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1ー18 呼ぶ者

△▽△▽


ニアが、こんな清々しい朝を迎えたのはいったい、いつ頃のことでしょう。昨晩からこの私しかいなかった家にお二人ものお客さんが泊まっている。朝食は何にしようかしら、あ、そうだわとっておきの甘味があったわね。あのジャムと焼き立てのパンなんていかがかしら。



ルンルン♪



アルとトンファと言えば、昨晩のことで同じ事を思ったのかニアの様子が気になった。


彼女は、5年もの間たった一人で、この山奥のコテージで暮らしていたと言う。彼女の様子から、決してそれが嘘で無いことを感じた。昨晩の彼女は、落ち着くまでにずいぶん時間がかかった。そして、その日はおもてなしができる準備が整ってはいないとのことで、空き部屋に通され、ここで一晩くつろいで欲しいと言われた。


アルとトンファは、久しぶりに暖かい柔らかいベットで寝ることできた。

毎日、窓を開けて掃除もしているみたいでお日様の香りと木の香りがした。



「昨晩は、お見苦しい姿を。改めてましてニアです。宜しくお願いします。そしておはようございます」


「こちらこそ、これからお世話になります。一人じゃ大変かと思うのでお客さんというより、何か手伝えることがあればどんどん仰ってください。トンファも僕も森の暮らしには慣れてるつもりなので。夕食などの足しに狩りもできます。」


「それは、ありがたいです。なかなか、外に出歩くことも出来ないので実はこの3人で冬を越えるだけの食糧があまり期待できないのです。」



雪が本格的に降るまでに食糧確保がトンファとアルとニアの命題となった。

ニアは、本人は恥ずかしそうにしていたが目と鼻と耳のいずれもアルやトンファよりもずいぶんと優れており。獲物に気付いた時にはすでにその方向に向かっていた。


「アルさん、トンファさん。そっちに追い込みます。」



「はーい。アルやっちゃって」

トンファは、向かってきた大きな猪の突進を横に流してアルにアイコンタクトを取る。


アルは、集中してマナの凝集と発現をイメージ。さらにお爺ちゃんから最後に教えて貰った竜の刻印を思い出すがそれは使うのをやめる。よほどの事以外には使うなと言われたからだ。


アルは、マナ操作の基本であったはずの触媒を必要としないマナの発現を行い猪に雷のマナを直接通す。一瞬で勝負がついた。一瞬、猪が光ったと思ったらその場で倒れてゴロゴロと転がってとまった。


「アルさんのそれは、なんと言うか何度も見ても不思議ですね」

「私も少しマナを扱えますがその様に直接、マナの属性を発現させることが出来るなんて初めて知りましたが。どうも自分には到底、できないようです。」


「ニアさん、マナ操作できるんですか?。私なんてアルがあんなにいろいろ出来るのにいつも指加えてみてるだけよ。なんかコツみたいのあるんですか?」


「アルさんに教えて貰ったほうがいいのではないでしょうか?」


「それが、なんというかアルの場合マナに関しては、

物心ついた時には出来てたみたいで、どうやったら出来るようになったのかの所が

 抜け落ちているみたい。応用は教えられても入門が全然わからないそうです。」



そんな感じで、冬の間にニアさんからマナ操作の入門を教わることになった。

そもそも適正がないといくら努力しても無理なそうで、水通しと言う方法でそれがわかるらしい。ニアは、桶になみなみと水を張った。


「トンファさん、最初は何も考えずに手のひらを水面に浮かせるように浸けてください」


トンファは、言われるがままにそうしてみる。水が溢れるかどうかの瀬戸際である。


「トンファさん、次にその手を桶の中に沈めていくのですが目をつぶってもらって自分の手が今接してる水の一部であると強く思い込んでください。そうしながらゆっくりでいいので手を沈めて桶の底までついたら目を開けてください」


「はーい。、、、水です。私も貴方も水、、、、。」



「トンファさん、目を開けてもらってもいいですよ。」


!!


