1ー31 翔ぶ
△▽△▽
誰もが、遠足の前の日には明日天気(晴れ)になぁーれと願う。
そして、本日。雲ひとつない。
秋晴れである。
朝の朝食をとり、嫁たちが朝のお支度をしてくれている間に昨晩のお会計を済ますことにした。
ロビーのカウンターに、ニコやかな笑顔のお姉さんがいる。
「今日でチェックアウトしようと思います」
「そうですか、アル様。またのご利用をお待ちしております。
是非また当宿をご利用下さいませ。次回以降の宿泊は全て頂いておりますのでご自由にお越しくださいませ」
ん、?
今、なんと言った。
てか、昨日の宿賃は?
一応聞いておく。
「それは、お金がいらないということですか?」
カウンターのお姉さんは、ニコやかに
「さようでございます。すでに昨晩、お食事を一緒にされていた方が大層、当宿をお気に入り頂き。アル様御一行も含みで生涯払いを済ませてアル様は、プレミアム会員となっております。
‼️
つまり、、、アルアル鳥の会員か!
人生の選択とは、苦悩である。
苦悩したあとのご褒美なのか。
うむ、妻に報告しないと。アルは、急いで部屋に戻るのであった。
それを知ったトンファとニアは、「オッサン」改めて、「オジサマ」と呼ぶようになっていた。
アル達は、約束の時間になったので「オジサマ」のまつロビーへ向かった。
ロビーには、オジサマの従者だろうか品格のある女性が待っていた。
「アル様、トンファ様、ニア様。おはようございます。主は、馬車でお待ちです。」
そう言うと、3人を出入り口から見える大きな馬車に案内した。
そう言えば、僕らの荷馬車の預けっぱなしだった。確認すると例の会員特典でいつまでも預かってくれるそうだ。トンファは、何としても「王都せんべい」だけは遠足に持っていくと駄々をこねた為、オジサマを待たせて一箱取りにいくのであった。
この馬車は、信じられないほど快適なのである。車軸と本体の間にクッションのようなものがあるのか。石畳、特有のガタゴトがほとんどない。その上、座ってるシートはふかふかで快適そのものである。
「ところで皇帝陛下とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」
アルは、このオジサマをどう呼ぶのが正しいのか思案していた。わからないので素直に聞くことにしたのである。
「そうだな。確かに皇帝陛下とよばれることが多くて忘れておったは、お前らは俺の客人としてもてなす。ギムというのが名だし好きに呼べばよい。」
こういう時、世間知らずの、ニアは最強だった。
「じゃあ、ギムおじさま」
‼️
この馬車には、先ほどの品格のある女性も乗っていた。
初めて彼女が動揺した顔を見せる。
ガァハ、ハァ、ハハァー。ギム皇帝は大笑いする。
「その名で呼ばれるのも新鮮で悪くない。好きにせよ」
ニアは、嬉しくなったのかその名を連呼してた。
もし、これが公になれば帝国国民はどう思うのであろうか。
そんなことは、きにせず一行を乗せた馬車は街道を走る。
エマさんは、昨日飲みすぎたのか、少し二日酔い気味のようだった。
「エマさん、大丈夫?」 トンファが、気遣う。
「気持ち悪い・・・・。」
トンファは、ニコニコしながら言う。
「エマには、これが一番きく、薬なんだから」
そう言うと、馬車からついでに持ってきたのであろうこの1年の旅の途中で得た物がはいる通称「貴重品バック」から一箱の木箱を、取り出してエマに渡す。
エマは、それの木箱を開ける。
‼️‼️
「トンファねえ様大好き!」といってエマに抱きつくのであった。
箱に入っていたものは、当然あれであるがそんじゃそこらの逸品ではない。
△▽△
一言で「うろこ」といってもある程度大きくジャンルが別れる。
それは、種別とその環境により同じ個体でも全く違うので多種多様だが、最も高価な代物といえば竜の逆鱗である。だがその竜自体にも弱い個体から強い個体まで幅が広い。
刻印の竜などは、ほぼ神にも等しいので最上位とするならそのしたに星屑のワイバーン種がいて更にしたに水竜や地竜などの竜とその他の種が交わった亜種が存在する。
人が手にすることが出来るこの手の竜の品は、この亜種が最上位とされる。
