我慢の時間
カウンターで今も喚きながら文句を言い続けるお客様は返品しないと帰りそうにない。
仕方なく私は、近くにいた上司に目配せをして返品してもいいか確認をとる。
上司は小さく頷き返品許可をくれたのでさっさとお金を返そう。
そして一刻も早く私の前から消えてくれ。
「大変申し訳ありませんでした。次からはこのような事がないよう、きちんと対処させて頂きます。では、お客様は返品ご希望でよろしいでしょうか?」
「何度も言わせるな!さっさと返品しろ!」
私だって何度も言いたくはないが確認は必要なんだよ。
後から返品じゃなくて交換にしてくれと言われないためにもな!
「畏まりました。それでは、ご返品させて頂きます。お手数ですが、商品を買った時のレシートはお持ちでしょうか?」
「チッ早くしろ!」
レシートを叩き付けるようにカウンターに置く。
その様子に苛立ちが溢れそうになるが綺麗に笑顔の仮面をかぶり対応する。
「ありがとうございます。それではご確認させて頂きます。」
レシートを確認し、日付、時間、購入品、レジ番号など一つ一つチェックしていく。
確かにアイスを買っているようだ。
しかし、今の時間から二時間も前にな!
コイツ一時間車の中に置いてたって言ってたが二時間じゃねーか。
サバ読みやがったな。それとも時計の見方も分かんないくらいバカなんですかね?
この購入時間について突っ込みたいが、やはり時間の無駄にしかならいので止めておく。
非常識なクレーマーは絶対に自分の非は認めないのだ。
何度も言ってるがそれで納得するような人なら初めからこんな恥ずかしいクレームは付けない。
確認が終わったのでさっさとお金返して帰ってもらおう。
いつまでもこのカウンターで騒がれても、他の善良なお客様の迷惑になるからな?
頼むから早く帰ってくれ。
「はい、確認できました。それではバニラアイスの代金、198円を返金させて頂きます。」
自動釣り銭機から小銭がジャラジャラ出てくる。
「お手数ですがお客様もご一緒にご確認をお願い致します。」
一枚一枚わざとらしく数えて金額に間違いがないか確認をしてもらう。
後で、金額が違ったなんてことにならないようにだ。
「198円で間違いありませんね。ご確認頂けましたらこちらお受取りください。」
「チッ!時間とらせやがって!」
トレーの上から小銭を乱暴に受け取り財布の中にしまっている。
「お客様の大切なお時間を頂いてしまい大変申し訳ありませんでした。ご返品するお客様には返品証明の書類をお渡ししていますのでもう少しお付き合い頂けないでしょうか?」
「ふん、早くしろ。」
お金が返ってきたからか最初と比べると大分落ち着いた様子だ。
書類を作成しながら、さりげなくお客様に話をかける。
「お客様にはアイス以外に沢山の商品を購入して頂いてるようでとても嬉しく思います。いつもご利用ありがとうございます。」
レシートを確認した時、他にクレームを付けられそうな商品がないかチェックしたのだ。
そしたらアイスの他に、日用品やカップラーメンや飲料水など十数点購入していた。
ポイントも貯まっていたし常連なのだろう。
このお客様のクレーム対応は初めてだったし、ブラックリストにも載っていない。
だったらこのお客様は別の店舗の常連か、もしくは今回が初めてのクレームだったのだろう。
「いつもは別の店で買ってるがたまには違う店で買おうと思ったらこんな不良品つかませられて気分が悪い。」
「お客様にご不快な思いをさせてしまって大変心苦しく思います。しかし、いつもとは違う店にこの店舗を選んで頂き私はとても嬉しく思います。」
「まー確かにいつも買ってる店より品揃えはよかったな。」
「さすが常連様でございますね。品揃えの違いまで分かるとは!」
「そうだろう?俺はかなりの常連だからな!」
褒められて気分がよくなったのだろう。
笑顔を見せながら得意気に言う。
「ええ!品揃えまで把握してるなんて素晴らしいです!」
わざとらしいヨイショを繰り返す。
「そうだろ、そうだろ!」
「この度はお客様に大変御迷惑をお掛け致しましたが、今回購入して頂いたアイスは私も食べた事があります。きちんと表示通りに保存して頂くと、それはもう美味でございます。バニラの濃厚な香り、なめらかな舌触り、どれをとっても一級品。数多くあるアイスの中からそんな商品を選ばれるなんてお客様の目利きも素晴らしいですね!」
私もこのアイスは食べた事があり、とてもおいしかったのだ。
なのに不良品だとこれ以上騒がれると商品のイメージが悪くなる。
せめてきちんと保存してれば美味しいのだと伝えておかなければ。
「そうなのか?たまたま目について食べた事なかったからな選んでみたがそんな素晴らしいアイスだったとは。さすが俺だな!」
そのアイスを自分の不注意で溶かし、尚且つ今返品した事を明後日の方向にぶん投げるクレーマーはやはり頭がおかしいと思う。