第六話 学園長
学校に着くと、職員室から泣きながら話す聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…ううっ、そうなんです。あいつ、一丁前に俺たちを逃がすために…」
「すみません…俺たちも逃げることで精一杯で…」
「せめて、あいつの遺品でも回収できたら良かったんですが、逃げる途中で振り向いたらあいつはもう、モンスターの餌食で…ううっ」
「そうか。アレクはお前たちを助けるために…立派だったんだな。お前たちだけでもよく逃げ帰ってきてくれた」
ネロス達は言いたい放題だった。どうやら、俺が自ら囮になったことにしたらしい。
さっき聞いた話と少し違うが、あくまで自分たちの罪を告白する気はなさそうだ。
ただまあ、結果的に助かって、ホムラとも会えたわけだからそんなに怒りがあるわけではない。
だけど、しっかりと報いは受けてもらおう。
ガラガラと勢いよくドアを開けて中に入る。
「失礼します」
「「……え?」」
「「「な!?」」」
教師陣は戸惑いの表情を、ネムロ達は驚愕といった表情で見てきた。
まだ事態が飲み込めているものはいないらしい。
「えっと…アレク君よね?」
「はい。どうしたんです?狐につままれたような顔をして」
「いやだって、お前は死んだはずじゃ…」
ネムロの取り巻きの一人、カシムが心の声をこぼす。
「なんでてめえが生きてんだよぉ!?」
「なんでって、お前らが俺を囮にして逃げた後モンスターパレード死ななかったからに決まってるだろ?」
「バカな!?だってお前は…いや、よく生きて帰ってきてくれた!俺たちを逃がすためとはいえお前を残して逃げ帰ってきて本当に後悔してたんだ。すまなかった…………(おい、話を合わせろ。さもないと、わかるな?)」
謝罪の後に教師陣の聞こえない小声で脅してくる。
前までの俺ならきっと屈していただろう。だが、今さらそんな脅しは今の俺には全くもって通用しない。
「先生、俺はこいつらに囮にされたんです。自分たちだけ逃げるために俺を…たまたま運良く生き残れましたが、もしかしたら俺は本当に死んでいたかもしれません…」
「まて、それが本当なら大問題だ」
「悪い冗談はよせよ。帰ってきたばっかで疲れているだろう。今は休んだ方が…」
ネムロは必死に誤魔化そうとするが、次第に先生たちもネムロたちを疑いの目で見始めた。
往生際が悪く最後まで粘ったネロスたちだが最終的に取り巻きが耐えられず洗いざらい吐いた。真偽の魔道具も使った捜査となり、少しことが大きくなった。
逃げようとしたネムロだが、すぐに取り押させられ、屑野郎の烙印を押されることになるとともに、四人まとめて退学処分となった。
その時、先生たちからどうやって逃げ帰ってきたんだとか、これまでもイジメられていたのかとか根掘り葉掘り聞かれたが、奈落のこと以外は話した。
そして、俺は今、学園長に呼び出されていた。
他よりも豪華な扉が廊下の奥にある。
コンコンとノックして中に入るとエルフの美青年が椅子に座って佇んでいた。
元S級冒険者のリード先生、俺を呼び出した張本人だ。
「良く来たね。まあ、かけてくれ」
「失礼します」
柔らかい、高級なソファに腰を下ろす。ちょうど、学園長と向かい合う形となった。
「先日のことは大変だったね。大事にならなくてよかったよ」
「ありがとうございます。今日呼び出されたのも、その件ですか?」
「うん。そうだね」
学園長はじっくり観察する眼差しで俺を射抜く。
俺はそれに怯えることなく、見つめ返した。
「単刀直入に聞くよ。ダンジョンでいったい何があった?」