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第169話 最終決戦

「スフェンは無事ギアンテに接触できてるのかな…」


 森の静寂の中、アカネの独り言が漏れた。


 現在アカネ一行はオムニア地方の森の中に潜入してイルセルセの出方を伺いながら、スフェンの連絡を待っている。ビシドの鼻と耳、そしてアマランテの魔力検知を最大限に活用しながら人との接触を避けて、スフェンがギアンテをおびき出すのを待ち続けているのである。


「信用できるんですかね…スフェンさんは…」

 チクニーが心配そうにアカネに尋ねる。


「どうかね…信用できようができまいが、進まなきゃいけない状況だからね。アタシ個人としてはアイツのことは疑ってるよ…?」

 アカネのこの言葉にチクニーが意外そうな顔をする。疑っているのにその言葉を信じてこんなことまで来たのか、と思っているのだ。


「アイツだけじゃない。アタシは誰だって疑ってる。あんた達だってそうよ。」

 その言葉にアマランテが絶望したような表情になるが、アカネはそのまま話し続ける。


「『裏切るかどうか』じゃないわ。指示通りに動けないかもしれないし、予想外の事態に対応できないかもしれない。そういうことも含めて疑う…違う、『考える』んだ。『人を信じる』っていうのは『考える』事を放棄すること。

 考えて、考えて、考え抜いて…そうしないと、その人とともに行動することも、守ることも、できない。

 …だから、みんな、アタシの事も疑って。考えるのをやめたら、この厳しい戦いを生き抜くことはできないわ。」

 アカネの独白に一同が押し黙る。そしてエピカが口を開いた。


「分かりました…ただ、一つだけ約束してください。アカネさんだけじゃなくて、他の皆さんもです。

 アカネさんの言葉をパクるみたいでアレですけど…みなさん、『自分が生きる事』を第一に考えてください。他の人を助けるのはその後です…

 コルピクラーニの森で自分を顧みずにアカネさんが私を助けてくれた時、…嬉しかったです…でも、同時に、私のせいでアカネさんが死んだりしたら、私はもう生きていけない、とも思いました。

 …誰かが死ぬくらいだったら、作戦を放棄して逃げる…命乞いをしてでも生き延びて、自分の命を大切にしてください。これだけは約束してください。」


「言われなくてもそのつもりだよ!!」

 エピカの言葉にチクニーが元気よくサムズアップしながら答えた。


 一瞬微妙な空気になったが、少し場の空気がやわらいだ。


「とにかく、この戦いが上手くいけば、戦争ももう終わりだ。絶対にこんなところで死ねないからね!」

 アカネが明るくそう言うと、皆の顔にも笑顔が現れた。


 しかし、すぐにアマランテが青ざめた顔でアカネに話しかける。

「アカネ様、杖の様子がおかしい。オリハルコンの宝玉が、また共鳴振動している…」


「なんだって!?…ってことは、この近くにもう一つの宝玉が…いや、ヤーッコがこの近くに…?」

 アカネもアマランテと同様焦った表情でそう呟くが、その時遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。


「その通り!でも残念、少し気付くのが遅れたわね。」

 距離が遠くて人影くらいしか認識できなかったが、この声には確かに聞き覚えがある、『炎の勇者』ギアンテだ。ギアンテをおびき出すはずが、待ち伏せされていたのである。それは即ち、作戦の失敗、イルセルセ側がスフェンの二重スパイに気づいていて、逆に罠にはめられたことを意味する。


「作戦は失敗だ!逃げろ!!」

 アカネの号令とともに全員がギアンテから距離を取るように走り出すが…


「それも想定の内、不利と分かれば即座に逃げ出すあなたたちの行動は予測済みよ。

 残念ね、その方向は『魔法陣』の中心よ…」


 走りながらアマランテがアカネに大声で話しかける。

「巨大な魔力の高まりを感じる!これは、設置型の魔法陣!!この魔力の種類には見覚えがある!!」


 その言葉を言い終わる前に無数の光の粒子がアカネ達の周りに降り注ぐ。

 アカネが驚愕した表情で言葉を漏らす。

「この魔法は…マンダラ山で見た…!!」


「そう…転移陣じゃ…」

 姿は見えないが、聞こえたのは大賢者ヤーッコの声であった。彼は転移陣の発案者でもある。ギアンテはアカネを『追い込む』ためのエサであった。転移陣の出現側の中心にアカネ達はおびき出されてしまったのだ。魔法陣自体は魔力を込めなければただの無機物でしかない。アマランテの魔力検知にもビシドの鼻にも反応しない。