桶の水が溢れることなく、自分の手が桶の底についていた。



「トンファさんの適正も随分、高いようですね。この水の漏れる量によってマナを操作する器が決まるそうです。器を持たないものは、手のぶんだけ水が溢れおち。その逆にどんなに沈めても1滴も溢れる落ちない人はそれだけマナを内包することが可能と言われてます。」



ちなみに、ニアさんは手の半分ほどで桶の水が溢れてしまうそうです。

「アールぅー、アルもやってみて」


今さらアルがやる必要があるかは別としてニアも興味があった。

「じゃあ、やるけどこれで駄々漏れでも笑わないでね」


そう言うとアルは同じ事をやったつもりなのだが、、、、。


△△▽


「どーしたらこうなるかな」


そこにあるのは、水だった物。

水と同じをイメージしてマナを感じた。


目を開けると、、、水は何もない。

その代わりにマナの結晶化したような細粒が桶の底に散らばっていた。

トンファ曰く、アルが水面に手のひらを押し沈めるたびに水面が下がっていき、最後に細粒になったそうだ。この細粒は、あの山の頂上でみたものとそっくりだった。


つまりマナ自体が発現していることと同じ事が起こせたと言うわけだ。


ニアも驚いていたが、すでに規格外な部分は狩りで見せてもらっていたので予測出来ない結果が起こることは予想できていた。


トンファは、思案するニアに向けて、

「アルが無事に化け物であることが証明された所で、次の講義に進みましょう♪」



そして順調にトンファのマナ操作入門の道のりが始まったのであった。


△▽△▽


明日の夕食は、スペシャルにしないと!

出会って1月記念を祝うのだ。


今日、例年よりも少し遅く初雪が降った。

今まではニアにとって、この雪の訪れによる冬の到来は、何も期待してはいけない季節が来たことを意味した。


それが毎晩、暖炉の前で遅くまで身の上話や季節の話題を話す相手がいるのだ。


時々、自分でも分からないうちに目から涙が溢れているらしい。その度にトンファさんが「ニアは泣き坊さんなんだから」と、肩をよせて頭を撫でてくれた。まるで遠い記憶の彼方にある家族のようだと。



今晩も暖炉の前では、明日の1月記念をどうするか盛り上がっていた。

ニアは、この冬の幸せだった。


ある冬の夜の事を思い出す。

一人でいることが無性に悲しくなった彼女は、寒い外に出た。透き通るような夜空が広がる。誰もいない。慣れたことなどない。思いっきり叫んでも誰も彼女の声に返してくれるものなどいない。ふと、庭に咲く一輪の月光花が目についた。冬の夜に一晩だけ花を咲かせる。


お婆ちゃんから昔聞いたことがあった。冬に咲く事ができるのは、月光花だけだと。人知れず咲きその儚い花を一晩で散らす。朝には、何もなかったように根元から消えるそうだ。


もし偶然、月光花を見ることができたら願い事をしなさいと。運命の花とも言われその願いが受け入れられ運命を変えることが出来ると教えてくれた。


「もし、貴方が私の願いを聞いてくれるなら。

私を一人にしないで! 私を孤独から救いだして!」


ニアの悲痛な願いもその花は、何事もなかったように美しく月光の下で白銀に光り続けていた。彼女は、心の底からの叫びを口に出せたことで気が楽になったのか部屋にもどった。


そして翌年、トンファとアルが来てくれた。月光花が願いを叶えてくれたと信じずにはいられなかった。





「ねぇ、アルのあのマナの発現といえばいいのかしら有効範囲はどのぐらいなの?」


「試した事はないけど、見える範囲で距離感がわかるなら特に制限はないよ」

「実際は、動く獲物を相手にするときが多いからある程度近づく必要があるけど」



「じゃあ、見えているけど遠い山の頂上付近とかに効果を発現するのはできる?」

「やってみないと分からないけど、止まってるからできるかも」


ニアは、思案していた。もしかしたら上手くいくかもしれないと。

「これは、お婆ちゃんに聞いた話なんだけど、、、、。」


ニアは、昔話を始めた。


あるところに二人の登山家がいたそうだ。

青年は、友人の女性と大陸中の山を登頂したそうだ。

そして最後に帝国と王国の間に並び立つ山脈以外、初めて登る山が失くなってしまった。周りからは、当然反対された。だが若い二人の望みをとめられる者はいなかった。


彼らは、なんと登頂に成功するのである。だが、彼が下山して戻ることはなかった。

帰りに青年のほうがその場でここに留まることを決めたからだ。なぜ下山しないのか友人の彼女は訊ねたが彼は、何も答えてはくれなかった。

彼女は、偉大な登頂成功を誰も知らないまま終ることがどうしても許せなかった。彼を残し下山した。彼女は、その後に山脈の麓にコテージを建てそこに住むようになったと言う。

