1ー14 育てる者
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ローレンは、アームズの消失後による混乱が続く町から町へ都市から都市へ行き先も特に決めることなく、2歳になったばかりのアルを背負い旅を続けていた頃だった。
「今日は、ここで休むことにしよう。アル、準備をするぞ」
背中で揺られていたので途中からぐーすかと気持ち良さそうに寝ていたアルがまだ、寝ぼけた様子でローレンの背負い篭より下ろされた。
「じぃい、あがとおございます。きぃきあってきます」
最近ようやく、会話が少し出来る程度までになってきた。
いつもの習慣で外で野宿する場合のアルの唯一の手伝いは、木を集めて来ることにだった。慣れた様子で枯れた枝を見つけては、きゃっきゃ喜んでいた。袋に詰めこんで一杯になると重たそうに引きずって帰ってくる。
ローレンは、寝床の準備と夕食の用意を手際よく始める。アルが持ってきた木に竜の刻印を付加した金属の棒を押しあて火のマナを込める。木に直接、火のマナを付加した場合。燃やすことは可能だが、木がまんべんなく高温になるまでマナを送りつづけようやく発火する。温める事と火を起こすことの差が大き為、そんな事はしない。ローレンが使ったのは、昔からある方法であるが竜の刻印を使用できる者でなければそもそも扱えないため、一般的ではない。
ローレンは、着火棒程度の認識でしかないがそれは、彼が次期大賢者と言われたほどにマナの扱いが優秀すぎたからである。帝国軍では竜の力を扱える者をエリート中のエリートとされる。この竜の刻印を用いた炎の放出が出来るからそう言われる。
だが、彼らの使う竜の力はローレンからしてみれば劣化版であった。
今回のローレンの一連の作業では
竜の刻印さえ施せばいい、別に金属である必要はないが火のマナを通す為、単純に炎を出した時に手元の握った棒が燃えない方がまた使えるからだ。
竜の刻印は一度施すと効力は比較的長く続くがいずれ消失する。
そもそもマナ操作自体できる人間が少ない上にさらに竜の刻印までできる人間などほとんどいない。それでは、軍事的利用を目的とした帝国は、長期の戦に竜の力は使えても再刻印出来ない兵など動員できない。
そこで竜の刻印を長期的に定着させる為に、術式を刻んだ竜の紋様をつける。それは、魔道具とよばれる部類になり。定期的にマナを補充することで竜の刻印を維持している。
ローレンが劣化と称するのは、他にも理由はいくつかあるが一番は、発動条件とその火力である。竜の刻印は、生物と同じで付加した直後に属性のマナを通すことで付加した属性と同じマナを強制的に大気より加算する。それにより、マナ操作で入力したマナより多くの出力がえられる増幅システムのようなものだ。
発動条件についての制限だが、竜の刻印の定着にもちいる紋様の術式には、出力の属性を事前に決めないといけないため。火と決めたら火しか出せない。
次に火力の差がある。
マナ操作には、触媒を必ず必要とするため。この場合、触媒として用いているのが目には見えない竜の刻印ということになる。そして竜の刻印は、鮮度が命なのである。ローレンは、刻印付加と同時にマナを通すことでほぼ最大火力とするなら帝国軍が扱う魔道具は、竜の刻印後に竜の紋様を刻むまでの製作時間を要するにため定着化したときには、かなり竜の刻印の鮮度が落ちている状態になる。それでもマナ操作しかできず、竜の刻印など出来ない大多数のものからすれば、いきなり火や雷を直接放出しているような錯覚を覚えるとともに増幅される事で火力的にも戦闘で使えるレベルにまで一気に昇格する。
そういう意味では、上には上がいるとしても帝国がこの技術で長らくその繁栄を極めていたのも、事実ではある。
そんな、とんでもない難しい技術を焚き火のための火を起こすのに使うのは今の時代ローレンぐらいであろう。そんな技術を物心ついた時から毎日のように見ているアルはそれが凄いことなど知るよしもない日常の風景であった。
