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2ー65 実

△▽△▽


「ニアさん、準備できました」


「いよいよね。心配しても仕方がないけど不安ね」


「母さん。いわく、私が無理だったらあとは、トンファぐらいだと言ってました。火竜が出てきたらエマさん次第で、皆死ぬか無事かのどちらかだとも」


「アスカは、お留守番だと言ったら拗ねて出ていったわ、よっぽど悔しかったのね」


「今回は、騎士最強と言われるトロアの旦那さんにも同行してもらうことにしたわ。ボムさんと言って、アルにも縁がある人なのよ。アルの名前を出したら、自分から志願したわ。トロアもそうすべきだと。やっぱり、この世界はアルの存在を無意識に隠していたということになるわね」



エマさんは、この1ヶ月ほど登頂の方法について模索した。

そしてある結論に達したのだった。


最高峰のフォートに行くには人の足では決していけない。

何故ならあの頂へのルートが存在しないからだった。頂上付近でテーブルマウンテンのように1000m級の切り立った崖になっており、休めるような場所もない。山頂は高密度のマナ環境でトランスゲートの座標が設定出来なかった。


そこで、、、閃きとはまさにこの事だった。


空中要塞バハムートが運用されていた時代。

落下傘部隊と呼ばれるパラシュート部隊がいた。


彼らは、空中の要塞から降下して目的の場所に着陸していた部隊である。


今回は、正確な落下を行えればそれで良かった。

フォートの頂から2000m上空にトランスゲートで出現。


定員ギリギリの4名。


ボム、ジル、ニア、エマの4人だ。重力制御ユニットで落下速度を調整しながら頂に降下するものだった。


当然、今回の作戦には皇帝の承認も得ていた。

軍事的にも深い意味があるが、単純に興味と言ったところである。


高密度のマナ環境でもポータルにより落下失敗時の帰還は出来ることを想定しているが落下中に国死鳥に狙われた場合は、追跡されて帝国が消し炭になる可能性もあるため、その時は解決するまで帰国を禁じる誓約書に全員サインをした。



