1ー29 踊る
△▽△▽
この宿は、アル達にとって貴族達の常識を学ぶ上では良い機会だったかもしれない。ある意味においては、、、、。
「ねぇ、アル? 大丈夫なの?。なんか普通じゃないけど」
「正直に言うね。全然わからない。」
アル達が通された部屋は、最上階のフロアで窓の外にバルコニーがあり出入りできる扉も付いていた。眺めは、通りとは反対側の間取りに面しており高台にあるこの宿から王都の城下町が一望できるような感じだった。
部屋は、広く小部屋と衣装部屋などが幾つか付いている。奥には、外を見渡せる広い浴槽と別にシャワールームまで完備されていた。
そして、極めつけが寝室である。
アル達なら、つめれば10人は寝れるであろう巨大なベットが鎮座する。試しに寝てみると、体が半分ぐらい沈み込みそうなぐらいフカフカである。
豪華絢爛とはまさにこの事だろう。
まぁ今まで荷馬車で野宿することが多かったので宿は、ただ寝れればいいと思っていたがこう言う嗜好もあるのだなと、3人で布団の上で飛び跳ねていた。
今日の夕飯は、当然アルアル鳥を使った料理である。おまかせと言ったもののこれだけは、要望しておいた。夕食までは、時間があったので3人でお風呂に入ることにした。
こんなに大きな湯槽は初めてである。3人で入っても足が伸ばせる。
「このボタンはなにかしら」
ニアが言うも同時にそのボタンを押す。
‼️
ブクブク泡が出てきたのである。超気持ちいい。
適度な気泡の粒が腰や足にぶつかり疲れた体を揉みほぐす。
あーあー。
あーあーー。
あーあーーあーーー。
お風呂にこんな楽しみ方があったことを初めて知る。
普通ならこんな設備は、高級店でしか味わうことが出来ないが、、。
アルなら普通のお風呂でも再現は可能だ。
これ以降、妻達がお風呂に入る時は普通の宿で小さな湯槽でもこのブクブクを再現してあげるのが彼のサービスの一つになった。
そんなこんなで、すっかり湯でのぼせたアル達は、また買ったばかりの正装に着替える。折角、髪を上品にセットしてもらった3人だったがお風呂上がりでまた元の感じに戻ってしまった。そう言えば事前の説明でルームサービスなるものがあったはずだ。
ここまで来たからには、とことん付き合ってあげなければ!
部屋の据え付けのベルを鳴らす。
これは、特殊なものらしくこのベルを鳴らすとフロアの接客スタッフがいる部屋にあるベルも共振するらしい。フロア内の部屋ごとに、音色が若干違うらしくベテランのスタッフがその音色を聞き分けて部屋に訪ねて来てくれるそうだ。
早速、トンファがベルを鳴らしてみた。
直ぐにドアがノックされ、専属のスタッフが対応してくれた。
どうも各部屋毎に専属のコンシェルジュなる者が要望を聞いてくれる仕組みらしい。
素直は一番。
髪が乱れた旨と、トンファとニア達にお化粧をお願いする。
うん、化粧も初めてと色めく彼女らが待つこと10分ぐらい。
カラカラと台車を転がし3人ほどのこれまた品の良さそうな女性達が入ってきた。
アル達は、それぞれ化粧鏡の前に座るだけで髪型から化粧まであっという間に出来上がった。最後に、出来映えを聞かれたがトンファとニアが可愛い過ぎて
「綺麗です、、。」と返答してしまう。
ニコッと微笑みながら彼女らは、トンファとニアを見て
「大変、お綺麗でございます」と返してくれた。
これで、後は夕食に備えるばかりである。
△▽△▽
アル達がこの宿のお風呂を堪能している頃。
ドアマンは、今日のお客様達の事を記憶にとどめていた。
なにより、先ほどのお三方は、無理して覚えようとしなくても印象が強すぎて一生忘れることはないであろうと思った。
あれほどのインパクトは、年に1回あるかないかであろうというものだ。
今日は、これで新しいお客様は来ないだろうと思う夕方の時間帯になった頃。
1台の馬車が表通りの宿の前に止まった。
・・・・・・・。
別に珍しくもない光景だが様子が少しばかり違うことに気付く。
違和感である。
止まった馬車から人が出てくる気配がない。
通りの人混みに明らかに目線を四方に配らせながら周囲を警戒しているような私服姿の者達がいる。一見、普通の人のようだが多くの客人や要人を見てきたドアマンは、それが一般人とは違うことに気が付いてしまう。明らかに警護の者がとる挙動に近い。
気付くと品格のありそうな女性が馬車の扉をノックしていた。
一体、どこから現れたのか判らなかった。
そして、お付きを連れ添いながら2人の人が降りてきた。
その印象は、立ち振舞いから想像するに間違えなく高貴な身分の方である事がわかる。
大柄な男性と、ブロンドの髪が美しい女性であった。
まるで、おとぎ話に出てくるような二人の姿に唾を飲み込む。
ドアマンは、瞬時に自分がとるべき最善を考える。
けして、このお二方と直接会話などしてはいけないと言うこと。
直ぐに、彼は銀色の特別な時にだけ使用を許されるベルを鳴らす。
