2ー62 海中
△▽△▽
あっという間に、3ヶ月ほどが過ぎる。
入学早々に事件を立て続けに出した事でジルは、学校関係者から『歩く地雷』と呼ばれたが地雷も踏まねば爆発しないという当たり前を守ることで無事に誰も欠けることなく夏休みをもうすぐ迎えようとしていた。
「ジルは、いいわね。期末試験免除なんて」
アスカが嬉しそうに言う。
「これで、私が一番をとれるわ。」
「絶対に裏で動いていますよね。アスカちゃん」
「何のことかしら。私には全く身に覚えがありませんかしら」
期末試験の通知がきた翌日、ジルにはすでに学業における単位が全て取得済みなので実技以外の、全ての試験への参加を禁止する通知が同時にきた。なぜか承認欄にアスカの母親であるエマ様のサインもされていた。
そして、1週間に及ぶ試験期間中はなぜか、ウルロボス研究施設での校外活動を要請することが記載されていた。
これは、つまりバイトか!
成果に応じて日給が歩合制で支払われるようだ。
もうすぐニア母さんの誕生日だ。ここで稼いで何かプレゼントでも買おう。
「ところで、アスカ? 最近、ミュウ先輩とタロウ先輩が二人揃っていなくなることが多いのだけど何か知ってる?」
アスカは、え!知らないの?って顔でこちらを見る。
「まだ、お子さまには早いのよ。ジルもあと数年したらわかるわよ」
アスカは、間違えなく知ってるようだったが答えてはくれない。
時間が解決してきれるなら別にいいや。
ジルは、来週からの校外授業と言う名のバイトで行う課題の整理をする事にした。
それにしてもエマ様も今度は、随分と不思議な研究を始めたようだ。
記録媒体が必要そうだ。そして、それがジルの抱える問題を解く鍵にもなり得る事がわかっていた。もしかしたらエマ様も何かを見つけたのかもしれない。
「ジルは、いいわね。1週間もお母様といられるなんて。嫉妬しそうだわ」
アスカがジルの通知書をみながらぼやいていた。
△▽△▽
そこは、帝都から随分と離れている。
トランスゲートにより限られた人だけが搭乗を許可された場所である。
トランスゲート無しでは無傷でたどり着く事さえできない場所だ。恐れ山脈の一つの頂きにその要塞がある。
『空中要塞バハム』
トランスゲートを生み出す存在である。
「ジルさん。エマ様がお待ちです。」
昇降エレベーターで研究室に向かう。入学前に一度訪れているので迷うことはない。
バハムのメインコアに併設された部屋にはいるには、認証が必要だがジルは、前回登録済みのままにしてあるのですんなり入る事ができた。
「エマ様?何をしてるんですか?」
入ってすぐ変な格好のエマさんがいた。
全身スエットスーツ、もしジルが思春期の男の子だったらそれだけで興奮していたであろう。
「ジル、いいところにそこのヘッドセットを、とって頂戴」
「これがニューロゲートですか?」
「そう、まだ色々課題があって未完成だけど。あともう少しなのだけど肝心なところで壁にぶち当たっているの」
それから今、判っている範囲の課題と目的地を明確化してもらった。
△▽
『ニューロゲート』
彼女が提唱した概念はこうだった。
精神とマナは同一であり心の有り様や経験などの記憶は、マナを還して異なる領域と接続しているという。発現した一部が私たち人であり全部はここにはないとする。
そして、あらゆる平行世界が存在しその全てが個々のコアとなる核に繋がっているというのだ。そして時に異なる世界の同じ個体が記憶と共に混ざりあい入れ替わる事がありえるというのだ。
ジルは、その概念を否定する要素が無かった。その上でエマさんが真実に気付いている気がした。
その上で、まだ誰にも相談していない事を打ち明ける。
「エマ様。私は、その概念が間違ってはいないと思います。その上で僕の母の話をさせて下さい。これは、エマ様にも。いや、この世界そのものから忘れられた一人の父親の話です。」
そう言うとジルは、ある人の名前を出す。
『アル』
その言葉で、いつも冷静なエマさんの表情が悲しげになったことがわかった。
そして、母が夢の世界でいつも父であるアルと過ごした幸せな時間を断片的に覚えていたという事。そしてもう、二人の妻の一人の特徴がニアさんに酷似していたという事だった。
「アスカに父親はいますか?」
ジルは、母のニアと同じようにエマさんも自分の子供が誰の子供かわからずに愛情だけを残され産んだのではないかと予想していた。
だが、彼女はすでにそれ以上のことを知っているようだった。
「あなたも既にある程度、理解し始めていたと言うことね。
そう、アスカの父親は本当に最近まで知りませんでした。でも判らない存在でも大切な人から授かった子供であることは理解できたわ」
「そして、アスカと旅行先で偶然、アスカの父親を知るワイバーンにあったの。彼女は、10年以上前に彼に助けられたと。そしてアスカは、その娘であると断言したの。その父親の名前はアルだと教えてくれたの」
