第五話 死んだことになっていた
「じゃあ、この上に乗る」
「了解」
ホムラの下に展開された魔法陣の上に二人で乗る。
「空間魔法第七階位【空間転移】」
二人はシュンと奈落から消えた。
◇◇◇◇
「帰ってきたー!地上!ってあれええええ!まだモンスターパレードやってるぅぅぅ!?」
「だから言った。奈落は時間の流れが遅い。多分、アレクが奈落に落ちてから60分くらい」
「……じゃあ、ホムラが奈落に落ちてからこっちでは2年くらいってこと?」
「じゃ、じゃあ…あの消えた賢者っていうのは…」
「多分私。今まで気づいてなかったのか?」
「い、いや、賢者の名前なんて知らないし、もっと大昔の人だと…いや、話題が若干古いなくらいには思ってたけど、そんな最近だったなんて…」
「どうでもいいけど、これどうする?」
あ、忘れてた。モンスターパレードが発生してるんだった…!
「僕が片付けるよ。師匠の手を煩わすわけにはいかないしね」
と言って、「歩法」を使ってで光速で接近する。
刹那。
強化は使わずに、全てデコピンで首を飛ばす。
空気抵抗を受け流しているため、風は一切発生しない。
「よし、行こう」
「そうだな」
数瞬、遅れてモンスターの群れが倒れる。魔石回収はもちろん忘れていない。
この後、どうやって抜け出したんだとか言われたときに証拠になるだろうし。
空間魔法第五階位【亜空間収納】にしまっておく。
地上に出る。
おお、二年ぶりの太陽だ!
「ん?おいあんた、死んだんじゃなかったのか?」
太陽の余韻に浸っていると、ダンジョンの入り口にいた冒険者職員に止められた。確か、ダンジョンに入る前に少し話した覚えがある。
「俺が死んだ?一体、どういうことですか?」
「いやな、さっきお前と一緒に入ってた少年が出てきて、モンスターパレードにお前の足がやられて、俺たちを逃がすためにあいつは自ら囮に…って泣きながら言ってたんだよ。だから今から俺たちが向かおうとしてたんだが…見たところ、足は怪我してないな。何があった?」
真剣な顔つきになって、聞いてきた。
「実は…」
俺は事情を話すことにした。
「…なんだと!?そんなことが…お前が嘘をついているとは思えない。クソッ、だが証拠がないな」
「いえ、構いません。彼らは今どこにいますか?あ、僕が帰ってきたことは少しの間秘密にしてもらえますか?」
「え?なんでまたそんなこ…ああ、そういうことか。了解だ。あいつらなら今は学校にいるはずだ。教員がきて、事情を聞くと行って連れて行ったからな」
「ありがとうございます」
「あ、それから。お前、どうやってモンスターパレードから逃げてきたんだ?」
「ああ、それなら…」
と言って、亜空間収納から大量の魔石を取り出して、ニヤリと笑って見せた。
「倒したんですよ、全部」
「!?まじかよ…嘘では、なさそうだな。お前、うちのパーティに入らねえか?」
「遠慮しておきます。俺はまだ学生なので」
「そうか。気が向いたらいつでも言ってくれ。歓迎するぜ」
そう言ってニカッと笑って返してくれた。嘘を見破るスキルでも持っているのかもしれないと思った。
「さーてー?どうしてくれようか…?」
アレクは囮にされて、勝手に死んだことにされ、静かに怒りを燃やしていた。
そして、今から凶悪犯罪でもするかのような悪い顔をするのであった。
「アレク、顔怖い」
「おっと、笑顔笑顔」
ホムラに指摘されて笑顔に直すアレクだが、その笑顔もまた、狂気に満ちた笑みである。
既に、弱々しかった頃の面影などとうになくなっていた。