1ー27 王
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王宮は、騒然としていた。
帝国からの使者が皇帝の親書をもってきたのである。
アームズの消滅から16年、王国は以前のような繁栄はなく。ようやく各領地が正常に機能し始めたばかりであった。
現、国王は、かの王の遠い親戚にあたる者が建前上、王を勤めていた。彼女は、そう女性であったが王の器があった。
人々は、荒れ果てた土地をたがやし。王もまた率先して、インフラの整備にあたった。彼女は、不情理を嫌い。暴力を嫌った。こんな混沌の時代に、いつ刺されるともわからぬ中。彼女のカリスマ性だけが人々に明るい道を、照らした。彼女は、暴力を嫌う反面。必要な制裁は冷徹に行った。強い意識がそれを成した。理想と現実は一致などしない。だが理想なき国家など国ではない。
周辺のアームズの影響をあまり受けなかった領主の支援をうけながら王国としての形を取り戻していったのである。
この国は、非常に人口に占める若者の数が多い。アームズの消失により、かなりの権力者や高齢者が冬を越える事ができなかった。当時10代~20代の若者達がこの国の建て直しに尽力した。
その為、効率的な社会システムの整備。新しい領主間での交流が盛んに行われ。そして、たった10年ほどの歳月で、大国への復権を果たすのである。だが一部の過去を引きずる集団が国内に残っているのも確かである。かの王を神格化させ、帝国による陰謀説を唱える集団の存在であった。
彼らは、国の中枢にまでその勢力を拡大していた。まさに王国は、現在の王が主導する組織と旧王を神格化する組織とで国を二分するような状態にあった。
そんな状況でアームズ消滅による天災以降、全く表向きに動きの無かった帝国が動き出したことで、現在の王である彼女は頭を抱えていた。今、兵を徴集して何とか出来るほど財政はけして豊かでもなく。内政もほぼ綱渡り状態である。軍備に割く予算も少なく開発するための人材も揃っていない。見かけだけの大国なのである。
この国を守る盾と剣が必要だった。だが帝国からもたらされた情報は、驚くべきものだった。我らが国と帝国の間に恐れの如くあった山脈が今や王国を守る盾では無くなったという事実であった。帝国からの使者がもってき親書には、建前上のこの新王国と呼んでも差し支えないかもしれないが新しい王と帝国の皇帝の間で和平締結の調印をしたい旨が印されていた。
問題は、一方的なその方法である。皇帝は、空中要塞バハムで山脈を越え二月の後。この王国の首都近郊で停泊したのち双方の歴史的調印を、実施したいとの事だった。
何と言う屈辱だろうか、首もとにナイフを突き付けられながら笑顔で握手しろと言ってきているのと同じではないか。もし、これが単なる侵略ならば無抵抗のまま王都は、空中要塞バハムの戦禍に巻き込まれる事になる。勝負にすらならずこの長い歴史の王国は消滅する。
弱い国が悪い。
ここまでの困難な道のりを考えれば私が描く理想とは程遠いかもしれないが、民の血が流れるよりは、帝国に従う事になっても良いのではないかと思う。
だが、、。反帝国主義の彼らはそれを許さないであろう。
必ず、調印式に妨害にはいり帝国に戦争の大義名分を与えることになるで有ろう。その全てを計算した上で帝国の皇帝が動いているのは子供でも判る。
決定的な打開策など存在しないように感じた。
この王国は、これで終焉を迎えるのであろう。
彼女は、王についたその日の事を今でも忘れない。かの王の遠い親戚であるが故に全ての民から冷遇の眼差しを浴び。王都は、いたるところで煙が上がっていた。
少しずつ、ほんの少しずつから前に進む。無駄なことなど一つもない。どんなに避難されても彼女は、愛を唄った。人を愛せ。他者を愛せと。
夏も終わろうとしている。秋風が実りを伝える日は、近い。
その頃には、空中要塞バハムにのって皇帝がまた、次の時代を運んでくる。
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『黒髪の少年と二人の少女』
風の噂で、そんな歌を吟遊詩人が町から町へと語り継ぐ。
