1ー24 雨の日
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帝国の首都『ベルケル』
現在の大陸において、最も栄えている都といっても良い。
人口は、100万人を越えている。広大な平野が続き、農業も盛んで安定した豊かな土地が広がる。
人々の暮らしは、それほど貧しくなく身分制はあるものの優秀な人材は、学問や武の門を叩けばしっかりとした教育機関が存在しこの国を根底から支えていた。
「レジュダ様。少しだけお時間を宜しいでしょうか」
美しい甲冑に着飾った女性が貴族に呼び止められていた。
東西南北に4つの区画が存在する。
また、中央区画も存在する。
4つの区画は、大きく分類され階層別になっている。
おもに平民が住まう北区。
役人や兵など国に直接使える者が住む東区。
裕福な商人や権力者が住む南区。
別に貧乏というほどではないが移民が多く人間以外にも多種な種族が住む西区。
そして最後の中央区画が帝国のトップである皇帝を中心とした貴族院とレジュダのような帝国騎士たちであった。騎士も階級に応じて貴族と同じような身分制がある。レジェダは、そのトップであり貴族からしてみれば伯爵相当にあたる。
そんなジェルダの脚を止めるような貴族もまた非常に身分が高いことになる。
「これは、ミネルバ・バイヤ・サリード様。どうなさいましたか?」
レジュダは、その呼び止められた男に対して通路の横に下がると膝をついて礼をした。
「よい、よい。私が呼び止めてしまったのだ形式は省いてもらってかまわぬ」
そう言うと、その男は部屋を用意してあるからお茶でもしながら相談があると言った。
ミネルバ・バイヤ・サリード様と呼ばれた男。
サリード家といえば帝国では知らぬものはいない。何人もの歴代皇帝を家元から出してきた名門中の名門である。彼らは、帝国建国以前から存在し歴史が移る度にその時のもっとも権力のある国に治まってきた。時代の風を読む力にたけ権力争いで読み間違えなどしたことなどない一族である。かの王がアームズを発現した時も彼ら一族は、歴史的にみれば優秀の極みであった。当初からアームズの奪取に反対し、かの王との調和路線をとなえた。
現在の1つ残る空中要塞バハムは、本来は帝国のものではあるが彼ら一族が保有権を持っている。使用には、彼らの許可が絶対であり。これは皇帝ですら覆すことはできない。
だから先の大戦において、3機のうち1機が無事だった理由は、その使用を拒否したからであった。それ故に帝国とは、サリード家が表も影も握っていると言える。
そんなサリード家の当主がバイヤである。レジュダが今年で33歳になるが彼はそれより少し上で36歳とまだ若い方だった。だが独身を貫くレジュダとは違い。バイヤには、16歳になる長女が一人と下にあと二人いた。
「どうだ、空中要塞バハムでの機動訓練は進んでいるかい」
前回の冬が訪れる前におこなった試験飛行から山脈越え。その後の敗走も含みで反省点を改良し約1年の時をかけて部隊を再編成。空中要塞バハムも若干ではあるが機動性も少し改善。それ以上に超高高度からの射撃や空爆も行えるようになった。
「はい、おかげさまで関係各所への根回しを事前にしていただいたお陰で成果が確実に出つつあります。私を帝国騎士隊長へ推薦してくださったあの時からバイヤ様への感謝は忘れることはございません。」
「いや、いやご謙遜を私は、騎士学校で貴方をお見受けしたときから優秀だと思っていただけです。努力家で常に精進なさる貴方のほうがご立派ですよ。私はそんな貴方に便乗しているに過ぎませぬ。」
「そのお心遣い、感謝申し上げます。私には、恐れおい言葉でございます。」
「少し、話が堅苦しくなってしまったね。すまない。少し楽にしてくれ。
そうだ、君のために君の故郷からこんなものを、仕入れてみた。」
そう言うと、部屋の外から従者がテーブルに椀のかかった皿を持ってきた。
レジュダが見つめる先で椀が取り外されると皿の上には、チアの果実でつくった焼き菓子があった。
彼女は、一瞬だけ少女になる。
彼女はけして裕福な生まれではなかった。
彼女の故郷は、帝国の端の方にある村でそこには、名物の一つにチアの実というそれは甘い果実が実る木があった。
なぜか、その木はその土地でしか甘い実がつかず。分け木をして他の土地に植えても甘くない実しかつけないのであった。
レジュダの幼い頃は母と一緒にその実を集めては収入の足しにしていた。本当は、自分達も食べたかったがこんな小さな実では腹は膨れないため食べる機会は、誕生日ぐらいだった。
それも小さな実を一粒だけ使った焼き菓子だった。母は焼いても自分自身は食べることなく幼い娘が食べている姿をみてニコニコしながら美味しいかい?と尋ねるだけだった。
