2ー46 赤
△▽△
『転送実行』
アル達の姿は、一瞬で消える。
視界が反転する。さっきの場所と新しい場所の境を見ているような不思議な感じである。
空中要塞バハムの転送よりも、時間として感じる間が少しゆっくりと感じる。これは、転送シーケンスのアルゴリズムにアームズのエルフの少女から技術転用した判定シーケンスを加えているのと安全性を向上させることで処理の負荷が増えたためだ。
それでも気にするほどのこともないレベルではある。
一気に視界が広がる。
あー。ここだ!
アルはこの景色が好きだった。
大岩から望む村の風景。
「ただいま‼️」
大岩の前にある広場に村の皆が待っていた。
事前に、追加で行く日時を伝えてあったからかもしれない。
トンファの両親は泣いていた。
トンファも両親に抱きつき、一緒に泣いた。
アルは、ローレンお爺ちゃんもラムズさんの姿を探したが何故かいなかった。
疑問を感じながらもアーネムさんが一向を家まで案内してくれた。アルは、アーネムさんにお爺ちゃんがいないようだけと話をする。
そうした所、アーネムさんが申し訳無さそうに言った。
「昨日まで一緒に会うのを楽しみにしていたのだが、昨晩から森の様子がおかしくなったらしい。私にはよくわからないのだがローレンさんとラムズさんが朝一に森に行ったまま帰ってくる気配がないのだよ」
お爺ちゃんらしい。
うん、その心配性なおかげで自分が生きてこられた事を考えると、納得するのである。
じゃあ、取り敢えず待ちながら久しぶりの故郷を満喫しよう。
「アーネムさん、此方がギム皇帝です。ギム皇帝、この方が村の代表のアーネムさんです。」
そんな感じで、あとは二人で話していた。ギム皇帝は建前上は、謝罪と言うことで同行している。しかし、アーネムさんは、すでに3年も前の事だし。唯一、亡くなったのも村では珍しい偏屈な独り身の婆さんだけだったので特に恨みも無いらしい。
そうは言っても何も無しでギム皇帝も帰る訳には行かないため、連れてきた上級士官にあれこれと指示を出し保証やこの小国に属するこの村への帝国からの定常的な支援などアーネムさんが中々についていくのにやっとの内容で話を進めていた。
さすがに、付き合ってられないので席を外すと言う訳にもいかず、アーネムさんの補助役として付き合うことにした。
妻達と息子は、当然トンファの実家に行ってしまった。
それはそうだ。これはかなりつまらないからね。
元々、行くのが大変だから空中要塞バハムでの転送にあやかろうと思っていただけなので、もっと便利なトランスゲートがある今では、正直要らない人だった。
昼頃になるとアーネムさんも流石に疲れたのかそろそろ昼食にでもしましょうと近所の村人に頼んだ料理が振る舞われた。
ビックリしたことにいつの間にか村人のほとんどが初級ではあるがマナ操作が出来るようになっていたことだった。どうも異常気象の雨が2ヶ月近く続いた際にラムズさんが森で生きる民の術を村人に伝授したのがきっかけだったそうだ。
それと、ラムズさんが森の恵みをワンランク上の料理にするマナ調理法を教えてくれたらしく。もともと働き者の性格が多い為、みるみる上達して料理がマジ旨に変貌していた。
アーネムさん曰く、生き抜く為に味などどうでも言いと思っていた村人の意識もだいぶ変わったとの事だった。これなら長いしても楽しめそうだ。
そんな村の食事に一番、感動していたのは食には非常にうるさいご意見番『ギム』である。見た目は華やかではないが新鮮な食材の単純な美味しさと手間をかけた技術により生み出された料理に舌を巻いていた。
おい! こいつには不味い料理を出しとけよ。
無駄に長居する可能性が出てしまうではないか!
