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1ー28 犠牲

△▽□▽


王宮で王、彼女は目の前に立つ老人と話をしていた。

老人は言う。別に帝国など憎くはないと。


彼女は、対抗勢力である老人と距離をとる立場にあった為。彼らの周りの過激な思想の中心にこの老人がいるものだと思っていた。


だが、彼の口からは、大衆に向けた言葉とは裏腹に人の道理を説く、優しい老人にしか感じないのである。


「よもや、ゲル殿がそのような考えだったとは。もっと早くに歩み寄っておればここまで事態が深刻化することも無かったかもしれん。全ては妾がいけぬのだな。」



彼女は、老人をじっと見つめ彼がこの十数年、指導してきた本当の理由を知る事となる。


「だが、もう事態はそなたの手から余る物に化けてしまったと、、。」


指導者の理想とはかけ離れ、周囲の利害や環境により力だけが暴走した状態。民意という明確な凶器である。助けてやれぬ者達のとても小さな救を求める声が集まり、渦をなす事で大きな力となる。それには、明確な敵意があり誰にも止める事が出来ない状態にまで事態が悪化していた。有りもしない敵を作る事がどんな悲劇を生むのか。


その空想の敵が現実に迫った時に彼らを止めるすべがこの国には無かった。


「今さら、私とゲル殿が手を取り合ったところで残された時間は、ほんの少ししかない。この状況でゲル殿はどう信仰者達を導くつもりでいたか聞かせてくれぬか?」


老人は、彼女の瞳の奥に感じる民を愛おしむ情愛を感じていた。

「もう遅いかもしれぬが、自らの罪を白日の元に晒すほかないでしょうな。少なくもも全部は無理でも大多数のものは、明確な信仰の正統性を失って自走できなくなる。」


「だが。仮に帝国がアームズ消失の首謀者でないとしてもそれを証明するものは無い。故に、全てが虚偽だと知っていても無視して行動する者はおるだろう。」


「私はもう十分すぎるほど生きた。私の生きてるうちに私の口から真実を語らねば、仮に今回を乗り切れたとしてもこの国はこの先永遠に一つになることはなかろう。それでは、かの王が愛したこの国の民を守った事になら無い」


彼女は、老人の決意を感じた。


今、思えば彼が疲弊した民の怒りの矛先を帝国に向けてくれたおかげで内乱がおこる事なく民の適度なガス抜きができた。それにより、いまの安定した現状まで回復できたのだ。もし、彼がいてくれなけばこの国は、二分どころかもっと早くに崩壊していたはずだ。


彼女は、王としては決して流してはならない涙を頬に伝わせ。

老人に一言ねぎらいと感謝の言葉を伝えた。


 「もし、この国がまだ歩みを続ける事が出来たならば。この国の歴史がゲル殿の優しさを忘れる事はない。一旦ではあるが全ての犠牲になろうとも、私が王の名において必ずや貴殿の名誉

を回復する事を、約束する」



老人は、手を腰に当てながら。笑みを浮かべて去っていった。


△△▽▽


翌日、王とゲルは二人同時に民衆の前に姿を現した。

王宮からの緊急会見として国中に知れわたる。


ゲルは、この反帝国主義の根底となる陰謀説自体が虚言であった事。当時の救いを求める者達を導くために行ったに過ぎない事。そしてその全てが「かの王」から与えてもらった慈悲を忘れ非難した者達がいた事を戒めた。そして「かの王」の尊厳を取り戻す為にした事にすぎないと、老人は淡々と説明した。