「それから私の記憶にも断片的だけど前よりも強くその存在を感じるようになったけど、それ以上は時間が経過しても新しい事を思い出すことがないの。とても印象的な経験をしたかもしれない記憶だけが残っているだけ、だからこのニューロゲートにより過去の記憶を覗くことを思い付いたの、でも、、、。」
「ニューロゲートの本質を理解してしまったということですね。」
「ええ、これは記憶を覗くレベルのものではないわ。最悪な運命を回避することもできるけどそれは、その世界の自分と入れ替わる事を意味するの。例え相手が自分自身だったとしても既にそれを私達がされたか。アルがされたかそれは判らないけど私にはそれが出来ない。
この悲しみを増やすだけなの。幸せにはならないし。それでアルがいるかもしれない世界。そして、その世界のアスカに会っても、、、。入れ替わった向こうの私は、こちらに世界でいまの私と同じ状況になるだけ。それは繰り返し続けてられ最後には自身のコアが不安定になり世界から消滅することが容易に理解できるわ」
「つまり、実現できたとしても目的が達成できない。でも僕やアスカの父親のアルに会うためには父親が存在している世界に行く必要があると、、、。」
ジルは、考える。何かを見落としている。根底から間違っている何かだ。
‼️
ジルは床に膨大な計算式を書き始める。
エマは、手掛かりをみつけたジルの書く計算式を真剣に見つめる。
途中からまったくついていけない自分がいる事に気が付く。
この子がアルの残した最後の希望だったのかもしれない。そう思い始めた。
私達とアルを繋ぐ者。
そして、もう一人。いえ、二人見つけ出さなければならない人がいた。
姉さん、、。トンファ姉さん。私達の繋がりに必要不可欠の存在でありアルを最も理解していた人だと心が教えてくれる。
その糸口にエマはどこにいるのか判らない火竜に会う必要があった。
彼なら知っているはずだ。
ワイバーンが教えてくれた契約を感じる。でもコンタクトの仕方がわからない。
△▽
ジルが手を止める。
イコールの先に書かれた文字は一つだった√0である。
つまりどの世界にも存在しないが0ではなく。存在する永遠の0であった。
「エマ様、概念だけわかれば難しくありません」
そう言うと、ジルは。エマさんに説明した。
「本来、すべての個体は過去と未来という流れに繋がっています。でも父さんは、その何処にも属していません。ニア様の提唱する理論の外にあります。つまり、父さんは『特異点』です。」
「特異点とはどういう存在なのです?」
「ある種の障害であり、存在しない存在であるため存在するものを否定することが出来ます。この世界で例えるなら過去は変えることができませんが、未来を大きく変えることが出来ます」
ジルはイメージで分かりやすいようにポットに水をくんで高い位置からコップに水を注いだ。
「この流れが人の運命です。本当は下にいくつもの未来の結果ともいえるコップがいくつか用意されていて風や注ぐひとの多少の力の具合でどれかのコップに入ります。でも」
ポットからとても離れたテーブルの端に小さなコップを置いた。
「これがその人。それどころかこの世界が本来注がれるコップという未来の結果では絶対にあり得ない未来のコップがあれだと思ってください」
「そこで『特異点』の存在です」
ジルは、ポットの下に紙を半分に折ってそこに注ぐ。
紙の縁からこぼれ落ちる水もあるが大きな流れは、小さなコップに注がれる。
「これが形はともかく特異点という存在です」
「ジル?。そのコップに流れる途中で紙の途中でこぼれ落ちる水や、本来注がれる先のコップよりひとまわり小さなコップにも意味があるのね?」
「はい、特異点の行動には流れを変える。運命を変える力がある半面、、、代償がこれです」
「そう、、、。」
「僕が存在しているのは特異点による影響を受けたと思います。その代償が何だったのかはわかりませんが、特異点である父がいなくなったのには理由があった可能性があります」
「私は、会ってはいけないのね、、。」
「エマ様。僕は思うのです。この理論が正しければそれは違います。特異点は運命の変更と同時に行き先と行くための道を拡張しておけば問題ありません。器さえ用意すればこの世界に発現させることもできるということです。」
「どうすればそんことが出来るのかしら?」
「僕らは、既にしています。この世界の質を上げることです。特異点が存在しても何も影響がないぐらいに運命の本流をつくることです。」
そう言って先ほどと、同じようにコップに水を流す。
その流れる水の間に指を差し込む。水は指をよけながら下のコップに流れる落ちる。
