞バハムは、帝国がアームズを平和利用として提供される替わりに
当時の帝王が解体と国内の建造技術を未来永劫に破棄を約束したものだった。
ローレンは、若い頃に一度だけそれを見たことがあった。
ほとんど止まっているかのように夜空に浮かんでいる。普通の者がみても特殊な光で同化しているため余程、近くまでこないとその巨大な存在を知ることはできないがローレンは、マナの存在を視覚的に感知しすることが子供の時からかできた。
あの要塞は、非常に多くのマナを循環させるながら少しづつこの村の方向に進んでいた。
まさかとは思いたいが、ローレンは念のため準備はする事にした。
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「レジュダ様、もう数日で山脈をこえます。目的の場所はその先にあります」
空中移動要塞バハムの中央管制室に彼女の姿は、あった。歳は32。伴侶などはもたずひたすらに帝国騎士隊長として振る舞い如何なる時も冷静な判断とその手腕には、右に出るものはいなかった。この若さで隊長まで上りつめたのも。かの王がもたらした天災後に衰退した帝国軍を纏め上げ、今の状態まで復興した功績からだ。
レジュダは、思案していた。およそ1年前。諜報部よりもたらされた情報には耳を疑った。
かの王がもつアームズが現存するかもしれないと言うことだった。
帝都から山脈を越えた王国の辺境に当たる土地に大岩を中心に小さな村があり。そこに立ち寄った諜報員が銀髪の少年と、手配書にあった王の息子と親しくしていた王国騎手に酷似していた者がいたと。村人の話では、天災以降に現れそこに住み始めたということも。もしこれが本当ならば、かの王の息子も存在し、いずれ帝国の脅威になるのではないか。レジュダは、皇帝に謁見し推測で動くにはあまりにも無謀だが聞き流せる事でもない。かの王がもたらした惨劇を繰り返すわけにはいかない。少しでも可能性があるのならば芽を摘み取る必要があると進言した。
皇帝は、数日の思案のうちにレジュダに命令を下した。
レジュダは、計画を思案した。
通常の航路であれば、山脈を大きく迂回し王国諸国の領土を通過しないとあの村に辿りつくことは出来ない。出来るだけ極秘に動く必要があるが、、。
帝国と王国を隔てる山脈は、年中雪がつもり天候も安定しない。人の足で仮に越えたとしても一体、何人の兵が残るだろうか。
最初は、再建造中の空中要塞バハムも検討したがあの山脈を越えられるくらいなら遠の昔に全ての領土が帝国のものになっていたであろう。しかし、仮にアームズが健在で力の一部でも使用された場合に帝国が対抗できるものが空中要塞バハムぐらいしかないのも事実であった。
中央研究員を総動員し、半年の改良を重ねた結果。著しく機動性を落とすが超高度まで浮上可能なシステムの考案に成功。試験飛行機も無事軌道に乗り結果的に地理上の戦略的不利も解決する形になった。
もしこれでアームズの脅威も完全に払拭できた暁には、帝国の全土統一も夢ではなくなる。レジュダは、帝国兵の中でも竜の力を発現できる精鋭を連れ空中要塞バハムで山脈を越える航路に出航を開始した。
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ローレンが空中要塞バハムの存在を知ることになる数週間前。
婚約を決めたアルとトンファは、あい変わらず二人で森に狩りに出掛けていた。
二人が子供の頃から一度行ってみたかった場所へ向かっていた。
村の許可は得て泊まり込みの2泊3日の遠足だ。山を登るため行きは2日ぐらいかかるが帰りは1日ぐらいの行程を予定している。
カルナの泉、それが今回の目的地だ。
山頂にその泉があり、マナの濃度が高い場所のため他では見ることが出来ない幻想的な風景が広がっていると言う。小さい頃から村の老人たちが死ぬ前にもう一度でいいからあの風景を拝みたいとよく言っていた。だが、そこにたどり着くまでの道のりは険しく。大型のモンスターも出るため。実際に見たことがある村人は非常に少ない。周囲も最初は反対したがハルとトンファの実力も十分認めている為、半ば強引に許可がおりた。
「ねぇ、小道であっていると思う? 何か同じところをぐるぐるしている気がするけど」
トンファは、不安になりアルに尋ねた。
「たぶんだけど、どんどんマナが濃くなっているから合っていると思う。植物の背丈も小さくなってるし、ほらキノコが増えてる」
確かに、マナの感知は苦手なトンファも周囲にマナの結晶である見た目がキノコのやつが増えてきている事に気づいた。
さすが、私のアル。ちょっと惚れ直しちゃう。
夕方まで時間が少しあるが、そろそろ野宿の設営を始める事にした。ちょうど岩山の窪みに雨風をしのげそうな場所を発見した。山の天候は、変わりやすい為。今は、晴れていてもこういう場所で野宿したほうがいい。
アルは、慣れた手付きで作業を始めた。村に来てから野宿をする事はなくなったが、物心ついた時からお爺ちゃんと旅をしていたことで潜在的にこの手のスキルが高い。
あっという間にお洒落なテントが出来上がった。
見晴らしもよく谷間の向こうに小さくなった村がみえる。
「今日は。途中でとれた山菜と干肉を使ったスープにしよう。すぐできるから、トンファはパンを切ってください」
「はーい。アル料理長。美味しいやつお願いします」
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食事を終えた頃、もうすでに日は落ちて満天の星空が二人の頭上に広がっていた。
明日に備え二人は、早く寝ることにしたが、、、。
どちらが誘ったわけでもなく。ほとんど自然な形で二人は、肌を重ね合わせていた。
このままいったら正式に結婚する前に、新しい家族が増える可能性は高い。
誰も二人の愛を止めることはできない。若く二人は、青春を謳歌していた。
次の日、日が昇る前にテントを片付け足早に山頂を目指した。早ければ昼頃にはつく予定だ。
途中、大トカゲや巨大な芋虫などが出たがアルがあっという間に退治してしまった。
トンファは、アルの後ろについていくだけで良かったので山頂に向かうほどに変わりゆく風景を楽しんでいた。
山頂付近になって急に霧が濃くなってきた。10メートル先の様子がわからないぐらいの濃霧であった。足場は、見えるのでトンファは、アルにぴったり着きながら山頂らしき場所に到着した。
「多分、この眼下の斜面を下った先に目的のカルナの泉があると思うだけど。霧で何にも見えないね」
「山だから、覚悟はしてたけどちょっと、、、、がっかりかも」
落胆する二人だったが、山の天候は変わりやすい。
急に強い風が吹くと、あっという間に霧が晴れていき視界が一気に広がる。
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アルとトンファは、一生この風景を忘れる事はないであろう。
すり鉢上の地形に、虹色の泉が広がる。この世の全ての色が混ざり合うことなくそこに存在しているかのような幻想的な光景であった。
二人は、お互いの手を重ねながら時を忘れてその光景を目に焼き付けていた。
「アル、、、この先どんなことが合っても私はあなたと生きるわ。この景色比べたら、どんなことも些細な事。もし、苦しい時や辛いことがあってもこれを思い出すわ」
「僕もトンファと生きる」
それ以上の言葉は浮かばなかった。
そして、二人は誓いの口づけをした。
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