1ー37 特異点
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この日、帝国は歓喜に湧いた。急に空が虹色に反転し虹の雪が降った。長らく皇帝陛下が留守にし、帰還してすぐに起きたこの幻想的な光景は、語り継がれる伝説そのものであったからだ。初代皇帝が竜の背にのり国をつくったのと同じく。今の皇帝が竜神の導きにより人々に加護を与えたと。
この雪は、各地で奇跡を起こしていた。
目の見えぬ者に光をあたえ、歩けぬ者に大地を歩ませる力を与えた。祝福の光は、弱き民の救いとなる。
皇帝は、それが自分がしたことではない事に気付いていた。時を同じく連れてきた少年がしたことではないかと、薄々感づいていた。
バイヤが事の真相を知っているようだが、私にも言えないとはそれなりの理由が有りそうな為、確かめる必要は感じなかった。たとえ、思った通りだとしても人の身であるかぎり、どうにかなる事象ではないからだ。
皇帝は、事を急ぐ必要は無いと考えた。この世界の先に何があるのか彼は傍観する事にしたのだ。
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アル達が寝室で寝静まる頃。
アルの持つ『アームズ』が静かに起動をはじめていた。
『・・・・・・・・
起動シーケンス開始
テクニカル自動シーケンスに移行
現在座標補正、星座標により現在時刻補正
システムの再起動、、、、。
サブオペレーター起動
観測モードに移行します。
観測完了。
保護対象者の生存を確認
ルート1/1の成功を確認
『対象者の神経記憶にアクセスしますか』
同調シーケンス起動。ルート確認
同調開始します。
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アルは、夢をみていた。
何もない真っ白な空間と何処までも続く草原の上に立つ。
そこには、2つの椅子とテーブルが置いてある。
一つの椅子には、見たことないエルフの少女が座っていた。
彼女は、こちらを見ると笑みを浮かべて、席に座るようにいった。
「無事に成人したようね」
「私は、彼女であり、また彼女の一部でもあり、またそのいずれでもない者」
彼女は、マザーの分身であると言う。
アルは、これが夢の中であると明確に理解できた。
だが、それが夢と現実の境である気もした。
「僕に何か御用ですか?」
アルは、突然の来訪者に疑問をぶつける。
「正常な判断ね。
確かに目的をしらないと不安だものね。」
彼女は、目の前に別の空間を投影する。
「私は、頼まれて貴方が成人することの出来るルートを選択した。
それは、貴方の本来の運命とはことなる低確率の現象なの。
ただし、けして交わることのないもう一つの『境』の影響をうけた事で
貴方は世界の理から少し外れる存在となってしまったようです。
私達が選択したルートでも予想していなかった運命を進んでいるようで
この場合、1/1ルートから外れた1/0ルートと呼んだほうが正しい。
つまり、絶対存在しないはずの運命なのです。
アルは判らないが理解できる部分もあった。
「『アームズ』と『竜の刻印』のことですか」
エルフの少女は、少し考えるような表情になる。
「正しくあり、ある意味正しくないわ。確かに『境』である2つが要因の一つではありますが、それだけではないようです。複数の次元が交差したことで貴方自身が別の『境』を生み出し、結果的に世界に干渉しているようです。」
「私は、貴方を観測できますが名前をつけるとしたら『特異点』と呼ぶでしょうね」
エルフの少女は続ける。
「特異点は、周りの者がこの世界の理から外れるような影響を及ぼします。結果的に不可逆的な力が世界に働き、崩壊の恐れもあります。そこで提案になります」
「貴方はそれほどまだその影響を顕在化させない行いをしている様ですので今ならまだ幾つものルートが存在します。だが貴方が特異点である限り周りのものを巻き込む可能性があります。
貴方に一種のリミッターを設ける事を提案します。
特異点は、観測点でも同時にあります。
今まで、過去の遺物に関して知らないオーバーテクノロジーを理解できませんでしたか?
それは、過去の残思念を観測することができるからです。
貴方にとって確定した過去と現在は同じ座標に存在するために起こる現象です。
これに関しては、制限不可能です。
過去の再現は、過去を繰り返すだけなので世界の崩壊は、ありません。
ただ、繰り返すと言うことは古代の人々と同じ文明崩壊を再現することになりますので過剰な使用は好ましくはありません。よく考え行動をすることをおすすめします。
リミッターを設けるのは、マナと呼ばれる干渉エネルギーの利用に関してになります。これに精神的なプロテクトを設けることで、過剰な世界への干渉を停止します。
貴方の特異点からこの世界へのアクセスは、他の『境』を利用することにより発現しています。つまり貴方が今、利用可能な『境』である『竜の刻印』に制限をかける事の提案になります。
その制限により、大規模な世界干渉はできなくなります。
『覚醒』と呼ばれる機能を停止します。
このリミッターを解除する方法は、貴方の精神的支柱である記憶との等価交換となります。
特異点を消失させることは、私にもできません。
よって、それなりの覚悟で世界に干渉することを枷とします。
いかかでしょうか?」
アルは、考えたが最善に選択肢など最初から一つなのでしょ?
そもそもアームズさえなければこんな事になっていないのに先に自分への制限か。
「思考がオンラインになっています。貴方の考えは、ごもっともです」
「まず、このアームズの抹消方法ですが原理的に幾つかの問題がありそれを解放する必要があります。
言葉では、理解しにくいので情報を直接送ります。」
アルは、理解する。
「結構、厳しい道のりですね」
「はい、お分かりの通りです。リミッターの必要性もご理解頂けたかと」
「やっぱり、最初から選択肢無いんじゃ?」
「いえ、これも一つの選択です。貴方が望んだ有るべき世界の有り様の一つです」
アルは、答える。
「じゃあ、お願いします。」
アルは最後に聞く。
「また、会えますか?」
少女は答える。
「いつでも」
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静かな朝を迎える。
まだ、日は昇っては、いないようだった。
夢を思い出す。
あれは、現実とそう変わらないだろう。
彼は、それを見る。いつも身につけていた。
『アームズ』
少女は、いつでも会えるといった。
確かに、それが何であるか理解できた。
「システムコール」
返答無し。
但し、そこに存在することはなぜかわかる。
そうか、やっぱり夢では無いと。
アルは、また眠りにつく。
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