疲弊し、問題をかかえる多くの町が次々と復興の兆しを見せる。彼らが現れると新しい風が吹くと言う。話は、誇張されるものだ。だが真実はもっと激しい風が吹いた事を知らない。
アルとトンファは、荷車で寝ているニアを横目に王都の手前の町まで来ていた。
倉庫の町から出立して、もう1回の冬を越えた。1年の月日は、あっという間だった。行き先々で問題を見つけては、何気ない良心から手を出してしまう。出立の時には、お礼とばかりに荷を消費するより積載が増えていった気付けば荷車は、もう1台増え馬も2頭増えていた。
もう、完全に端から見れば行商人だった。
王都の手前の町だけあって、人々の往来は激しかった。町の中央通りには、露店が建ち並び割合は、人間が多いが珍しいエルフ族も見掛けることもしばしばあった。
「おお、珍しいものを積んでいるじゃないか。是非、売ってくれないか?」
荷馬車を進ませていると商人と思われる主人に声をかけられる。
「何が入り用ですか?」
アルは、主人に尋ねるのだが彼が見ているのは、エマだった。
「あの犬族は、売り物じゃないのか?」
アルはびっくりした。あまり人の売買など出会う機会もなかった。だがこれが今の王国の現実だと言うことを理解した。
悪気があったわけではないはずだ。
「すいませんが、彼女は私の妻でして売り物ではございません」
商人は、目を漂わせ申し訳なさそうな顔をした。
「それは、すまんかった。てっきりそうだと決めつけてしまった。お詫びに何か買わしてもらおう。」
別に商人では、無かったが折角、気を使ってもらったので適当に選んでもらったものを売った。アルは、ニアが寝ていて良かったと思った。彼女がもし起きていたら同族が売り買いされている事実をしれば事を荒立てていた筈だった。
アルも出来ればそう言った資本経済は望まない。だがまだ混沌とした町を旅するうちに綺麗事ではすまないことも多くあることを学んだ。見かけ上救ったとしても学のないものは、直ぐに騙され利用されて最後は死んでしまう。
それがいまの王国の姿であった。
指導者の王は、アローズ消滅後の完全に破壊された国の民を逆によくここまで回復させたものだと驚きのほうが強い。自分では、絶対に出来ない事だと尊敬した。
王都に近づくにつれ、ある事に気が付いた。王を信頼し親しみを込めるもの達と。反帝国を掲げる集会場に集まるもの達の姿であった。
この町は、さらにそれが際立っていた。通りを境に王国の旗を掲げる店と、反対側にはアームズをイメージした模様が刻まれた旗を掲げる店とで大きく町が二分していた。
この町には、反帝国主義を掲げる集団の総本山があるらしく彼らの掲げる旗頭は、かの王だと言う。すでにこの世にいない者を神格化して行動主張をしているらしい。
現実的にみれば、何とも滑稽な集団だが信仰とは、時に理屈など必要なくただ理解し難い目的の為に動けるものなのだと判る。まぁ、僕ら3人も似たようなものだが信仰の対象が違うに過ぎない。賛同するものが多ければそれだけ力が集中する。その指導者がしっかりと導きさえすればそれは、最も尊い信仰でもあってよい。
だが、アルは彼らの信仰はともかく、理想が破壊的な彼らの指導者なるものがいるならば好きにはなれないと感じていた。
彼らは、文句や自分達の主張ばかりで帝国を悪とすることで纏まっているに過ぎない。その生活基盤は、全て今の王が再整備したにも関わらず、王を尊敬することもなく。自らの信仰である「かの王」を信じる。彼は、今は何もしていないというのに、、、。
この言い知れない思いが王都に近くにつれ大きくなっていた。
アルはため息をつく。
「もう一人のお爺さんは、ずいぶんと人の心を弄んでしまったようですね」
アルとって、育ての親でもあるローレンお爺ちゃんこそが実の親子とそう変わらない存在であった。だが、彼には「かの王」の血が流れる。これは、覆せない事実でもあった。
彼のもつアローズが全てを奪った根源であることを深く強く思う。
ローレンお爺ちゃんが言ったことの意味を理解せずにはいられない。
けして使ってはいけない力であると。
その存在すらも知られてはならないと。
今はただの棒切れでしかないこれが、、、。
この世界に混沌と苦しみを産み出した元凶なのだと。
