2ー44 闇
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春も終わり、初夏が訪れる。
帝都は、初夏は雨の日が多い。
それが恵みとなり、夏場に作物が一気に育つ。
だが、この年は雨が降らなかった。
春先に一気に青葉が芽をふき深緑の季節だったが、まるで秋口のように枯れ始めていた。
冬に蓄えた貯蓄で市場はやりくりするため。物価が異常に高騰していた。そして異常気象は帝国だけでなく、王国側は逆に雨が続き田畑の土が流され。作物は日照不足で根が腐った。
このままあと数ヶ月も続けば、冬を越すどころか日々の糧さえない状態が予想された。
帝国の皇帝は、非常事態を発令した。
流通する作物や穀物、肉などを一手に買取り戦時下と同じ体制で民に分配/配給をする形をとるしか打つ手がなくなる。
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トンファとエマは、心配しながらニアの様子を看ていた。
ニアのお腹は、もうかなり大きくなっていたが予定日を過ぎてもまだ産まれる気配がなかった。その上、数日前からニアは高熱を出して母子共に危険な状態であると医者に告げられていた。
ニアは、何とか意識を保っているがたまに昏睡状態に落ちる時があり。
今晩、アルが決断をしなければならない状況にまで事態が悪化していた。
全てが順調だった。
どこでこんな事に。
先月までは、もうすぐ産まれる子供の事で皆で育児用品を揃えたり。赤ん坊に着せる服を選んだりと幸せの絶頂にいた。
なぜ、こんなにも苦しそうなニアに何も出来ない自分が無力であった。
もし、運命を変える力を持ってたとしたら人の親は、冷静でいられるのだろうか。
エマがアルを別室に呼ぶ。
「アルならエマを助けてあげられる力があるんでしょ?。私に見せてくれたあの力ならきっと助けられると思うの」
アルは、それが出来るならすでにそうしている。
「・・・・・・・・。」
「アル?。もしかして無理な理由でもあるの?」
アルが守るべき者。最も大切な家族。
「代償が必要。運命にあがらう代償が、、、、、。」
残された時間がほとんど無いことを理解していた。
「ほんの少しだけ、一人にさせてほしい」
「それは、相談も出来ない事なの?」
「それを知るだけで、エマ自身にもどんな影響があるかわからない。だから言えない」
アルの悲痛な表情からエマもこれ以上の事を聞くのはやめた。
エマが部屋を出てくと、アルはアームズを起動する。
「システムコール」
意識を仮眠状態にして、エルフの少女に会いに行く。
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今日は、素直に彼女は椅子に座っていた。
何もない世界にただ一人。
アルは少女に質問した。
「観測しているのでしょ」
「それは、2つの事ですか?
一つは、あなたの大切なものが失われようとしている事。
一つは、それ以外の大切なものが失われようとしている事。」
やはり、そうか。
つまりこれは選択だった。
存在しないはずの運命がこの世に誕生しようとしている。
世界の不可逆的性質により周りに影響が出たと言う事だ。
これからもこれが続くのか。
これが最後なのかそれはわからない。
「前にも言いましたが特異点とは、存在し得ない存在です。その存在から産まれるものは世界にとっては特異点でなくても異物なのです。」
「世界に、異物が存在する為にはそれなりのスペースが必要になります。あなたに罪は、ありません。特異点が拒絶すれば選ばれなかった方が消滅、または統合されます。」
アルは、どちらかを選ばないといけなかった。力を使い代償をこのタイミングで支払ったとしてもそう遠くないうちに更なる代償を要求されることが目に見えていた。
「君ならどうします。」
「それを聞いて、あなたが答えを変えるとは思えませんが一つだけ忠告いたします」
「あと、どれだけ苦しむ覚悟がおありですか?。あなたの存在が周りを不幸にしていると、自責の念を感じるようであれば辞めておいたほうが宜しいかと思います。」
「罪の意識か。存在そのものが問題しか生まない点においては、あなたも一緒ですね。」
「その通りです。そういう意味では、あなたのお祖父様にあたる方は、自責としましたが何の解決にもならず。その上、世界にあなたという特異点を生み出したわけです。皮肉ですね」
「ただ、救いとするなら今までも別に特異点の存在がなかったわけではありません。世界の有り様が変化するには、特異点も含んで世界と定義されます。迷う必要などないと言うことです。」
