2ー61 海辺
△▽△▽
ミュウが無事に御家の問題を解決する数日前のことである。
ジルは、前の日に皇帝の息子への倍返しを済ませ清々しい気分で登校した。すでにクラスでは、上級生に皇帝の息子がいたことを知らない者や噂好きの者たちが昨日の放送を聞いており、即日退学処分で学校を去っていることや。取り巻きの者達は1学年降学したことなどジルもまだ知らないことまで話に上がっていた。
そして、皇帝の息子と会話していた相手が誰だったのかは、一部の限られた人間しか知らないらしく。
あえて、自分ですと言うと余計な騒ぎになるのでやめておいた。
そんな中、クラスに休暇からアスカが帰ってきた。
彼女は、耳元で囁く
「ジル。やりすぎ、バカ。でもアイツは好きじゃなかったから問題ない」
何だか少し様子がまえよりも違う気がした。
「何かいいことでもあったの?」
アスカは、態度が表情に出てしまうタイプのようだ。サリード家のこの先の当主予定者としては、まだまだ子供である。
「え、何でわかるのよ。うふ。お母様と旅行してきたの」
そう言って、笑みがもれていた。
アスカの母か、、、自分の母の夢の記憶の事を思い出す。
とりあえずは、時期尚早かな。今は、別の問題が先だ。
「そうえいば、アスカがいない間に知り合いが増えたんだった」
「えーー。ジルのくせに普通に友達出来るとかありえないんですけど。私まだそれらしいのいないわよ。あんたは、例外」
「取り巻きの方々がいらっしゃるじゃないですか」
「何いってるのかしら、彼女らは勝手についてくるだけよ。で誰なのよ」
「同じクラスのルビィさん、寮の相部屋のタロウ先輩と偶然しりあったミュウ先輩」
アスカは、一度に3人も名前が上がったのでビックリしていた。
「あれ?、ジルって実家通いじゃなかったの。ついに変人すぎて家を追い出されたのかしら」
言い様。
「アスカさんのお母様が策略してくださったおかげで、有名人になってしまって、、。お陰様で一緒に住むにはご近所さんに迷惑がかかるので急遽、寮生活となりました。」
嫌みたっぷりに返答したのにアスカと言ったら。
「それは、しょうがないわね。自分で撒いた種だし。入学早々歴代最高速度で学校長を2度も椅子から滑り落とさせる珍自体を引き起こせる人材はそうはいないわよ」
うう、返す言葉がない。
「あんたの知り合いなら私が知らないわけには、いかないわ。昼休み先輩も呼んでランチをひらいてね。」
一体、どういう理論だそれは。まあ、それの方が今回は特にいいかもしれない。
あ、ルビィさんが登校してきた。さっそく、アスカにルビィを紹介する。ルビィは、さすがにサリード家のアスカの事は知っていた。そして帰宅後に両親から皇帝の息子が退学処分になったことを知り、昨日の今日なので事の真相をしたくて昨日の夜は寝付けなかったそうだ。
「ルビィさん、ルビィでいいかしら。私のこともアスカでいいわ」
どこまでもお山の大将だ。任せよう。
「ルビィは、どこの出身なの?」
そう言えば知らない。
ルビィは、少し困った様子だったが決心したのか教えてくれた。
「第三庇護国 ビーチの出身です」
その名前で思い出すことは、一つだった。
王国から見捨てられた旧王国領土である。過去100年もっとも近代都市として栄えアームズを積極的に利用し、堕落することなく1000年先を行く都市とまで言われた。だが20年以上前のアームズ消失によりその全てを失った。
王国は、混乱した勢力範囲のなかで唯一、切り捨てた国がそのビーチなのである。その時の小国の国王は、すがる思いで帝国へ支援を求めた。
帝国の内政も厳しい状況だったがギム皇帝は、帝国騎隊長のレジュダを中心とした帝国騎士を派遣し、消滅したインフラ整備と食料を提供したのだった。
国民は、帝国にたいする敵対心から一気に親国へと考えが変わりアームズ時代でも高度な技術力と研鑽を続けていた国民性から多くの優秀な人材を帝国へ送り出し。帝国内の復興を手助けして恩を返すことになった。
その為、国土は以前のような繁栄は息を潜めているが高い技術人材と功績を考慮され帝国領土に属さず。庇護という形で帝国に属する小国として認められていた。
