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2ー56 温泉

△▽△▽


街道筋を馬車が走る。

馬車には、トロアとお母様とアスカの3人が乗っていた。

「お母様、嬉しくて胸がはち切れそうだわ。トロアさんも有り難う。まだお子さん小さいのに付き合って頂いて」


「いえ、奥様とお嬢様にお仕えする方も幸せですからお気遣いなく。それに息子のダリルは、レジュダ様の計らいで旦那のボムがお休みを頂き面倒をみております。ボムも息子と数日ベッタリいられると喜んでおりますので逆に感謝しております。」


「そうよ。あまり子供が身内に気を使わなくてもいいのよ。只でさえ、サリード家の建前で息が詰まる年頃だろうし。」


「え、お母様もそんな時があったのですか?」


「何をおっしゃいます。アスカ様ほど、立派なお嬢様は私お仕えしてからご存知あげません。エマ様といったら10代の頃はそれはそれは、、、、」


「トロア。それはアスカが生まれたら言わない約束だったでしょ」


「え、内緒があると知りたくなるわ。お母様がいないときに聞くわ。」


「アスカ様、口が滑っただけです。ご無理は言わないで下さいますと助かります。」


「お母様とトロアさんは本当に仲が宜しいですんね。私にもそんな方ができるかしら」


「アスカ様なら大丈夫です。とても社交的でお優しいではありませんか。あと数年すれば専属の従者がお付きになられます。アスカ様にお仕えできる幸せを感じる事でしょう」


「お母様、教えて下さい。子供の頃はどんなだったの?」


エマは、少し引き笑いしながらしょうがないわね。といった顔で話をしてくれた。

中でも「うろこ」にまつわる話は、いまのお母様からは想像つかなかった。とてもおてんばで活発な少女を思い浮かべた。


「お母様、もしかしてあの、いつも大事そうにしている白銀のあれも「うろこ」なのですか?」


「そうよ。あれは、、、。何故か思い出せないのだけどもとても大切な方から頂いたものなの。世界に1枚しか存在しない『ワイバーンの逆鱗』と呼ばれるものなのよ。」


こんな聡明な母が忘れるなどと言うことがあり得ない事である。それもそんな貴重な物を頂いておりながら。


「なんだか、不思議な事になってるみたいね。お母様は実は、竜だったりしてね。そしたら私も竜の娘ってことになるのかしら」


そんな私が知らない母の話を聞きながら、今回の旅行の目的地へ到着するのであった。トランスゲートで近くまで移動してから馬車に乗ったので遠出といえども時間は家を出てから半日も経ってはいない。