「総量と受け止める未来というコップを大きくして特異点という存在が無いに等しくすればいいと?でも私が生きてる間にはむりそうね。世界はそんな急には変わらないもの」
「トランスゲートの出現により、この10年と少しでどれだけの人が長生きして人口が増えたと思います?」
‼️
「そう言うとこと!?」
「はい。人が生きる時間が長くなったということはそれだけの流れの勢いがあります。人口が増えたことで器と水の総量も10年まえより格段に増えました。
今なら特異点を出現させても問題はありません!」
「エマ様が基本概念を構築してくれたニューロゲートを応用しましょう。これから忙しくなります。」
「私は何をすれば?」
「特異点がこの世界に定着するにはそれだけの繋がりが必要です。その為には特異点である父が残した強い繋がりが必要です。母の夢には母とエマ様。それともう一人、大切な人が出てきました。その方を探して下さい」
「トンファお姉さまの事に間違いないわ。でも私だけの記憶では無理そうね。お母様に会わしてくれないかしら」
「そうですね。会うべきだと思います」
△▽△△
昼下がり。
南区のカフェにジルはニア母さんを連れて待ち合わせ場所にした。
予定の時間より10分ほど早く到着したが直ぐに1台の馬車が通りに停まった。馬車からエマさんとアスカが降りてきた。アスカは、何だか落ち込んでいるようだった。
「初めまして、ニアです。でも初めてでは無いのよね。とても昔から知ってる気がするわ」
「エマです。初めてなんて絶対に違うと確信が持てます。
アスカには昨日、話はしました。」
アスカは、母の後ろでジルを見つめていた。
「何か不満そうな顔をしてる人が一人いますが」
アスカにジルが挨拶がわりに問う。
「何でジルの妹なのよ。私の方がしっかりしてるんだからお姉さんが良かったわ」
なんだか兄妹だとわかっても実感がわかない。でも初めて会った時から感じていた感覚が兄妹であったことの理由としてはお互いに納得できた。
そんな二人の様子を見ながら母親達は、昔からの知り合いだったように話をしていた。
お互いの記憶の断片をつなぎあわせて点から線にかわっていく。
そしてトンファというもう一人の父が愛した女性がぼんやりとだが形作られていった。
その間、ジルとアスカは兄妹を意識しながらもとても不思議な感覚だった。
「アスカは、どうするの?お父さんに会えたら?」
「そうね。抱っこしてもらうかしら。あとね。頭をなでなでしてもらったり、それから、、。
あぁー。
一杯ありすぎて困るわね」
「それよりこれからどうするの?。家族だったのは受け入れられるわ。でもサリード家の親族がこのまま貧乏暮らしてのも」
「アスカ君。貧乏は貧乏だけどサリード家と比べたらだいたい皆、貧乏ってカテゴリーじゃないですか。とりあえず今のままでもいいのでは?」
「そうは、いかないわよ。もし本当にお父様が帰ってきたら一体どこに住むのよ。だれの妻のところで生活するのよ。ジルはお子さまだから判らないけど。男と女はベットでラブラブしないといけないんだからね」
話が聞こえてきたのか母親達は、アスカの言葉でえらく赤面していた。
「たしかに、そこはお父さんが帰って来る前に決めておかないとね。でも母さんの話だとトンファ姉さんていう別の母さんもいるみたい。その人も混ぜて話をしないといけないかも」
「そうね。じゃあそのトンファお母様も早く、探しましょう」
子供達だけでどんどんと話が進んで行くなか、ある程度のところまでトンファさんの状況が明らかになってきた。
父さんと育った村が一緒。
火竜が何か知っている可能性高い。
火竜の居場所に心当たりがある。
トンファさんも妊娠していたので
僕らにもう一人の兄妹がいる可能性が高い。
だいたいこのぐらいだった。
新しい発見は、トンファさんが妊娠していたと言うことだった。二人の記憶の絡み合いによりその確証を得たのだった。
「エマ様?、火竜の存在はどんなときに感じますか?」
「ジル。もうエマ様はいいわ。母と呼んで頂戴。もう家族なんだから」
え!、なんかえらいその気になってるのだけど
「じゃあ。私もニアお母様と呼ぶわ。それにトンファお母様とその妹か弟にも会いたいわ」
「これでアスカが一番年下だったらうける」
脇にグーパンチをもらう。
ち、余計な事を言ったぜ。
そして話は本題に戻る。
「火竜の事だったわね。そうね一時的にでも火竜の存在を忘れていたけど意識をするようになってからある程度、今いる場所はわかってきたわ。」
そう言って、山脈がそびえる中でもっとも高い位置にある世界一高い山『フォート』の頂を指さす。
「あそこに、いるわ。感じるの」
またまたど偉いところを指定してくる。
あそこだけは。トランスゲートがあってもたどり着くことが出来ない。マナ濃度が高すぎる事で座標が登録エラーになる、。