この話は、山に取り憑かれた哀れな青年と彼を残したまま下山したことを後悔をする女と言う題名だった。


「その女の人って、ニアのお婆ちゃん?」

「多分、そうだと思うけどお婆ちゃんに聞いてもニコニコするだけで頷いてはくれなかったわ」


「それで、話には続きがあるのよ」


彼女がコテージで住むようになって数年したある日のこと。ふと、彼と登頂を成功させた山の頂きを晴れた日に眺めた時のこと。


キラキラ光る旗を誰かが左右に降っているんですって、それもその日は登頂を成功させた日なんだって。それが毎年、何年たっても見えると言うの。



あいにく私が教えてもらって以降は一度も晴れた日がなくて山頂自体がみえないので本当かどうかニアは分からないと言う。


それが、偶然にも明日だと言う。冬山のほうが環境としては過酷だが雪崩の心配もしなくてすむ事とモンスターの活動が冬眠するので登山には向いているとの判断でこの時期だったらしい。


「で、ニアは、どうして欲しいの?」



「・・・・・・・・引かないでね。私は、彼女がお婆ちゃんだと思っているの。私は、お婆ちゃんが時折、とても悲しい顔をしながら山頂を眺めてる姿をみていたの。たぶん、あの山頂には彼の執念というか怨念というか思念みたいなものが残っていてお婆ちゃんはそれが判ったんだとおもうの。肉体はなくなってもそこに居続けようと思うなにかが残り続けているの。


誰にも迷惑は、掛けていないから無視すればいいかもしれないけど。私にとっては唯一のお婆ちゃんが悲しい気持ちでいたまま亡くなったことがどうしても許せないの。全部あれがいけない気がするの」


「だから、見えたらぶっ壊してほしいの!」


「発想が、大胆ですね。」


「あれさえ、失くなればお婆ちゃんをこの場所に縛り付けたものが無くなる気がするの。そうしないと、、、わ」


そういいかけた所でニアは言葉をつぐんだ。


「なんか、わかる気もするからやってみる」

「アル! どんとでっかいのやつをお見舞いしましょう」



△▽△▽△


朝から、雲ひとつない晴天だった。

庭には、昨晩トンファが器用に作成した横断幕が掲げられている。


「「ぶっ飛ばせ山頂の執念野郎!」」


すごい、内容だと思い出ながらパンを焼くニアの表情も楽しそうだった。


「たぶん、そろそろだと思う。昼前に登頂を成功したっていってたもの」


確かにアルからも山頂の雰囲気に変化を感じた。

そしてそれは、突然現れた。


本当にキラキラ光る旗を誰かが左右にふっていた。

アルは、望遠鏡の要領で山頂までの大気中に擬態レンズを水のマナの力で出現させる。

およそ100倍位にしたところでそれがハッキリと映り込んだ。


「透明な人みたいな。ボヤけてるけど旗を降ってる。

旗に何かかいてある、、、、。」


「「ターナを愛してる。」」


「それって、お婆ちゃんの名前」

あの山頂の亡霊は、山頂に執着していたわけではなかった。死ぬ直前になって自分の一番大切なものがなんだったのか気付いてしまったのだった。彼女に対する未練が彼をこの土地に縛りつけた。何年も何十年も。


