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1ー26 曇りのち晴れ

△▽△▽


「旦那様、エマお嬢様が至急、お話したい用件があると訪ねてきております。」



バイヤは、冷や汗を流した。多分普通の話では無いことが容易に予想が付くからだ。


「お父様、夜分遅く大変すみません。至急、お願いしたい事案が生じましてこの度、お伺いさせて頂きました。」



バイヤは、耳があるならどうか今日だけ難聴にしてほしかった。

しかし、可愛い娘の声はハッキリと聴こえる。


「して、どのような願いなのだ」

話も聴かずに一方的に否定することが出来る相手ではない。

娘は、誰よりも聡明だ。そんな娘の願いを聞き流していいものではない。


「はい、お父様。お許しを頂けるのであれば、わたくしを軍に入れて下さいませ。空中要塞バハムへの配属を希望します」



‼️


娘よ。今、なんと!

なんと申し立た?


まじで軍に入ってくれるって言ったよね。

はい!言いました。


心の声が、聴こえる。

竜神よ!。この道を最初からご存知だったのですね。


「み、認めよう。では1ヶ月後、、、。うぅ、、もう準備は万端のようなので即刻準備させよう」



「お父様、大好き!」

エマは、満面の笑みでお父様に抱きつくのであった。


△▽△▽


バイヤは、娘一人ではさすがに心配なため従者を連れる事を特例として軍に認めさせた。彼女と同じぐらいの年で最も彼女が信頼を寄せているトロアが適任として選ばれた。


彼女の意思など関係なく、主人であるエマに従う形で彼女も形式上は軍人となるのである。


エマの肩書きは、帝国騎士特配技術開発研究員。そして彼女の為だけに新設された空中要塞バハム内に研究施設を設けその室長となったのである。


研究施設の名は『ウルロボス』


その後、彼女が世界に名が知られるようになるとエマという優しい名前ではなく

この『ウルロボス』の方が彼女の代名詞となる。





△▽△


「今日ですよね。サリード家のご令嬢エマ様が搭乗されるのは?」

「あぁ、そうらしいぜ。すっげー頭いいし。けっこう美人って話だよ」


「そんな、失礼な態度が隊長に見つかったらお前やばいぞ、、、って隊長!」


レジュダの目下には、珍しくクマが出来ていた。それは突然の知らせだった。確かにバイヤ様からは私の元で預かって欲しいと前置きはされていた。だがそれは、実際にはもう少し先の話になりそうだと最終的に保留された話であったと記憶する。


だが、深夜に帝国本部より通達がレジュダの元に入った。

本日付けで、ミネルバ・エマ・サリードを特配研究室長として任命したとの事だった。

そして配属は、2日後。直ちに空中要塞バハムは所定の場所へ降下して待機せよという内容が皇帝直々のサインで承認されていた。


自分もまたバイヤ様のお陰で帝国騎士隊長の任を賜ったと言えるため。この案件を抗議する立場にもない事は十分理解できた。


だが、急だ。せめてもう少し前もって教えて貰いたかった。と思ったがすぐに思い直す。

あのバイヤ様がこんなに急をいそいで対応せざるおえなかったのはやはり、エマ様に要因があるのではないかと。行動派の女性同士、どこかで心が通じるものがあるのか普通なら嫌いになるところ何故か好感を覚えた。


だが、受け入れ準備まで時間があまりに無い。

深夜だったが各上級士官を叩き起こし、万全な状態でお迎え出来るよう準備を開始した。

何より問題だったのは、その研究施設として提供する部屋だった。


通達には、ご丁寧に図面付きで空中要塞バハムのメインコアに最も近いサブアクセスルームが指定されていた。これは、本来。メイン制御室が何らかの問題でアクセス出来なくなった場合に備え予備として存在するものだ。


だか、、ここ数百年誰一人、この部屋を使ったものはいない。

よって、埃だらけで中がどうなってるかすら知らぬものが多かった。


また、この部屋が使いにくいのは入口に生体認証コードを読み取るセキュリティが存在するためだ。一般兵程度では立ち入ることさえ出来ない。ちなみにメイン制御室にはその様なものはない。


