1ー19 失う者
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帝国と王国の間には、いくつもの小国があった。
自らの力を本懐とし、武術を中心に帝国や王国に傭兵を送り込み生計を建てる国もあった。
その一つに獣人族が長を務める小国ガドルーがあった。
マナ操作と武術を組み合わせた他を寄せ付ける事のない戦闘部族であり。要人警護から暗殺まで各国の中枢を影で支える存在であった。
アームズの発現までは、、、、、。
力とは何か。この小国の王は最後まで自らの武を極める事だと信じた。
王の名は、ガドルー・ジン・マイオス。
ジン王と呼ばれその名前を知らぬものは、居なかった。
この時代、大賢者が知を司る象徴ならば。この小国でありながら絶対的な強者として武の象徴であるのがマイオス家の主たるジンであった。
マイオス家は、血で継承するものでなく10年に一度、国の内外から集められた獣人の族長が引き継ぐ。その方法は、単純でマナ操作と刃物や飛び道具を主とした武術により勝ち抜き方式により決める。その頂点に立ち続けるものを主としてその一族だけがマイオス家を名乗る。
虎族が長らくマイオス家を継いでいたが犬族に生まれ天性の素質で20年近くマイオス家として君臨したのが30歳を迎えた族長のジンであった。かれは、12歳から武の象徴たるマイオス家の長であり、国の王であり続けた。
己の力こそ全て、それでしか生きることのできぬ者が王であり続けたことがこの国の悲劇であった。
かの王は、獣人族にも等しくアームズをもたらした。
ただし、国家間においては不干渉とし、その国の王や族長などの力が及ぶ範囲でアームズの利用有無は判断を任せる事としていた。
ジンにとってアームズは力の本質が全く異なり。自らが信じる力とはまったく異なることから自国での利用を拒否した。このような国や領土は、別に珍しくはなかった。
そのような国や領土でも王や族長などは自らの地位を守るため、または他国から国を守るため個人的に利用し、国と国の関わりにおいて必需品となったアームズに頼る他なかった。
だが、ジンは全ての利用を拒否した。そして、拍車をかけたのは戦争の起こらない見せかけの平和が到来したことである。
武が必要とされなくなった。趣味程度の指南役で各国の傭兵を指導することはあっても。国同士が死線を感じるような戦いの機会もなくなった。
この国の存在理由が崩壊したのであった。純粋な力が必要とされない時代に王であるジンは対応出来なかった。
民は戦いしか知らなかった。そして彼らは、戦いを求めて各国に散らばったがいく先々で問題を起こした。周辺国家から畏怖と尊厳の眼差しで栄光を極めていた小国ガドルーは、数年にして「ならず者の国家」として人々から疎まれる存在となった。
そして、国としての存在とは国と国の間に明確な線が有るからである。だが周辺国はそれが国であった影しか小国ガドルーとして認識することが出来なくなった。王に従うものはおらず。国はその形を保つことができずに自然消滅した。
民の多くは、時代の変化に徐々に適応し周辺国のいずれに移民として定着していった。ジンは、それでもそこに残り続けた。60歳を過ぎた頃、彼は人類が肉体的に辿り着くことが出来る最高峰にまで武術を極めていた。
恐れ山脈に一人、向かったのはこの時である。
彼がもしこの時代に生まれていなければ、時代の伝説になっていたはずだ。
ジンは、恐れ山脈に住むといわれる獣王を探した。刻印の試練に住まう竜と等しき力をもち力を試す者の前に現れると言う。
ジンは、5年の月日を費やし恐れ山脈の谷から谷を放浪した。雪が降っていようが人智を越えた彼の脚を止める事はなかったと言う。
そして、ある夜の事。
久しぶりに強者が目の前に現れた。
白銀の狼であった。
時間が止まっているいるような感覚さえ覚える。
ジンには永遠のようであっても常人には、刹那な時間であったはずだ。
白銀の狼は、最後に彼の名を問う。
「ジン」
「人の子よ。お前の名は、忘れぬ。我が名はハウス」
山脈の夜空を白銀の狼は駆けていった。
一人残されたジンは、右腕は引きちぎられ。反対の片腕も肘から無かった。
だが、自分が求めて続けた強者との戦い。
全てをあの一瞬にかけた人生の集大成。その全てが彼を満足させた。
もう、この場で朽ちてもよかった、、、、、。
そして彼は雪の残るこの場所で崩れおちた。