金属の棒から圧縮された炎が吹き出す。瞬間で消す。少しでも長いとこの程度の枝は消し炭になるため短時間で着火をおえる。その様子を見るのをアルは、毎日楽しみにしていた。
「ぼぉーーーーーっ‼️ きぃらーーーぼぉぼお」
ローレンは、いつものようにその様子に効果音を付けるアルを横目に作業をつづける。
今日は、アルが昼寝を始めたすぐに鳥を1羽捕まえていたのでこれを夕食にする事にした。アルがお肉の塊をがぶついている姿をみてローレンは、自分の子供だった頃と重ねていた。
そして常識を知らずにこのままこの子を育てることが良くないことも。
「セリア様・・・・・。」
この子の顔を見ていると面影を感じずにはいられない。
もうこの世にはいない彼女を忘れたことは、一度としてないローレンが40歳を過ぎようかとした頃。彼女は、心臓の病を患った。アームズにより、十分直せる可能性はあった。だが彼女は、その治療は人間のあり方と異なると彼女は、優しく微笑みながら自らの運命にしたがった。
「私は、世界から十分すぎる愛をうけたの。もうこれ以上、頂く必要などないわ」
そして、ローレンは反対も肯定もしなかった。
彼女が、選んだ事に何か意味がある気がしたからだ。
そして、今は思う。
もし彼女が、生き続ける事を選択していたならば、彼女と彼女が愛した国を捨てることなど出来なかったかもしれない。ウエルズと赤子だったアルよりも彼女を選択していたはずだ。
そしてこの子は、彼女がこの世に残したものだった。だからこそ命をかけて愛し守ることが出来るのだと。
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半年後。
たぶんこの先、アルはここでのことは幼く覚えてないだろうな。
海が見えた。ここからは、目的地を目指す旅に変わる。
アルを育てるに、ちょうどいい大岩のある辺境の村をめざして。
放浪の旅の終着地点として選んだのがこの場所だった。
何処までも海の青が続く、アルは裸で浜辺ではしゃいでいた。
いっそうの事ここで十分かもしれないとも思った。
だがここは、人が住むには過酷だった。
ローレンという人間が小国の軍隊と同じ力ぐらいの実力があるからこそたどり着ける場所でもあった。つまるところ一人がいないのだ。王国と帝国の間に人が足を踏み入れる事を拒絶する山脈がある。
それと同じように、大陸と接するこの浜辺のある海との間には、竜がいる。
別に、この浜辺でなければ他の海にいけば安全に行く事は可能だ。
竜の刻印とは、その昔。人が竜と契約を交わし竜に力をかりたのが起源とされる。
そして、人に友好的な竜が未だに存在する。
だが、全ての人間と同等に友好的なわけではない。
竜の刻印を扱える者。または、その資格がある者。
ローレンはこの浜辺に、到着する前を思い出す。
アルには、海のことは伏せていた。期待させて行けなかったら可哀想だったからだ。
竜の通り道というものがある。
この道を通らないとこの浜辺には、たどり着けない。
そして、先ほどの要求を満たしていないものが通ると竜があらわれ
2つの事を問う。
死ぬか、去るか。
友好的とよばれる理由は人からすれば選択肢があることだろう。もし、偶然に迷い混んでも去る選択肢があるからだ。いきなり焼かれたりはしない。
ローレンは、アルが竜の刻印を扱える資格まである者かは解らなかった。ただ、その資格があるぐらいマナに愛されているのであればこの先、年老いた私が死んでも生きる力を得ることで
少しでも生き抜く糧になれればそれでよい考えた。
「「刻印の試練」」とも呼ばれれ、マナ操作にひいでた者がこの浜辺を目指し。竜に会うことがなければ浜辺に到着すると刻印付加の力を与えられる。その際、竜も無駄を省くために背負って産まれたばかりの子供を試練に挑ませて適正有無を確認するような馬鹿が現れないように、歩けないような者は認めなかった。ローレンも若い頃、ここで力を得た。