その為、徹夜でレジュダと上級士官がお掃除をするのであった。

一度始めると色々な所が気になり始める。


レジュダは、四角い部屋を丸く掃除が出来ないタイプなのである。

そんな隊長のフリフリのエプロン姿を見ながら「隠れ大人女子ファン」として新しい領域を開拓する者も現れた。


一時的にその会員数は、二桁以上まで上昇したがその後、サリード家のご令嬢の出現により数は拮抗する事になる。


軍隊は、M男が多い。故に強い女性は、大変好まれるのであった。





△▽△▽


帝国からおよそ、2kmほど離れた平地に空中要塞バハムは着陸していた。

街道沿いから豪華なサリード家の家紋が入った1台の馬車が近いてくる。間違えなくあの馬車にいらっしゃる事が判る。


馬車は、要塞の入場ゲートのすぐ近くで停車する。

ゲート前には、レジュダを始めその直下の上級士官及び一個騎士団が出迎えの列を成していた。


馬車の扉が開き、まずはサリード家の当主であるバイヤ様が降りる。

そして、後からエスコートされながら娘のエマお嬢様が軍服を着て降りてきた。


軍服も上級士官が使うスタンダードなものではなく完全に生地からデザインにまでこだわったオーダーメイドで肩には、帝国の国紋とサリード家の家紋が金と銀の刺繍で鮮やかに装飾されていた。エマお嬢様は、長いブロンドの髪を結いまだ16歳とは思えない大人びた容姿であった。



軍のラッパ師団がファンファーレを鳴らす。

「この度は、お出迎えご苦労様であった。我が娘のミネルバ・エマ・サリードである。貴公の船に搭乗するにあたり一言、申しておく。特別扱いは不要。ただし! 傷をつけた者には、サリード家としてそれ相応の報いを受けてもらう。娘を宜しく頼む」


「敬礼! この騎士団、隊長。ロイ・レジュダ・フォーザンの命にかけて帝国の貴重な財産であられる聡明で稀有なエマ様を全力でお守りいたします。」


「このミネルバ・エマ・サリード、貴殿のお心遣いに感謝申し上げます。のちほど、また部屋をもうけさせて頂きますのでいらっしゃってください」


そして、胸に片手を当てお辞儀をすると颯爽と空中要塞バハムの中に進んでいった。


その立ち振舞い全てがサリード家の血縁であることを証明しているかのようだった。ここにいた誰もが息をのんでいた。別世界の人間が自分達と同じ環境で生活することになるとは全く想像できないと言ったところである。


この場にいるものは、高貴な存在は知っていても一緒になるような事はない。ましてやサリード家とはそう言う存在なのだから。






△▽△▽


「おまえ、さっきまで軽口叩いていたけどもう一度言える?」


「え、なんの事でしょうか。私には全然質問の意味が判りませんし。記憶違いではないでしょうか。あのエマ様に向かってそんな軽口を叩くものは、会員(No13)が決して許しません。」


「ん、? いつの間にまだ1時間もたっていないのにもうそれだけの会員が増えたのか。俺も入りたい、、。」


「しょうがない奴だな。この仕事が片付いたら自由時間にいつものミーティングルームに来てくれ皆と顔合わせといこうじゃないか!」


これがエマ親衛隊と呼ばれる『裏ウルロボス』の誕生した日と言われる。彼らはエマ様の為ならどんな困難でも要求にも耐え彼女が喜ぶ姿だけを信仰の対象した。表向きには、ただの会員制のファンクラブのように見えるがひとたび、彼らが動くと時代の表舞台から姿を消すものもいた。


