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第165話 ノルア興亡史

「無駄な時間を使った…」

 スフェンは不満顔である。


 両者の意地の張り合いから無駄にこじれたが、結局アカネはエルベソ領に展開するヘイレンダール軍に対峙しているイルセルセ軍の取り込みに成功し、南部方面軍の軍団長を務めるテームとその副官、スフェンを仲間に入れた。


「勇者様の情報通りだと、3日後にエルベソ領は独立宣言をするんですよね?」

 チクニーの言葉にアカネが頷く。


「それにしても、エルベソ公が生きてた、とはなぁ…確かに、行方不明という記録にはなっていたが、まさかそれをヘイレンダール側が利用するとは…

 確かにエルベソ領の件については国内にも忸怩たる思いのある人間が多かったからなあ。それを取り込むために独立国化するとは考えたもんだな。」

 テームがそう呟いた後、アカネはそれにつけ足した。


「それだけじゃないわよ。同時にオムニア地方も独立宣言をするからね。イルセルセ国内は大混乱に陥るでしょうね。」


 その言葉を聞くと、テームはアカネの方に向き直って訪ねた。


「で、俺たちはそれに合流するってことだが、お前たちはどうするんだ?」


「………」


「…どうしようね?」


「え?勇者様、まさか何も考えてないんですか?」

 チクニーが驚いて聞き返すが、アカネは半笑いで考え込んだままである。


「いや、実際ここまでは常に先手先手を取れてきてると思うんだよね…実際、この作戦が上手くいったらノルア王国もイルセルセとの戦争に勝てると思うんだよ?

 ただね、うちらの目的としてこの先どうするかってとこなんだよね…」


「アカネさんの目的ってなんなの?」

 ベルコがアカネに質問する。アカネとしては当然イルセルセとノルアの戦争に勝利することを目的に戦っているのだろう、とベルコは考えていたのだが、それ以外に目的があったというのは彼女にとって初耳であった。


「サイクロプスのウォーレンさんとの約束ですよね?『勇者の剣』と『オリハルコンの宝玉』を取り戻すか破壊するか、っていう…」

 ウォーレンからオリハルコンの魔法具は世界に混乱をもたらすから、破壊するか、取り戻してほしいと依頼されたことをエピカがベルコに説明をした。


「サイクロプス?あなた達そんなのと知り合いなの?どういう人脈なのよ。

 しかし、そんな目的で動いていたのね…今の勇者の剣の保持者、っていうと、ギアンテさんになるのかしら?彼女がどこにいるのかわかればいいの?オリハルコンの宝玉はたぶんヤーッコ様が持ってるでしょうから首都の宮殿にあるんでしょうけど。」

 ベルコがそう言いながら考え込んでいると、アカネも同様に考え込みながら話す。

「どうなんだろうね?あのボケ爺この間深夜徘徊してたしどこフラフラしてるか分からないんじゃないの?

 なんか怪しげな魔獣も用意してたし、油断ならないんだよな、あの爺。」


 二人が考え込んでいると、スフェンが口を開いた。


「宝玉の方はともかく、勇者の剣の方ならどうにかなるかもしれませんよ?少なくともギアンテをおびき出すところまでは。僕に任せてもらえれば、ですけど。」

 アカネはしばらくスフェンの方を見ていたが、観念したように答えた。


「う~ん、このクソガキ今一信用ならないけど、他に手もないし、ちょっと任せるとするか。」


「それが人にものを頼む態度ですか…」




 一方その頃新生ノルア王国の本陣、ナスルディン率いるノルア王国正規軍は王国の北部領土で神聖ノルア帝国との最終決戦に臨んでいた。


「とうとうここまで来たか…ここで雌雄を決することになるのか…」

 浅く、流れの早い川を挟んで両軍が対峙し、馬上でナスルディンがベインドット将軍に語り掛ける。


「数の上ではほぼ五分と五分ですな。理由は分かりませんが、イルセルセ王国側も今は前線が手薄になっております、今日が決戦となることは間違いありますまい。」

 ベインドット将軍が展開している両軍を眺めながらそう言う。新生ノルア王国軍はイルセルセ対策のためその多くを首都に置いてきており、彼の言う通り数の上ではほぼ敵と同数である。しかし、ナスルディン王子の連れているのは軍の主力、タバタ騎士団の精鋭達だ。敵陣を剃刀のように切り裂く彼らの力はすべての敵にとって脅威として映っていた。このたった100人の遊撃隊がこれまでの戦の中で重要な役割を果たしてきたのだ。


(兄上は…結局投降の呼びかけにも応じてくれなかったか…)

 ナスルディンは敵陣の中央、おそらく兄であるスオムルがいるであろう場所を眺めながら物思いにふける。


 コルピクラーニの支援を失った神聖ノルア帝国は負け戦続きであり、旗色が悪かった。ナスルディン王子は兄であり、神聖ノルア帝国のリーダーでもあるスオムルに何度も和平の使者を出してはいたが、スオムルの答えはいつも同じ、『ナスルディンが我が配下となるならば考える』であった。


「事ここに至っては是非もありますまい。決着をつけるべき時が来たのです。ご決断を。」


 ベインドットの言葉を聞いてナスルディンは懐に忍ばせてあったアカネからの手紙をちらり、と見る。手紙には、オムニア地方での反乱を誘発する旨が書かれていた。オムニア地方で反乱が起これば、旧ノルア王国領土に進出しているイルセルセ軍の主力部隊はオムニア軍と新生ノルア王国軍に挟撃されることになる。逆に言えばそれまでにスオムルの件を片付けて万全の態勢でイルセルセの挟撃に当たりたいのだ。


 手紙にはもう一つ、神聖ノルア帝国のことについても書かれていた。その内容には『先ず、国というのは民と国と王の社会契約に基づいて運営される』とあった。内容を思い出しながらナスルディンは考えをめぐらす。


(なぜスオムル兄さまの話がこんな出だしになるのか最初は分からなかったが、繰り返し読んでいるうちに少しずつ分かってきた…結局このアカネさんの主張によれは王も、貴族も、法も、国を動かすための機関でしかないんだ…そしてそれは、大なり小なり民によって求められた契約だと…)


「殿下…来ますぞ!号令を!!」

 ベインドットの声にナスルディンが我に返った。


「全軍、進撃!!」

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