第八話 勇者
は!?異世界から勇者!?そんなおとぎ話みたいな…
それより何で俺に極秘情報なんか…
…俺これ聞いちゃったけど大丈夫?消されたりしない?
「ははは。まあ落ち着いて。それで、魔王討伐のために素質のある者を探したり、人材育成に力を入れたりで、今教育界で革命的なことが起きてるんだ。それで、僕の独断で実力のある者には便宜を図るように言われているんだ」
「何故、そんなことを?」
「色々と理由はあるんだけど、僕は実力者を見つけ次第、王宮に報告義務があるし、その時に何してるかとかは僕がわかるようにしておきたいからね。それに、いざという時戦力になるものには恩を売っておいて損はない」
「打算ありってことですか」
だとしても、こんなに考えをベラベラを話すのはあまりにも不自然だ。
話を聞く限り、こちらにデメリットはなさそうに思える。
僕はまだ一般人に過ぎず、一般人である以上戦いを強制することはできないからだ。
「でも、君の場合は違う」
「どういうことですか?」
「賢者から、君はすでに最強を名乗ってもいいレベルに達していると報告を受けている。そこで、王宮から私には君から信頼を得ろとの指示があった。君に行動の意を説明するのはそういうことだ」
「…それはわかりました。俺は結局どうすればいいんですか?正直、まだ学園には通いたいっていうのが本音です。あ、でも来年から学科編成が変わるんでしたっけ」
「そう。そしてそれが本命の提案。勇者と一緒に英雄科に入らないか?というのは建前で、君に勇者の成長の手助けと護衛を頼みたい。かなり、勇者はプライドが高そうだから堂々と護衛はつけられなくて困っていたんだ」
…勇者の護衛か。正直、荷が重い。
異世界の勇者に興味はある。果たして、実力はいかほどなのか。
この世界を任せるにたる器なのかなど。だが、それが俺である必要があるのか?
うーん…
「じゃ、じゃあ、普通に通ってもらうだけでもいいからさ!勇者がピンチの時は手助けしてあげてほしい。それならどうかな…?」
うーーーーーん。まあ、それならいっか。
「わかりました。それなら引き受けましょう。俺にできる限り、勇者の成長の手助けをさせていただきますよ」
「おお、そうか。ありがとう!!」
そう言うと、満面の笑みで手を握られた。なかなか人懐っこい性格だなと思った。
学園には推薦で英雄科に入れてもらえるらしい。英雄科は学費は完全国持ちで、完全実力主義らしい。
俺がズルして入るようで少し罪悪感があるが、正直ふつうに受けても落ちる気はしないので元々かと納得することにした。
こうして、俺はしばらく学園長と話した後、寮に戻った。
パタンと学園長室の扉が閉じ、一人の生徒が部屋から出て行った。
「ぷはーーーー!何あの魔力…やば過ぎ!反則でしょ!あんなの、やろうと思えばいつでも魔王くらい倒せそうだけどなぁ。なんで勇者にしか倒せないんだろ…あれは世界が滅んでもあの子なら生きてそう…」
確かに、あの子の力は絶大すぎる。そしてまだその力を正確に把握出来ていない。
あの子はまた、見方によれば魔王よりも危険な存在となりうる。
だが、人となりは信頼できる。しっかりと芯をもっている、良い子だ。
これまで沢山の生徒を見てきた学園長は人を見る目には自信があった。
そのため、一人の生徒を守るため、王宮への報告は少しマイルドにすることにした。
そのまま報告すれば、下手をすれば若くして追われる立場になりかねない。実力を把握していないうちにそんなことをして、魔王軍に寝返ったりすれば人類はすぐに絶滅するだろう。
もっとも、学園長はそんなことになるとは思っていないが、最悪そうなる可能性があるということだ。
「頑張ってくれよ、アレク君…」
◇◇◇◇
「おかえり、アレク」
「ああ、ただいまっと」
自室に帰るとホムラがソファでくつろいでいた。
こいつ、賢者なのにこんなところにいていいのだろうか?
「なあ、お前いつまでここにいるつもしだ?」
「これからもずっと。私も英雄科に入る」
「ええ!?お前が入んの!?」
「何?不服?」
俺がちょっと驚いたように言うと、ホムラは表情を変えずに聞いてきた。逆にちょっと怖いわ。
「当然。私も魔王には少し興味がある。いざとなったら私とホムラがボコボコにして勇者がとどめを刺すだけでいい」
「そりゃ、そうかもだけど。お前学園で学ぶことなんかあるのか?」
もはや賢者と呼ばれるまでに魔法を極めたホムラが今さら学園で学ぶことなどなさそうに思える。
「私も学園行きたい」
「………まあそれもいっか」
ホムラと学園生活も、悪くないだろう。