1ー23 動かす者
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「皆さん、今日はお集まり頂き誠に有り難うございます。」
「この町の、ご厚意に甘えてずいぶんと長い期間お世話になりました。感謝の気持ちも込めてこのような会を開かせて頂きました。
存分に飲んで、食べて楽しんで行ってください。」
そう、アルは挨拶を終える。
春先の心地よい風が倉庫街の広場を駆け抜ける。
「そうか、アルの旦那もまた旅にでるのかい。寂しくなるなぁ。むしろ感謝しないといけないのは、こっちの方だっていうのに」
そんな会話があちこちから聞こえてくる。
彼を倉庫街のみんなが旅にたつアル達を寂しく思い惜しんでくれる。
この冬の出来事で町のみんながアルを知ることになった。
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少し前。数ヶ月前の事。冬の訪れが近い頃。
アルは、トンファとニアの3人で倉庫街に向かっていた。色々とお世話になった。ラムズさんが倉庫業の主人として仕事を再開して久しくの事だった。 3人が3人。予定よりもずいぶんと早い修行の一段落をしたことで。異例な速度で犬族の爪流派として免許皆伝となった。
アルのは、流派の奥義としては逸脱している内容だったがフォーもラムズさんも別にあいだを吹っ飛ばしてより高みにあるのであればいいんじゃねぇー的な感じであっさりとしていた。
彼らの腰には、狼の銀の装飾が施された短剣があった。正規な物と少し装飾が異なりラムズが昔、旅先でお世話になった者の友好の証として証明する刻印を追加で施してくれていた。
なんでも、この刻印があると今後の旅の手助けになるらしい。ラムズさん曰く、通行許可証みたいなもので特定の場所でこの刻印の印を持ってるか持ってないかで天と地ほどの差もあるとの事だった。
そんな、すごい刻印を写してもらっても怒られないのか聞いてみたがラムズさんいわく、彼なら問題ないとの事だった。
さすがに世界を旅した孤高のマイストロだけある。
そんな、こんなで3人はラムズさんから1から十まで、面倒をみてもらいぱなしで頭が上がらない。当然、感謝しかない。そのお返しをしたいのだが、中々に彼の役に立つことがなかった。
そこで冬の間だけでも何か仕事を手伝わしてもらいたいとお願いしたのだ。
ラムズさんは、別にお返しなど必要ないといっていたが実は半年近く仕事を、休んでいたので倉庫の業務が山積み担っていた。雇っていた人も日頃、ラムズさんがやっていた業務量が普通の人の3倍もあったためこなしきれるわけなく。僕らの申し出は二言返事で快諾された。
普通のお仕事なんて、するのは初めてだった。だが物覚えの良い3人はあっという間に戦力になった。アルは、持ち前のマナ操作で倉庫の温度管理と在庫情報がマナ魔道具の一つで管理されていたのだが、どうにも素人には使いづらいと評判の代物だったものを解析して改良をくわえることで全く新しいものへと生まれ変わった。
今まで3桁までしか登録出来なかった商品コードを24桁まで増やした事。また商品をただの文字リストの降順から眺めて探さなければならなかったものに検索ワードを追加し、増えた商品コードからある程度まで簡単に対象の商品を倉庫から見つけることができるようになった。
これにより、いままで棚毎に商品の種類を分けて保管しなければならなかったが今では、登録時にきめた棚におけばよく。業務効率が飛躍的に向上した。
トンファとニアは、受付で商品の受け取りと出庫を担当したのが。
ラムズの店にとんでもなく美人の娘が2人も雇われて働いていることが噂になり。別に預ける必要のないものまで手数料をはらって預ける「にわかファン」が急増した。
これが本職ならば人妻なのでほぼ詐欺だが、トンファもニアも満面の笑みで接客にあたりご新規のお客さんを増やしていった。
冬が本格化してくると、出庫のほうが増えてくる。
日々の食料や必需品も倉庫で保管される為、町の人や業者が預けた荷を受け取りにくる。
そんな順風満帆な様子だったが、問題はいつでも突然にやってくるものだ。
となりの倉庫業を営む店主が一生懸命に謝っていた。
「大変、すいません。お預かりしていた冷凍マグリ、100匹ですが昨日の晩から解凍が始まってしまいました。」
「おぃおい。ふざけるんじゃぁねーぞ。それ売れる前に解凍終わったら腐ってゴミになちまうじゃねえか。どんだけの損害だと思ってるんだよ!!」
そんなやり取りが聞こえてくる。
アルは、店主のラムズさんを呼んでくる。隣の店の揉め事でも倉庫街、いや町での揉め事の対応は、ラムズさんの仕事でもあった。本当にすごい人だ。
ラムズさんが仲介に入るとすぐに相手の業者もすこし落ち着いた。ひとまずは、ラムズさんのところが解凍前のマグリを預かることになった。