いつしか、彼らは、『裏ウルロボス』と呼ばれ大陸中に毛細血管のように広がる組織となる。唯一無二の聖女を崇める組織として、、、。


しかし、追記しておこうエマ自身は、未来永劫けしてそんな組織があったことすら知らなかったことだけは確かだ。



△▽△▽



ここは、空中要塞バハムの展望デッキである。そこは、食堂やスポーツジムも併設しており兵達の憩いの場でもあった。その一角の個室をエマは、借りていた。

「トロア、なんて美しいのかしら。あんなにも大きな帝都が小さくみえるわ。」

「お嬢様、あまりはしゃぐのはお控えください。ここでは誰が聞いているとも知れませんので」


「トロアも折角、軍人になったんだから良いのよ。私のことは気にせず自由に恋愛とかしてもらっても。幸いここには、魅力的な肉体をもつ男性も多そうですし。」


「お嬢様! なんて、はしたない事を。私は、何と言われようとも旦那様から、お嬢様をお守りするように仰せつかっております。特に悪い虫は、私がしっかりと駆除いたします。」


「大丈夫よ。トロア。私。好きな人いるから」


「‼️」


「お嬢様。私はエマ様が『うろこ』以外で好きなものがあるなど知りませんでした。」


「あなたの目も案外、節穴のようね」

そう言いながらエマは微笑んでいた。


「トロアには、教えてあげてもいいけど。多分、お父様にすぐバラすから今は内緒ね」


「そうねぇートロアにも素敵な殿方が出来たら教えてあげる」


「えーーーー。そんなの酷いではありませんか!」




△▽


「そろそろ、レジュダ様がいらっしゃいます。」

少し緊張した面持ちの女性が先に入ってきた。レジュダさんの補佐官の立ち位置のようだ。彼女は、トロアと話をしていた。まぁ当然と言えば当然だろう。帝国で最も力のある名家の令嬢と帝国騎士のトップである者同士だそれなりの会談に近い。エマとしては、お茶会程度の感覚でお願いしたかったが、そうも行かないようだった。


部屋に通されると、まだ数人の女性が忙しいそうに動いていたがエマが入室すると直ぐに部屋から出ていった。ギリギリまで部屋の内装を整えていたようだった。予想はしていたが、思った以上に気を使わせているようだった。


レジュダさんは、数分もしないうちに部屋に入ってきた。

出迎えの時の正装よりも少しゆったりとした服装だったが品のある大人の女性を感じさせるものだった。


「この度は、私のワガママで急なご苦労をお掛け致しました。大変、感謝申し上げます。私の事は上官として敬称を省き、エマとお呼びくださいませ」


レジュダは、少し困惑した顔でどうしたものかと思案した。確かにこの艦においては私は最上位の権限を持つため彼女の上官ではある。だが仮にも身分だけで言えば、雲の上のような存在であるサリード家の令嬢であらせられる。


それを察したのかエマは、言葉を追加する。

「お父様も皆の前でおっしゃっていたではありませんか。我が家の品格さえ下げるような事がなければ基本的に特別扱いはしなくてもよいと。ですからレジュダ様。どうかエマとお呼びくださいませ。」


「そうか、それではその様にさせていただく。私もあまり気を使うのが苦手な軍人だ。貴族の社交辞令は正直苦手なのだよ。慣れない事を続けるのも無理がありそうだったので大変助かる。こんな感じが本来の私だが、エマはそれで構わないと言うのか」


「はい。皆様の定常を邪魔しては本末転倒でございます。私も軍人になりましたので研究員という立場から皆様の助力をさせて頂きたくここに来たわけでから是非。この空中要塞バハムの抱える問題点など情報を共有できればかと思います。」



そしてエマは話を続ける。

「手土産も無しに、搭乗したでは、私も名折れでございます。私なりに問題点とその解決手段に関する幾つかのレポートをまとめさせて頂きました。」


そう言うと、奥から彼女と、一緒に搭乗してきた上級士官の少女が分厚い書類の束をレジュダの机の上に差し出した。


「後半は、根拠となるデータになりますので参考程度とお考えください。まずこの空中要塞バハムの最大の問題点である機動性に関して、現在の少なくとも3倍以上の推進力を得る方法を定義しております。」


