憂鬱な会話
お客様は褒められた事が嬉しいのか笑顔を見せている。
クレーマーといえどお客様だ。
気分のいいまま帰ってもらわなければ。
「ええ!とても素晴らしいと思います!今回は残念な事になりましたがもし次回アイスを購入される場合は保冷バックを用意されるとよろしいかもしれません。」
「保冷バック?何だそれは。」
「保冷バックはですね、冷たい商品やこの時期、暑さで傷みやすい食品などをなるべくそのままの温度で保存できるバックでございます。中に保冷剤や、もしくはレジの近くに無料の氷がありますのでそれをバックの中に入れて持ち運びます。但し、絶対に溶けないと言うわけではないので家に持ち帰る時間を考慮して頂けると幸いです。」
「なんだ!そんなのがあったなんて!知ってればこんなことにはならなかった!」
普通は知ってるし、知らなかったとしてもアイスは溶けるものだと誰もが分かってるんですがね。
しかし自分の非は絶対に認めずその非を相手に擦り付けるのがこういう奴の得意技なのだ。
「その通りでございます。今までお力になれず申し訳ありませんでした。しかし、お客様は今日保冷バックを知れたのです。次回から安心ですね。それに目利きの素晴らしいお客様のことです、素敵なバックを選ばれるのでしょうね。とても楽しみです!」
明らかにわざとだろうというくらいヨイショする。
ちなみにこのわざとらしいまでのヨイショは今までのクレーマーにバレた事がない。
そもそも、そんな空気が読める人は悪質で非常識なクレームをつけない。
「確かにな!俺が選ぶ物だしな!しかしその保冷バックってのはどこに売ってるんだ?」
「保冷バックは別の店舗にも売ってありますし、もちろんこの店にも取り揃えてあります。よろしければご案内致しましょうか?」
「ここにも売ってあるのか!じゃあ姉ちゃん案内してくれ!」
そして売り場に案内し商品を選んでもらい、わざとらしい位褒め称え、レジに案内し購入してもらい、ついでに無料の氷がある場所を説明し、保冷バックについて分からないことがあれば商品に記載されているサポートまで連絡するとより詳しい事が分かると教えておく。
当たり前だ。
私は保冷バックの専門家ではないのだ。
詳しいことはその会社に聞くのが一番だ。
だからこれは決して擦り付けた訳ではない!
そして出口まで一緒に行きお客様をお見送りをする。
「姉ちゃんありがとな!また来るわ!」
「ありがとうございます。またのご来店心よりお待ちしております。」
ただし、私が出勤してないときにな!
お客様が帰ったのを確認すると踵を返し自分の持ち場に戻る。
「お客様は笑顔でお帰りになられました。」
その場にいた上司に報告する。
「そうか!流石クレーム処理の達人だね!」
クレーム処理の達人。
これは私の不本意な異名だ。
こんな異名があるせいで厄介な客をみんなが私に擦り付けてくるのだ。
自分で対応したなら最後まで責任もってやれよ。
何でもかんでも私に押し付けやがって。
そんな達人になるよ太鼓をうまく叩ける達人になりたかったわ!
「そんな事はありません。私が対応するより鈴木主任が対応した方がいいんじゃないでしょうか?お客様も上の者が対応した方が納得されると思うのですが。」
この上司一切クレーム対応をしない。
自分が最初にクレーマーに当たったとしても直ぐに私に擦り付けてくるからだ。
これでお客様自身が「上の者を呼べ!」とでも言ってくれたらすぐにこの上司に押し付けることも出来るのに今までそんな事を言われたことがない。
「私がかい?無理だよそんなの。これからも、いつも通り厄介なお客様は君にお願いするよ。アハハハ!」
笑い事ではない。
ホントにお前上司なんだから仕事しろよ。
私より多く給料貰ってるんだからその分の仕事をしてくれ!頼む!
お前が仕事してるの、判子押してる時か店内見まわってる位しか見たことないよ?
何しに仕事場に来てるのよ。
場所だけとって何の役にも立たないってってマジで何で息してんの?
観葉植物の方が役立ってるよ?
せめて二酸化炭素吸って酸素吐けるように人体改造でもして地球の役に立てるようになってくれ。
いや、やっぱコイツの吐いた酸素吸って生きるのはイヤだな。
「そうですか。分かりました。」
今まで何度もクレーム処理をするようお願いしても無駄だったのだ。
この上司についてはもう諦めてる。
コイツはクレーマーと同じ部類の人間だ。
周りからどう見られてるのかも分からず、そして自分のいいように解釈する。
言うだけ時間の無駄だった。
でも腹が立つので心の中で文句は盛大に言わせてもらうがな?
本当すぐにでも地獄堕ちろ。
そして一生出てくんな!