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「このお爺ちゃん、死んでるにかにゃ」
山脈に住む者は、長らく居ないとされていた。
だが、実際にはその土地の環境に適応し、自然の調和を元に住まう部族もまたいた。
一部のものは、伝説となり獣王などと呼ばれたが人と交わり獣人と呼ばれる狼の一族が彼に生きる選択を与える事になる。
ぼろ切れのような布を被せられ、岩山の穴のような所で目を覚ます。
「・・・・・・・・・・・。俺は死んでないのか、、。」
「お気づきになったのですね。ずいぶんな怪我のご様子だったので皆、夕飯を楽しみにしていたようですが残念ですわ」
そこには、獣人でも滅びたものと思われていた狼族の娘がいた。
「私は、ニケアと申します。獣王の聖域で倒れられて居たところを村の若いものが獲物と間違えて引き込んだのですが、まだ息があったものですから私が介抱させて頂いておりました。貴方を見つけてからほぼ4日ほどの夜を迎えております。」
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7日ほどで痛みは、あるが動けるまでになった。ニケアは、族長の娘であると言う。
族長は、ジンがなぜあの場所で倒れていたか知っている様子だった。
むしろ、あの場所で満月の夜に生き残った者など知らぬ為。試すように尋ねた。
「獣王は、どうじゃった?」
「強かった。そして美しかった。」
族長は、満足した様子でその場を後にした。
ニケアは、その様子を近くで見ていた。そして言い知れないうずきを感じた。
野生の強者を前にして女としてのうずきでもあった。
彼女は、70歳も間近のこの老人に恋をしたのである。
ジンは、王でありながら一度も伴侶を持つことは無かった。それは、武を極める上で邪魔だったからだ。だが今の彼は絶対的な強者の前で完敗し、それでも満足した何かを内に秘めていた。
両手がないジンは、ニケアの介護を受けながら3年の月日を過ごす事になる。
ニケアは、内に秘める思いを隠したまま年月が過ぎる。
両手を失いながらもこの村にジンに勝てる強者は、存在しなかった。彼曰く、どの攻撃も止まっているかのように感じるそうだ。
ある日、ニケアは族長である父にジンとの婚姻を認めて欲しいと嘆願した。
この村には、掟があった。他の種族と交わる者は、この地から去らねばならない。
ニケアは、それを承知の上でジンと村を出た。
ほどなく、娘が出来た。子供になど今までの生涯で一度も興味などなかった。
だが、ニケアの生んだ娘が自分が愛した力とは、まったく違う何かを持っていた。ジンは、娘に母親から名を取り「ニア」と名付けた。
そんな頃に山脈の麓でターナと出会った。
ジンは、武を極める為に命を削った代償と老衰が体を蝕んだ。
ニアがハイハイをする頃には、彼は歩く事すら出来なくなりターナが住まうコテージに親子三人が居候する形で住んでいた。
彼は、娘の様子を目で追いながら良くこう言った。
「この子は、私以上に武の才がありそうだ。ニケア、お前に似て美人だ」
その度に母は、顔を真っ赤にして照れていたと言う。
ニケアは、よく甘えるニアを抱っこしながら頭を撫でていたと言う。
ニアがよちよち歩きを始める頃。彼は、息を引き取った。
ニケアは、ニアを連れて狼族の集落に戻る事は、叶わなかった。
彼の死後、彼女は心が不安定になっていったそうだ。
彼女は、たまにターナにその胸の内を話しては、彼を失った喪失感で子供のように泣いたと言う。
そして、ある夜のこと彼女は娘を残して消えてしまった。
彼の死を認めたくなかったのか。それとも後を追ったのか。
当時、ニアは母親を探しては泣いていたと言う。
ターナは、残された子供を引き取り自分の娘のように育てた。
最後にターナは、こう締めくくっていた。
「心の孤独は、誰しもが持つものであり母を責めてはいけない。ニケアもジンも貴方を愛していたことは揺るぎない真実なのだから」
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ニアは、思う。全てを捨てて得たものがこんなにも儚い時間で失われ。老婆と住まうこの家で不安と孤独にさいなまれた母がいたことを。いまの自分には、理解しきれないかもしれない。だが孤独の苦しみはよくわかる。
父と母を責めたりはしない。自分がここにいるのは、そんな偶然が重なり今があるのだから。
ニアは、そんな父と母、、そしてターナの為にも強く生きる事を誓う。