心の声がそう告げている。
そんな時だ。
地響きが聞こえる。
‼️
窓からちょうど山の斜面が見えたが大きな砂埃が立ち上がっていた。
アルは、アーネムさん達と外に飛び出した。
森がざわめいている。
砂埃が起きた方向に原因がある事は間違えない。
この森のことならトンファとアルが一番よく知っている。
トンファの実家に向かう。
トンファ達も何事かと外に出て様子をみていた。
「トンファと二人で様子を見てきたいと思います。トンファいい?」
トンファは、当然でしょ。っといた感じで頷いた。
エマとニアは、トンファの両親と腹違いだがアルに娘をやったので孫にあたる息子と一緒に待機してもらう事にした。
それに、ローレンお爺ちゃんとラムズさんがこれに関係していることは間違いない。
急いで、アルとトンファは森へ入っていった。
△▽△
「何だか森が騒がしい。ラムズさん悪いが一緒にお願いしたい」
「今日は、アルが来る日でしたね。私だけで見てきますから。ローレンさんは居てください」
そんな会話をしていたが責任感が強いローレンさんに押しきられる形で2人で様子を見に行く事になった。
森を1時間ほど進んだ所で、森がざわめいていた正体が判明する。
「これは、だいぶ不味いの」
ローレンは、一旦引き返すほうが良いと判断。ラムズもそれが最善と感じた。
「亜種ですか?」
ラムズは、ローレンに質問した。
「いや、その上だな。だいぶ前からこの山の主がおったが臆病でどうもアイツに乗っ取られたようだな」
アレに背を向けて、村の方向へ戻ろうと向きを変えたところでアレに変化が生じる。
ギュィーギュゥイー‼️
気付かれた。
不味いな。準備不足だった。
ローレンは、マナ操作で多少の足止め程度しかできない。ラムズも『飛獣』まで発動させるが相手のマナ質が異常に高いのか決定打にかけた。
まさかこれほどのモノとは予想外だった。
このまま村に戻る事は出来ない。
ラムズとローレンは、それぞれが別に移動し相手を撹乱させる事にした。
だがアレは、それに気付くと口を大きく開けて、とんでもない広範囲のブレスを吐いた。重い大気の爆風と言ったところか。ますますヤバい。
こりゃ、詰みに近いな。
△
そんな森での逃げの一手を続けていた。
時間は、もう2時間ほど経過したであろう。
アレは、さらに威力のあるブレスを吐く。流石に震動と視界も砂埃で非常に悪い。
ローレンとラムズは、互いの位置をなんとなく把握しつつ。なるべく村から遠ざけようとしたがアレは逆に、匂いで二人が来た方向。つまるところ村を目指し初めていた。
野生の生き物には、それほどの知性はない。だがこの種族だけは違う、上位種のワイバーンの下に中位種の水竜や地竜などの竜とその他の種が交わった亜種がいる。
そして今回のアレは中位種の中でも一番、災厄の『火竜』だった。まだ、子供なのか火袋が未発達で強烈なブレスを吐くが、炎を撒き散らせないのが救いだった。もし大人の個体であればすでに二人とも死んでいる。
なぜ、『火竜』が災厄かと言うとその生態からだった。
他の竜。竜の中でも上位のワイバーンとは力の差は歴然で、中位種とされる。それでも人の手には余る強大な力をもつ竜である。
上位種のワイバーンは、人の住む場所とは明確な線引きはないがお互いにあまり干渉しないように世界に生きてきた。だがこの中位種というのは、生存本能と中途半端な知性を兼ね備えた個体でその枠から外れる。急に現れると、数百年居座ったかと思うと急に姿を消したりもする。
脱皮を繰り返し、成体になると最終的に800年ぐらいで寿命をまっとうする。人はそれを倒すことはまず不可能であった。
そしてその中でもこの『火竜』の災厄とは、幼体から成体への最後の脱皮を行い火袋が完成したときに、練習なのか自慢なのか知らないが、あたり一面火の海にする。
そしてその場を去ればまだいいが、そこを死ぬまで自分の縄張りとする。
だから幼体が見つかるとその土地が先、千年近く使えなくなるため災厄なのである。
