1ー11ーつなぐ者
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広陵とした大地に一台の馬車が走る。
老人は、目を細め地平線を眺めていた。
大賢者と呼ばれるようになってから随分とたった気がする。アジェルーダは、帝国領土内のデルタ平地と呼ばれる平坦な道のりをひたすらに進んでいた。彼が属する集団は、どこの国にも入る事ができる許可証を持っていた。
マナが土地に及ぼす僅かな生態系への影響を明らかにすることが彼の現在の興味であり、半ば一つの仮説を証明できるところまできていた。今回の旅の目的は、貴重な生体サンプルの捕獲に成功した知らせが届いたことから帝都に向かっていた。
どこの国も研究に協力的なのは、貢献の度合いに応じて彼らからもたらされる技術があるからだ。時として、その力が世界秩序のバランスを崩し兼ねないとしてもそれをどう使おうが研究者には関係がなかった。ひたすらに真理を追い求めることが彼を満たした。
数日ののち、彼は帝都に到着した。
豪華絢爛な部屋に通されるも彼の興味はそこにはない。
アジェルーダは、待たされる事なく皇帝に謁見した。
「この度は、ご足労いただき大変恐縮であります。大賢者アジェルーダ様、自らが帝都まで足を運んで下さるとは思いもよらず出迎えが出来なかった事をお許しください」
皇帝とも有ろうものが決して、他の者には示さない低姿勢な態度である。敵にしてはいけない存在。かといって味方と言うわけでもない。老人の目をみれば誰もがその思考を読み取ることもできない存在であることを理解できた。
「見せよ」
皇帝を前にしたアジェルーダは、挨拶もかわすことなく一言それだけだ。
皇帝の周りの従者や家臣達は、大賢者アジェルーダを初めて目にするものが多くあまりの皇帝への無礼な態度に顔がひきつっていた。しかし皇帝だけは、違った。絶対的強者の違いぐらい見極める事が出来ないほど皇帝という立場は軽くない。
「直ちに例の物をここにもって参れ」
皇帝の言葉は、神に等しい彼ら従者にとってはさっきの思案など一瞬でわすれされ直ちに行動するのであった。
「話がはやくていい。今回の研究成果は全てお前に与えよう」
皇帝は、心のなかで飛び跳ねる子供のように喜んでいたが立場上、そんなことをこの場でできるわけがなく。
「大賢者アジェルーダ様のご配慮に賜り大変、至極感謝申し上げます」と返事をすることしか出来なかった。
ほどなく、皇帝と彼の間に布で覆われた鳥籠のようなものが運びこまれた。
「見たくない者は、目をつぶるといい。我が許可する」
ほとんどの者がそれにしたがった。
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死の山脈と呼ばれる場所が帝国と王国の間にあった。
誰も山頂などに到達できたものはなく、先の皇帝が多くの兵を用いて調査の命令を出した事があった。王国までルートは発見されたものの決して安全ではなく、そのほとんどが命を落とした。それ以降、難攻不落の物理的な壁として帝国と王国を隔てる山脈に挑戦するものなどいなかった。
そして、人が誰もたどり着く事ができない山脈の最も高いフォートと呼ばれる頂に生息する鳥がいた。国死鳥と呼ばれ、冬のごく限られた時期だけ麓の森に降りてきて産卵を行う。その鳥が国死と呼ばれる理由は、ある言い伝えによるものだった。一人の若者が偶然、その鳥の巣をみつけた。若者は黒く輝く卵に魅了され親のいないタイミングを見図って盗んだのである。若者は卵を孵すために飼っていた犬に温めさせ、雛が産まれるのをまった。
ほどなく、数日後に卵から一羽の雛が孵った。
若者は大事に雛鳥を育てる。その成長は、異常にはやく1年後には体長2mにも達した。何故か飛び立つことはなく、その若者を親と認識したのか常に後ろを付いてまわった。
おとなしい性格で体の大きさに似合わずたまにネズミ程度の小動物を自分で見つけて食べるぐらいでよかった。その様子から周囲のものは危害がないことを知ると、若者の村で景色に溶け込むようにそこに居ても問題ない存在として自然と馴染んでいった。
その鳥の噂を聞きつけ、この国の王が鳥を一目みさせて欲しいと若者に願い出た。若者は鳥を連れて国王の元に招待された。
それだけなら良かった。
王の前でその鳥は可憐な踊りを見せた。王は、見るだけのつもりだったが若者の鳥がどうしても欲しくなったのである。王は、当然のことのように若者にこの鳥を譲るように命令した。