高低は少なく砂浜まで続く長い道である。
竜は、気まぐれで直ぐに出てくることもあれば砂浜を目の前にして出てくる事もあり。最後まで気が抜けない。また馬などで駆け抜けるには難しい。小さな入口が有るため3日近くも歩かねばたどり着くことができない。
途中、そこそこ大型のモンスターもでる。安易に近寄る馬鹿はいない。
ローレンは、アルの歩調あわせて歩かねばならずこれほど小さな子が刻印の試練に挑んだことを知るものが酒場で噂してもホラ吹きとしか思われないであろ。
大人の足で3日、3歳にも満たない子供の足では倍以上かかる。だが、ローレンとアルからしてみればいつもの険しい旅路からすればたいした事がない。アルも背中に背負われている時間が長く退屈なのに今回は、ずっと遊びながら進めるため大喜びだった。
5日目の朝、まだ浜辺までは少しある。このペースだとあと2日ぐらいというところだった。
急に当たりが静になるり海辺の風が強くなる。
ローレンは、胸騒ぎがした。そうかと思うと当たりが漆黒の影で覆われる。試練の竜が自らの星屑ハイワイバーン5体を引き連れ姿を表したのである。
ローレンは、さすがに試練の竜にあったのは初めてであった。前回は出会わなかったから刻印の力を得たわけだから。
「最近、だれも挑むものが居なくなったわ。」
試練の竜がいうには、ここ50年近くだれも挑むものがいなかったという。それもそうだアームズの発現でその力を得る理由が人に、なくなったからである。
「お主が、何十年も前に最後にきた一人だ。それから一人たりとも来ておらん。普段なら適正があるやつは、いちいち対応するのが面倒だから来ないのだが、久しぶりで我も気が高ぶってしまった。さぞ、驚かせて申し訳ない」
「安心しろ、その子は合格じゃ。だが他にもすでに境界の干渉をうけているようじゃが」
竜曰く、その者が必ず起こるべきことが無くなるような存在を指すらしい。簡単に言えば、本来の運命を変えものの事を言うようだ。
刻印の試験において資格のあるものに会わないのは、知恵ついた者が多くイチイチ、世界の理を聞いてくる者が多いため。逆に不適切でないものがこれ以上頑張ってすすんで無駄骨しないよう諦めて帰って貰うために始めたとの事だった。
竜は、久しぶりに人にあったのが嬉しかったのかよく聞かないこともベラベラと喋った。帝国の竜信仰の発端も自分だと自慢気に語っていた。
大昔、一人の若者が試練に挑んだ。適正があるにも関わらず、浜辺にたどり着いた直後に疲労から倒れていたところを試練の竜がちょっとした同情から帰りの道を若者の国まで背に乗せて帰してあげたらしい。そうしたところ若者は、竜の背からおりる神々しい姿が人々に崇められ気付いたら英雄に。そして、周辺の国々も竜を従えるような者に近付きたい思いから国が一つになっていき帝国の元となる形ができたという。
ずいぶん、帝国が語りつぐ神話とは話が違うが真実は、この竜が言うほうが正しいことは明白であるためローレンも笑いをこらえるのに必死であった。
アルといえば、怖いのは最初だけで人の言葉を話す竜が気に入ったらしく、帝国神話さながらの竜の背に乗せてもらい空を舞うのであった。
「ところで、お前がもっている境界の力は不思議じゃのう。力はあるが境界の外にあるようじゃ。さながら開かない門だの」
ローレンは、何のことを言っているのは直ぐにわかった。判ったうえでこれを竜に預ける事が出来ないか尋ねたのである。
だが、竜は答えにならない答えだった。
「それは、境界に接するからどこにあろうが関係ない。時が来れば、その点に発現するものじゃ。我らとて、内側の存在、それ以上のことはわからん」
そう言うと、竜は久しぶりの人の訪問を楽しんだ事を満足したかのように空の彼方へ姿を消した。ローレンは、アルを連れて浜を目指した。
50年以上人の訪れが無かった事実からすればアルがこの大陸で最年少の竜の刻印を扱える者となる。そんな事実をしらないアルは、無邪気に海で遊んでいた。
