1ー20 始まりの鐘
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春の訪れが大地を駆け抜けていた。
若葉が森のこぼれ日をいっそう美しく演出していた。
生き物は、冬を乗り越えた歓喜にわいていた。
「ニアぁ、ちょっと女子の話があるんだけどいい?」
旅路の途中でトンファがニアにマナ操作を習っている時の事だった。
アルは、ちょうど町が見えてきたので先に様子を見てくると二人を残しこの場にはいなかった。
練習も一段落したところで、木陰のしたで二人は丘の裾野から見える町をみながら腰をおろした。
「私は、思うのニアも、私もアルもまだ駆け出したばかりの子供みたいな者だとね。でもいずれちゃんとした大人になるときがくるんだと思う。」
トンファは、ニアを真っ直ぐ見つめて話を続けた。
春の心地よい風が二人の少女の頬をかすめる。
「ニアは、たぶんアルと本当の家族になりたいと思う日が来るかもしれない。アルを一人の男として意識する時がくるの。」
「愛って言葉だけじゃどうしようもなくて、相手の温もりが欲しくなるものなの。ニアは今は判らないかもしれないけど、言葉では伝えられない生きる事の意味がそこにあったりもして、、、。」
「私が言いたいのは、ニアがその事で私との関係も大切にしたいと思うあまり。心の孤独を感じて欲しくないの。それは、とても苦しくて辛い事のはずだから」
「私は、ニアならアルを一緒に愛してもいいと思ってる。もし、この先そんな気持ちになったら教えてほしいかな。私も貴方を裏切らないし、もうかけがえのない家族の一員だとおもっているから」
ニアは、トンファの急な告白に戸惑いながらもアルには自分の深いところの何かが惹かれつつあることは、判っていた。初めての同じ年頃の異性を意識しないわけではなかった。
でも私には、アルと同じぐらい大好きなトンファがいた。
ニアは、自分の頬に涙が伝っていることに気がつかなかった。
トンファは、優しくニアを抱き締めると
「ニアは、本当に泣き防さんなんだから。素直すぎるのよ」
そう言って、頭を撫でるのである。
春の風は、心地よい。
△▽△▽
アルは、一人で町の通りを歩いてた。王国寄りの君主が統治している小国の外れにある町で、この国の出入り口にあたる。
町の名は、フォートンと言うらしい。この国は、移民が多く。そのため多種多様な種族が住んでいるようだった。町の代表は、君主の意向で世襲制ではなく町において時の権力者がつとめる選任制をしいているとの事だった。
この国の玄関口と言うこともあり、有事の際に対応出来るように今の代表は武道に長けた獣人の一人がつとめているらしい。
アルは、今日の宿泊する場所と正確な旅の目的地への経路を調べる事を今回の目的としていた。通りを進んでいると。
「お、そこの若い兄ちゃん。安いぞ、見ていってくれ」
通り沿いの露店から声をかけられる。
露店に並んでいたものは、新鮮な果実や野菜だった。ここら辺で取れる物らしいが春のこんなにも早い時期に並ぶ物では無いので聞いてみたところ、町の中心に巨大な倉庫があるそうで、夏や秋にとれた作物を安定した低温状態で保管出来るとの事だった。
一定の税を払う事で誰でも利用できこの町の暮らしは安定していた。この倉庫は、昔からあるようで何世代にも渡り利用されてきたものらしい。
小銅貨2枚で果実が3つ買えた。おまけの2個もくれて5個の果実を鞄にいれて通りを進んだ。ある看板の前でアルは脚を止めた。
、、、、!。
「アルアル鳥のクリーム煮が名物!。宿『ナギサ』」
アルは、久しぶりに自分の弱さとやらを知る。
気付けば3名で今晩からの宿泊を決めていた。大銅貨1枚を支払い今日から3泊できるらしい。
旅の経路は明日にでも宿の店主にでも聞いて、詳しい情報が仕入れられる人を探すことにした。アルは、足取り軽くトンファとニアを迎えにいくのである。
△▽△▽
3人の前に美味しそうなアルアル鳥のクリーム煮が並んでいた。
つい、生唾を飲み込む。
トンファやニアは、アルアル鳥など知らない。全域に生息はしているが高山地帯にはあまり生息しないためめったに食べる機会はない。アルは、幼少期の微かな記憶にこれがとんでもなく旨いものだと言うことが刻まれていた。
「頂きます。」
‼️。
‼️。
‼️。
今まで生きていて良かったと、、、、心の底から3人は感じた。
話は、アルアル鳥を中心に盛り上がった。そして彼らの旅の目的が大きく修正される事になる。緊急家族会議である。
「トンファ議長!。全員の賛成をもってこの議題を可決したいと思います」
「異議なし!」
「私も異議なし!」
「議長、ご決断を」
、、、、、。
「全員、この件に関して満場一致のため可決する事とする❗」
この宿でこの晩に一つのテーブルで行われた会議が大陸全土を巻き込む騒動になるとは、この時一体だれが予想する事ができただろうか。
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この日の晩。彼らは一つの部屋で寝ていた。
「アル、話があるんだけど。起きてる?」
「まだ起きてるよ。明日は、情報集めを皆でしよう」
そんな会話の始まりのなかでニアだけは、緊張がとまらなかった。
彼女がトンファから言われたのは、寝る直前に耳元でトンファからささやかれたからだ。
「早いほうがいい。今日しちゃうよ。私にまかせて」
何を任せるのかは、想像にかたい。
トンファは、自分のベッドから出るとニアを立たせた。
アルは急にトンファとニアが立ち上がったのでびっくりしていた。
「アルは私の旦那さんだよね?」
「....うん」
「ニアは、アルにとっては家族でいうと何?」
「.....? 大事な人」
「そんなカテゴリーは、家族にはありません」
沈黙が続く。
「またまたぁ、トンファ。冗談か何かですか」
全然、冗談に見えないトンファと今にも泣きそうなニアを前にアルは、気づいてしまう。
「愛する人ですか」
「正解です。ニア、はっきりと伝えたほうがいいよ」
もう、赤面と泣きそうなニアはありったけの勇気を振り絞った。
「アルさん。私もアルのお嫁さんにしてください!」
アルは、自分が何年も一緒に苦楽を共にしたトンファの告白とは違い。時間だけで言えばまだ1年も一緒に過ごしていないニアの告白に正直、どう返せばいいかわからなくなった。
でも一言、変わらないであろう思いを口にした。
「エマともずっと一緒にいたい」
それは、最初のプロポーズの返しとまったく一緒だった。
でも彼らにとっては、それが正解でありそれが全てであった。
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その晩は、長く。長く。とてーも長かった。
そして、3人が歩む長い物語の始まりでもある。




