1ー34 覚醒する
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この王国での成人は17歳である。
また、帝国も同じように成人は17歳とされる。
エマは、冬に17歳をむかえる。アルもまた秋のこの時期に17歳となる。アルの村では14歳からが成人とされるがそれは、多少幼くとも過酷な環境で生き抜く難しさからだ。
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帝国と新王国との和平締結の調印式は、何事もなく平和に行われた。新王国の王と帝国のギム皇帝は、お互いの民がアームズ消失以前のように交流し、それぞれの国益を尊重する事。またお互いの国に領事館をもうけることを約束した。
王国の王宮で行われた調印式には、エマ嬢も同席していた。アル達は、どの国にも属していないので式には出席しなかったが、その後開かれる祝賀パーティーには参加することになった。
調印式が行われている頃。
「ねぇ、アル。これアルアル鳥に似ているけどなんだろうね」
それは、いつもみる鳥よりも一回り大きいことが見てとれる。パーティー会場の外で今晩使われるであろう食材の数々が搬入されていた。その中に3羽のその鳥を発見したのである。
行商人に尋ねてみる。
「これは、何という鳥なんですか?」
「珍しいだろ。これは、めったに市場に出ることがない幻の食材だよ。名をハイアルアル鳥と言う。」
‼️
つまり、アルアル鳥の上位個体種である。
生息域がかなり限定されており。絶壁の崖のうえに巣をつくるらしい。1羽捕獲するためにその崖を必死の覚悟で登るのだがようやく見つけても、臆病で逃げ足が非常に速い。
ピンチになると崖下に飛び降りて死んでしまう。早く火を入れないと痛みが早いためその場で食べるぐらいしかできず商品としては売り物にならないらしい。その為、生きたまま新鮮な状態で捕獲することが非常に困難なのだという。
今回の3羽は、偶然囲い込みに成功し今日なら間違いなく高額で買い取って貰える為。売り込みで持ってきたという。
そんな、会話をしている中。
今日の晩餐を取り仕切る宮廷料理人の男が食材が運ばれる広場で品定めをしていた。普段は、こんなことはしないで注文したものが届くだけだ。だが、このような祝賀会などでは、当日偶然の掘り出し物が会場を盛り上げる。その為このような機会を与えていた。
一通り、食材を見て気に入ったものは、買い取り値段を提示し、交渉成功したものを専属の係に調理場へ運びいれるように指示を飛ばしていた。
その料理人がアル達が見ている鳥の所で脚を止めた。
「こ、これは!。ハイアルではないか」
おお、略すのか! アルは、メモする。一体、どんな味がするのだろう。
料理人は、値段を提示する。そう是非欲しいのだ。だが行商人は、3羽一緒じゃないと売らないと言い張った。
おいおい、それはないぜとばかりに料理人は、うろたえる。
今の王国は王宮といえどもそこまで懐の事情は良くない。
残念ながら買い取ることが出来ないとその場を立ち去ろうとしていた。
アルは、声をかける。
「おじさんなら、これを最高に仕上げることが出来ますか?」
「ああ、出来るとも一瞬の火入れで全てが決まる。多分、君たちがもし想像しているならそれは幻想だ。あれは、想像を越える味の高みが唯一再現できる器をもっている。それだけの一級食材いや、特級食材だ!」
アルは、行商人に言う。
「僕が3羽とも言い値で買い取ります。」
そして行商人が提示した大金貨1枚を手渡す。
これがどんな金額なのか想像つくだろうか。もう、とんでもない金額である。
アルは、料理人に向き直ると
「約束は、守ってください。僕らも今日の晩餐には出席しますので、これを僕の想像を越える逸品とやらに仕上げてください!」
料理人は、自分の中に流れる震え。この食材との闘いを前に沸き上がる闘志を押さえることが出来なくなった。
「約束しよう。他にも特別なメニューも用意したい。君たちの会場の席を教えといてくれ」
彼は、3羽の鳥を丁寧に引き取ると会場を後にして、料理場へ向かっていった。
その後ろ姿は、まさに戦場へ向かう一人の男そのものであった。
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「アルぅー。あの鳥どんな味なのかしら。私の勘がヤバいと警告しているわ」
「私の嗅覚も既に想像臨界を越えようとしている」
愛する妻ら。我らの信仰に祝福あれ!
アル達は、人生の大きな壁の一つを乗り越えようとしていた。
至高と究極への高みに限界があるのか!その高貴なお姿を!
