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第15話 それは美しき光の玉

 北を目指す道すがら、アカネは目的地をエピカに確認していた。


 本当は旅立つ前に聞かなければならない事であったが、アカネは「あること」が気になったため出立を早めたのであった。

 その「あること」については後述するが……


「で、北には何があんのよ?エピカの『野望』に関係あることなの?」

 この質問に対し、エピカは一瞬黙ってしまったが、覚悟を決めたようで静かに語り始めた。


「そうですね……本当はもっと親しくなってから言うつもりでしたが、性別のことがばれてしまった以上隠す必要もありませんね」

 性別と何か関係があるのか、不思議そうにアカネが尋ねるとエピカは自分の生い立ちを語り始めた。


 便宜上「彼女」と表記するが、彼女はやはり生まれつき自分の「性別」に違和感があり、「自分の性別か、魂が間違っているのではないか」、「どうにかしてその間違いを正すことはできないのか」と常に思い悩んでいたのだという。


「なるほど……それで本当の『女』になる方法を探すために冒険を……」

 珍しく神妙な面持ちで彼女の話を聞くアカネ。


「ええ……私はこの世界に伝わる伝説の秘宝を探し出して『ふたなり』になりたいんです」


「そこは『女』だろおおおおおおお!!」


 前触れもなくコンコスールが泣きながら大声で突っ込んできた。

 『ふたなり』とは最早説明の必要もないことかもしれないが両性具有、男女両方の性別を持つ者のことである。セメンヤ。


「なんでそこで『ふたなり』なんだよお!! 『女』でいいじゃん! 変なところ欲張るなよお!!」

 コンコスールは号泣している。


「え、ええ、そうなんですが、『女』になる方法はいくら文献を探しても見つからなかったんです……ですがかわりに『ふたなり』になる秘術、というのはいくつかの文献で見つけることができました」


 コンコスールの取り乱し様に困惑しながらもエピカが続ける。


「その方法のうちの一つ、儀式に必要な『オリハルコンの宝玉』を探すことが当面の目的です。その宝玉のありかを見つけるために王都の東にあるメルウェの神殿で神託を受けたいのです。勇者様もそこで神託を受けられれば魔王を倒すために必要なものがなんであるか、見えてくるかもしれません」


 なるほど、とアカネも納得したようである。さらにその話が気になったようで深く儀式の内容について質問してきた。


「儀式にはオリハルコンの宝玉が二つ必要らしいんです。オリハルコン、というのは古の錬金術により作られた金色に輝くマジックメタルなんですが……」


 アカネはそのオリハルコンなら見たことがある、と答えた。そう、王都でステファンに下賜された『勇者の剣』に使われていた素材である。

 なるほどたしかに『勇者の剣』の柄には金色に輝いている部分があった。その部分がオリハルコンなのだ。


 歩きながらもアカネはぶつぶつと呟いている。

「そうか……でもオリハルコンならもしかしたら……手に入れられるかも……ん? 待てよ?」

 何かに気づいたようで、アカネがうつむきながら考え事をしている。


「オリハルコンが二つ……金色に輝くオリハルコンの宝玉が二つ……

 ……金色の宝玉が二つ

 ……金の玉が二つ……」


 何か確信めいたものを得たようで、アカネの歩みは止まってしまった。


「アカネちゃん? どうしたの? 早く町から離れたかったんじゃなかったの?」


 ビシドが心配そうにアカネの顔を覗き込む。


 アカネは顔を真っ赤に紅潮させてぷるぷると震えていた。心なしか笑いをこらえているようにも見える。


「アカネちゃん!? 一体どうしたの!?」

 すわただ事ではない、とビシドが一層心配そうな顔でアカネに問いかける。


 アカネは震えながら少しずつ答え始めた。

「い……いや、今の話なんだけどさ……金の玉が二つって……」


「何かわかったんですか!? 勇者様!!」

 もしや秘術に心当たりがあるのか、とエピカが尋ねる。


 アカネがそれに半笑いで答える。

「いや…その秘術さあ! 多分だけど男が『ふたなり』になる方法じゃなくて、女が『ふたなり』になる方法だと思うよ!! だって、エピカがその秘術使ったら……玉が4つになっちゃうもん!!」


 ここまで答えてアカネはついに爆笑してしまった。


 合点のいったアカネに対し日本語の分からない3人はまったく事情が掴めない。


「ちょっとちょっとアカネちゃん! どうしちゃったのよ!?」


 アカネを心配して問いかけるビシドに対してアカネが何やら耳打ちする。


「私の国の言葉で……

 ……金の玉って……

 ……男が使ったら……」


「ぶはーっ! アハハハハハハハ!!」


 話を聞き終わると今度はビシドが全力で噴出して七転八倒、地面を転げながら笑い始めた。


「な、何事ですか!? 勇者様、ビシドさん!!」


 事情の分からないエピカは慌てふためきながら二人に問いかける。

 この話の蚊帳の外に置かれたコンコスールも不思議そうな顔で二人を見つめている。


 やっとアカネの方は落ち着いたようで申し訳なさそうにエピカに答える。


「いやごめん、堪えきれなくて。まあ、細かい話は省くけど、その『宝玉』の方法だとエピカは『ふたなり』にはなれないかもしれないんだわ。でも安心して! アタシは必ずエピカが『ふたなり』になる方法を探して、恋を成就させてあげるんだから!」


 「何を言い出すんだ」と言った顔でコンコスールがアカネの方を睨むが、アカネはさらに続ける。


「そしてコンコスール!! もし上手くいって二人が結婚したあかつきには、ご祝儀にあんたを解放奴隷にしてやるわ!!」


 複雑な表情でコンコスールが答える。


「いや……それはうれしいんですが、『ふたなり』になるってことは、その……『男』の方は残るんですよね……? それはとても複雑な気分、というか、素直に喜べない、というか……」


 苦悶の表情を浮かべるコンコスールと、希望に燃えるエピカの笑顔、二人の対照的な表情であった。

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