隣の倉庫の主人は、ラムズさんに何度も頭をさげていたが。
「ラムズさん、うちの冷凍庫も調子悪いですが。大丈夫ですか?」
雇いの店員が心配して、ラムズさんに言う。
「まぁ、いま困っているやつを助けるのが道理だな。後の心配はそれからだ」
そういって、隣のの倉庫から自分の倉庫へ商品を移動させるのであった。
そして、その後も周辺の倉庫でトラブルが相次ぎ。ラムズさんは、その対応に負われ。フォーさんの所へは、苦情が殺到していた。
フォーさんは、技術屋ではない。旧世代の作ったこの倉庫街のシステムはメンテナンスが定期的に必要だった。消耗品の定期パーツはまだ制作可能でメンテナンスも行えるが一つだけどうにもならないものがあった。
もう、数百年も前から稼働している冷却コアの魔道具である、
これは、かの有名な空中要塞バハムが製造された時代と同じごろにつくられた物で現代の技術では到底理解できずメンテナンスできないしろものだったのだ。
フォーは、頭を悩ます。ようやくこの10年少々の月日でここまで回復した町を根底から支えているものが失われでもしたら又、一から始めねばならず当然、多くの犠牲を伴うことになる。
考えが煮詰まらない中、こういう時はラムズの顔でも見て落ち着こう。そう考えたフォーは、山積みの書類をあとに倉庫街にむかった。
今年の冬もずいぶんと、冷え込む。倉庫街が、近づくと灯りがちらほらみえてくる。
「いらっしゃいませー。あ、フォーさん!。」
元気よくトンファさんが迎えてくれた。
そして、温かいお茶が出される。
「すまんのぉ。こりゃうまいなぁ」
「ええ、これはお茶入れのプロ。ニアが煎れたの。
なぜか彼女じゃないとこういかないのよね」
後ろの方で、ニアさんが照れながら立っていた。
「ごちそうさま。ところでラムズはおるか?」
「はい。ご案内します。いまアルと一緒に隣の倉庫の整備に行っているところです。本当は、ここへお呼びしたほうがよいのですが難しい調整のようで手が離せないとのことでした。」
「よいよい、仕事の邪魔をしてはいけない。私から行こう」
そういって、二人の案内で彼らの元へいくのであった。
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「どうだ?。直りそうか?」
「そうですね。全体的に劣化が激しいので一部は交換しないといけませんが冷却システムのコアからの供給の問題が一番のようです。」
それを聞いて、ラムズは予想以上に事の重大さを理解した。
そんなときにフォーさんが、訪ねて来たのですぐにこの関連の事だろうと察しがついた。
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フォーさんとラムズさんは、その後ずいぶん長い間話をしていたようだった。
店も閉める時間帯になった頃、フォーさんとラムズさんが降りてきた。
「アルさん、こんな事を頼むのも大変申し訳ないが。メイン倉庫の冷却コアを診てはくれんかのぉ」
フォーさん本当に申し訳なさそうにアルにお願いをした。
アル達は、断る理由はない。
早速、その旧世代が作った冷却コアがある場所へ見にいくことにした。倉庫が地上にあるとするならコアは、ずいぶんと深いところに設置されていた。
階段を降りること30分位だろうか。灯りは、しっかりしていて足元はよく見える。地中の施設ということもあり、少し肌寒いが快適な温度だったが、下にいくにつれて気温が上がっていった。
冷却コアのある部屋が唸りを上げていた。
アルは、部屋にはいると簡単な診断を始めた。
「これが供給システムで、こっちが動力制御システムか、、、。この調整ユニットがいっちゃてる感じかなぁ。こっちの増幅もヤバいな。よくこれで動いている。昔のひとは、サブライン設計もしっかりしているんだな。」
どこでどうやれば、そんな知識があるのかアルは誰かと話すように独り言を繰り返しながら作業を進めていた。フォーもラムズも武人であるが技術者ではない。まして一緒についてきたトンファもニアもそんなものを見たことはない。なのにアルは、元々知っていたかのようにその場所で理解し、そして復旧しようと作業を開始していた。
「ただ見ているぐらいしかないようだな。ニアさん、トンファさん。悪いがここをお願いできるかね。」
「はい、お夜食とか。抱き枕とかご用意しないといけませんわね」
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ラムズは、翌日にアルの様子を見に行った。不眠で作業しているのかアルの目にクマが出来ていた。ニアさんとトンファは、交代で面倒をみているようで今は、ニアは夜に備えて寝てもらってるらしく。トンファが一人、アルの作業を手伝っていた。
手伝うといっても、アルの額に汗を拭いたり定期的に水分補給させたりといった感じである。