アル達が準備の進む祝賀会場を横目に用意された王宮内の一室で少し休憩することになった。部屋には、調印式を終えて戻ってきたエマの姿とお付きにトロアさんが既にいらっしゃった。トロアさんは、すでにアルとエマの関係をご存知なようで、まだ決して外には口外なさらないように強く言われていた。
確かに、帝国のお嬢様を傷物にした事がバレれば、皇帝との良好な関係が破談するだけなら、まだマシだ。死刑とか重罪の罪で帝国からまた追われる身に転落する可能性も十分はらんでいる。
うん、静かに愛を育もう。
ところでこのトロアさんという方は、とんでもなくハイスペックな人だった。エマの身の回りの世話をしている程度だと思いきや。さすがエマとずっといただけあって研究者としても博識高く。一般教養から宮廷マナー。スポーツや武芸、ダンスにいたるまでそつなくこなす超汎用型メイドなのであった。
その諜報能力も凄まじく、王宮内で出くわす人のほぼ全てを事前に調査認識しており。エマにアレは、どこどこ領の男爵だとか、その娘の旦那だとか静かに耳打ちしているのである。
世の中には、本当にすごい人がいるんですね。と誉めると、「とても嫌味ですね。あなたに言われると」と返される始末。まぁ嫌われて当然なのかもしれないが、表向きはとても親切なのである。たまに、さりげなく靴を踏みます。あきらかにわざとです。
でもアルは、このぐらいの事ではエマとの愛は揺るぎません。
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夕方頃。
会場準備が整い予定の時刻より開始する案内が回ってきた。
今日の服装は、高級宿の前の例の服飾店のデザイナーがデザインし納入した品で支払いは全てオジサマがしてくれている。いったいいくらするのか知らない。
アルは、銀の刺繍がふんだんにあしらわれた紺をベース白地が際立つ礼服だった。どこぞの王子様とはこの事か!。
トンファは、前回よりもさらに胸元を意識させる服装で背中も大きく開いている。夫としては、あまり見られるのはジェラシーを感じるが今晩は我慢。
ニアは、綺麗の一言である。 肩紐が片方だけの特徴的な形をしている。彼女のスレンダーなラインが際立つようにシンプルなデザインだがとてもセクシーである。
胸元には、銀の狼で刺繍が施されていた。
エマは、もうその次元ではない。滲み出る名家としての質が違う。多分同じ服装でも着させられている状態ではなく、着こなしている。そのドレスに人間性自体が顕在化しているようなものだ。白いレースがあしらわれて、いつの間に用意したのであろう。白金のうろこをネックレスにしていた。
あの真ん中のデカイ鱗は、間違えない「ワイバーンの逆鱗」だ。もともと宝飾品としての価値が高い逆鱗シリーズのなかで彼女が世界でただ一つもつ上位竜の逆鱗だ。確かにこういう場では圧倒的なインパクトがある。
おい、うちの嫁達が目立ちすぎてないか!
皇帝より注目集めてどーーするねん。
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「アル殿は、予想の如く悪目立ちしておるな。」
ギル皇帝が話かけてくる。
おい、オヤジさん。こういう場所で個人的に会話するのはやめてくれ。
ただでさえ目立つのに、皇帝の知り合いとわかると後が大変だ。
俺は料理を食いにきただけなんだから。
「はい、皇帝陛下より頂いたドレスで妻も輝いております」
うん、俺良くできた。
「うむ、そうだなこれ以上。アル殿に迷惑をかけるのも可愛そうだ。このぐらいで退散しよう」
お!。さすがオジサマわかってる。
たのむ、たのむから今日だけは大人しくしていてくれ。
おい!お前の事だよ!
「あ、ギぅお、むぅむぅぬ・・・・・・」
トンファがニアの口元をおさえ暴言をすんでのところで止める。
ふう、最大の山場は越えた。
さあ、セレモニーが始まる前に何とか修羅場はのりこえ席につくことが出来た。
お、このテーブルは僕らだけかネームプレートが席の前においてあった。
大きなテーブルが沢山あるが各テーブルに10名ほどの席が用意されてる中で僕らの席には5名だけだった。
えーと
自分でしょ。
トンファでしょ
ニアでしょ。
うん、あと2名は誰だ?