‼️



いったい。どういう事なのだろうか本部の研究施設が1年以上の時を費やし若干の機動性向上を果たした代物を彼女がなぜ理論上ではあるが出来るのだろうか?。


「悪いが君は、どの程度この空中要塞バハムについて知っている?」


「そうですね。まだここに来るまでに調べた範囲しか知りませんが。バハムの無干渉概論と重力制御に関してはおおよそ理解しました。その中で超高高度運用の背反として推進力を犠牲にしているようでしたが全くもってしてこの空中要塞の設計思想がわかっていらっしゃら無いようなので改善策を考えてきた次第です」


まだ、彼女はこのバハムを調べた始めて2日程度しか経っていないということだ。

だが彼女の推定は、実に正しいように感じた。その後、私でも判るように説明を丁寧にしてくれること2時間。レジュダは、皇帝に即日連絡し、承認を得る。


すぐに整備ドックへ向かうように指示。

エマは、小国5年分ぐらいの国家予算を使い。更なる機能改善を試みるのである。

本部の研究施設は、当然面白くないわけだが彼女の提唱する理論の方が正しいため文句のひとつも言えない状態であった。


彼女は、ニュートラルエンジンと名付けた推進力装置を設計し空中要塞バハムに組み込んだ。空中要塞バハムは、本来物質的な重みは存在しない。ゆえに、浮くことも降下することも可能だった。その際にその上に物質的な居住スペースや人、兵器などを載せるため制御コントロールに補正値を入力する必要があるのにも関わらず、概念をしらないものが最大積載重量を勝手に決めてしまった為に過重エラーをおこしていた。


これにより改修前の更に2倍以上の積載を可能とし、いままで積むことができなかった。対地用の長距離迫撃砲などもさらに追加できるようになった。


そして推進力であるが空中要塞バハムは、上昇と下降の運動エネルギーしか持っていない。では推進力とはどのように発生させているかと言う問いになるがこれは、実にシンプルなものだった。空中要塞バハムには、数万にも及ぶ板のような大気の流れを受ける羽根がついていた。


一枚では、木から落ちた木葉がヒラヒラと落ちる方向も判らずに舞い落ちるだけだがその全てが制御されることで前後左右自由に進むことができる。


これによりどの方向から風がこようが無風であろうが、微妙な上限運動をするだけで行きたい方向に舵をきって進むことができるわけだ。


ただし、その最大速度はこの大気をうける羽根の数と上限運動の間隔で決まってしまうため。事実上、打ち止めのはずだった。



だが天才は存在する。上下運動だけの重力エネルギーの一部を推進側の力に変換したのである。それに必要なものがこのニュートラルエンジンである。重力制御の一部を用いて重力ラインを形成することで目には見えない空中の動く道を空中要塞バハムが滑ってるようなイメージになるそうだ。


彼女自身も空中要塞バハムにメインコアにあたる重力制御を根本から発生させるメカニズムまでは答えが判っても式が解らないとのことで、空中要塞バハムに増産まではまだ難しいとの事だった。





△▽△▽


だが、彼女のこの1年の功績により空中要塞バハムは更なる進化を遂げた。

最大積載重量 2倍。

最大推進速度 4倍。

反転航行時間 70%改善

上昇下降時間 50%改善

理論火力 70キロトン増加



以前、山越をするのに要した期間は、約1ヶ月半。

当然、その為の食料や人員も必要で要塞としての機動面だけでなく事前に準備などにも多大な労力を必要とした。


それが1週間と少しで良いと言う。実際は到着しても下降にも時間が掛かっていたがそこも改善されもはや、以前の空中要塞バハムなどゴミといってもいい性能に生まれか変わっていた。




△▽△



彼女は、展望デッキに立っていた。傍らにはトロアが控えている。

もう、誰もが彼女をただの高貴な貴族の娘だとは思っていない。

『ウルロボス』様と讃えられる彼女だが、その目は遥か遠くの山脈の向こう側の景色を見つめていた。


その日は、とても天気の良い初夏の風が吹いていた。

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