この数年で王国側との交流もだいぶ進んで人が行き交うようになっていた。

本日の宿泊場所は、王国側の温泉町であった。


看板には、いたるところに客引きのアピールが書かれていた。


その中に


『いまなら当宿ご利用で秘湯を巡る限定ツアーへ招待。』


「お母様、秘湯ですって。行ってみたいわ。今日はここに泊まるのかしら?」


「そうよ。ここの秘湯には昔。竜が温泉を浴びにきていたらしいわ。一度きてみたかったの」


「ああ、それで。話が繋がったわ。お母様も楽しみで嬉しいわ。」


3人は、もてなしを受けたあとに部屋に通される。窓からは美しい花をつけた木々が見える。風景もやはり異国である。珍しいといえばお外にお風呂があるのだ。


「お母様、トロアさん、とりあえず露天風呂なるものに行きましょうよ。」

「そうね。百聞は一見に如かず。さあ、いきましょう。」


女3人は。宿が用意した浴衣に着替えて浴場へ向かった。

お母様もトロアさんも体を流すと自由に解放感のすごいお風呂に浸かっている。

アスカは、お母様にとても久しぶりに体を洗ってもらった。


幸せすぎて、時が止まって欲しいと思った。でもここのお湯は少し熱い。すぐのぼせてしまいそうだ。


「お母様もトロアさんも、その胸が大きくていいですね。私も大きくなるかしら」

「あら、誰か好きな殿方でも出来たのかしら。恋話は好きよ。もしかして最近お友達になったあの子のことかしら」


赤く赤面するアスカがそこにいた。

「ジルは、ただの相方よ。友達、ともだちなの」


「そうなの、まんざらでもないと母は踏んでみたけど何だか。私もあの子はそれとも違うなにかありそうだわ。」


アスカが心配そうな表情をしている。


「大丈夫よ。さすがに、お母さんが娘の好きな子をとったりしないから」


「う、、お母様に意地悪。やいぁー。」

そう言って、アスカは、母に向かって手ですくったお湯をかける。


「アスカ、やったわね。おかえしよ」

同じようにエマもアスカにお返しする。


「奥様、お嬢様。あまりはしたないことは、おひか、ひゃぁーー」


エマとアスカはトロアにもお湯を水鉄砲のようにひっかける。


女3人は、笑顔で遊んでいた。



△▽△


秘湯は明日の午前中と言うことになった。

今日は、十分長湯しすぎてアスカがのぼせてしまったの。

「アスカ。大丈夫?」


お母様が優しく声をかけてくれる。膝枕をしてもらいながら、手に団扇をもって夕方の涼しい風をそよいでくれていた。


「ご飯は、ここのお部屋で食べることができるらしいわよ。一目を気にせず、着飾ることもしないでお食事が出来るなんて国では考えられないわね。」


「初めて、、、。普通じゃないのに普通の家族みたい」

アスカが何気なく一言漏らす。


そんなアスカの様子を見ながら母は微笑む。

「そうね。普通って難しいわね。でも私は、あなたの母で幸せよ」


「私もお母様の娘で幸せです。」


トロアは、そんな親子の風景を見ながら一緒に時を過ごせたことに感謝した。彼女にとってこの二人は、家族以上の存在であったからだ。忠義とはそう言うものだ。



△▽


「なんて、素敵なのかしら」


部屋に夕食の準備が出来たと案内がくると宿の使女が夕食をもって入ってきた。

コースメニューのように前菜から運ばれ。こちらの食事のペースにあわせて次の盆に料理がのせられてくる。


素材の味が楽しめるように献立されており、料理の後半にいくほど味付けが少しずつ濃くしているようだ。すごく考えられている。


「お腹一杯。幸せすぎて眠りたくない。お母様とお布団がお隣同士なんて初めてかしら」


「あなたがこんな小さい時は一緒に寝ていたわよ。大体、トロアでしたけど、、、。」


「いえいえ、奥様。たまにでも、エマ様とお休みになられている時のアスカ様は、とても安心して熟睡しておられました。」


「トロアには、いつも助けてもらっていたわね。アスカが熱を出した時なんて私ひどいもんだったわ。」


「そうでいらっしゃいましたね。あれだけ冷静で失敗を恐れないエマ様が動揺しているお姿は失礼ながらとても可愛らしかったのを覚えております。」


そんな感じで女同士、布団を川の字に並べて夜遅くまで語らうのであった。




△▽△▽


「あー。最近うろこの艶が落ちてきたかしら。」

醜い髭もなくなり、温泉に浸かる必要もなくなったこのワイバーンは、もう10年以上人里には降りてはいない。


竜でも上位種である彼女に老いはない。完全に気のせいである。

だがやることがないというのも苦痛である。


特にほかのワイバーンとは違い長い間、目的を持って生きてきた彼女ならなおさらである。

「久しぶりに行こうかしら。そうねちょっとだけなら人にも迷惑はないでしょう」

そう言うと彼女は、空へ羽ばたいていった。



△▽△


「お宿の露天風呂も最高でしたが、ここはまた違うわね」