人々は、戸惑い半数はいままでの信仰がいったい何であったのか。肩透かしをくらったように口を開いたまま呆然とする者。嘆き地面に佇む者。


その衝撃が走り抜ける中。


続いて王である彼女が、いま噂されている事が真実であり。来月には、山脈を越えて空中要塞バハムに乗り皇帝がこの国に和平締結の調印式に来ることを宣言した。



その後、彼女は老人を王宮内でかくまう事を提案したがゲルは、笑いながら去っていた。

数日後、彼の遺体が近くの川に浮いているところを発見された。一部の過激派と化した信仰者によるものだった。


王は、哀れ悲しみ密かに彼の遺体を、王家の墓地に埋葬する。自分自身の片割れであったと思う故の行動であった。


信仰者達のほとんどは、彼が言った通り自分達がいったい何を信じてたのかを忘れるようになっていた。町を二分するように掲げられていた属を示す旗も無くなり。国は帝国からくる空中要塞バハムの話題で持ちきりとなる。



△▽△▽



空中要塞バハムのプライベートラウンジに皇帝はいた。

「諜報部員からの連絡です。当初、予定していた大規模な内乱が阻止されたようです。このまま調停式に望まれてもよろしいのでしょうか?」


風向きが変わったか。


「まぁ、良い。元々どちらでも構わん。それよりも明日の食事はもう少しまともな物をお願いしたい。さすがに同じようなメニューでは飽きる。」


急に食事のメニューの話になった為、執務官は慌てたが直ぐに部屋を出ていった。今日の当番の料理人はかわいそうだ。



それにしても。

十年以上も二分していた国がたった1ヶ月で変わるか、、、。得をえようと先走った結果。相手に塩を送ってしまったか。


・・・・・・・・。

それも良かろう。民が反帝国主義を全面に掲げられては、反乱の鎮圧には時間も多くの兵の血も流れる。最終的に得をすればそれで良い。


しかし、この空中要塞バハムは、以前試運転で乗った時とは本当に比べ物にならない代物になったな。やはり、国力とは才能の有る人材をどう生かすかよ。うむ、我ながらいい皇帝ではないか。エマとやらは、そういえば異常な「うろこ」好きと、言っておったな。今のうちに気持ちをぐっと掴んでおいたほうがいいやもしれん。


「おい、特務室へ連絡をとれ。今しがた急な要件を依頼すると伝えよ」


ハ! 敬礼をして上級補佐官が部屋を出ていった。


皇帝がこの後、部屋にきた直属の特務部隊に頼んだのは、海竜と並ぶ狂暴な竜で極希に脱皮したときの脱け殻が市場に出回るのだが、その地竜の脱皮にもれなく着いてくる「うろこ」が手に入るとの連絡を受けた為。買ってもって来いというものだった。


彼らは、高度8000mからのダイブをさせられ挙げ句。王国領土内を駆け抜け、ある小国の市場でそれを買い付けた後。ハバードと呼ばれる伝達用の飼い慣らした鳥に「うろこ」をくくりつけ皇帝の元に送り出した。期限は、調停式から帰還する日迄だった為。およそ1ヶ月の航路をその半分でやれという信じられないミッションだった。


この「子供のおつかい」。常軌を逸した過酷なワークだった為。引退を決意した隊員もいたらしい。皇帝は、そんな大変だったとは全然しりませんが。



△▽△▽

アル達は、王都までの街道を進んでいた。石畳のしっかりした道で馬車のわだちに合わせて整備されており、快適だった。明日には、到着できる見込みだ。ニアは、荷馬車に揺られながら今日も寝ている。トンファと言えば、前の町で購入した「王都せんべい」なるお茶菓子を食べている。彼女は、甘党かと思っていたが絶妙なこの塩加減がたまらないと絶賛していた。


トンファは、アルにおねだりしてこの菓子を大量購入するのである。ニアの定位置となった荷馬車の寝床には、トンファが購入したお菓子の箱が山積みされていた。


「平和ね。さすが、王都に近いだけあるわ」

口をモグモグさせながらトンファが心地よい秋風の吹く街道沿いの風景をみながら言う。


アルは、週数間前にこの王国で起きた出来事を思い出す。王と反帝国主義の代表が国の重大な発表をしたのであった。アルは、反帝国主義を先導していた老人がそんな考えのもと人々を導いていたとは知らず。行き交う人が噂をする中で、彼の思いが純粋で美しいものだったと自分の考えを改めるのであった。