「トンファ、今日はこの町泊まって行こう。エマを起こしてもらってもいいかな」
最近、エマはよく寝ていた。どうにも眠いらしい。
アルは、荷馬車から馬を解き指定された馬小屋に預ける。荷物は、盗まれてもいいが無用な争いの種になるため倉庫屋に馬車ごと預ける。
今日の宿泊場所は町の外れにあった。
通り沿いで言うならば今の王を慕う民が属している方だった。
宿の主人は、気さくで料理もとても美味しかった。
数日ぶりのふかふかの布団だ。
アル達3人は、死んだようにこの日は熟睡した。旅の疲れもだいぶたまっていた。
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「旦那、聞いたかい。ついに我らの宿敵がこの地を目指して侵略してくるらしいぞ」
「知ってるわ、今、町はその噂でもちきりだからな」
中年の男と若者が集会場の片隅でそんな話をしている。
「ところで、我らの総帥はどうなされる予定なのだ。まだ噂の段階だが真実味があることは確かだ。王国の宮廷にいるこちら側の奴の情報だと早くて秋頃に来ると言っているらしい」
そんな、噂が飛び交うなかで急に静かになる。
集会場にローブを頭まで被った老人が入ってきた。
人々が頭を垂れてその老人を見つめる。
彼がこの反帝国主義を掲げこの集団を先導している男だった。
名をローゼン・ゲルと言う。
ゲルは、村民の出で有りながらアローズ消失後に突如あらわれた。なぜか奇妙な行動をおこす。苦しむ人々に帝国の陰謀説を吹聴してまわった。最初は、皆、自分の生活に必死で耳を傾ける事はなかった。だが貧しい暮らしが続くなかで段々とその考えるに賛同するものが増えていった。この苦しみ生活は、全て帝国が悪いのだと。
ゲルは、表舞台で発言力を高めていった。気づくとそれを利用して勢力を、拡大しようとする貴族の後ろ楯もえるようになり王国内の一大勢力となる。
彼は今日も問う。
「この苦しみは、誰のせいだ!」
人々は答える。
「帝国だ!帝国の糞どものせいだ!」
永遠と興味の無いものからすれば胸糞悪くなるような罵詈雑言を浴びせ帝国を罵る。そして最後に共に戦い。そして「かの王」の意思を継ごうと高らかに宣言し、壇上をあとにする。
老人の眼光は、鋭く。その表情を見たものは畏怖した。
これもまた一種のカリスマなのだろう。人の弱さを糧に生きる者達。信仰らしい信仰の無かった王国において人々は、救いを求めていた。
その方法は間違っていたかも知れないが、これも彼としては正当な主張だった。彼は、かの王を崇拝していた。貧しい村で生まれ。生まれたときから搾取される側にいた。どんなに働いても恵まれる事はなく、やっと手にいれた家族も貧しさゆえに失う事になる。かれの性根は優しく困った者には手を差しのべた。いつしか多くの孤児を引き取り慎ましい生活をおくるようになる。だが、生活は苦しくなる一方であった。
そんな時、領主様からアローズが配給された。この国の王が民に配っているという。マナ操作など全く出来なかったがこの棒からは、何もかもが出来た。綺麗な水も腐ってない新鮮な食料ですら。初めて冬をこえても自分が預かる子供達が死なずに済んだ。
彼は「かの王」に救いをみた。言葉や愛よりもその日を生きるための食べ物のほうが、よほど救いであった者からすれば当然の事であった。
彼は、王を崇拝した。
もう、80歳も過ぎようかとする頃。「かの王」から賜ったものが突如消えた。
彼は、その物自体が王の分身であるかのように崇拝していた。
それが突然、無くなったのだ。
彼は、家中を探し回ったが見つけることが出来なかった。
そして、周りの全てで同様なことが起こっている事を知る。
そして、「かの王」が突然消えてしまった事も、、、。
信仰とは、物質的なものではない。そこに、明確な意思が有るか無いかである。
彼は崇拝する「かの王」が人々から非難される事が許せなかった。どれだけ救って頂いた!?。どれだけ命を繋いで頂いた!?。
人々は、忘れてはならない。飢えに苦しむ民を本当に救ったのは誰だ!
「かの王」の尊厳を回復しなければこの年老いた身でありながらも死んでも死にきれなかった。彼は優しく純粋だった。始まりは、只それだけだった。