△▽△▽


出発の日。



一体、この不確かな行為に普通の人なら疑問しか感じないだろう。

むしろ、死に急いでいる。そんな自殺行為に等しい。


だが、彼らは勘に近い確信があった。

そこに行けば物事が進展するはずだと。



「1時間後に転送ゲートを起動します。最終チェックをしますので、確実準備をお願いします。」


そんな、空中要塞バハムで一人の少女が心配そうに母親を見つめていた。

アスカは、母が帰ってくることを祈るが言い知れない不安も抱えていた。もしこれが最後の母の姿と思うと泣きたくなるほどである。


そんな娘の姿に気付いたのかエマは、アスカの元に向かう。

「アスカ、お母さんの一番大切なものを預かって頂戴」


そう言うとエマは、一つの箱をアスカに手渡す。

「これは、あなたのお父さんから貰った世界に一つだけの鱗で私の一番大切なものなの。必ず帰ってくるからそれまでアスカに預けるわ」


箱を開けると、きれいな銀色に光を反射し輝くウロコがあった。

温泉旅行の時に母が身に付けていた。


母にとってそれがとても大切なものだと理解できた。

「アスカ、心配させてごめんなさい。でも私が行かないといけない訳があるの。私でないと火竜がいた場合に対処できないかもしれない。」


「でも、、、黒死鳥は、、、。 見たら死ぬかもしれないのよ。見る前に焼かれるかもしれないのよ。」


「アスカ、あなたは何者?。母一人ぐらいのことで動揺してはいけない。家族よりも国を選らばなければならない事もあるのよ。もう一度問うわ。あなたは何者?」



「お母様、、、。」




「私は、、、、『サリード家の娘』です!」


エマは、アスカを抱きしめる。


「お母様、ご無事をお祈りします。必ず帰って来てください」


「約束するわ」


アスカは、母から離れ木箱を持って去っていた。

お見送りはしない。次にまた会えると約束したからだ。

彼女の背中には、サリード家を継ぐものとしての覚悟が感じられた。


「子供の成長は早いわね」


そんな様子を見て、ニアが言う。

「私の所は、男の子なのに全然、甘えてこないわ。たまにどっちが親なのか判らなくなるぐらい」


「そうね。ジルはしっかり者ね。兄弟じゃなかったらアスカの婿にしようかと思っていたもの」


「あら、兄弟でも結婚してもいいんじゃないかしら。同じ種族だと血が濃くなりすぎて問題はあるけど、幸いジルは獣人とのハーフだから子供が出来ても問題ないわよ」


「よく考えたら、そうね。年頃になって思春期を迎えたときにその気がアスカにあるなら考えようかしら。禁断の恋よりはハードルが低いわね。」





この親、二人ともこれから死ぬかもしれないのにかなり軽い会話で凄いことを言う。

ジルは、離れたところでエマとニアがそんな話をしているとは知らずに重力ユニットの最終調整をしていた。


「ボムさん、そこの補正値をプラス2してもらってもいいですか?」


「これか? よくこんな難しい調整ができるな。肉体派には点でわからん」


「はい。あってますよ。

そのかわりに僕は、ボムさんみたいに武術はからっきしです。それぞれの強みがあって、弱みがあってそれで助けあえればそれでいいのではないでしょうか」


「その若さで、それを迷う事なく言えるのはジル殿に実力があるからだな。本当にアル殿の子供達は皆、優秀だ!」



「そうえば、父さんとボムさんはどんな関係だったんですか?」


「そうだな。記憶はハッキリとはしない部分もあるが、アル殿がいなければ今の自分がいなかった気がする。それに妻のトロアとも一緒になれなかったはずだ。それだけの恩を感じる方だ。」