結局のところ、うわべだけで人を判断した浅はかな考えをする自分の価値観を見直す機会となった。あれだけ国を二分していた勢力の姿は息を潜め、行き交う馬車に飾ってあった属を示す小旗も消えた。



アルは翌日の昼過ぎには王都へ着いた。

都は、まさに人のうねりだった。行き交う人々は、忙しいそうに自分の仕事をこなしていた。アル達は、今日から宿泊してみたい目的の宿を探す事にした。当然ながら各町の代表から王都にいったら人生で一度は泊まって食事をしてみたいと言われた有名なアルアル鳥の料理を提供する宿の情報を得ていた。


その宿は、通り沿いの豪華な宿だった。アル達は、荷を載せた馬車と馬を宿の系列で営む施設に預けるとそのままチェックインする事にした。


ロビーは、豪華で内装も今までに見たこともないような造りをしている。

突然、後ろから声をかけられる。


「すいませんが従者の方々は、裏口からお願いできませんでしょうか?」

悪びれる様子もなく、ドアマンらしき正装に身をつつんだ男性が声をかけてきた。


まぁそうなるよね。

アル達は、周りの人々の視線を集めていた。富を持つ者達がそれ相応の服装で自らの品格を示している中で、どこぞの村人のような服装の人が表口から入ってくればそうなってもおかしくはない。


この人も自分の仕事をしているだけだ。

アル達は、一度外に出ると通り沿いの高級そうな服飾店に向かった。

扉を開くなり、同じように顔の眉間にシワを寄せた女性が警戒しながら訪ねてきた。


そして同じように対応される。

「お使いの方でしたら。裏からお願いできますでしょうか」

今回は、素直に自分達が購入したい旨を伝える。


最初はともかく身なりを、整えなければあの宿に入れない。

アル達がアルアル鳥にかける情熱は、こんな程度で引き下がれるものではない。


多分、まずはお金の問題だろう。アルは店員が横目で見えるように懐から小袋を出すと、わざわざアダマン金貨が見えるようにガサガサとあさる振りをみせて、大銀貨を2枚取り出すとこれで3人分お願いします。と言ったのである。


世の中、もっともシンプルな価値と言うものがあるらしい。特に商売人にとってはお金が全てのようだ。急に店員の女性の態度がかわり、奥の部屋に姿が消えると品の良さそうな男性が出てきた。なんでも有名な方らしく、このお店は王宮にも服飾を納めてるとかでもう少し待って頂けたら個人にあった最高の品を提供できると力説された。


アルは、取り敢えずは今日、宿に入る為だけの服を着れればよかったので後日と言う話にしたのであった。


アルは何処に行っても馬鹿にされないと言うヴィンテージ物の貴族衣装。色は、シックな紺色だが金と白銀の糸が所々に刺繍されていた。


トンファは、褐色の肌が際立つようにと赤の胸元を強調したドレス。首飾りにシルバーのアクセサリーの購入も絶対的必要とばかりに押し売りされた。


ニアは、色白の肌と薄い緑色の髪に合うようにクリーム色の花模様の刺繍が胸元から足下へ流れるようにあしらわれた白いドレスであった。こちらは、黒いブローチが似合うと同じく購入する事になる。


最初は、トンファもニアもズボンのような村人服装その1、その2のような服しか着たことはなかったので抵抗していたが、髪までセットアップしてもらい、いざ鏡の前で自分達の姿をみると、、。


「誰、この人!? 」 と騒いでいた。


アルは、改めて二人を見ると頷いた。

うん。うちに嫁は世界一可愛い。





△▽△▽


この高級宿のドアマンとして10年、彼は色々な人をみてきた。

そう言えば、今日も世間知らずの若い奴がきたな。どこの商人か、村人だか知らないがこの格式ある宿にあのような者達が来るとは、、、。


そんな昼過ぎの出来事を思い出していると通りの向こうで人々がざわめいていた。

通りの向こうには、王国でも有名な服飾店があった。人の通りは多いがほとんどの人は、あのお店に入ることすら出来ない。なぜなら、超がつくほどの高級店だからだ。


いつか、自分もなどと夢みたのは、いつのことだろうか。

いつになってもドアマンから昇格することはない。先輩は言った。一流のドアマンは、この宿に入る全ての人の顔と名前。愛玩にしているものなどを記憶し、このドアを通したものに最高のおもてなしをしなければならないと。いつしか彼もその誇りを感じるようになる。


