2ー47 祭る
△▽△▽
帝国に転送された村人達は、産まれて初めて外の世界を知る。見たこともない大きな建物。きらびやかな皇帝の住まう城内から城下町を眺めていた。
「お、あれがアルの会社だ。」
そう言って、ギム皇帝が指差す先にアル財団の本店が見える。
南区にひときわ目立つ建物があった。
大きな建物の屋根には、大きな鳥の彫刻がかざってあった。
おおー。と村人達から歓声が上がる。
自分たちの村から立派な人間が世に出たことを誇りに感じるのであった。それから数時間したところ、ポータルを使ってアルが戻ってきた。
彼が伝えた事実は、予想にしないものだった。
「あー、いいですか。村は無事です!
竜は嫁がペットに、しちゃいましたので無害です。
さぁ、戻りましょう」
‼️
歓声が上がる。
皆、もう戻れないと覚悟したところもあったので肩を寄せあい泣く者もいた。
そして空いた口が塞がらない男が一人いた。
ギム皇帝その人である。
えっと。
今、何と言いました?
うん。人間が竜をペットにしただと!
帝国は、竜信教である。竜で始まり竜で終わると、いっても過言ではない。畏怖する対象であり、美と力の象徴である。
そして、『火竜』とは帝国の中では特別な存在なのであった。
帝国の象徴である空中要塞バハムは、火竜の造形を模して作られた。帝国騎士の竜の刻印を紋様で定着させた魔道防具も火属性に統一されている。それは火竜の圧倒的な力を象徴している故である。それだけ信仰の対象になる竜なのだ。人間が竜と呼ぶ最高種は、この中位種の『火竜』の事なのだ。
それ以上の上位種は、人の前には姿を現さない。
間近で見て生きて帰るものなどいないからだ。
アルのような変人がワイバーンと会ったと言うが本来は、人が目にする事すらない存在だ。
唯一、限られた上位種を拝めるのは「刻印の試練」で試練の竜に会うぐらいだった。
あれは、竜というよりは神に近い。
そいう意味で空いた口が塞がらない。
一言でいえば帝国の神様をペットにしちゃいました。テヘ♪
ぐらいの軽いのりでアルは事の重大さなどいつもニノ次だ。
あーーー。皇帝やめたい。
あ、教皇に押し付けよう。
そうだよ。
だってあれを神化して信仰している長が対応する案件だよね。
うん、そうしよう。
私は引き続き田舎ライフを満喫しに行くのだ!
・・・・・・。
「おい、高官を呼べ。これを教皇へ渡す。」
そう言うと封書を高官にわたし、アル達とまた大岩の村に戻るのであった。
△▽△▽
その昔。
皇帝と呼ばれた男がいた。
今は、汗を流しながら畑を手入れしている。
男は、産まれた時から意識高い系だった。
それは、母の影響が強い。
母は息子を皇帝にするため、画策、暗殺、謀略、捏造。ありとあらゆる業を犯した。その期待を一身に背負い男は他の皇帝候補を退きその座についたのだった。
皇帝について数年後、アームズ消滅を迎える。先代の皇帝が「かの王」と盟約により王国から支給されらアームズにより国を支えていた。
それがある日突然消滅する。天災レベルの被害であった。一体、何が起きたのか。そしてこの先どうすればいいか。
皇帝は、安定した世界しか知らなかった。だが彼は意識高い系である。
圧倒的なカリスマ性が人々を導く事になる。
その当時、まだ20代ながら優秀な女騎士がいると先の帝国騎士隊長とサリード家のバイア殿が推薦してきた。彼女はレジュダと言った。当初は、本当に優秀か懐疑的であったが軍最高職の帝国騎士隊長を任せると、たちまちに手腕を発揮した。国中の内乱を統率の取れた軍で封じ込み。圧だけでなく、緩みも加えながら彼女を中心として過去の帝国騎士の威厳が復活したようだった。 そして、帝国の象徴であった空中要塞バハムの再建造を指示。解体はしていたが王国が裏切った時に備え、ほどほどにしておいた物だった。