ルビィは、父親からその時の帝国騎士の礼儀正しい振る舞いや行いを小さいころより伝えられていたため人一倍。帝国騎士に対する憧れ。いや崇拝に近いものがあった。特にレジュダ様の事は、神を語るような口ぶりである。
そんな父親を説得し、帝国学校への入学を決めたと言う。
うん。もともと生活のために志望した自分とは志が違いすぎる。
「それで、ビーチ国のお姫様とかだったら笑えるわね。」
アスカは、冗談のつもりで言ったようだったが
ルビィは、焦っていた。
「・・・・・・・・・・。もしかしてまじなの?」
「はい」
えーーーーーーーーー。‼️
どうなってる。サリード家の令嬢に、ビーチの姫。
平民の自分以外、まともなやつがいないじゃないか。
あ! タロウ先輩がいた。うん、よかった。よかった。
さっそく、昼休みにランチを開く。
タロウ先輩は、ミュウ先輩の事はクラスが違うが1年の時から顔は知っていたそうだ。無口でだれとも話さないが、たまに女子と仲良く話している姿をみかけていたらしい。
へー話せるんだぐらいにしか思わなかったそうだ。
去年は、皇帝の息子とつるむようになっていたので男友達がようやく出来たのかと安心していたようだったが。まさかイジメられていたとは知らなかったらしい。
「そりゃ、苦労したな。あの皇帝の息子ギバは、1年の時も気に入らないやつを自主退学まで追い込んだりやりたい放題だったからな。俺は関わらないようにしていた。すまねえ、気付いてやれなくて」
「いえ、弱い私がわるかったのです。まさかジルさんに会ったその日に救って頂けるとは想いもしませんでした。」
アスカは、その話をききながらジルに質問する。
「そうは、いっても専属の剣術とマナ操作の師範がついて教育されていたから強かったじゃないの?。ギバの性格は最低だけど実力は学校でも上位だったはず」
「ああ、そのことね。動く前に動けないようにした。入学前にエマ様のお仕事手伝っていたでしょ。その時に開発したおもちゃで遊んだだけ」
「それって何よ?」
「教えれません。帝国の軍最高機密保持の代物らしいから。ランクはトリプルSだって」
「やっぱり。朝からお母様が皇帝に呼ばれていた訳がわかったわ」
ん、そうかエマ様にもご迷惑をおかけしたのか。後であやまりにいかないと。
「それにしてもトリプルSランクなんて、過去に数度しか発行されてなかったわね。もう、時効だから教えてあげるけどこの帝国の5世代前の皇帝はじつは『女』だったのよ。いまだに皇帝=男だけど実力が群を抜いていたらしく。当時のサリード家の当主が男と偽って推薦したのよ。ほんと何でもありよね」
ほう、それは良いことを聞いた。上がOKなら下もいいではないか!
折角なので本題を切り出す。
「ミュウさん、いいかな? みんなには」
「、、、。はい、ジルさんの知り合いなら」
ルビィ以外は、男装したミュウは、美男子というカテゴリーだった。
そして、実は理由があって男の振りをしていた事を告げる。
意外に皆、驚いてはいなかった。1人を除いて
「まじかーーー」
タロウ先輩である。やはり面識が長いほど驚きを隠せないようだ。
「やっぱり、『オッパイ』とかあるんだよな」
おい、タロウ。あたりまえだろ。
すかさず、アスカがタロウに35度の、角度からマナ強化した右手ビンタをアゴにくらわせる。
タロウは、反応しきれず後ろの校舎まで吹っ飛ばされた。
おー。そんな、使い方もあるのか。壁際で気絶している先輩無念っす。
「バカが一名混ざっていたようね。デリカシーのない男は、ほっておいてそれを打ち明けるってことは、何かしてほしいわけね」
「さすが、次期次期サリード家の当主は違うな。話が早くていい。」
そして、ミュウが置かれてる立場を簡単に説明する。
一通り聞きおえるとアスカは、ミュウに聞く。
「だいたい事情は、わかったわ。でミュウ先輩は、家の事情は忘れたとして今、幸せ?」
わかりやすい直球だな。
ミュウは、常に家の事情というか親の期待に答えようと頑張ってきた。それを考え無いで自分の今。幸せかどうか。
けして幸せな状況とは言えない。イジメは無くなったが決して自分の苦しみが解消されたわけではない。
「幸せではありません。男として生きるのが辛いです」
それを聞いて安心したようにアスカは、言う。
「じゃあ、話は簡単ね。」
おい、どこをどうすれば簡単になるんだ?