「二人とも救う方法は?」
「あくまでも、彼女自身の運の悪さが今回の事態を招いています。それは、世界のバランスとは関係ありません。ただ、彼女が生きるか死ぬかで残されるものの運命も大きく変わる可能性は高いです。この先の選択にあたえる精神的影響が非常に大きいと予測されます。
特にあなたは、特異点で有るため。選択の一つを大きく間違えると世界の崩壊もありえます。」
「世界保護の為、適当と判断します。今回は、個人を対象に最小限度のリミット解除を許可します。」
『オーバーリミット解除。シングルシーケンス承認 ルート1/1を実行します。』
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アルは目が覚める。
時間はすでに1時間ほど経過していた。
いそいで、ニアの元へ向かう。
トンファとエマが彼女の手を握りしめていた。
ニアは、ぐったりとしているが意識は、あるようだ。
アルの様子をみて二人は、何かを感じるとる。
「あなたにまかせるわ」
そう言うと二人は、ニアから離れる。
アルは意識を集中する。
『覚醒』
アルは、竜の刻印 『ハイアルの刻印』を起動する。
その瞬間、アルの体は宙に浮く。マナの粒子が彼の周りで発現し光の粒が取り巻く。
アルは、ニアをマナで包み込む。
二つのマナを感じる。その両方がとても弱々しく発光していた。
お互いに何とか存在を維持するために助け合うように輝いていた。
マナの供給を開始する。
最小限度を意識しながら。この行為が世界の理から外れていようともアルは二人を優先する。それがどんな罪なき人を苦しめようともアルは決断した。
アルは、ニアの子宮に手を沈める。そこに我が子を感じる。マナで包みこみ世界に引き出す。
高濃度のマナに包まれ赤子が産まれた。
普通には、産まれない子供がこの世に誕生する。
この子もまた罪なき業を背負うのだろうとアルは、感じた。
運命にあがらえ、生きろ!
部屋は、静まり変える。
トンファとエマは、息をのんでその光景をみていた。
ニアの腕には、小さな赤子が抱かれていた。
「おぎゃー!ぉぎゃー!」
元気よく、赤子が泣いた。
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アルは、少しでも被害を少なくするために直ぐに行動を開始しなければならなかった。
この子が事実を知り得た時に可能なかぎり苦しまないように、、、。
アルは、ギム皇帝に至急連絡をする。
当然、真実は伏せなければならない。
この混乱を生み出したのが自分の子供だと気付かれる訳にはいかない。だがその責任は自分にある。できる限りの事はする。全ては子供の為にかもしれない。ただの偽善かもしれない。でも罪なき人が死ぬのを見過ごすほどアルは、薄情でいるつもりもなかった。
△▽
「この天災を前に人が出来る術があると申すのか?」
「全てを救う事は難しいかもしれません。でもかなりの人を救うことは可能です。
その為には、帝国だけでなく王国の協力も必要です。」
アルは、皇帝に説明する。
・・・・・・・・・・。
「確かにそれならば現実的に可能そうだが。あの浮上もできない空中要塞バハムをどうやって王国まで運ぶつもりだ?」
アルには秘策があった。
確かに機能を損傷した空中要塞バハムは、物理的に早馬を飛ばしても1年以上かかる王国まで移動させるには、数十年の時を要する。
だが、物理干渉による転移の範囲設定は生きていた。
だがメインコアの損傷が激しく単基では不可能である。
そこで、現存する空中要塞バハムを使うことを提案したのだ。
つまりこうだ。
破損したメインコアと現存するメインコアを転移交換させ、一旦浮上。
その後、王国の所定の場所に転移。その間に転移技術の応用で空間結合を行う。
そうすることで帝国と王国の大気バランスを平準化させる。
なぜ、王国側に既存の空中要塞バハムを直接転移させないで1ステップ挟む必要があるかというと破損した空中要塞バハムの現在位置が大気バランスを平準化する上で適さないからだ。
また1基は帝国と王国を阻む恐れ山脈の頂上に配置する必要があった。
これにより今の事象は解決できる。
だが本質的な問題は、アルが伏せている事である。
この事象は、あくまでも世界の理から始まる。
この解決方法は、器の中に必要な領域を確保するか。器を大きくするしかない。
つまり。今回の事象を、一時的に防いだとしてもバランスが取れるまでこの天災のような事象が続く。今の天災は、器の中に必要な領域を確保するための簡易手段が行使されている。