「可愛そうだから、アル。やっちゃって!」

「私からもお願い! 成仏させてあげて」


△▽□▽


アルは、集中する。こんな遠距離での発動は初めてだった。距離感がまったくつかめないので視点の映像を鏡のように光を反射させて、山頂の上空を見るような位置取りをした。


これならいけるかな。

アルは、光属性をイメージする。真夏の日の白く熱い光に近い。

そして竜の刻印を顕在させる。なぜか判る。アルアル鳥が思い浮かぶ。なぜかは、自分でも判らない。


そして、対象の周囲にマナを発現させる。あとは、増幅した光のマナを思いっきり込めるだけである。



「いけぇーーーーーー!」




‼️‼️






△▽△▽△




「やっぱり、こうなるのね。てか山の原型おかしくないかしら」

「もう、アルには頼まないほうがいいかもね。これ人がいないって判ってる場所だったから良かったけど別の場所だったらと思うと背筋が凍るわ」


アルが放った光の柱は、山頂の上で輝いた。一瞬、目の前が真っ白になったかと思うと反転して暗くなった。目がなれると元の青空が広がっていたが、、、、、。


山頂が綺麗に無かった。


アル自身もビックリしていたがトンファとニアは、ずいぶん長い間、何もしゃべることができず空いた口がふさがらなかった。


「まぁ、結果オーライね」


「アルさん、有り難う。これでお婆ちゃんも彼も無事に成仏できたはずだわ」


3人は、顔を会わせると笑うしかなかった。

こんな風にこの場で起きた事を正確に理解していたのは、この3人しかいない。



△▽△▽△

その日、帝国と王国は事態を把握できず騒然としていたことは言うまでもない。

あの山脈の頂きの一つが光に包まれたかと思うと一瞬で消失したわけであるからだ。お互いに相手の国が何らか軍事的兵器の使用実験を行ったのではないかと思うと同時に、帝国の一部の者はアームズによる事象ではないかと噂が流れた。


たった一人の少年が少女に頼まれておこなった事など思う者は誰一人いなかった。

その後、帝国、王国双方から調査団が派遣されたが結局真実にたどり着くものはいなかった。



▽△▽



冬の終わりは、あっという間だった。

いつもなら長い冬は、つまらなく、寂しいものだがニアはお婆ちゃんがいた頃以上に楽しい冬を過ごすことができた。



「ニア、春になったらどうする?」



真剣な顔でトンファがニアに尋ねていた。



「私は、、、、。」



押し黙るニアにトンファは声をかける。

「アルと一緒に旅にいかない?。無理に誘うつもりはないけど。ニアは私にとってはもう家族みたいなものだし。一人にすることが出来ないの」





ニアは、ずいぶん前から決めていた。でも自分からお願いをして、もしも駄目だった時に挫けそうな気持ちを押さえられずにいた。でもニアが考えてた心配は、あっさりとトンファが壊してくれた。



「いいの?。私が一緒についていっても」


「もちろんよ。だって家族でしょ」


ニアは、涙がとまらなかった。

アルも笑顔でその様子を見ていた。

「ニアは、本当に泣き坊さんなんだから」


そう言って、トンファはニアを抱き締めながら頭を撫でていた。


冬の訪れは遅かったが春の訪れを告げるスイングバードの到来は例年よりもはやかった。




△▽△▽△


出発は、2日後に決まった。

慌ただしく準備するというより、元々準備していたものに余分にもう一人を足すだけだったのでたいした時間はかからなかった。


また、ここに戻って来るときがあるとするなら私は、何を成しているだろう。

ニアは、この狭い世界でお婆ちゃんと二人で過ごした我が家を旅立つ日がくる事など去年までは想像すらできなかった。


そうえば、お婆ちゃんが私に当てた手紙があったことを思い出す。

現実を受け止めることが出来なかったニアは、いままで戸棚にしまったままだった事を思い出す。ニアは、トンファに頼んで戸棚から手紙を取り出し読んで貰うことにした。



「愛するニアへ


この手紙を読んでる時には、私はもうこの世にはもういないのね。

あなたを一人残してしまうことが唯一の後悔であり、私の罪かもしれない。

許しておくれ。この年老いた婆やではお前に十分な愛を注ぐことができなかったかもしれない。私は、それでもお前を実の娘のように世界で一番愛してる。 」


そう、手紙の冒頭は綴られていた。

手紙は続き、ニアが将来疑問に思うであろう出生の秘密や、なぜニアがこの場所でお婆ちゃんと住むようになったのか。事細かに綴られていた。


△▽△▽









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