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竜の刻印は、あくまでマナ操作の拡張補助するものである。ローレンは、アルに旅路の合間にマナ操作の基本的な発動や動作を遊びに取り入れながら試行錯誤しながら教えていった。
繰り返しの努力と覚えたいと思う意識。
アルは、ローレンの目から見ても吸収が早かった。
言葉では、まだまともな会話が成立しない。何度もやって見せ、やらせてみて、最後にできたら沢山誉めた。
覚え初めは、何をするにも難しい事だがこのぐらいの子供からすれば言葉を覚えることや、未熟な体を使って親の真似をしないといけないのに比べ、マナ操作は思念に近いもので有るため
一度、コツさえ掴んだアルの成長は著しいものだった。
習得を初めて半年。アルの3歳の誕生日を迎えた。もうすぐ冬が訪れる。今年は、どこかで冬をやり過ごし春から夏にかけてそろそろ目的の村にたどり着く算段がつきそうだった。
「アル、誕生日おめでとう。今日の晩飯は「「アルアル鳥のクリーム煮」」だ」
「‼️ 」
びっくりしたのは、自分の名前がダブルコールされているからではない、単純にあの絶品。超絶うまうまご飯がまた食べられる喜びからだ。
「あーる♪ あーるのぉーアルアルどりぃー♪」
なんか可愛いリズムに歌詞をつけて踊っている。
ローレンは、そんな喜ぶアルを呼ぶ。
今日の薪に火を着火してみるかアルに尋ねたである。
当然、やらないわけがない。火がつかねばアルアル鳥が食えんのだからだ。
金属の通称着火棒を受け取ると、竜の刻印をイメージする。別に竜の刻印はこれといって決まった形ではないそうだお爺ちゃん曰く何でもよい。ただそれが竜の刻印であると認識できることが大切なのであると。
アルはまだ竜の刻印がまだ上手くなかった。出来たと思っても途中でイメージが崩れてマナ操作のところまでたどり着かない。
だが、今日はやる気が全然違う。
アルは、最初はいつもの竜の刻印をイメージしていたがなかなか上手くいかない。そのうちアルアル鳥の美味しそうな香り食感、あの濃厚な味わい、、、今日のメインディッシュの事をイメージし始めていた。だがそれが良かった。
竜の刻印とは、強い思念が元となり強くそこに欲することで顕在化する。イメージが安定するほどに効果、性能にも違いがあらわれる。
アルは竜の刻印。いやアルのアルアル鳥の刻印 「「アルの刻印」」の完成である。
アルは、ニコニコしながらほんのちょっとの火のマナを完成した着火棒に通した。
‼️‼️
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ローレンは、すやすや眠るアルを見つめていた。
誕生日の夕食に満足したのか、それとも竜の刻印を成功でたことに満足したのか。それはわからないが幸せそうに吐息を立て寝ていた。
あれは、一体?。アルが竜の刻印により生じた炎の質だ。火といってもいくつもある。焚き火をするときの良く見るオレンジ、赤色の炎。火口付近でたまに見られるもっと高温の白い赤い炎。
そして、アルが出した炎は黒い炎だった。
漆黒とは違い、黒く輝くほうだ。
薪は、触れた瞬間に消し炭になり漏れ落ちた残り火が大地をくすぶって黒く燃え続けていた。ローレンは、かの国死鳥の逸話を思い出す。これもあれと同じようなものに近いのかもしれない。ローレンは、次の日から竜の刻印をアルが使うことを禁止した。
過ぎた力は、身を滅ぼす。いつの世もその理は変わらない。まだこの歳にはあまりにも早すぎる力だ。3歳にして中級マナ操作まで取得したのだからあとは、ゆっくり上達してもらおうと誓うローレンであった。それにそろそろ、冬支度をしないとな。
未来の事も大事だがまずは、厳しい冬を越えるほうが直近のやるべき事だ。今年は、本格的にアルに冬越えの仕方を教えよう。ローレンは、冷えこむ前に寝床につくのであった。