所有はサリード家だが帝国としての再進には必要不可欠であった。
そして、アームズの使用をある程度制限していたこともあった為。数年で元の賑わいを見せるようになる。王国からも何万人規模で移民がきた。
優秀な者達は、自然と集まり帝国を活性化させていく。いつしか、人々から尊敬と畏怖される皇帝となっていた。
まるで同じ人で有りながら神にでもなったような気分であった。
そして、華々しい空中要塞バハムの出艦式。
盛大に国中が歓喜に沸いた。
数年後、男は神にでもなったとも思ったがそれが間違えであると知る。
人であり人ならざる力と知恵を持つ者達が表れたからだ。
今まで自分が一生懸命守ってきたものが何だったのか。
急にわからなくなった。一体、何を目指していたのかと、、、。
そして、訪れる安息の地。豊かな緑と、排斥のない優しい村人達。
「お、おっちゃん。ウマいの捕れたぞ。 一杯やってくか?」
今日も夕方から宴の誘いだ。
あぁーーー。人の幸せとはこの事だ。
沈みゆく夕陽を見ながら、男は悟るのであった。
△▽△▽
おい、あのオヤジ。夕陽みながら黄昏てやがる。
いい加減、帰れよ。
一体、何日居る気だ?。アルは、完全に村人その1に溶け込んだ男を見ながら眼を細める。
あれ、皇帝だったよな。
はい、あの人。皇帝です。
だれか連れ戻した方がいいのではないでしょうか!
帝国さん。一国の長があれでいいいのですか?
・・・・・・・!
あ、すごい良いこと思い付いた。
薄ら笑いを浮かべる青年が一人いた。
△▽
ローレンは、孫と遊んでいた。と言ってもまだ赤子だ。
ニコニコしたり泣いたりする様子を見ながらアルの小さい時と思いをダブらせる。
ニアさんは、とても優しい母親のようだ。トンファも見違えるように素敵な女性になっていた。それにエマさんは幼い頃にこの村に訪れたことがあるあの少女だというではないか。
人の繋がりとは実に不思議な縁だ。
そして、彼女のうろこ好きがなければ今頃、この第二の故郷を失う所であった。
これを運命といわずして何というのだろうか。
そう言えば、この孫の名前。
・・・・・・・・・。
知らないぞ!
「アル。そう言えば聞き忘れていたがこの子の名は何と言うのだ?」
アルは、ニコニコしながら答える。
「そうです。それが里帰りの本当の目的だったのであります!」
「ローレンお爺ちゃん。はい、命名してください」
‼️
ふむ、そう言うことだったか。
さて、何て名付けよう。
母親のニアさんを見る。
その髪は、薄い緑色をしている。そう言えば狼族の伝説があった。彼らは恐れ山脈にいるとされる民で薄い緑色の髪をしているとされていた。そしてその狼族を最後まで信仰の対象にした犬族に史上最強の武の王がいたことを思い出す。
彼の強さは人智を越えていたとされる。その名は確か、、、
『ジン』
獣族の長にして世界最強の男の名だ。
そうだ。それがいい。
「では、これはどうだ。『ジル』というのは?」
そして、ローレンはその名のルーツとなる話をする。
それを聞いていたニアが急に涙を流した。
ローレンには、まだ彼女の出生の秘密など明かしてはいなかった。
だが、偶然にも義理の父がニアの父の名を引用したことに感極まったのだった。
アルは、これはもう決定的だな。確信する。よし!