 そう、アカネ達が敵陣に乗り込んでくることがなく、多勢でアカネ達に向かっても気づかれてしまうのならば、転移魔法で一瞬のうちに兵士達をアカネのもとに送り込めばいいのである。


 光の粒子は次々と人の形を為し、あっという間に100人ほどの兵士がその場に出現した。アカネ達は一瞬のうちに敵陣の真っただ中に位置してしまったのだ。


「やるしかないか…!!集合場所を決めてる余裕もない、とにかく各自生き延びる事だけを考えて!!」

 このアカネの号令とともに戦闘が開始された。しかし、たった5人で100人の兵士を相手に逃げ切ることなどできるのだろうか。しかも相手側には少なくともヤーッコと勇者の剣を持ったギアンテがいるのである。


「フンっ、やっとアカネとチクニーに意趣返しができると思ったのに…これは私の出る幕はないかもね…」

 ギアンテは魔法陣の外側で魔法陣の中心の方を見ながら笑みをこぼした。



「フッ!!」

 アカネの放った強い斬撃とともに炎が舞う。アカネの装備している剣は以前に作ったオリハルコンの剣であり、斬撃に魔力を込めて魔法を発することができる。刃を当てねば効力を発揮しないので、効果は薄いが、相手を威嚇するには十分な派手さである。


「アカネちゃん、危ない!」

 アカネの後ろから切りかかろうとした兵士にビシドが矢を撃つと、数舜の後に矢を受けた兵の体が爆発する。今回ビシドは全ての矢にオリハルコンの矢尻をつけている。また、矢筒も普段より少し大きいものを用意して多めの矢を用意している。


(数は多いが、練度はそれほどでもない…あとはアタシのスタミナが何処までもつか、だ…!)

 アカネは戦いながら考えを巡らす。敵の数は多い。しかし、人混みの中ではヤーッコの強力な魔法も、勇者の剣の稲妻も使えないはずである。逆にこれはチャンスかもしれない。どさくさに紛れてギアンテを倒して、勇者の剣の奪取が可能かもしれない、そう考えているのである。


 混戦の中、アカネ達は少しずつ仲間とはぐれて、いくつかのグループに分かれていた。




「コンコスールさん、深く切り込みすぎです!!二人で固まって移動した方がいいです!!」

「エピカさん!後ろはお願いします!!」


 チクニーとエピカは二人一組で、互いに背中を守りながら戦っている。チクニーは戦闘技術ではアカネに一枚も二枚も劣るが、力だけは闇の勇者一行の中でも随一である。彼の持っている得物はサイクロプスのウォーレンが鍛えた巨人鋼の両手剣である。一振りで複数の兵士をなぎ倒す業物だ。

 エピカも同様にナクカジャ王から下賜された、元々ウォーレンが制作したオリハルコンの指輪を装備しており、その力により強力な攻撃魔法と、回復魔法を使いながら戦闘することができる。


 二人の戦い方は安定していた。危なげなく兵士たちをあしらいながら、少しずつ森を抜けようと進んでいくと、それを呼び止める声があった。


「どうやら私の獲物が決まった様ね…チクニー、あの時の汚名を濯がせて貰うとするわ…」

 二人の前に立ったのは赤毛の女性、『勇者の剣』を装備したギアンテであった。




 一方、残る一人はアマランテである。足の遅い彼女は他のメンバーと完全にはぐれてしまっていた。しかし、メイヤの迷宮遺跡で手に入れたオリハルコンの宝玉を杖の先に装着している彼女の攻撃魔法は強力の一言であり、そのスタミナも尽きることを知らない。


 少し離れたところで、大木を背にして、兵士たちと対峙している。一歩でも前に進むものがあれば即座に彼女の強力な炎の魔法が襲い掛かる。いくつもの炭化物を作りながら彼女の周りは既に膠着状態に陥りつつあった。


「くそっ、なんて強力な魔法だ…迂闊に近づけん…」

 囲んでいた兵士の一人が独り言ちる。

 しかし、そんな兵士たちの後ろから気怠そうな声が聞こえてきた。


「やれやれ、ここにくりゃアカネとまた戦える、って言われたから来たってのに…

 どうやら俺は外れクジを引いちまったみたいだな…」

 兵士たちをかき分けるように、恵まれた体格の、日焼けをした50代程度の屈強な男が進み出てきた。


「だっ、誰…?」

 明らかに他の兵士とは違う大物臭を漂わせる男の出現にアマランテがうろたえながら問いかける。


「お初にお目にかかるな…俺の名はエルヴェイティ、『剣聖』なんて呼ばれ方をしてる者だ…」

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