でだ、トンファがエマに手渡した小箱に入っていたものは
「ワイバーンの逆鱗」
亜種は、逆鱗のみがその個体から採取することができるが、大体は討伐など難しく寿命を全うした死骸や。脱皮のさい生じた劣化した脱け殻にくっついている逆鱗などを採取したものが市場にごく稀に出回る程度である。
ワイバーンは、脱皮もしない。
寿命もほぼない。
普通は、手に入れる事などできるはずもない。
なぜ、そんな貴重なものを持っていたかと言うと、、、。
アルが悪い。
△▽
ある旅路の途中。温泉町に立ち寄った時の事だった。
看板には、いたるところに客引きのアピールが書かれていた。
その中に
『いまなら当宿ご利用で秘湯を巡る限定ツアーへ招待。』
人は、限定という文字に弱い。
特にトンファのような女性は、好奇心が強くそそられたのである。
アルは、そんな妻の要望に、全力で答える男である。
だが、これが全ての始まりであった。
宿泊を決め、部屋に通されたものの待てど暮らせど。ツアーの案内がこない。
アルは、フロントのお姉さんにたずねると衝撃の回答が帰ってきた。
「ごめんなさいね。表の看板の事かしら。あれ勘違いしやすいのよね」
そう言うと。お姉さんは、丁寧に説明してくれた。
秘湯は、オールシーズン利用できるものでなく。
初夏のシーズンの1ヶ月ほどは、竜が住み付き利用出来ないらしいのだ。
そしてそのタイミングにアル達一向は、この温泉町に来てしまったというわけである。
それを聞いたトンファは、駄々をこねる。
「入りたい、入りたい、入りたい」
ニアもその気になっていたので
「入りたかったな」
愛する妻の為。アルは決意する。
私が妻の夢を叶えると!
深夜、彼女らが寝静まるとアルは宿を抜け出し。店の人にもらっておいた秘湯までの道が書いたガイドを頼りに山を登った。
確かに近付いていくと異常に静かなことがわかった。山は意外と夜の方が騒がしい。小動物が夜行性のものが多く夜に活動をするためだ。
なのに静まりかえっている。
つまり、現在は竜の縄張りですよ。と、教えてくれているようなものだ。
アルは、周囲にマナで自分の気配がわからないように防音、防臭、不可視とりあえず思い当たる事全ての属性を付加した霧を作り出す。
ガイドでは、この岩を乗り越えた先にあると、書いてある。
岩に登り、向こう側をみると確かに一匹の竜が温泉につかりながらイビキをかいて寝ていた。
なんたる事!。
こっちが迷惑してるのにあの野郎。気持ち良さそうに寝ていやがる。
まずは、相手が何者であるかよく観察する必要がある。
竜は、幸いこちらには、気づいていないようだ。
うん、デカイ。体長は20mぐらい。
体重不明。
オスかと思いきやメスっぽい。って竜はお爺ちゃんがメスしかいないといっていたような。ふと、昔教えてもらった知識を思い出してみる。最上位種にオスがいるが、基本はメスだけ。あとは、逆鱗に触れようものなら3日は追い回されるから見たら無視。そういえば昔、エマが最下位種にちょっかいだして追い回されてたのを思い出した。
あとなんか大事なことを言っていたような、、、。
あ、思い出した。
うん、これなら何とかなりそうだ。
いま、寝てるし。
不敵な笑みをこぼすアルは、完全に顔は悪人である。
竜は、信じられないぐらい強い。上位種ともなれば火で一晩中焼こうが、土の中に数年埋めて餓死させようとしようが簡単には死なない。
そう、死なない。
だが、一つだけ弱点がある。
頭と首の付け根付近にある「髭」である。
口のまわりに立派な髭はあるが
この一本だけおかしな所に生えている髭だけは、超特別なのである。
お爺ちゃんは、本当にトリビアな知識をもっていたなぁと感心するばかり。
アルは、寝息をたてる竜にゆっくりと近寄る。
いくらマナで気配を消していてもここまで近付けば普通は気付かれる。
だが、人よりも賢い竜は時として絶対的強者であるが故の油断をする。
そりゃ、何百年も毎年この時期にここにきて温泉に入ってりゃあ。誰も、自分から死に来る奴はいるわけないと思うわけだ。
だが馬鹿は、ここにいた。
もし話がデマならアルは死んでいたはずだ。
だが、お爺ちゃんを疑うことを知らぬ馬鹿がいた。
あった!
