拒絶の理由
神様は何故こんなにも異世界への転生をすすめてくるの?
「何度言われても転生はしません。」
いい加減諦めてください。
「そこを何とか頼む!!」
いやまじすか。しつこさ半端ないな。
「い・や・で・す!!」
「何でそんな嫌がるんじゃ?何がそんなに気に入らない?悪いところがあったら教えてくれ!わしが何とかするから!」
復縁を迫る元カレのようなセリフは止めてください。しかも教えてくれって言われても沢山ありすぎて言うのが面倒くさいです。
「あのですね神様、何でそんなに必死になって転生させたがるんですか?」
もしかして、何かあるの?
…うわ、嫌な予感がしてきた。
「いや、ほら、おぬしは人を救って死んでしまったじゃろ?それなのに消滅なんてあまりにも可哀想じゃと思ってな。」
少し目を逸らし口ごもるように神様が転生をすすめる理由を言ってくるがあきらかに嘘ですよね?挙動不審すぎますよ。
しかし藪蛇になったら嫌なのでスルーしよう。君子危うきに近寄らず、いい言葉だよね。
「神様は優しいんですね。しかし、本当に申し訳ないんですが神様のお気遣いは有り難迷惑です。私の事を考えて下さるのなら一刻も早く消滅させて下さい。」
一生に一度のお願いですから私を早くこの訳のわからない空間から解放して下さい。あ、これが本当の一生に一度のお願いか。
「…本当に転生したくないのか?」
まだ言う?
「はい、私は転生しません。」
本当にすいません。何か転生して欲しい理由があるんでしょうが私以外の人に頼んでください。
「…わかった。一応消滅の方向で検討しておくとしよう。しかしおぬしは自分が死んだことを知ったばかりじゃ。今は落ち着いて今後の事を慎重に考えて欲しい。」
いや、検討しなくていいです。しかも一応ってなんですか一応って。検討するけど決定はしないってことですね?
それに落ち着いて考えて欲しいってさりげなく考え直せって言ってません?
「神様…私はちゃんと考えて消滅を選びました。何度言われても考え直しませんよ?」
「くっ…おぬし頑固過ぎないか?」
「いや、神様こそしつこ過ぎません?」
なに、この我慢比べみたいな状況。
転生させたい神様VS消滅したい女かよ。
この不毛な問答やめません?何かずっと同じ話してるような気がするんですが。
「…せめておぬしがそこまで転生を拒否する理由を教えてくれんか?」
全 部 で す!!
とか言っても納得しないんですよね?
「沢山あるんですけどそれでも聞きますか?長くなりますよ?」
「え!?沢山あるのか!?」
「ええ。沢山あります。やっぱり止めますか?」
「い、いや教えてくれ。」
チッ、やっぱり諦めてくれないか。お風呂場の黒カビみたいなしつこさですね?
「はあ~…では、転生って赤ん坊からやり直しですよね?それきっついですよ。私は女優でもなんでもないので子供の演技はできません。幼少期からそんな事を強いられたらストレスで死にます。次に新しい仲間をみつけて冒険できると言われても魅力を一切感じませんし、凄い力を与えると言われても困ります。若ければまた違ったでしょうが私はもうすぐ30歳ですよ?そんなおばさんが一から人生やり直して冒険?仲間を見つける?それ私からすればただの苦行ですから。何で今更コミュニティ構築しないといけないんですか。私はできるだけ人と関わりたくないんですよ。それなのに新しい仲間を見つけて冒険しないといけないなんて面倒くさ過ぎます。しかも冒険って戦うんですよね?平和な国で育った私が戦えると思ってるんですか?普通に考えて無理ですよ。きっと魔物とかがいて殺すんですよね?そんな事になったらいくら凄い力を持っていようと私はすぐに死にます。だってどんな凄い武器を持ってても使えなかったら意味ないですから。転生したからといっても中身は私です、魔物だろうがなんだろうが何かを殺せるほど強くないんですよ。そして人が生活する上で必要なモノはなんだと思いますか?それは《衣・食・住》です。《衣》に関してはそれほど重要ではありません。私は着れればそれでいいので。しかし問題は《食・住》です。偏見で申し訳ないんですが異世界の《食》ってそんなに進んでないんじゃないですか?それだと食べ物にうるさい日本で育った私にはきついです。出汁あります?醤油は?ソースは?味噌は?マヨは?米もきっとないですよね。無理、私は食べるなら美味しいものがいいです。そして《住》。異世界ってお風呂あります?あってもお金持ちの家にしかないんじゃないですか?だったら一般の人は水を浴びたり布で体を拭くだけですよね。それは本当に無理です。清潔先進国の日本育ちですよ?石鹸やボディソープ、シャンプー、トリートメントはありますか?失礼ですが不潔です。私は体も髪もきちんと洗いたいですし、浴槽にゆっくり浸かりたい派なんです。最後に、何より必要なお金のことです。人間お金がなければ生きていけません。私は戦ってお金を得ることは不可能です。だからといって別の仕事をするとなっても異世界の仕事事情は分かりませんし、何よりしたくもない就職活動をしないといけないなんて罰ゲームじゃないですか。以上、これが転生したくない理由です。分かっていただけましたか?」
一つ一つ懇切丁寧に神様に伝える。
どれだけ私が転生したくないか分かってくれただろうか?
嫌な理由を聞いた神様は呆然としているようだった。
それはそうだ、だって何だかんだ異世界を全否定したような気がする。
すいません、私じゃなかったらきっと喜んで転生したと思いますよ?
だって本当に物語みたいですもんね。
魔法が使えて勇者になったり、冒険したり。そして新しい仲間との友情や、旅の途中で出会う恋の相手、普通だったらワクワクしますよね。
しかし残念ながら私はそれがイヤなんです。そういう転生をすすめるなら相手は絶対私じゃないです。
暫く呆けていた神様が驚くべき事を告げる。
「分かった。では、おぬしが今言った問題を全て解決すれば転生してくれるということじゃな?」
「え?」
「心配いらぬぞ。わしが全て解決しよう。じゃから転生してくれ。」
いや、そういうことじゃない!!