アルは、ラムズさんに気が付くと作業を一旦中断して現在の状況に関してある程度わかり易く説明してくれた。そして町全体として協力しないといけない事も理解した。
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この町の中核を担う者達が一同にフォーの前に座っていた。
皆、事前にある程度の情報を伝えてあるため真剣な面持ちで町の代表を見つめていた。
「今、ひとりの少年が懸命に我らの町の象徴でもあるあの倉庫のメインコアを直してくれておる。全く、未知の存在に近い敵と戦っているとも言える。彼は、修理事態なら何とかなるかも知れないと言ってくれた。
だが、再起動する為には皆の力が絶対に必要だと言う。
幸い、今は冬だ。このミッションに参加してくれる有志を町の中で募ってくれんか。この老いぼれの頼みにどれほどの者が協力してくれるやしれんが。協力を求む‼️」
「再起動までの期限、7日後の昼にまで間に合うように行動を開始してくれ!」
会場から一斉に人が出ていく。
それぞれが出来る事を、なすべき事を。
作業に直接参加出来ない者は、作業する者達へ炊き出しをおこない。まわりの世話をする。
広場には、とてつもなく大きな入れ物が造られていた。
その入れ物は上蓋のない巨大な箱のようなものでいくつかの管が、倉庫街の中心でメイン倉庫の地下、冷却コアのある部屋まで続いていた。
人々は、何度も何度も往復しながらその巨大な箱に冷たい雪や氷を入れている。それもとんでもない量である。
町の外まで往復している者もいる。人々が作りあげるものは、美しい。町から外へ何千回と人々が往復するうちにそこに新しい道ができる。
そして、7日目。ついに巨大な箱は、氷と雪で満たされた。
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アルは、大体の事は理解できた。この巨大な装置ともいえる魔道具は一言でいえば空間を冷やすものである。だがその方法がとても特殊である。竜の刻印に近い原理で動力自体は半永久的に近いく、マナを氷の属性にちかいものに変換し空調の循環ラインから各倉庫へマナを供給し続けている。だが、この設備の最大の問題は、冷却コアのシステム全体の冷却である。
どうもこの施設がこんなにも地下深くにあった理由は、元々地下水がここに流れていたためである事がわかった。それにより常に適温の水が施設を冷やすことで自己冷却を行っていたようだった。
だが、ある時から徐々に地下水が枯れていき自己冷却が出来なくなった事で熱暴走をおこしていた。アルは、当初は自らのマナを発現する力により直接的な冷却を試みたが、この施設自体が何らかの防御壁により外からのマナの影響を無効化するシステムが働き無理なことがわかった。
地下水路は、供給するパイプラインが山まで伸びているようで途中が詰まって流れなくなっただけのようだったので除去する事で正常に流れるようになったのだが、、。
一度、熱暴走を起こした冷却システムのメインコアをマナ以外の方法で冷却する必要があった。地下水は、定常運転に必要な温度まで高めに設定されているため、その一部をマナ操作で冷却して使うことも検討したが何故か。マナを介在した水では逆に防衛機能の熱発生をおこして逆効果であった。
アルは、冷却までに必要な量を計算。その量は、摂氏3度以下の水が1000t以上必要であった。確実なところで2000t近い雪などを用意する必要がある。それもマナで作ったようなものでなく自然界に存在するものだ。
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そして彼らは、成し遂げた。マナを介せずに人々は、山から薪を集め雪を適度にとかす。
氷と混ざった氷結の水は、パイプラインを通りメインコアを冷やし続ける。
8日目、ついにメインコアの冷却が終了する。
『再起動』
システム00。メインモニターにシーケンスの実行中の表示がされる。昔の人はずいぶんと高度化された環境で生存していたらしいが一部を残すばかりでその技術はほぼ失われていた。
アルは、当然に疑問を感じる。なぜ判ったのか。なぜ見たこともない設備を直すことができたのか。かの王の孫である事以外は、またはアームズを持っていることがこれらの事象を唯一説明できることなのだろうが愚問に近いにかもしれないと思考を停止させる。
彼は、正常にシステムが起動したのを確認すると数日ぶりの眠気が襲う。その場で倒れてトンファとニアが慌てて、寝室に運ぶにであった。
その後、冬の間中。あれだけ色々な所で問題をおこしていた倉庫は正常に稼働した。町の皆は、この少年のおかげで町が救われたことを知っていた。皆、事あるごとにラムズの倉庫屋によっては、彼に感謝を伝えていた。
あのお客様も来ていた。