たしかに、アゴの下あたりに他と明らかに違う髭が1本、生えているのである。
弱点だとは聞いていたが
抜くのがいいのか、切るのがいいのか迷う。
うん、ここは抜くにしよう。
アルは、イメージするめっちゃい勢いよく巻き取るローラーを。
絨毯の髪の毛とかコロコロと巻き取るような粘着性があってそれでもってくるくるっとね。
顕在化したマナローラーは、超高速で竜の髭を絡め取る。
プチ!
思ったよりも大きな音をたててそれがぬける。
竜がその瞬間、立ち上がり目を見開く。
あれ? おかしいな。弱点じゃなかったの?
「おお、そこの人間よ。何故にわれの睡眠を妨げる」
アルは、素直だ。
「えーっと、、、温泉に入りたいのにお姉さんが邪魔で入れないからです」
そして、竜は問う。
「おぬし、先ほど何をした?」
「アゴのしたあたりの奇妙な髭を1本絡め取りました」
そう言うと竜は、ビックリしたように自分の爪でアゴのあたりの髭が1本失くなっていることに気が付いた。」
「おおおおおおおおおおーーーーー!」
「長かった。実に長かった。苦節1700年だ!」
竜は、そのあと涙涙の物語を語った。
彼女は、ほかの竜に比べて体格が大きくオスの上位種に好かれる反面。メスに嫌われていた。そしてことある毎に、アゴの下に生えた髭をバカにされたという。自分でも抜こうとしたが上手く抜けない。当時の人間達に弱点だと嘘を言って切ってもらった事があった。
だが、、、切っても直ぐに生えてきた。そこで老竜に相談したところ、ここの温泉は、病を直すという。これも考えようには、病だろうと考えた彼女は毎年この時期に湯浴みをする事にしたそうだ。
たしかに髭は柔らかくなり、抜けるかと思ったが何百年やっても抜けなく困っていたそうだ。
それをこの少年が抜いてくれたわけだ。竜も誇り高き種族。
「ほう、願いを言え叶えてやろう」
アルは、最初にアームズを取り出して消滅をたのんでみたがそれは無理そうだと言われた。そこで旅を続けていればいつかエマにも会えると信じてあるお願いをした。
「逆鱗を1枚下さい」
竜は、考えた。竜にとって逆鱗は唯一痛覚がある。と言ってもしばらくすれば又、新しいのは生えてくる。まぁ私の苦節1700年にくらべれば安いものだ。
「叶えよう」
そう言うと竜は、逆鱗を1枚剥がしてアルに渡した。
そして、竜は言う。
私のようなワイバーン種は、次見かけることがあればあまり近くことをオススメしないと。今回は、偶然の出来事でたまたま生きていられただけだということを強く言われた。
うん、もうやめておこう。
アルもそれには賛同した。
ワイバーンのお姉さんは、空の彼方へ飛んでいった。
「ついに、温泉に妻を呼べる。それに誰もこないから今なら貸し切りだ!」
あたりは、すっかり薄暗くなりはじめており。日の出が近い。
速攻で妻達を呼びに帰るのであった。
△▽△▽
「その話。まじですか少年」 ギムおじさまがドン引きする。
「まじもオオマジ、超真面目です」 アルが頷く。
当然ながら、入手秘話の中でアルがどのように髭をぬいたか。またアームズの消滅を頼んでみた事は伏せて語る。
そんな中。
気持ち悪いとダルそうにしていたエマは、超回復していた。
アルの話す入手秘話は、全く耳には入っていない。ひたすら「ワイバーンの逆鱗」を手にとり目に穴が空くんではないかと言うぐらい神々しい何かを見つめる瞳で涙を流しながら「うろこ」を見つめ続けていた。
そんな感じで。片道数時間はあっという間であった。
昼過ぎには、遠くからでもその存在感が半端ない空中要塞バハムの姿が見えた。王都の近郊にこれほど堂々と、着艦している他国の戦艦。これを許す王国がいかに力が無いことの証明でもある。
△▽△
空中要塞バハムの目の前にに馬車が止まる。
全員が馬車から降りる。
搭乗ゲートの前には、総勢2000人程度の兵がハの字に整列している。
さすが皇帝のお出迎えと、いったところだ。
一斉に兵が声をあげる。
皇帝陛下 万歳!
右翼から一人の女性騎士が近付いてくる。
馬車の前で一礼すると、その場で膝をつく。
ギム皇帝は、声をかける。
「留守をご苦労様であった。どうだ」
「ハ!。首尾は問題なく整っております。いつでも飛べます」
「客人をお連れしろ」
女性騎手が先頭にたち一行を先導して空中要塞バハムに入っていった。
30分ほどで離陸するそうだ。




