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第80話 転移陣

「転移陣?…初めて聞いた。なんなのそれ?」

 インデクトの口から放たれた聞き覚えのない単語にビシドはあっけにとられていた。


「まあ、一般人は知らないだろうなあ」

 インデクトは軽いトーンでそれに返したが、事実彼自身も詳しくは知らない。特定の場所から別の場所に高速移動できるもの、くらいの認識だ。


「数十年前にノルア王国とイルセルセの友好の証として作られた瞬間移動の装置ですな。私もそれくらいしか知りませぬが。」

 ベインドット大佐が間に入ったが、やはり彼も詳しくは知らないようである。


 その会話に王族のナスルディンが割って入る。

「時空を曲げる理で、マンダラ山からニーベルフ近くの山中にある神殿に一瞬で移動できるらしいです。その存在は一部の者しか知らず、また、両国の魔法陣で儀式が必要なためノルアとイルセルセの合意と協力がなければ発動することもできません。噂ではあの大賢者ヤーッコ様が作られたとか…」


 またもや大賢者ヤーッコの名が出た。この世の魔法の理を大きく超えたような術式の話が絡むと大抵彼と錬金術師メイヤの名が出てくる。


「彼の名は魔導関連ではよく出てきますな。もともとは普通の魔導士であったが、ある時を境に急に開眼なされたとか、何にしろ謎の多い人物ではあります。」

 ベインドットがそう言った。ヤーッコの名声は遠く離れたこのノルア王国にも響いているようである。


「なあ、もう無理にイルセルセに協調しろとかイルセルセに逃げろなんて言うつもりはないけどさ、一度そのマンダラ山に行ってみないか?個人的に興味もあるんだ。その転移陣ってのがどんなもんか。」

 インデクトがそう提案した。これにスフェンも同意を示した。


「僕もそれがいいと思います。それにマンダラ山は険しい山です。5000メートル級の山脈をはさんでイルセルセと接していますが、あそこに陣取ればどの勢力からも攻めづらいと思いますよ。頭数の少ない私たちにはうってつけの場所だと思いますよ。」


「むぅ…」

 そう唸って、ベインドットが考え込んだ。同様にナスルディンも顎に手を当てて考え込む。たしかに陣を張るには最適の地形なのだが転移陣がある以上、イルセルセからの急襲を受ける可能性がないか、と心配しているのである。


「いんじゃない?魔法陣の両側で儀式が必要なら急に襲撃される恐れもないんでしょ?」

 ビシドはいつもの軽いノリで答えるが、確かに彼女の言うことは尤もだ。だがそれ以上に今のナスルディンは彼女を崇拝している。彼女の発言には盲目的に従うきらいがある。


「そうですね!それがいいと思います!」


(おいおい、いいのかよ?こいつビシドが特大のアホだってこと知ってるのか?)

 自分の提案したことであるがインデクトはこのナスルディンの答えに不安を覚えた。


 インデクトの提案には裏があった。地理的に王都ニーベルフに近づけばそれだけ迅速に政府の判断を仰ぐことができるし、最悪の場合王子を拉致してむりやり転移陣を通るという方法もとれる。ビシドがかなり厄介な相手だが、もし抵抗すればルウル・バラがなんとかしてくれるだろう、との算段である。


 結局この提案に乗ることになり、途中通過する村や町でマンダラ山に向かうことを吹聴しながら進んでいった。革命政府の捜索網に引っかかる危険も高かったが、それ以上にアカネたちと合流することを目的とした宣伝工作である。


 途中やはり何度か元祖革命政府との小競り合いがあったが問題なくこれを退けつつ、一団はマンダラ山のふもとまでたどり着くことができた。

 その道中、やはり魔王軍も国境のベルツ山脈を越えて進軍しているとの情報が入った。一同に沈痛な空気が立ち込める。地理的に近づいているにもかかわらず『本家革命政府』との接触がなかったのは彼らがこの対応に追われているからに他ならなかった。


 軍と首都を掌握したことで本家革命政府軍の実力は元祖革命政府を練度でも規模でもはるかに凌駕する。それと接触せずに済むことはビシド達にとって僥倖でもあったが、そのしわ寄せがノルア国民にかかっているのだ。



 マンダラ山の中は噂通りかなり険しいものであった。


 けもの道のような山道では100人程度の少数とはいえかなり細長く軍を展開している状態になる。先頭をステファン達が務め、殿(しんがり)をベインドットが固める。その中央にナスルディンと護衛のビシドが位置する。


「これ…戦線が伸びきっちゃってない?早く陣地を築ける広い場所に出ないとやばいね…」

 そうビシドがナスルディンに話しかけた時であった。後方より怒号が聞こえた。


「まずい!敵襲だ!」

 ビシドの発言に緊張が走る。まさにその通りであり、ベインドット達が元祖革命政府軍の弓兵を中心とした敵の襲撃を受けていた。


「あんたたち、王子を頼むよ!」

 そう周りの兵に言い含めるとビシドは階段でも上るかのように近くの木の太い枝の上まで駆け上った。その位置から最前線を視認すると風のように木々の枝を飛び回りあっという間にベインドットのいる場所まで駆け寄ってオリハルコンの矢で応戦する。


 突然の爆撃に虚を突かれた革命政府軍の矢が一瞬止んだが、ビシド一人の矢では限界がある。他の者も矢を射かけるが、すぐに革命政府軍は無数の矢を浴びせかけてきた。


「わわ!やばい!飽和攻撃だ!」

 あわててビシドがベインドットの大盾の陰に隠れる。


「ビシド殿、噂通り凄まじい素早さですな!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 ベインドットの言葉に答えるビシドの額には冷や汗がにじむ。彼女は風の魔法が使える。これで味方の投擲攻撃の射程と攻撃力をあげて逆に敵の投擲攻撃を弱めることができるが、発動までに時間がかかる上に、今は距離が近すぎる。


 ビシドが王子を放っておいて前線に駆け付けたのはたった100人しかいない兵を少しでも失うわけにはいかないという判断であるが、この狭い道に飽和攻撃をかけられては手の打ちようがない。大盾を中心に防御を取っても、じり貧である。


 しかしその時、革命政府軍の後方で爆発音がして、数人の兵が木の葉の如く吹き飛ばされた。

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