「ジルがやった事に比べれば容易いことよ。女性として、生きたいミュウ先輩が女性として当主になれればすむ話じゃない」
「アスカさん?盟約でそれが禁止されてるから、ここに犠牲者がいるじゃないですが」
アスカは、ジルの顔を見つめて
「そんなルール変えればいいだけじゃない」
さすが、サリード家。言うことが違う。はい、庶民はルールに縛られますが彼女はそのルールを変えることを平然と言う。
「ミュウさんってバフェール領地よね。今じゃ上位領地じゃない。いい頃合いよね」
ん、政治が判らない。なにが都合がいいのだ?
それからアスカは、簡単な提案をする。
内容は、簡単だった。ジルへの皇帝の謝罪にあわせプランを実行。ジルは、事前に顔馴染みのじいちゃんにお願いをしておく。アスカは、サリード家当主であるバイアお爺様に話をしておく。これで全てが丸くおさまるそうだ。
ほう、難しいようで簡単なんだね。
学校が終わった所でアスカをつれて教会に向かう。あんな適当なアスカが緊張していた。オデじいちゃんに会うだけなのに。
いつもの裏口から階段を登る。
扉をノックして部屋にはいるといつものように椅子にオデじいちゃんが座って本を読んでいた。アスカは、扉の前でジルが呼んでくれるのを待っていた。
簡単に近況とジルがこれは!と思った学校の書庫館で借りてきた絵本をいくつか手渡すと、オデじいちゃんは、感動していた。
「オデじいちゃん。前話した友達もつれてきました」
「おお、そうじゃったか。待たせているのだろう。入ってもらいなさい」
扉をあけてアスカを迎えに行く。
「あーーー。緊張するわ。オディール様に会えるなんて」
アスカは、急に立ち振舞いがかわる。歩く姿といい、いつものアスカと違う。上品で可憐だ。部屋にはいると自己紹介をする。サリード家の娘としての彼女がそこにいた。
「おお、バイヤの孫だったか。大きくなったの。産まれた時に祝福して以来だ。そうかジルのエスコートをしていたのがアスカ嬢だったとは知らんじゃた。母さんは元気にしとるかい」
「はい、先日はじめて家族旅行をいたしました。」
アスカは、頬を赤らめながら答える。
「結構、結構。よき家族だ」
「で、話でもあるのじゃろ。申してみよ」
すげー。ただのじいちゃんかと、思っていたけど伊達に教皇じゃない。
「はい、ご相談がございましてここに参りました。」
そう言うとアスカは、今回の事案を教皇につたえる。
「うむ、実に筋が通っておる。アスカ、お前今年でいくつになる?」
「10歳になりました。」
「そうか、サリード家もまだまだ安泰のようだ。では、今日より3日後に動くことにしよう。あとは、向こうのご両親の問題ではあるが上手くできそうか?。人は難しき生き物じゃぞ」
「はい、私ができる最大を尽くします」
「そうか、そうか。なら良いだろう。ジルよ話が終わった所で久しぶりに旧時代の竜信教におけるヴォーティシズムについて語らんか?」
ジルは、特にこの後は予定がなかった。
アスカの方を向くとお好きにどうぞ。といった感じである。
「それでは、何処から起源といたしますか!」
そんな感じで語らいは続いた。アスカは、途中からソファーでうとうとし始め寝てしまったが気づくと朝になっていた。
オデじいちゃんは、疲れた様子もなく日頃の退屈を解消できたのか満足気である。
「また、来ますね。学校でもう一人紹介したい人がいるのでまた連れてきますね」
「ほう、次が本命のようじゃな。楽しみにしておこう」
そう言って、アスカを起こしてオデじいちゃんと別れを告げる。
△▽△
寮に戻ると校長からお呼びがかかった。
「悪いが、皇帝の所にいってくれ」
校長は、だいぶお疲れのようだった。大人って大変なんだな。
誰のせいだ!
