1ー25 雨時々曇りの日
△△▽
そこは、中央区画の中でも広い庭に美しい木々が植わっており、さながら自然公園のようだった。世界中から集められた変わった小動物が木々の間からこちらの様子を眺めている。
「良いこと! これは、とても素敵なことなの。ついに妖精の存在を証明できるかも知れないわ。トロワ、踏ん張りなさい!」
トロワとよばれたメイド姿の女性は、額に汗を流しながらこの美しい庭にまったくそぐわない大きな機械のハンドルを3人がかりで回していた。
「お嬢様、もう限界でございます。どうかおやめください」
「何を弱気なことを言っているの。あの「うろこ」には意識があるはずなの。これでそれが証明できるかもしれないのに止めるなんてできるはずないじゃない」
機械には、いくつもチューブが取り付けられており中心に丸い水槽のようなものがある。中は、緑色に液体で満たされておりその中心に「うろこ」が鎮座していた。
トロワ達が懸命にハンドルを回すうちに徐々に機械に取り付けられた目盛りの針が上がっていく。もう、体力の限界に達しようとしていた。
「トロワ、そのぐらいで十分だわ。危ないかもしれないから少し離れてくれるかしら」
「お嬢様は、大丈夫ですか?」
そう、トロワがそこにいたであろう場所を見つめるとそこには、これから戦にでも出陣するかのように重装備でフルフェイスの鎧に身を包んだお嬢様らしきものが立っていた。
「これから、ケース234のパターン25を行うわ。マナを注入後、粒子分解と再構築を行います。」
「はい、、、。お嬢様、ご武運をお祈り申し上げます。」
トロワは、この晴れ渡る日に汗だくになりながら天を見上げる。
どうか、お嬢様が普通の高貴な女性になれますようにと祈るのであった。
ずっどーーーーーん‼️
激しい砂ぼこりが庭に広がる。
破裂した部品があたりに散乱して、その一部は館の屋根に突き刺さる。
「・・・・・・・・成功ですか?」
トロワは、お嬢様にいつもの質問を問う。
そしていつもかわらない回答が返ってくる。
「今日は、失敗したけど良いデータがとれたわ。もしかしたらケース344のほうが最適化できるかもしれない。 うん、絶対そうだわ。今日のデータをまず精密に解析してからだわ」
「お嬢様、まずは湯浴びをしていただきお着物を取り替えてからでも宜しいかと、、。」
えーー。といいながらメイド達に抱えられるように分厚い実験データの資料を片手に運ばれていく少女がいた。
△▽
窓のから外を眺めると木々の間からから美しい木漏れ日と初夏の風が窓のから吹き込む。
そして、次の瞬間。
爆発音と共に
なぜか、砂埃も吹き込む。
またか、、、、。バイヤは頭痛薬を従者にお願いする。
もう、以前のような効き目などはないが飲むと気がまぎれた。
いつからだ、いつからなのだ。彼は自問自答する。4歳の誕生日に珍しいものプレゼントした。
「水竜の『うろこ』」だった。キラキラと輝く生きた宝石とも言われた。めったに市場に出回ることはない。水竜は、陸地にあげると直ぐに劣化が始まり。巨体ながら、うろこのほとんどは腐りおちる。
1体の竜から2枚程度の割合で『逆鱗』といわれる特殊な「うろこ」だけが、その輝きを保ったまま採取できる。
貴族の間では、其を女性にプレゼントすることが出来るのはそれだけの財がある者のみであった。そんな高価なものを愛娘の誕生日に贈るのは、バイヤにとっては至極当然の行いであった。
だが、それが全ての始まりであったことは後悔の念に耐えない。
最初は毎日、嬉しそうに眺める娘を見ては、愛らしく微笑ましくおもったものだ。
だが、1年、2年と月日を重ねるごとにその目の輝きが尋常ではないことを思い知る。
少しでも他の事に興味を持ち。見聞を広げて欲しいという思いから10歳にも満たない娘を旅に出した。だが、娘は身体中に「うろこ」を張り付けて帰ってきた。
「お父様、世界にはこんなにも美しい『うろこ』に満ちているわ。私の一番のお気に入りはこの『赤い深紅のうろこ』ですわ。あーーーー。また旅の続きがしとうございます。」