これは、ルーツベルと呼ばれる行為で国賓級のお客様が訪れる時にだけ鳴らすものだった。間違えていれば彼はその時点で職を首になるような代物である。
彼を教育した先輩は、言った。これを自分の身体をかけて自信を持って鳴らせる時に初めて一流のドアマンになったことが証明されると。
かれは、数年前に先輩からドアマンの総責任者になりこのベルを引き継いだ時から一度もその鐘を鳴らす機会はなかった。
だが、今がその時であると直感が叫んだのである。
この宿の従業員は、ここで勤めるにあたり最初にこのルーツベルの説明を受ける。このベルの音色は非常に特殊で従業員全てが持つ胸のネームプレートと共振する。そのネームプレートを身に付けた者だけが特殊な音色を感じとることが出来る。
この宿の大半の従業員は、教育中以外にこの音色を聞いたことがあるものは、ほとんどいない。だが、体にその後どう行動すべきなのかは身に付いていた。
彼は、ドアを開いてただ沈黙する。
彼の仕事は、シンプルだ。客人に敬意を持って扉を開ける事だ。
開かれた扉を優雅に二人の客人が通り過ぎて行く。
彼は、仕事を終える。
そして次の者へその役目を引き継ぐのである。
ルーツベルには、この宿の信念がある。けしてお客様をお待たせしないこと。
入口から入ってくる瞬間から部屋にお通しするまで一連の流れるような段取りで事を進める。この宿で最も優秀なコンシェルジュがその全権の任を持って、お客様の全ての要望に対応するべく全ての従業員が一丸になって自分の仕事を完璧にこなし、おもてなしをする。
特別、いつもと違うわけではない。この鐘の音が聞こえた時に自分のしている仕事の意味を今一度考え、責任と誇りを持って行動せよ。ただそれだけの行為である。
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大柄の男性とブロンドの女性は、それぞれ別の部屋をとられた。
食事は、一緒にとの事だ。
専用個室でのお食事かと思いきや展望ラウンジのテーブル席をご予約。
メニューに関しては、シンプルに旨いものを出せばよいと言う事だった。
夕刻からご予約されたディナーの時間までは、そうない。限られた時間のなかで厨房は慌ただしく動く。この宿の完成された完璧な定番メニューの前菜とオードブルは、外せない。変える必要はない。これが完璧にできればそれで旨い以外に形容するものはない至極の料理なのだから。
腕を振るうのは、この国で最高レベルの料理人。
その日の食材の状態、湿度、気温、お客様の体型などから味付けを微調整する。けして妥協はしない。
▽
専属のコンシェルジュは、各担当へ自分が判断した情報を連絡し共有する。
今日は秋にしては、少し暑いぐらいだった。
ズボンのシワが少し強めについていた。馬車に数時間程度だが移動するには少し長めの距離をお越し頂いたと推測される。歳は、50歳前後の男性と、一見大人びているため20前後に見えるが目元から彼女は、もっと若い15歳前後と判断。
間違えはない。自信を持っていい。
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部屋でブロンドの髪にブラシをかける。
「お嬢様、少し髪が傷んでおります。油分を少し足させて頂きます。」
トロアが主人の髪を心配する。
最近、少しお痩せになられた事も心配していた。
だが、今回のお誘いはトロアにとってとてもありがたかった。
お嬢様ときたら、研究室に一度入るとずっとおやめにならない。
本当に仕事の虫なのである。
大変、結構なことであるが同じ女性として主人の体の心配ばかりしてしまうからだ。
△▽△
空中要塞バハムの単調な料理に皇帝が飽きた。
その上、予定よりも数日早く王都に着けそうな状況がわかり急遽、皇帝の一存でお忍び入国をする事になったのだった。
慌てふためく周囲をよそに皇帝は、旨いものを食いに行ってくるから準備せよとかなり無茶苦茶な要求を出した。
皇帝は、多忙な務めだ。朝から晩まで書類と確認に追われる。
人が思うほどけして優雅ではない。自由な時間などほとんど許されない。
この帝国を遠く離れたこの瞬間だけがチャンスだった。
自ら動けるという事だ。
誰かに頼む。
誰かにしてもらう。
誰かに命令する。
自分で見て、聞いて、感じて、などという事象は殆どない。
だが、今回は違う。
つまりある程度の制限はあるが久しぶりの「自由」である。
実に異国とは楽しいものである。
価値観が違う。風景が違う。風の匂いも異なる。
感じる新鮮さがある。
ただ、一人で食事もするのは楽しくないため同伴が必要だ。
私を恐れず、対等に会話ができる者。
探す必要などない。あーいるいる。
エマ嬢に頼もう。
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ついに夕食の時間になった。