「あんたのおかげで、マグリが無事に冷凍されたままだ。お礼に数匹、差し上げるよ。君たちがひいきにしてる宿屋の料理長に渡しておいたから、今日あたり夕食にいってくれ」
そう、嬉しそうな顔をしながら出ていった。
「アルー!。マグリってアルアル鳥と並ぶ高級食材でしょ。こんな山で食べられるなんてスゴいわ」
トンファは、食べた事のない魚に興味心身。ニアも静かに今日の晩御飯の挑戦状に闘志をもやしていた。
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「なぎさ」宿 「本日、予約につき貸し切り」
アル達が宿屋に向かうと、今日は貸し切りの看板が表示されていた。
指定された時刻に向かったのだが中は、すでに多くの人が彼らの到着をまっていた。
町の代表であるフォーさん、中核を担う偉い人達。ラムズさんをはじめ倉庫街の顔馴染み。
「主賓の到着だ。みんないいかぁー‼️」
「アル君一同。この町を救ってくれて、ありがとー!。
これはささやかだが私たちからの贈り物だ」
そういって、もらったことにアルは、温かい人々の心のぬくもりから感極まって涙するのである。そんな少年の心根が伝わったのか、会場は大盛り上がりとなる。
そして、提供してもらったマグリが色々な調理方法で運ばれてくる。
この日の為に仕込みで2日も寝てない料理長がいたことを此処にいる、ほとんどの者が知るよしもない。
彼は、数年に一度しか調理する事の出来ない食材との真剣勝負に挑める事。食べさせる相手がアル達である事。自分の生き甲斐、信念を問う。
職人とはそう言う生き物である。
話が来たのは、5日ほど前。倉庫にある100匹のマグリから好きな物を、2つ選んで持っていって構わないといわれた。
マグリは、とても大きな海魚でここまで完全冷凍で持ってきた商人のこだわりが伝わってくるほど完璧な輸送だったようだ。彼も修行の旅でマグリに出会った事は何度かあるがここまで新鮮さを保っている状態をみたのは初めてだった。
かれは、マグリ一匹、一匹を丁寧に観察する倉庫内の気温は氷点下40度を切る。それでも彼は、全てのマグリを見た上で最上の2匹を選び出す。
両方とも250kgを越える大物だ。これだけでも金貨10枚は下らない。一生、庶民が食べることなどない高級食材だ。自分でもこれほどまでの質のいい食材を扱ったことはない。
王宮の料理人でもなければ、けして扱うことがない最高ランクの一級食材を調理する機会をえた感動。2日間考え続ける。どうすればあれを最高の状態で提供できるか。
そして、彼は世界中の料理書を開く。何度も王宮や貴族から誘いがあった。料理としては超一流の彼がその全てを断り、今はこの店にいるのかは謎のままだが。
料理にかける情熱は、すでに人智をこえたレベルにまで到達しようとしていた。
揚げる。蒸す。冷やす。刺身。煮付け。焼き物、、、、。
部位の食感や旨味の凝集した部位ごとに最高の調理をおこなった。
そして、やりとげた料理長はキッチンに満足顔で倒れこんでいた。
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「料理長が、腕によりをかけたマグリ料理にフルコースでございます。
是非、ご賞味ください。」
アル、トンファ、ニアは、自分達が主賓である事など直ぐに忘れる。
‼️
‼️
‼️
「・・・・・・・・ごぉ、ごぉれわぁーーーーうぁーーー‼️」
3人は、泣きながらまたマグリ料理を堪能する。
今回は、料理長は完璧な仕事をした。彼は、アル達3人がこの料理を食べた瞬間から感動で泣くことも想定した絶妙な塩加減にしてあった。
料理長は、この料理コースを『マグリによる最後の晩餐』と名付けた。
その後、この料理がこの場所で振る舞われた噂が春の風と共に広がり。
大陸中の美食家が山でこの最高のマグリ料理を味わいに来るという謎な現象がおきたのである。
本来は、ここの倉庫で保管されたマグリは、1年に数匹程度出回るぐらいで商人は、豊漁の年に水揚げして直ぐに冷凍し、非常に長い年月をかけて消費されていくはずだったが数年で元あった在庫のマグリは、その姿を消すことになる。
この町は『倉庫の町』そして『マグリの町』と呼ばれるようになる。
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街道沿いを荷馬車に揺られながらアル達3人は、進んでいた。フォーさんら町の有志がアル達の旅の成功を祝って、荷馬車と馬2頭をプレゼントしてくれた。
ここでも感極まって泣いているのだが、人の善意の前で涙する少年ほど人々の尊厳をくすぶるものはないらしく。彼の荷馬車には、町中からこれもってけ。あれ持ってけとばかりに詰め込まれ。知らない人がみれば行商人とそう代わらないスケールになっていた。
この道は、王国の王都を経由し刻印の試練へ続く町や、その遥か前には山脈を迂回する形で帝国まで続く長い長い街道であった。