「お母様、なぜ『白銀のうろこ』を身に付けて入浴されてるのですか?」


「だって、ここは竜が入浴していた秘湯なのよ。これで気分どころか。そのものじゃない」


お母様は無邪気に笑っていた。アスカは、そんな母を初めてみた。でもこれが本当の彼女であるきがした。


「エマ様、アスカ様。森の様子がなんだか変です。何か近付いてきている、、、。」

そう、トロアが言った矢先に空が暗くなる。


一瞬、嵐のような風が吹き上げると目の前に横たわるものがいた。

「ここは、私にまかせてお逃げください」


「無理よ。相手がその気ならすでに私たち死んでいたもの」


やっぱり、お母様は冷静だ。


いえ。ぜんぜん冷静ではないわ。


アスカは、お母様の視線がそのモノに釘付けになっているのに気づいく。


「これは、人の先客がいましたか。お騒がせしてすまない。少しだけ湯に浸からせてもらう」




「しゃべれるのですか」

アスカは思わず口に出してしまう。


「ああ、人の子か。お前はあの時の娘か。ずいぶん変わった育ちをしたな」


え、会った事あるんですか。全然わからない。


「君の父親には感謝しかないよ。そのお礼に上げたのがお前の母が身につけるその逆鱗だからな」


‼️


「私に父はいません。お母様も知りません。何か知ってるのですか?」

アスカは、急にいままで隠していた父への感情を押し殺すことが出来なかった。


その時点でエマも冷静に戻っていた。記憶にない大切な存在。

この逆鱗をくれた人の存在をしる竜が目の前いるわけだ。知りたいと思うのは当然である。


「私にも教えて頂けませんか。逆鱗をお授けになった者の事」


竜は、あくびをしながら人の親子を見つめる。

「まぁ来たばかりだ。時間はある話そうではないか」




△▽△▽


「ありがとうございました」


「よいよい、お前の父親にも宜しくつたえてくれ。あと母親は火竜のボウヤと契約しているようだ。寂しがってるからたまには会いにいってあげなさい」


そう言うと、ワイバーンは天高く飛び去っていった。



信じるか信じないか。かといって、ワイバーンが嘘をつく理由もない。


お母様は、ずっと考えている。何か想い当たることが有るのだろう。帰り道は、皆静かになっていた。


「秘湯は、どうでしたか?絶景でしたでしょ。」


「はい。とても」

アスカが宿の番頭さんに返す言葉も力はない。


明日には、帰らなければいけない。折角の楽しいはずの旅行がめちゃくちゃだ。

部屋に戻ると、お母様は椅子に座り遠くの景色を見つめていた。アスカが声をかけようとしたときトロアが止める。


「アスカ様、二人で少しお出かけいたしましょう。奥様にも少し時間が必要です。」


アスカは、納得しきれない気持ちを押さえてトロアと二人で宿場町の出店やお土産店をまわる。途中、見晴らしのいい場所に茶屋を構える店でお菓とお茶を頂くことにした。


「トロア、あんな竜に会わなければよかった。何なの全部、ぶち壊しじゃない」

溢れる感情を止めることができない。

「お嬢様、失礼いたします」


そんな彼女をトロアが抱き寄せる。

目を涙で一杯にして、嗚咽をもらす少女を優しく。


どのぐらいの時が経ったのだろう。

トロアは、何も言わない。ただ優しく抱き締めてくれている。


アスカは、すこし落ち付きをとりもどせてきた。

「トロア、もう大丈夫。多分、いま本当に戸惑っているのはお母様だわ。」

「私は、お母様に甘えたかっただけなの。それでも私はもう10歳なの。そして騎士見習いでもあるわ。私がお母様を守ってさしあげるわ。」



「アスカ様、親は子に守って貰うより甘えて貰ったほうが嬉しいものですよ。多分、今頃。奥様はアスカ様の事を心配なされていると思います。さぁ戻りましょう。」



トロアが言った通り、宿の玄関にお母様は立っていた。アスカの顔を見るなり駆け寄って強く抱き締めてくれた。


初めてだった。お母様が泣いていらしゃるのをみたのは。


「アスカ、ごめんね。あなたがいて本当に良かった」


アスカは、この経った2日だがお母様とのいままで広く海のよう感じていた距離が埋まっていく気がした。お互いにさらけ出す勇気が無かっただけなのかもしれない。


「お母様、私も協力するわ。だって私にとっても大事なことですもの」

「アスカ・・・・。」


その後は、また楽しい旅行の続きだった。どこかぎこちない感じもしたが照れみたいなものだ根っ子の部分では強く繋がっていることを感じる。


帰りの馬車は、トロアとボムさんの出会いや今でも家では新婚生活みたいな事がわかり二人でからかってトロアさんを赤面させて楽しんでいた。


あっという間の2泊3日の家族旅行が終わりを迎えた。




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