無念の受容
私は異世界に興味もないし、そもそも行くメリットも見当たらない。
だったらこのまま消滅した方が幸せだ。
しかし、神様は私の頑ななまでの拒否に納得できないのだろう。
何とか説得出来ないか思案していた。
「何故そこまで嫌がる?行かなければ消滅じゃぞ?もっと生きたいだとか、心残りなんかはないのか?」
「確かにもっと生きたかったです。心残りもあります。ですがそれは私だけではありません。死んで逝く人達で心残りもなくこのまま死んでいいなんて思う人の方が少ないですよ。」
「だから新しい世界で生きればよいではないか。」
「それとこれとは話が違います。心残りがあってもなくても異世界には行きません。」
「何故そこまで嫌がる…。そう言えばおぬしの心残りとはなんじゃ?」
「私の心残りなんて聞いてどうするんですか?もう死んでるしどうしようもないですが。」
「気になっただけじゃ、言いたくなければいい。」
心残りか…たくさんあるな~。
死んでしまって家族を悲しませたことでしょ、それから親に孫を見せてあげれなかったこと、待ちに待った給料日が明後日だったこと、明日発売される漫画でついに真相が判明するところだったこと、冷蔵庫の中に奮発して買った高級ケーキの消費期限が今日までだったこと、みんなに確認されるであろう携帯とパソコンを破壊し忘れたこと、後から家族が遺品整理に来る部屋を片付けてないこと、考え出したらキリがないくらいあるけどやっぱり一番の心残りは…、
「転職できなかったことですね。」
「は?」
「転職とは今までしてた仕事を辞めて別の仕事をすることです。」
「いや別に転職の意味を聞いたのではないのだが…。」
釈然としない顔を神様がしているが私の心残りに何か問題があるのか?
「では何か?」
「いや、もっと大きい心残りがあるのかと思っておったが…それが転職…。」
「心残りに大きいも小さいもありません。人の心残りに文句つけないで下さい。」
「すまない!文句を言った訳ではないんじゃ。おぬしは…ほら…予期せぬ死であったであろう?死と向き合う準備もできなかったはず。じゃから、心残りもそれ相応のものだと考えておったのだ。」
「たしかに自分が殺されて死ぬことを予想してませんでしたがそれは私だけではないでしょう?病気で亡くなった人も、事故で亡くなった人も一緒です。私一人が特別なわけではありません。」
「そうじゃな…。すまない…。」
「いえ、謝らないで下さい。心残りの話はもうやめましょう。死んでいるのでどうしようもないですし。」
「しかし、やはり心残りがあるなら転生すればいいではないか?新しい世界にいけばもっと生きていけるぞ。どうじゃ?異世界はに行けば楽しいことが沢山あるぞ?」
閃いたとばかりに明るい顔で神様が言うがお断りである。
何度も言っているが異世界に行くメリットが一切ない。
むしろデメリットのオンパレードだ。
「まだ諦めてなかったんですか?私は絶対に異世界にはいきません。私が生きたかったのは前世の人生であって、新しい世界での人生ではありません。」
何が楽しくて人生やり直さないといけないんだ。私からすれば苦行だわ。新しい人生が楽しいとか思えるのはきっと若い子達だけでしょ。一から生活基盤を整えるとか考えただけで面倒くさい。
だからいい加減神様も異世界推すの諦めてよ。
「そこをなんとか考え直さんか?」
し つ こ い!!!
あなたはセールスマンですか?異世界の契約取らないと誰かに怒られるんですか?でも私ハンコもってないんで契約できないんですよ。だから別の家にオススメして下さい。
そして早く私を消滅させて下さい。