父さんの記憶はない。だけど母さんやボムさん。エマさんの話を聞いて父の存在感じる。早く会ってみたいがまだ道のりは長いどころか道すら不明であった。




△▽△▽


「転送シーケンスを開始します。目的地、フォート上空。

高度10000メートル。座標補正終了」


『転送』


4人の体は、残像のように反転を繰り返し数秒後にその場から消えた。


同時にジルは、重力ユニットを起動する。


視界がハッキリすると眼下に大陸が映る。息を飲む風景である。

地平線は曲線を、描き山脈がくっきりと帝国と王国を分断していることをあらためて教えてくれる。


「皆さん、無事転送されたようですね。これから毎分100mで降下していきます。20分後にはフォート山の頂です。」



エマは、足元を見つめる。

眼下の山脈にひときわ特徴的な山が見える。

切り立つ円柱のように天に伸びるフォート山。


その頂は少しくぼみながらも平坦になっている。

そして、この距離からでもその場所に3つの黒い点が確認できる。


「あれが、黒死鳥かしら?」


「でしょうね。とんでもないマナを感じます」

ボムは、背筋に汗がながれる。武人であるが故に圧倒的な強者を前にして周りの者より感じるものが多いようだ。


ジルは、その時。全く別のものを見ていた。

大陸の端に一際、輝くものがあった。

まるで、こちらを呼んでいるような輝きである。


「あれは、何ですか?」

ジルは、指をさして周りに問う。


「何かあります?」


「凄く輝くものが見えますが」


「ジル、すまないがただの地平線しか見えないが」

どうもジルにしか見えないようだった。


エマは、胸ポケットから計測器を取り出す。

ジルの指差す方向にセンサーを向けて、パネルで操作をする。


「何かあるみたいね。可視光では見えないけど一定の周波数で空間の歪みがあるみたい。

座標を登録しておきましょう。何か次の糸口があるかもしれない」


そうこうしているとボムさんが叫ぶ。

「黒死鳥が羽ばたきました。こちらに気付いたようです」


全員に緊張が走る。



△▽△▽


「トイさん、何か頭の上に出現しましたね」


「我らより上からくるのはいつぶりだろうか。そう言えば2万年ほど前に宙を漂う民が乗る乗り物があったような。」


トイと呼ばれた最も古巣の黒色鳥が言う。

「まっすぐこちらに来ているようだな。ジェア君。もう少ししたら様子を見に行ってくれ。フィーネが動揺しているから話を聞いてきてくれないか」


「了解です」


ジェアは、500メートルほど近付いてきた所で飛び立つ。

マナ視認では、4名ほど確認できた。


一人、おかしなマナを放つものが混じっている。

そう言うことか。何か納得したように降り立つ者達に向かう。攻撃などしてくる様子はないのでこちらも警戒行動を解除する。


彼らの前でホバーリングをすると尋ねることにした。


「どのようなご用件で?」



△▽



鳥がしゃべる。

マナで空気を、振動させて発音しているようだった。

鳥の口が動かないので不思議な感じだ。


エマが一応、代表だった。

「私達は、火竜を探してこちらにきました。帝国のエマと申します。」


そして、ニア、ボム、ジルをそれぞれ紹介した。


「立ち話をなんだ、一足先に仲間に伝えてくるからそのまま降りてくるといい」


そう言うと、黒死鳥は急降下していった。


想像していない状況だった。

まさか、黒死鳥がこれほど知性がある生き物だとは思わなかったからだ。

「やはり、人を基準に物事を考えるのは誤りが大きそうですね」


エマは、戻る国死鳥をみつめながらジルに呼応する。

「ジル言う通りだわ」


ジルは、重力ユニットを調整して落下速度を早くした。

ほどなく彼らの体は、最高峰フォート山の山頂に降り立つ。そこには3羽の国死鳥がいた。



△▽△


「我らは、それぞれ定まらぬ名を持つ者だ」


「人の多くは、国死鳥と呼ぶことも知っている。竜は我らをフェニックスとも呼ぶ。上位者は、我らを不動点とも呼ぶ。自由に呼んでもらってかまわないがここに縁の名がある」


「私は『ジェア』。彼が『トイ』。彼女は『フィーネ』と呼称している。その名で呼んでもらえると区別しやすい」


ジルは、目の前の彼らを眺める。鳥の形をしているが人よりかなり上位種族でワイバーンにも匹敵するのではないかと思われる。


「先ほどジェア様にもお伝えしましたが、我らは目的のため火竜を探しております。私の契約で繋がりを感じた最後の場所がこの山頂でした。何かご存知のことがあれば教えていただけませんでしょうか?」


「まぁ、ハムのことかしら? あー、またあれが食べたいわ」


!


「フィーネさん、その言い方ではまるで火竜を食べてしまったように伝わるぞ」

「すません、トイさん。でも私、あの味が忘れられないの」



それまで、静かにこちらを見ていたトイが口をはさむ。

体は一番大きく、底知れない力を感じる。それは鳥の形をした生神に近い。


「すまぬの。こやつは、まだ若い。以前、キュール期より前に火竜のハムが挨拶の土産にハイアルの人が作った料理を振る舞ったことがあったのだ。その時に話をしている。」



「まだ、話が飲み込めぬかもしれんな。人の子らよ」


ジルは、素朴な疑問をぶつける。

「はい、キュール期とはなんですか?」


「そうだな、世界の防衛機能が発動した日を境にした期を言う」


「つまり、アルのいない世界に書き換えられたということですか?」


トイは、目を細めるとジルをみつめる。

「ほう、ここに来た時点で変化に気付いた人の子らであることは予想したが思ったよりも本質に近付いてきたようだな」



「先に言っておこう。ここでは真理に近づくことはできない。しかし、まずは火竜に関してだな。彼は、君たちが探しているはずの村に定期的に記憶を辿っては舞い降りているようだ。