父親として、この歴史上もっとも高貴であるべきサリード家の次期当主がこのような者では、周りへの示しが付かない。
考えた末に
優秀な家庭教師を付け学を学ばせる事にした。
彼女は、親の期待を裏切らず懸命に吸収していった。半年ほどで普通の家庭教師では教える事がなくなった。大賢者に頼み、優秀なマナ操作の講師を迎える。1年ほどで一般概論から上級マナ操作まで一通り習得してしまうのである。
14歳になる頃には、娘は帝国の学術士官の最高学府で歴代最高得点の成績を修め卒業することになる。周囲は、さすがサリード家の血筋だと称賛が父の元に集まった。
この時、バイヤ自身も自慢の娘として周囲に誇れる存在であった。
、、、、、。
我がサリード家もこれで安泰だと思っていた。
思っていた。
普通は思う。
普通なら。
娘が学府の寮から戻った日の事である。
「お父様、ただいま戻りました。大変に有意義な時間を頂けた事に感謝申し上げます。お父様が私の為にこれ程までに協力してくれるとは思いもしませんでした。この人生を掛けてお父様と私の願いを成就してみせます‼️」
「ん?。 協力?。成就?、、、、。まぁさておき。父も鼻が高い。噂は、耳に入っている。大変結構であった。行く末は、このサリード家を継ぐ者として申し分の無いことを内外に見せ付けることができた。本当によく頑張った。」
娘は、父のそんな激励に感極まって泣いていた。
本当に努力したのだなと両親とも人生で一番幸せな瞬間を迎えていた。
はずだった、、、、、。
ねぇ、皆さんそう思いますよね。
違和感を感じながらも数日後。
娘が至急に私と相談したい事案があると言ってきたのだ。
妻に何であろうかとドキドキしながら尋ねてみると。
ニコニコしながら年頃の娘が両親に相談したい事など恋話か決まった相手との婚姻を許して欲しいと懇願にくることに決まっていると言うのである。
そうか、気付けば娘もそんな年頃だったと。
クローゼットから父としての威厳を感じさせる服装を選び心の準備をする。
相手がどんな者であっても優秀な娘が何とかするだろう程度の気持ちで事の成り行きを楽しみに書斎で、待っていた。
「お父様、失礼してもよろしいでしょうか?」
部屋の扉の前で多分緊張し、このあとの告白でドキドキしているであろう愛娘の事を思い。父として多分に全てを許す覚悟は出来ていた。
部屋の従者が扉を開ける。
娘が一礼をして部屋に入ると私の前で再度、お辞儀をした、
「お父様、お願いがありここに参りました。」
そうか、そうだよね。相手は誰なんだい?。心の声が聴こえる。
「申すがよい。 前もって言っておく。許可しよう」
その途端、娘は満面の笑みで父を見つめ。
「お父様、本当にエマはお父様の娘である事が幸せでございます。」
私がサリード家として生まれ、この重責を背負いここまでの苦労を重ねてきた事が、この娘の笑顔の為にあったのではないかと思うとその苦難も少しは報われる。
父であるバイヤは問いた。
「で、相手はどなたなのかな?」
娘にエマは、顔を真っ赤にしてこう言った。
「お父様。もうわかっていらしゃる事ではないでしょうか。エマは、嬉しくて胸がはちきれそうです。お父様、大好き」
そう言って彼女は、私の前に資金援助の明細を置いた。
「、、、、。ん? これは、花嫁修業にしては随分と高額だな...。」
「お父様、これは研究資金のお願いでございますよ。お父様の娘で本当に良かったと思います」
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エマが去った後、妻に事の成り行きを話した。
返ってきた返答は、事が落ち着くまでは傍観しようという内容だった。
お互いに何が間違いだったのか冷静に判断する時が必要だった。
娘の事は、時が解決してくれると、、、、。
だが、、
時が決して解決してくれない事に気がつくのに其ほどの時間はかからなかった。
娘は、研究に没頭していった。
そして2年の月日は、あっという間に流れていく。裕福な財政状況といえども娘の半年ごとの援助金額は、小国の年間予算にも匹敵するものだった。