自然にあふれでるものを捨てるということだ。
器を短期間で増やす方法ない。だが残された手段として、とても難しいがアルには考えがあった。
それは、ひとつひとつの繋がりと質の問題なのである。
つまり、水は器の深さ以上には維持することは出来ないが、これが砂になれば山盛りに器に盛ることが可能なのだ。
計算上では夏の終わりまでに完了しないと次の事象が起こる。
アルは、行動を開始する。
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トンファには、ニアと赤子お願いする。
子供が産まれたのにアルは、家に帰ることも出来ないほどやることが多かった。
エマはトンファに代償の話をしていた。
詳しくは、エマにもわからないとの事だったがトンファもエマと一緒にあの光景を見ていた一人だった。それが何の代償もなく出来る事だとは思えなかったのも事実である。
それでアルがトンファにニアを頼むとお願いした意味も理由がある事を感じとった。
エマには、空中要塞バハムの転移に関する全権を依頼した。
彼女ならそれを、完璧にこなせると信じた。
アルは、もう一つの目的を達成する必要がありそれを実現する為に奔走することになる。
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アル財閥のレオ代表がアルに呼ばれた。
アルが示したロードマップはとんでもないものだった。
「今より、2ヶ月以内を目標に大陸全土に事業を展開する。」
「無理だと思うか、それとも知恵を絞るか決めてくれ。不可能ではないと思う」
レオは、瞬時に頭の中で計算する。
自分ならどうするか。
レオは、最大の課題がある事に直面する。
「あの恐れ山脈をどうしましょうか?」
アルは、ニヤりと笑みを浮かべる。
よく一瞬でそこに気がついたと。
「やはり、見込んだ事だけはある。それは既に考えてあるからそれが達成できる事を前提に準備してほしい。従業員は、いまの100倍に増やしてもらってかまわない。帝国、王国、その他の小国、問わずにだ。」
すぐさま、レオは部屋を後にして行動を開始した。
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世界のバランスとは、根底の原則から成り立つ。アームズの失敗はルールを無視して行使したことにある。だがそのルールに乗っ取り変革した場合はこの限りではない。
人の本質とは考え行動することにある。そして大多数のベクトルを合わせることこそが今回の最大の成果につながる。
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エマは、アルから基本システムの概念と式を既に聞いていた。
間違えなく、彼女以外に現在それを理解できるものはいないであろう。
説明などしない。1ヶ月以内に構築しなければならなかった。
彼女は、指示を飛ばす。
そして、約束の1ヶ月後。
彼女は恐れ山脈の頂にいた。
最後の1基を設置し終えたのである。
そして、転移でメインコアごと帝国に設置した空中要塞バハムに転移交換すると彼女は最後のコードを打ち込む。
「システムコード: 自由への架け橋」
この臭い名称はアルが名付けた。
帝国、恐れ山脈の頂、王国のそれぞれに設置された空中要塞バハムの周囲空間が色を失う。
黒でも白でもない。透明でもない。認識できるが視認できない空間に変わる。
2日後には、帝国の日照りも王国の雨も解決し例年の天候に戻るのであった。
それと、同時にアルの考案したシステムが起動する。
複数点の座標転移である。
つまり、1対多数への転移ゲートの確立を実現したのである。
原点座標を中心として無限に転移可能なのである。
その原点座標こそが恐れ山脈の頂きであった。
これにより、物流革新が起こる。
トランスゲートは、各主要都市だけでなく町や村単位まで細かく指定された。
そして、このゲートの権利は、アル財団が保有することになる。
当然、空中要塞バハムを利用しているので帝国がその権利を主張してもおかしくない状況だが制御原理がわからない状況で管理する危険性の方があまりにリスクが大きい為。貸出無期限のライセンス契約とした。
はっきり言えば帝国とアル自身との契約に等しい。
その上で、アルは自分の目的を実行する。
「レオ。進行率はどのぐらいだ?」
「およそ9割です。あとはやって見ないことにはわかりません」
「よくこの短期間にそこまで準備できたな」
レオは、誇らしげに先を見つめた。
そこには、大量の『ハイアルアル鳥』がいたのだった。