かれもまたキュールの対象だったからな。


「キュールと具体的にどういうものなのですか?」


「説明は、難しいな。事象の原因となる要素に関連した全てを対象にするマナ干渉というべきだろうか」


「つまり、アルに関係した者の記憶の改ざんということですか?」


「間違ってはいないが合ってもいない。記憶の改ざんと言う次元ではない。事象そのものを改ざんしているからな」


ジルは、トイに質問を続ける。

「それは、何の目的でそんなことをするのですか」


「境の外については、わからないが少なくとも悪意はない。あくまで理の中で発動するシステムのようなものだ」


「なぜ、そのようなシステムが存在しているのですか」


「星の記憶と言うやつだな。つまり経験に近い。何億もの可能と失敗を繰り返しながら生きるものを守るルールのようなものだ。キュールも数万前に理に追加された。」


「理由があるのですね」


「理解がはやいな。ジルもこの世界の文明では理解できないオーバーテクノロジーを目にしているだろう」


「空中要塞バハムとかですか?」


「今は、そう呼ばれているのか。あれは本来は兵器などと言った代物ではない。ただの空中展望台だった」


「あの程度ではさほども問題はなかった。だがその後、覚醒者と呼ばれる存在が人為的に創られてしまった。その者が世界の理を大きくねじ曲げることで文明が滅んだのだよ」



あまりに急展開な話に周りのものはついていくことが出来なかった。

「それで、覚醒者はどうなったのですか?」




トイは、遠くの記憶を呼び起こすように話を続けた。

「覚醒者には、悪意は無かった。ただ、全の幸せを望んだにすぎない。その結果、世界が滅んだあとに星の再生を望んだ。そして、その子孫は今はこの星とこの先の世界を見守る守護者として存在し続けている。」


「竜ですね。それは」


「さすがだな。その通りだ。彼らは、あれほどまでに巨大ではなかったが世界の守護者として進化していった結果だともいえる。最初は、『始まりの竜』とそれに従えるトカゲ人の集まりだった」


「トイさんは、どんな存在なのですか?」


「私か。それが私の生きる目的なのかもしれない。あまりに昔の事過ぎて理由を忘れてしまった。だが一つだけ覚えていることがある。この世界を記憶する事。これが私の役割なのは間違いない。」


ジルは、一通り話を聞きおえるとこれからの課題を模索した。

このシステムが有る限り。仮に父さんをこの世界に戻しても幸せは一時でまた振り出しに戻る可能性が高い。


それを永遠に繰り返す事になる。その上、こちらは時間的制約が存在する。寿命だ。

父さんを必要とする動機を持つものがいなくなれば永遠にこの世界に呼び戻そうとする事はない。


「トイさんは、その世界を記憶している者なら私達がここに来た理由もすでに理解したと考えて宜しいですよね」


「お前の父であるアルを戻したいと言う願いの事か、、、

それは、賢き者がする事ではないが此処までの話を聞いてそれでも運命に抗うというのであれば一つ教えよう。過去と今は繋がっている。『始まりの竜』に会いにいきなさい。そこに答えがあるかもしれない」


トイは、そう言うと大陸よりはるか彼方の水平線を見つめた。


ジルがその先を見ると、かすれる水平線の向こう側にうっすらと陸が見える。

「あそこにいるのですか?」


「そうかもしれない。少なくとも人が生まれる前までにはそこにいた。私の記憶には世界を見守る者の行動までは記憶されていない。だが、ワイバーン達が向こう側から常に飛んでは帰っていく事を考えるとその可能性は高い。それにこの方向の大陸の端が試練の竜がいる場所にあたる。彼も理由があってあの場所を試練の場としている。

人は、あの場所で竜の刻印を得る事で満足しているようだが本質はそこにはない。あくまで運命を変える価値がある人を選別しているにすぎない。


彼が認めるのならば、それは可能性があると言うことだ」



△▽△▽





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