この宿は、例えアームズがあった時代でさえ最高のサービスを提供し続けた。アームズには、制限がいくつもあり貨幣などや、基本生活に不必要な高級品や高級食材などは発現できなかった。故に、すでに富をもつものが自信の嗜好の為にこの宿を訪れ、非日常を満喫して帰って行ったのであった。


物質的価値と嗜好的サービスは、同じではない。故にこの宿には、長い歴史と品格がある。



昼過ぎから2時間ほど経ったであろうか

道の反対側を見て脚を止める人々がいる。

、、、、。

彼はざわつく人々の先を見た。

一流のドアマンは、物の価値がわかる。彼らはの身に付ける服は、本物だった。そして多くの着飾った者達を見てきたが、あの若者がエスコートする女性達ほど美しい人はあまり見たことはなかった。



そして気付く、よく見れば昼過ぎに入店を断った者達はないかもしれないと、、、。

ドアマンは、額に一筋の汗を流す。


こんな動揺は、新人の時、以来だった。物を知らず、人を知らず空回りもしながら必死に勉強をした若い頃を思い出す。


彼らは真っ直ぐこちらに向かっていた。

そして、彼は気付く。お客様が私にチャンスを与えて下さったと。

もし彼らがミスを許さない者達ならば、またここに来てくださるわけはない。

今度こそ最高のおもてなしを。


△▽△


アル達は、内心ドキドキが止まらなかった。どうしても視線を感じずにはいられない。トンファもニアもアルの手を握りしめ同じような心境であった。


通り向こうの宿までが途方もなく、遠く感じながら進んだ。


「ねぇ、みて凄いキレイ。お姫様みたい。あの殿方、お若いのに素敵だわ」

通りの女の子達が、羨望の眼差しを向けていた。


そして通りの反対側まで、この旅一番の緊張を感じながら宿の入口に立つ。

「宿泊、させて下さい」



まじ、庶民の発言。




ドアマンは、にこやかに微笑むと

「当宿にお泊まりをご検討頂き誠に有り難うございます。先ほどは大変失礼をいたしました。どうぞごゆっくりとお過ごしくださいませ」


そして、片手でドアを開くと胸元から小さなベルを鳴らす。奥に控えていた女性がつつましく現れ、アル達をロビーから個室へ案内した。


ゆったりとしたソファーで少し待っていると、品の良さそうなな大人の女性が頼んでもいないのに高級そうなハーブ茶をこれまた高級なカップに注いで一口サイズのお茶菓子も用意してくれた。


「この度は、当宿にお越し頂き誠に有り難うございます。初めてのご利用かと存じ上げますので一度、コンシェルジュによるご案内をさせて頂きたく思いますが宜しいでしょうか」



コンシェルジュなる人が来て要望を聞く。

3人とも身なりはともかく中身は、村人1、2、3である。

一言。


「おまかせします」





はい。有り難うございます。

高級店には、暗黙のルールがある。


細かい指定。これは、2つパターンがある。一つ目は、嗜好のこだわりが強い場合。

もう一つは、予算が決まってる場合。大体のお客様は後者である。


そしてお互いの合意の上、最高のおもてなしをしてくれ!と間接的に言う表現こそが!



『おまかせします』


なのである。村人にはけしてわからない隠語。

そしてそれは、お客様と宿で働く者達との真剣勝負でもある。

満足させずに帰すようなことがあってはならない。


清掃員からサービスマン、料理人。施設の整備係にいたる全てのものが

『おまかせします』のお客様にたいして最高のおもてなしが出来るように考え行動するのである。それがこの宿に働くものの誇りであった。


△▽△▽





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