王の言葉なら、それに従うしかない。だが若者は、王の前でそれを拒否したのである。タダでゆずれと言っている訳ではない王としては村人風情が自分の命令に従わなかった事に憤慨した。直ちに従者によってその場で切り捨てられたのである。
鳥は、血を流し動かない若者をみて最初は何が起こったのかわからない様子であったがそれが人の死であり親を失った事を理解した。
王が鳥に近づいたその時、鳥はクチバシで一瞬にして王の首を切り裂いた。
あたりは、騒然とするが鳥は大きく羽ばたいたかと思うとと都市の上空を何度も旋回した。多くの人々は、空に急にあらわれた大きな鳥をみて不思議がったが、ほどなくしてそれは悲鳴に変わったのである。鳥は上空から無差別に炎を撒き散らしながら一夜にして都市を焦土と化したのである。けして消えない炎であったと、火が消えたのはその鳥が去ってから1ヶ月以上あとのことで逃げおおせた者がこの事実を後世に伝える事になる。
そのいい伝えが今でも真実として知られるのは、帝国から遥か南に位置する場所に今でも草木が一本も生えることのない焦土があるからである。
そして、かの鳥は 「「国死鳥」」と呼ばれるようになる。
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その後、国死を偶然、見てしまった者が何故か不幸な死をむかえるなどしたため人々から恐れの対象となった。だが、後にそれは偶発的なものでありその因果関係がないことが証明されてもなお人々の思想は変わってはいなかった。
そんな、鳥の雛が目の前の鳥籠の中にいるわけだからほとんどの人は、目をつぶるのである。
アジェルーダは、そんな周りの様子を気にもとめず鳥籠の様子を見ていた。
「これの親は?」
「卵から孵る際に全ての光を遮断して、今のここまで暗室のままでございます」
「そうか、少しは知恵があるようだな」
人は、経験を伝承することで、この土地に自らの繁栄を維持してきた。国を滅ぼすほどの力を持つであろうこの鳥を素直に利用すれば帝国が王国を滅ぼすことは容易であろう。だが滅ぼすことでなくその領土を後に利用することを考えれば、永久に焦土となった土地を目にしてそれを使おうとする無能な人間では、皇帝はなかったようだ。
「これは、私がもらいうけるで宜しいか?」
皇帝は、最初からこの鳥になどは興味がなく大賢者がもたらすであろう技術のほうがこの国のためになる事を理解していたため喜んで。その鳥をアジェルーダに譲るのであった。
アジェルーダは、その胸の内などどうでもよく雑に中の確認もせずに鳥籠を持つとその場から立ち去っていった。その後、アジェルーダから研究成果としてもたらされたものは国の根幹を覆すほどのものだった。
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アジェルーダは、帝国からの帰路の途中、中継の宿として帝国にも王国にも属さない小さな小国に、立ち寄った。彼が偶然、この小国に足を運ばなければ未来は大きく違うものになっていたであろう。
アジェルーダは、小国の君主である館で一晩、泊まる約束をしていた。基本、無愛想な彼は挨拶もせずに部屋に通されると部屋から出てくる事はなかった。そしてその君主には、息子がいた。少年はその時まだ6歳になったばかりで少し発達が周りからは遅れていると思われるぐらい妄想の激しい子だった。周囲の者は、君主の長男がこんなんではと仕切りに不安を口にするほどである。
少年は、いつも通りの決まった順序で屋敷の全ての扉を開けて中を確認していく。彼が何を確認しているのかは、誰一人として理解できなかった。
いつものように少年が扉を開けると、そこには老人がいた。
いつもなら部屋を、開けても直ぐしめる少年が老人を見つめ続けていた。
老人は、アジェルーダである。
遠の昔に人になど興味を失っているアジェルーダであったが何かいつもと違う違和感を感じた。ほんの少しの興味だった。アジェルーダは、皇帝にさえあの態度にも関わらずただの少年に問う。
「お前は、私の瞳を凝視しているが何をみている?」
少年は、満面の笑みになってそれに答えた。
「赤いのと、青いのと、ちょっとだけ黒いのがあるかな。黒いのは初めてみたからうれしくて」
普通の人なら少年の言葉をきいたら気持ち悪い子だと思うであろう。だがアルジェーダは、その少年が自分が生涯において初めて人間という存在で興味の対象になった。
相手の名など聞いたのは、何十年ぶりだろうか。アジェルーダが問うと少年は、ローレンと答えた。