さすがのバイヤも父であるがサリード家の当主でもある。このままでは、家の威信に関わる問題に発展する可能性があった。
そんな時である。
娘の様子をじっくり観察した結果。打開策ともいえる妙案を思いつくのである。
娘の頭脳明晰ぶりだけなら体外的には、知れ渡っている。
帝国でもっとも予算が潤沢な研究機関は、一つしかない。
サリード家は元々、政略に長けているわけではない。国の力たる軍備においてその絶対的な力を掌握することで繁栄を極めてきた。
その点においては、娘の本懐はともかくとしてもその研究内容は、軍事的技術へ転用できる側面においては、たぐいまれない才能を発揮することを予想できた。
だが、娘が軍人になる事は親として抵抗が無いわけではない。
そんな、折に娘から思いもよらない相談をうける。
「お父様、空中要塞バハムをちょっと貸していただけないでしょうか?」
まるで、荷馬車を貸して欲しいと頼むぐらいの軽い感じで娘は、私にお願いをしてきた。
「私、あのメイン制御における自動航行には、疑問しかないのでございます。何らかの意識がなければあのような挙動ができるとも思えないので、一度じっくりと見せてもらいたいのであります。」
今さらまっとうな生き方をしろと嘆いてもしょうがない。
ここは、建設的に考えようじゃないか。
バイヤは、どんな話の流れで娘を軍にいれようか思案をしていた。
△▽△▽
エマは、部屋である研究論文を読んでいた。
もう、60年以上も前に大賢者アジェルーダが帝国にもたらした当時としては。信じ難い研究報告であった。
過酷な環境化において、生物が進化の過程で内包するマナが遺伝。より強固な個体となっていくが本質的には、庭でさえずる小鳥と、山脈にすむ国死鳥との違いはないと書いてある。
また、マナの保有量は個体の強弱を決めるものではなく質の問題であるという。
属性という概念そのものを安易に否定する必要はなく、完全に区別して識別できるものが大多数でそれが常識でもある。しかし正解であるとも言えない現象が存在している事。
マナの質とは、現象の結果により明確に判断できるという。
そして、最後にある仮説が提唱されている。
全ての生き物、物体には内包する明確な意識が存在し『覚醒』することで顕在化することが可能であると、、、。
資料には、研究データが添えられているが殆どの者がそれを理解できるようなレベルではない。だがエマなら十分にそれを読み解くことができた。その仮説が正しいと信じられた。どのデータもその可能性を明確に示し、答えがそこにあるがたどり着く式がない状態だった。
もし、アジェルーダがもう数十年この研究を進めることができたならばその式を見つけ出す事ができたかもしれない。だが彼は途中から別の研究にのめり込み道半ばでこの世を去った。
だが、ここまで本懐に近付きながら途中で辞めることができるのだろうか?
いや、私なら到底できはしない。そうなると、、、。
誰かが先に式を見つけた可能性を示唆する。
彼がこれを発表した時とそう変わらずに生まれたもの。
『アームズ』
彼女は、事の本質を正確に紐解こうとした。
確かに全てが繋がってくる。
思考を一端停止する。
彼女の目的は、もっと純粋なものだ。
彼女は、引き出しの豪華な箱の中から丁寧に1枚の「うろこ」を取り出す。
部屋の灯りに照らされて、赤色に輝くその様子を愛おしく見つめる。
彼女は、突然記憶の扉が開かれ二人の少女と少年。そして優しい村人達のことを思い出す。
今もあの二人はあの村にいるかしら。きっといるはずだ。
急に逢いたくなる気持ちをなぜか止めることが出来なくなっていた。
自分の研究も正直なところ行き詰まっていた。
何かが足りない。考えてもわからない。存在しない概念を見付けなければいけなかった。
途方もない計算の結果からも失敗が続く。答えに近付きながら、まったく交わることが無い。辛いと感じたことはない。でも、このままでは一生、答えに辿りつけないことも理解していた。
彼女は、クローゼットから服や以前、使っていた旅の必需品を鞄に詰め込み部屋を後にした。向かった先は、父の書斎である。