「では、この子の名前は『ジル』にします。」
その後、ローレンはニアの出生の秘密を知り仰天していた。
まさか、伝説の狼族である族長の娘と世界最強とうたわれた獣人族の王との間に産まれた娘だとは思いもしなかったからだ。
「おい、お爺ちゃんがカッコいい名前を付けてくれたぞ。ジルよかったな」
その後、トンファもエマもいい名前だと絶賛していた。
そう言えば、息子は、サリード家の養子だったな、しょうがない、後で人づてに聞いてバイヤさんがへこまないように伝えておかないと。
早速、お手紙を書いて皇帝の従者の方にバイヤさんへ渡して貰うようにお願いした。
最近の帝国側との連絡手段は通信機もあるが双方向だと話が長くなるので一方的なお手紙に限ることを学んでいた。
よしこれで、だいたい用事は済んだ。ゆっくりしよう。
アルは、ニアとお爺ちゃんにジルをまかせ外に繰り出す。
何もない村だと思っていたが方々を見てまわった結果。この村にはとても大切なものがあると改めて実感した。こんなにも人の繋がりが強いものなのだと。
アルがトンファの実家に向かう途中、大岩のある方を眺める。
明らかに間違ってる。
なんか石の上に居てはいけないものが日光浴をしているのだ。
赤い塊が彫像のように鎮座している。大岩はさながら土台と言ったところだ。
まぁアイツには、このあと働いてもらうから大目にみておくか。
エマとトンファのいる家に急いだ。
ローレンの家は、いまだに小屋の延長線上のような作りのままなので全員で住むことが出来ない。その点、トンファの実家は部屋数も少しはあり今はトンファの部屋でエマとトンファが寝起きしている。
トンファの実家でお茶を飲みながら。この後の予定を確認する。
『リスト』を確認する。
これには、皆で来る前にしたい事。やらなきゃいけない事を書き出したものだった。
だいたい埋まったようだが幾つかまだ残っていた。
その中にアルが後から追加した項目があった。
・「オッサンを帝国に無事に皇帝としてかえす」
である。
重要なのは、このただのオッサンを返しただけでは帝国も迷惑である。皇帝として返さないと意味がない。だが今はでは田舎ライフに自分の悟りを開き、あのカリスマ性は息を潜めている。まじでただのオッサンになってしまったのだ。
そこでだ、彼の威厳と尊厳を取り戻して帝国に返品する必要があった。
人は、過酷な運命と現実に直面した時に壮大な光景を目にするとスピリチュアルが戻るはずだ。
「トンファ議長!。そろそろ実行の頃合いかと感じます。エマ殿もどうでしょうか?」
「そうね。もう一月も経つのに帰る気配どころか定住の勢いを見せている。村人も分け隔てなく優しいから勘違いしてしまうかもしれない。特にもし、冬でも越えたらあの助け合いの連帯感に毒されて永遠に戻る事が叶わない体になってしまうわ」
エマは、外に出ると思念を送る。
一体、どんな原理なのかわからないが火竜との契約で離れていても意識が伝わるらしい。
バサバサと大きな翼をはためかせ火竜が飛んできた。
<ご主人さまが呼んでくれたデス。嬉しいデス。何かご用意デスか>
「ハム、例の計画を実行するは働き次第では、褒美も用意するわ」
<‼️>
大きなな頭を下にふり頷くと、
バハムの下2文字をもらって<ハム>と命名された火竜はニコニコして飛んでいった。
△▽△
自称元皇帝は、今日も畑仕事に精を出していた。
体を動かし、汗を流しすとは何とも生きている感じがする。あの書類が積まれた部屋に戻るなど考えられない。体を動かした後の食事も宮廷料理よりもずっと美味しく感じる。
秋の涼しい風が頬をかすめ火照った体を冷やし気持ちがいい。
足元に影が落ちる。頭上から何か降りてくるのか?。
ギムは空を見上げた。
ん、日を背に降りてくるものがあった。逆光で視界が狭まる。次の瞬間、彼は大鷲に捕らえられたネズミのように宙を舞う。一瞬で彼の眼下に村が広がる。
そして、恐れ山脈の方向へはばたいていく火竜の姿を村人が見ていた。
エマが飛び立っていく火竜を遠くに眺めながらアルに聞く。
「あれ、無事に到着するかしら」
「大丈夫じゃないかな。タフだし」
8日位の予定だ。事前に火竜の背中には鞍と食料、水などを積んである。それは快適な旅になるはずだ。これで彼も勘を取り戻すはずだ。