そんな時は、成体になる前になんとか追い払う方法を探すのが人という生き物である。そして唯一の決定打が発見された。その方法にはそれなりの準備がいるため。ローレン達は引き返すことにしたのだった。
だがこう見つかってしまえばかなり不味い状況である。
その上、縄張りにしようとあの火竜はここに来たのにすでに近くに人の気配を感じて動き始めた。アレの行動はシンプルだ。邪魔なものは消す。
進行を止めるというより、ちょっかいを出して気をそらせるのがやっとだった。
これで幼体だ。とんでもない化け物である。
ローレンは、『竜の刻印』を発動させ土壁を作り出す。一瞬身動きを取れなくなった所でラムズが渾身の一撃を加えるが火竜は、少し吹き飛ばされるだけで目に見えるダメージはない。まるで虫でも払うかのようにブレスで反撃する。
ラムズも冷や汗をかく。色々な強者と手合わせしてきたがここまで歯のたたない相手は初めてだった。連続してブレスを吐く火竜の攻撃は、だんだん相手の動きに合わせて正確になっていく。学習していると思われる。
少しずつ戦況は、悪化しているのがわかる。
その時きだった。後ろから高濃度のマナの気配を感じる。
「アルか?」
「ローレンお爺ちゃん!。ぶっぱなします。離れてください!」
アルは、竜の刻印、いや『アルの刻印』を発動させ火竜目掛けて大量の水のようなものを発射した。火竜は、避けようとする。火竜も身の危険を感じたのだ。だが、アルの放った水はただの水ではない。絶対零度の超低温の凍らない水だった。
火竜は、脚の一部に被弾する。
あれだけ攻撃を無効化していた火竜が動きをとめる。脚が氷つき動かなくなったのである。
火竜は、産まれて初めて自分の進行を止めた存在を知る。
恐怖と言えよう。自分が強者であり続けた事しか知らないからだ。
そして生存本能と言える行動を取る。自らの脚を引きちぎり飛翔した。
別の中位種に飛竜という個体が、存在するがそれ以外の中位種で飛翔できる個体は確認されていなかった。起源は上位種であるワイバーンなので飛べないと決めつけていたのは人の方かもしれない。
そして。成体にならないと吐く事の出来ないはずの炎が口元から漏れ出す。
本能が、潜在的な能力を無理矢理でも引き出す。
もう、人の手で止められるような存在ではなくなってしまった。
アルがもう一度。絶対零度の水を放つが避ける事なく炎のブレスで相殺する。
あの一撃の重要性をもう少し理解して、1発で決めていたら良かったかもしれないが後の祭である。火竜は、完全にアルを自分の敵として認識する。
そして、今では倒せない相手でないと。
△▽△
ニアは、子供を抱えていた。エマは森の上空を見つめる。
その先には、書物で読んだことのある伝説の『火竜』と思われる竜が空を飛翔しながら炎のブレスを吐いていた。
だが、価値観とはこうも人により異なるものなのだ。
ニアは、心配そうにエマへ尋ねる。
「アルとトンファ大丈夫かしら、、、、」
だが、エマはそんな事1mmも考えてなかった。
彼女の目はあの、美しい「深紅の赤い『うろこ』」に釘付けになっていた。
そんな時、トンファが一人、戻ってきた。
「村の皆を集めて!。アル達が足止めしている間に帝国へ皆を一端、転送します。」
△▽
アーネム達、村人は今日はアルの歓迎会の為、広場で作業をしていた。外に出払っていたものがいなかったので迅速に事を進める事ができた。ギム皇帝も着たばかりで残念そうだったが流石に避難しないわけにはいかない状況は理解した。
全員が避難に備え、もうこの村を捨てなければならないかもしれない事実を知り、思い出の品などを手に広場に集合し始めた頃。
一人だけ、身籠った女が違う行動をとり初めていた。
トンファの実家でも避難準備を進めるなか。
一部屋借りるわ。とエマが部屋に一人で入ったきり出てこない。
ニアとトンファがそろそろ行かないと間に合わなくなるので部屋の扉越しにエマを呼ぶ。
「エマ、そろそろ行くよ!」
中から変な返答がかえってくる。
「で、出来た!」
おい!。逃げるって言ってるのに何つくったんだ!