反対側に回るとおかしな名前が書いてある。
ん、「予約席:ギル専用」
もう一つが「試食席:エマ専用」
いったどこから情報が漏れた!
ハイアルの特別メニューが提供されるのはこのテーブルただ一つ。
その情報は、あの場にいた者にしかわからなかったはずだ。
もしや、野生の勘か!。あながち嘘ではないかもしれない。
あの皇帝のことだ。こんな会場でさえ気付けば影武者を使い。本人はここで裏メニューを頂戴する可能性は十分ある。
やはり、敵にまわすには惜しい人材だ。
そして、王と皇帝が並んで舞台の袖から現れた。
それぞれの国を代表するファンファーレが流れ。この和平締結とともに共に国が繁栄することを宣言した。その後セレモニーが始まりオーケストラが曲を流して会場を盛り上げていた。
警備上の問題で今回は、テーブル席でのご案内となっている。普通の貴族パーティーは、立食形式でダンスなども披露されるらしいが今回は、晩餐会のタイプが選択されたらしい。
そして、王族と皇帝が壇上からおりると舞台では、様々な王国の舞踊が披露されている。本当に豪華絢爛だ。
そして、各テーブルに料理が運ばれていく。どれも至高の味である。コースメニュー形式となっており厨房の方は、ここからはわからないが戦場であろう。
そしてついにその時がやってきた。
ここで会場にアナウンスが流れる。照明が少し落とされ司会者に照明が集まる。
「本日のこの歴史的記念日に皆様へご提供するメイン料理には、サブメインをご用意いたしました。その希少価値より皆様には、少量づつとなりますが伝説の食材『ハイアルアル鳥』を使った肉料理をご提供いたします。」
会場からどよめきがおこる。
おお、そんなに有名な食材なのか。アルは期待値をさらに上げる。
メイン料理は、鉱山牛のフィレ肉のロースト。その傍らに一匙の銀色のスプーンに小さなお肉が載っていた。
そして、照明が暗くなった理由は、もう一つあった。
いつの間にか空席だった席にオッサンとエマが座っていた。
他のテーブルでは歓声があがっている。よほど旨いにであろう。
だが、アル達の机にはまだメイン料理が来ていなかった。
そして、その時がやってくる。足音が聞こえる。この足音はあの料理人だ。
かれは、自信に満ちていた。
5人のテーブルには、十分なサイズのハイアルアル鳥のメイン料理が一皿づつ盛られていた。
「そのまま。手で持って、かぶりついて下さい」
おお、フォークやナイフでお上品に食べろではなく。かぶりつけと。
5人の猛者は、手で骨付き肉を持つと肉汁がしたたる肉にかぶりつく。
‼️
‼️
‼️
‼️
‼️
記憶がおぼつかない。
これは、何なのだ!
旨すぎるを遥かに通り越した存在。
尊敬、畏怖、想像を越える存在。
世界が形作られた時に神がすでに答えを出された完成された品。
外の皮は、パリパリとした食感。それでいて中はどこまでもジューシーで弾力があるのに柔らかい。口で噛み砕くとまるで果実を頬張るようにスープのごとき肉汁が口全体に広がる。喉を通り過ぎると鼻に突き抜けるような豊な香りが広がる。
この料理だけで最初から最後までのコースメニューをこの一切れで味わっているかのようだ。
料理人は、言った。
「どうだ。期待にこたえられたか」
青年は、答える。
大粒の涙を流しながら
「これが答えです」
料理人は、笑みを浮かべて去っていった。
その男の背中は、最高の仕事をやりとげた自信と誇りに満ちていた。
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「ねぇ、おかー様。お隣のお席の人達。みんな無言で涙ながしているんだけど。具合でも悪いのかしら」
貴族の少女が母に尋ねる。
母は、お行儀のいい娘が面白い事を言うと、ふとお隣のテーブルに目をやると大柄な男と少女達、そして青年の全てが涙を流しながら肉を食らいついているのである。
それも手で。
「、、、、、。見なかったことにしましょう。貴方はああはなってはだめよ」
「はい、おかー様。私はマナーを守ってお食事いたします」
それにしても暗いからよく見えませんが、あの大柄な男性、、何処かで見た気がするわ。まぁ気のせいね
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この時、アル自身も気付いていなかった。
彼の「竜の刻印」
いや「アルの刻印」は、『ハイアルの刻印』へと覚醒していたということを。
これがどんな意味をもつのかこの時には知るよしもない




