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1ー16 去る者

レジュダは、皇帝との至急連絡を取れるように指示した。連絡手段は、一般的には手紙による伝令鳥や行商人を使う。だが今回は、場所が場所だけにその様な手段を用いることは出来ない。


空中要塞バハムには、要塞としての特殊な機能がいくつも備わっていた。中でも戦略的な優位性として本国との通信手段があると言う点だだった。これにより、前戦の情報を本国の情報部隊と共有する事ができる。戦時においては、空中要塞バハムが存在するだけで他国からしてみれば脅威そのものであった理由がここにある。情報戦における絶対的な優位性。


それもアームズの発現までの事である。人々が瞬時にアームズを用いた手紙などの配送を可能にした為に今までの脅威はその瞬間から帝国だけのものでは無くなった。


そんな歴史をたどりながら、空中要塞バハムの優位性は、アームズの消失とともに復活するのであった。レジュダは、今回の始末をどうつけるかよりも現在どのような現象に見舞われこれがアームズによる力なのかそれとも別の何かによるものなのか正確に状況を把握する必要が最も大切だと考えていた。


村から2kmとそう離れた場所では上空に停泊しているのにも訳がある。

家を焼き払った以外は、人命という意味では村の被害がほぼ皆無である事はすでに確認が取れていた。村には、早くも人々が戻りこちらを伺いながらも後片付けにいそしんでいた。


そして、一人で現れたという老人がかの王の息子に仕えていた元王国騎士である事もだ。空中要塞バハムには、監視塔があり上空1000mからでも眼下の様子を偵察する事ができる。その精度は観測点まで2kmぐらいであれば人の表情までも判るぐらいの望遠を有していた。



そして、監視塔の兵は必死に一人の少年の姿を探していたのである。

「いまだに、銀髪の少年を発見する事は出来ません。引き続き捜索にあたります。」


レジュダは、思案した。この村に隠れてるのか、それとも逃がしたか。まだ情報がたりず結論を出すには早い段階だった。


「レジュダ様、本国との連絡の準備が整いました。皇帝陛下がお待ちです。」


「まずは、ご苦労であった。戦況はだいたい聞いておる。その上で、お前に責任は無いものとする。誰も今回の事態を想定出来ておらん、お前一人の責任と言う訳では無かろう。むしろ、引き際をたがえずあの程度ですんだことを称賛する。」


レジュダは、事態を冷静に判断していただける皇帝陛下につかえる事が出来たことに改めて忠誠を誓った。そして、今回の竜の力を喪失した現象への回答を待った。


「これから、話す事は帝国の最重要機密で有るゆえ他言無用とする」


そう、前置きをした上で皇帝から語られた真実にはレジュダもにわかに信じられなかった。




△▽△▽△▽

トンファは、必死で走った。

こんなにも必死で走ったのは、大きな猪以来であった。

息づかいは、激しくもこの先にある未来が何なのか。そして、生まれて初めて行くであろう外の世界に憧れがなかった訳ではない。もちろん不安がないわけでもないがアルがいるから自然と不安は少なかった。


だが、残された家族や村の事を思うと胸が苦しくなるのも事実であり。2人がかける森の風景がいつもとまったく別物に感じた。走り続ける事、数時間。さすがに疲労はピークに達していた。


「アル、ごめん。そろそろ限界、、、。」


アルは、トンファの手を握り歩みを止める。そこからは、ゆっくりとそれでも確実に歩き続けた。いつの間にかあたりは、また夜を迎えようとしている。初めての場所だった。アルはここで一旦、休憩することにした。


「トンファ、、、、」


二人は、身をよせあうと一時の眠りについた。

翌朝、何処に向かうべきか二人は、相談した。あまり外の世界を知らないトンファだがアルは、お爺ちゃんのローレンに色々な事を教えてもらっていたこともあり行先に迷うのであった。アルが見たわけではないがローレンから教えてもらった場所は、どこも魅力的であったのだ。


「私、海が見てみたいわ。とっても大きな塩水があるなんて信じられないもの」


アルは、それがとても遠いとはわかっていたが1年半ぐらいでたどり着くことができる為、トンファのお願いに賛同した。


彼らを追うものがいたとしても、二人を束縛するものはない。どう生きようが自由なのである。アルもまた村に残したお爺ちゃんや村の人達を心配していた。でもそれを考えても自分たちが出来る事はなにもないのも判っていた。



自分がすべきことは、トンファと生き抜く事であると。



「トンファ、愛してる」


別にあえて言葉に出す必要などなかったかもしれない。でもアルにはそれが必要だった。何もない自分に唯一あるのは、彼女の存在であるからだ。


そして、彼女もまた同じなのである。


「私もアルを愛してる」



二人は、唇を重ねあわせ一時の幸せを感じていた。


「行先も決まったし。トンファいこう‼️」


彼らはまたこれから長い長い道のりを進むのであった。



△▽△▽△▽


空中要塞バハムには、住居区画があり個人または集団に部屋があった。レジュダは、帝国騎士隊長としてそれ相応の部屋を与えられていた。


その部屋で彼女は皇帝から告げられた真実とこれから自分が取るべき選択を模索していた。


△▽


かの王が若く、アームズを発現した頃。彼女は産まれているわけもない。50年以上前のことだからだ。当時の皇帝は、何としてもアームズを奪取し世界で帝国が優位な立場であり続ける選択をした。


帝国には、当時 3基の空中要塞バハムが存在したという。彼女は、今も存在する3基の要塞を知っている。彼女が搭乗する1基と帝国の都市から少し離れた場所に残り2基があった。空中要塞バハムは、帝国の力の象徴である。これは、誰しもがこの国の繁栄が永きにわたりこの要塞により守られているからこそ自らの国が他国より優れていると思っていた。