と二人とも心の声は一緒である。
そして、部屋から出てきた女性はこの世の者とは思えない格好をしていた。
トンファは、遠い過去の記憶に似たような彼女の姿を思い出す。
‼️
「えーーーまーーーー!」
トンファが久しぶりに、飽きれている。
ニアは、感性もぶっ飛んでる為。
「エマさん可愛い!」
どこをどう見たらそうなるか。常人の感性ではわからない。
全身、『うろこ』女がそこに立っていた。
そして額には、装飾品にしたはずの『ワイバーンの逆鱗』が王冠のように輝いている。
「私は、行けねばなりません。誰も私を止める権利などないのです。
トンファねぇ様、ニアねぇ様。私の目をみて!」
あ、これは無理だ!。死んでも無理だ。
「じゃあ、ちゃんと生きて帰ってくるのよ。危なくなったら必ずポータルを使いなさい」
トンファは諦めて両親とニア達をつれて広場にむかった。
ギム皇帝が広場で待っていた。
「あれ、エマ嬢は?」
トンファは答える。
「答えは、あれです!」
彼女は、空を飛翔する深紅の竜を指差す。
いや『うろこ』を指差す。
・・・・・・・・・・・・・。
「無念だ。サリード家もここで終わりか」
皇帝達は、残念そうに転送を開始する。
ああ、帰ってからエマの父親であるバイヤに何て言おう、、、。
せっかく、過酷労働から解放されたと思ったらたった半日でこれだ、、。
心労で倒れそう。
皇帝の心の声が響く。
△▽△▽
火竜は、自分が圧倒的な強者であることを再確認する。負けない。ここの土地は他と違う。マナに溢れ力が湧いてくる。なぜこれだけの土地に今まで竜が住み着かなかったのか戦闘中だが疑問が湧いてきた。
そう思った矢先に火竜は、その答えを認識してしまう。
先ほど、人間から放たれた攻撃で感じた初めての恐怖の比では無い。本能がヤバいと告げる。
自分が一番の強者だと自覚した矢先に、そうでは無いと知る。
近くに見える村から異常な視線を感じたのである。
愛情?執念?、いやそんなレベルのマナ熱ではない。
心臓が鼓動しすぎて焼けそうだ。不味い。これは不味い。
本能で活性化していた火竜の幼体は、急激に力を失う。先ほどまで飛翔しブレスを吐けていたのに精神的な枷をはめられたように大地へ落下する。
村の近くに落ちた火竜は、体の身動きが取れなくなっていた。本能でリミッターを解除していた状態だ。冷静さを取り戻すとその反動が体を襲っていた。
そして確実に足音が近づく。
声が聴こえる。
『うろこ』『深紅の赤うろこ』
足音が止まる。火竜は目を見開く。
そこに立っていたのは、ワイバーンの少女であった。
全身、あらゆる亜種の竜の逆鱗を身にまとい。その額には『ワイバーンの逆鱗』が飾られている。こんな人間に勝つ事など、出来ない。
皆、ここのマナに引き寄せられ罠とも知らずに彼女に殺されたのだ!。
火竜はようやく自分の過ちに気付くと、涙をながして彼女に懇願した。
しゃべる事は出来ないが意識は伝わる。
彼女は、指差す。
何かをよこせと。
火竜が指をさされた場所に『逆鱗』があった。
これで、許してくれると!
あー。なんて慈悲深い御方なのだ。
よく見ると彼女はとても美しかった。
竜は中位種ともなれば異性を感じ「恋」をする生き物なのだ。
火竜は、エマに恋をしてしまった。
こんなにも美しい女性の下僕になりたい!。
火竜は、本能のまま腹這いになり従者の契約を申請する。
竜には、一種の特殊なマナでの契約が出来た。本来は、豊かな土地などで竜同士が無用な縄張り争いで個体数を減らさないように主従関係を結び主とした竜に従うことでその土地で一緒に生きる権利をもつためのものだった。その効力は世界の理で絶対的なものとして存在し、主が死ねと言えば死を選ぶほどの効力があった。
エマは、逆鱗が欲しかっただけだが竜がどうしても契約したいと懇願するので『うろこ』をくれるなら契約してあげると快諾してしまうのだった。
△▽△
アルとローレン、ラムズが急に飛翔していた竜が落下していくのを確認し、体制を整えて落ちた場所にむかうと。アルは目を疑う。
自分の嫁の一人が全身うろこ姿で火竜をなでなでしているのだった。
そりゃ、「うろこ」の塊だからってそれ無くない?
おい、うちの嫁にまともな奴はいないのか!
・・・・・・・・・・。
いやいや、凄いじゃないか。どこの世の中に竜を手なずける嫁がいる!
さすが俺の嫁!