3人は、予約した展望ラウンジに向かう。
テーブルから眺める窓の外には、城下町の小さな無数の灯りがきらびやかに映る。
多少のテーブルマナーは、3人も心得た。
旅の先々でそこそこの立場の人と食事をする機会があったからだ。
今日のメニューを確認する。
料理人が込めた思いをその献立から読み解くのだ。
おお、判ってる。そうだよ。
アルアル鳥を引き立てる為に、前菜からよく考えてある。
この店の看板メニューとなるメインは他にある。だが、アル達は知りたかった。この長い旅の途中に、あの倉庫の町の料理人を越える者がいなかった。この王国周辺の最高峰が何処にあるのかを知る必要があった。彼らの計画には、必要不可欠な要素なのである。
オードブルとスープが終わる。
さっきからニアのしっぽのフリフリがとまらない。興奮しすぎだ。
そう思うとアルも生唾を飲み込む。
トンファと言えばすでに向こう側にいっている。
ついに、メインの到着である。
彼らの前に現れたのは、白い塊だった。
初めて見るそれは、何だろう。
料理を運んできた男性が目の前でその白い塊を小さなハンマーで叩き割る。正確には崩すとったほうがいいのかもしれない。
鼻に、香草の香りが漂う。
中からアルアル鳥の肉が顔を出す。
丁寧に彼はそれを取り出し。3人分に美しく切り分け皿に盛る。
一緒に運ばれてきた付け合わせを盛り、最後に柑橘系のソースを皿の縁に描く。
アルは、気付く。
美味しく食べることだけではない。こういうお店は、食べる前から見ていても楽しい。
彼は、それぞれの目の前に美しくもられたメイン料理を並べる。
シンプルに料理の説明をしたあと、後ろに下がっていった。
アル達は、フォークでアルアル鳥のお肉を口へ運ぶ。
‼️‼️。
‼️‼️。
‼️‼️。
「・・・・・・・・・・もう、2回目だけど死んでもいい。」
またトンファが物騒な言葉を一言。
それぐらい美味しいのだ。
「これは、どんな事になっているのですか?」
アル達は、涙を流しながら、このとてつもなく旨い料理について質問をした。
数分後、ニコニコしながら料理長、自らがやってきて説明をしてくれた。この料理は、アルアル鳥の料理の中でももっとも難しい手法により料理をしなければならないらしい。何故ならば、この料理は高度なマナ操作による火加減調整と絶妙な塩加減。塩加減は、その日の湿度、気温、お客さんの体調の全てを考えに考えた上で味付けをするという。一言でいえばただの鳥の塩釜焼き。だがそれこそ単純ゆえに誰でも出来るわけではない。
って、、、、前回の鳥の丸焼きと、たいしてかわらない説明。
かわらないのに、やっぱり美味じぃーーぃ。
「旨すぎるぅーーーー!」
アルは、ついに心の声が外に漏れ出す。
その時だった。
後ろのテーブルに座っていた男が身を乗り出してこちらに声をかけてきた。
見た目。大柄なおっさんである。
どこか懐かしい感じの風合いをしているが眼光は、鋭い。
でも見ている先は、僕らの「アルアル鳥の塩焼き」である。
「それは、そんなに旨いのか?」
大柄のおっさんは、一言聞く。
アルは、正直者である。
「言葉はいらない。食って感じるのだ。 話はそれからだ」
そう言うと大柄のおっさんの口に「アルアル鳥の塩焼き」を放り込む。
‼️‼️
「・・・・・・・・・・もう、死んでもいい。」
この大柄なおっさんも物騒な言葉を一言。
この時、歴史が動いた。
一人の料理人を巡って男と男の真剣な戦いである。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
な、ことは実際にはなく。
一つの料理で共感しあう男達がいた。
「御主、見た目は若いのになかなかの者とみた。俺はこれでも人を見る目はある。どうだ席を一緒にして語ろうではないか」
アル達には信仰がある。
アルアル鳥を愛する者(食べる方)は、等しく愛せと。
元々、大きいテーブルなので彼がこちらの席に移ってきた。
「おお、悪かった勝手に話を進めたが連れがおった。紹介しよう。
お。そうだった。名は明かせんのだ。すまぬ。」
そう言うと、連れといわれたブロンドの女性が席を立つ。
こちらからでは後ろ姿だけだったのでどんな人か分からなかった。
彼女は、こちらに振り向いた。
‼️‼️。
‼️‼️。
‼️‼️。
?。
?。
「む?。知り合いか?」
そりゃ、忘れない。忘れるはずなどない。
多少、大きくなっても親友の顔は忘れない。
老人、老婆になれば話は別だが。
お互いに、なぜ此処にいるのか疑問はあるがそんなことは、後回しだ。
「アル !、トンファ ! 会いたかった」
「エマちゃん !」
トンファは、エマに抱き付いてギューってする。
エマもトンファをギューってする。
アルは、さすがにそれは出来ないが再会できたことを素直に喜んだ。
幼いころの思い出がよみがえる。
親友の誓いを忘れてはいない。