「どうなさったのですか。どうぞ食べてください。これに合うお茶もご用意しました。」
幼き頃の思い出とはなぜこうも鮮やかに美しくうつるものなのだろうか。あの当時に本当の貧しさを知るものは少ない。彼女の村は、アームズの恩恵を受けることはなかった。帝国も幾つかの領土で領地を与えられた爵位を持つものが統治していたが、レジュダの生まれた村はアームズの使用を禁止されその存在すら知らぬものが多かった。
一言で言えば、領主の信仰が物質的な豊かさは人を駄目にするとの教えからだった。領主自身も質素な暮らしぶりだったので別に周りがどうあれ民は死なない程度の我慢なら素直にしたがった。ある意味、あのような稀有な領主がいなければ今の私はいなかったかもしれない。
領主は、年に一度だけ村を訪れた。
そして、村特産のチアの実を一粒だけ頬張ると満面の笑みで微笑んでいたそうだ。
その目線の先では、村の子供達が無邪気に遊んでいたという。
そんな子供の中に私を発見し、その素質を見いだして10歳も過ぎた頃より領主様に支援を頂いて騎士学校へ入学させてもらった経緯がある。だからこそこの国につかえることは名誉であり自分の全てを国に捧げる事ができた。
「格別のご配慮、ありがたく頂戴いたします。」
そう言って、焼き菓子を口へ運ぶ。ほどよい酸味と甘味が口に広がる。後味がのこるうちにお茶を流し込む。フルティーなハーブの香りが喉から鼻へ通りぬける。
本当に美味しい。
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「さて、お茶でもしながら本題に入らせてもらうが構わないか」
先ほどまでの雰囲気とはかわり、政治的な側面をもつこのような茶会において相手の表情の変化から思考を巡らせる。
「はい、それで構いません。どの様なご相談でしょうか」
「少し、いや、、、かなり個人的なことなのだよ。
私としても我がサリード家でも稀にみるタイプの人間でな。才は、歴代のなかでもかなり優秀なのだが性格がな、、、。」
そこまで、言ったところでバイヤ様が誰のご相談にきたのかが察しがついた。
「エマ様の事でいらっしゃいますね。」
そう言った所でバイヤ様がほっとした表情に変わる。レジュダの顔を真っ直ぐみながら話を続けた。
「あやつには、見聞を広めるため帝国問わず王国までも含めて若い頃より旅をさせたのだがどういう訳だか、途中で親にもわからぬあらぬ方向に進んだようで。優秀すぎるのか馬鹿なのか私でさえ少し判らなくなってきている。」
「もう、エマも16歳になり当然の如く結婚相手も見つけてやらんといけないのだが下の二人は既に決まっているが長女だけが決まらぬという、何ともみっともない状態になっておる」
こんなんにもバイヤ様が、困っている顔を見たのはお会いしてから、はじめての事であった。やはり人の親というものは。本当に、気苦労するものなのだと再認識させられた。
バイヤ様の気苦労話が、一通り続いた後に最後に彼は、爆弾を仕込んでいた。
「でだな。花嫁修行の一環としてレジュダの下で面倒を少し、みてはくれんか?」
「ん、‼️」
「今、何とおっしゃいましたでしょうか?」
「ああ、娘の面倒をみてほしいと願いでた。」
「!」
バイヤ様のことは、尊敬をしている。そして忠誠も誓っている。お願いを断るなど到底できるはずもない。それを全てこの方は、わかっている。その上で私に頼むと言うことは、それなりのお考えがあってのこと。
私ごときでは、分からぬ高尚な考えの裏にどんな策を巡らせているか考えてもしょうがない。
「はい、エマ様をお預かりいたします。」
「ところで、具体的にはどのようにお考えですか」
「うむ、それも込みで任せる事とする。では、次もあるのでこれで失礼するが、細かい事務的な話や個人的に頼むわけだからそれなりの給金は別に用意させていただく。後の者を残すので話を詰めておいてほしい。どうぞ娘を宜しくたのんだ。」
そう言うと、足早にその場を立ち去っていた。
後に残されたのは、私と執務を全般に取り仕切る係の者だった。
そして、話は詰めるどころか最初からほぼ白紙の状態でスタートせねばならず、この職についてから最も難しい選択をいくつも強いられるような難題であった。
彼女は、これにより皆には内緒だが耳に上あたりにストレスから円形脱毛症が発生。軍人としてこれほどまでにストレスに強いはずの自分が、このようなメンタルの弱さを持っていることに気付かされたのであった。
私は、一生独身でいいかもしれない。
そう自らの意識を再確認しながら、ある程度までエマ様の受け入れ準備が整ったところで一息、窓の外を眺めると初夏の兆しとともに夕方の夕立で雨が降っていた。
当面は、雨の日が続きそうだ。