だが、皇帝の口からは思いもよない真実が語られた。

50年と少し前。アームズ奪取を作戦とし、帝国による王国への総力戦があったという。その規模は、陸空あわせて30万人と空中要塞2基での出撃であった。王国は、あまり抵抗することなく帝国の進軍を許し戦況は勢い付いていたという。


王国のかの王は、そんな帝国の皇帝に対して今なら無条件で侵略の咎を許すと言い。もし王都まで100kmまで進んだらそれなりの対応をせざるおえないと通達したのであった。だが当時の皇帝は、勢い付く兵とアームズの本当の実力もわからずその歩みを止める事はなかった。



かの王がいう王都まであと100kmを目前とした時。かの王がたった一人で軍勢の前に現れたと言う。


「王が出てきた。それも一人で。ついに気でもくるったか❗」


誰かがそう叫んだ。


功績をあげようとした当時の空中要塞バハムの司令官は、容赦なく叫んだ。


「一斉射撃、はじぃめーい」



瞬時に空中要塞バハムから王にむけて一斉に最大火力の炎の嵐が降り注ごうとしていた。


その瞬間の出来事は、だれ一人として正確には判っていない。


気づいた時には、空中要塞バハムは王の前ではなく自らの帝国上空にいた。帝国第二位のサルベシュ都であった。彼らの放った一斉射撃は、自らの都市を一瞬で焼き払う事になる。


理解する間もなく次々と各制御室から緊急の通報がはいる。


「出力低下。このままでは維持できません」

「制御出来ません。一部の機能が完全に停止または、消失しました。」


混乱と戦慄が走る。

王の前にいた2基の空中要塞バハムは、その機能を停止し燃え盛るサルベシュ都へ墜落したのである。死者推定40万人。当然、多くは帝国の民間人であった。


自ら国の大都市を自らの手で消滅させるという前代未聞の所業を犯した。これを事実として公表すれば、民が黙ってはいない。皇帝は、すぐさま王国からの奇襲により都市が壊滅。何とか空中要塞バハムで進軍を阻止したと公表した。にわかには信じがたいが民は、都市の消滅するほどの攻撃を自分たちの帝国の力の象徴である空中要塞バハムが守りきったというデマを信じた。


そして、現在。その巨体故に見た目上の目立った破損がない空中要塞バハムの2基を中心に軍事拠点が置かれ新しい都市が形成されていた。その後もたらされたアームズの力により復興は目覚ましいものがあった。


都市の住人は、思うのである。最強の要塞が2基もあるのだからこの都市は安全だと。だが実際は、違っていた。機能の一部を残すだけで浮上することも出来ずただそこにあるだけであるという事実を知るものは、帝国内の一部の者しか知らない。


これが公になれば帝国の権威は失墜し、急速に衰えることが判っていた。王国のかの王は、そうなるように計算した上の行動であったので当然その事実を一人知るわけだが彼は決して口外しなかった。後に先の皇帝はかの王と話をした際になぜその事実を公に公表しないでくれるのか問うたことがあった。かの王は、一言こう言ったそうだ。


「犠牲は、もう十分だ」


それを聞いた先の皇帝は、王国との和平路線に一気に舵をきり50年以上も続いた平和の時代の礎を築ずいた。いまでも双方の国家が立場を尊重し、アローズが失われた現在も表向きは交流を行い民同士の憎しみも少ないのは、国同士のリーダーが民を憎しみあうように先導しなかったからに他ならない。


△▽△


レジュダは、皇帝から最後に

「お前たちに降りかかった現象は、アームズの力とは全く別のものだ。お前はそもそも竜の刻印を理解していない。まぁ、昔の話になるが過去の戦では当たり前の現象で対策もある。」


そう言うと皇帝は、情報部隊が管轄する過去の歴史や戦指南にあたる書を出してこう言った。


「ここに全部書いてある。あとで詳細を送るから一読をするとよい」


「それと、お前が戦った相手だが、名をローレンという。お前も大賢者アジェルーダは知っておろう。あれが生きてる頃に唯一まともな奴で、あの方が認めるほどの才がある弟子と言われ次期大賢者とも称された男だ。最上級マナ操作と竜の刻印を扱える生きる伝説に近い。事前にローレンとかの王の息子についていた王国騎士が同一人物と判っていたら別の戦い方も出来たはずだが、この老いぼれを許してくれ。あやつももういい歳だ。黙ってももうすぐ死ぬ。それより今むやみに動いてもこちらの急所を知っているに違いない。絶対にあやつを要塞に近づけてはならん。お前も理解しておろう。その要塞が何を原動力に動いているか。」


そう言って、皇帝は去っていた。



△▽△

レジュダは、皇帝から送られた資料に目を通しながらこの後の行動をほぼきめ終えた。

村の近くで5日、経過したのち当初の予定を変更。失った竜の刻印が消失した損害を埋めるべく書類に記述されていた「「刻印の試練」」があるという浜辺に一部の部隊を派遣する事を決定。他のものは、帝都に帰還する事とした。


一つの戦果も上げることなく、帰還することになるが多くの兵が戦いに慣れていないため。無事に帰還できることのほうを喜ぶもの方が多かったのも事実である。


レジュダは、今回の戦で戦力的な損害は大きかったが得るものもそれなりにあった。負けを知ることがなかったレジュダは、初めての負けを経験したことで大きく成長するのである。


空中要塞バハムは、東へ迂回したのち「「刻印の試練」」に向けての兵を地上に送り出すと又、山脈の向こうへゆっくりと去っていた。




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