そんな声が聞こえる。
気にしていては、先に進めない。
一旦、寮に向かう。お偉いさんに会う時はアスカがいると何かと便利だと言うことが判ってきた。
「アスカ、皇帝に呼ばれた」
「そう、頑張って」
ジルはつぶらな瞳でアスカをじーーーーーーーっと見つめる。
「・・・・・・・。
もう。わかったわよ。付いていけばいいんでしょ。」
「ありがとー」
△▽△
ギム皇帝は、執務室と呼ばれる場所で山積する書類に目を通していた。
「皇帝陛下、ジル及びそのご友人であるアスカ嬢がお見えになりました」
「ああ、ここで良い通してくれ」
ギム皇帝は、椅子から立ち上がると、扉を開ければすぐ隣の応接間へ移動する。
しばらくすると、数日前に会った少年と見慣れた顔の娘が部屋に通された。
「よく来てくれた。ご苦労、面をあげてくれ。今回の息子がしでかした事は、私の不徳の致す所だ親として謝罪しよう」
ジルは、皇帝を見つめて言う。
「皇帝陛下、発言を許可して頂いても宜しいでしょうか」
「許す」
「はい、ありがとうございます。今回の一件の被害者は主に私ではありません。1年近くにわたる嫌がらせと暴力を受けていた者がおります。もし、謝罪と言うのであればその者のほうが適任でございます。」
「そうか、して相手はだれだ。まさか後ろに控えているアスカ嬢ではなかろう」
「バフェール領 次期当主候補ミュウさんです」
そうか、あの急成長を遂げた海辺の領地の息子か、確かに今後の事を考慮すれば恩赦も必要だな。
「では、その者も呼べ」
「そうしたいのですが、此のままでは事情により皇帝に失礼が有るとの事で会わせる顔がないそうです」
こやつ、いつの間にか交渉を初めおったな。まあ乗ってやるか。
「単刀直入に申せ」
そこで、アスカが前に出て皇帝に一礼する。
「そこは私からお答えさせて頂きます」
そう言うとアスカは、バフェール領のミュウが男と偽る罪をおかしている事。旧世代の盟約の存在により強制されている事を説明した。
その上で
「皇帝陛下にお願いがあります。明日 3院会議をお開きくださいませ」
「しかし、私の一存では決まらぬぞ」
「既に話は通っております。ただし、騎士院だけは今回調整しておりません」
‼️
まだ、10歳程度の娘が皇帝以外への根回しが終わっていると申すのだ。
それにしても堅物の教皇をよく動かせたな。
「では、帝国騎士院は私の方で話しておこう。」
「ありがとうございます。」
△▽△▽
三院会議終了後の出来事。
ギム皇帝は、サリード家のバイヤに今回の一件が裏でお前のところの孫が全て動かしている事は理解できたが。独立独歩の教皇までも動かせて理由が知りたかった。
「して、どういう関係じゃ」
「皇帝が知らぬ事、私が知るわけないでしょう。と言いたいところですが教皇を動かしたのはあの少年のようです。」
「ほお、ジルとかいったな。秀才は聞いておる。今回の一件でとんでもない軍事兵器を私物化している事も」
「それは、娘のエマが申し訳ないことをした。」
「よいよい。何故か必要を感じるのだ彼にはあれが無いといけないと」
「皇帝も彼にご興味が?」
「さすがにこの国への影響があの歳であれだけのことが出来る。注視は必要だ。
それと同時にお前も感じないか? 変な懐かしさを」
「、、、、皇帝もでしたか。そうなのです。懐かしいという表現がもっとも合っております」
忙しい身の皇帝もバイヤも、一時の風に吹かれて気を休めるとまたそれぞれの場所へ向かった。




