第三話 スパルタな特訓
「はあ、はあ、はあ…まだか?」
「まだ」
奈落に落ちて、体感3日ほどたった。
ホムラは俺に、まずは体力作りだと言って走らされ、筋トレをさせられ、ボコボコにされた。
なんでも、俺のスキル「丈夫」は常に発動しているスキルらしく、体を丈夫にし、柔軟性、免疫力、回復力を高めるスキルのようだ。
同時に「強化」というスキルも鍛える。任意に、全てを強化させるスキルのようだが、このスキル、発動させても変化を感じられないのは強化されるのがあまりに微弱だかららしい。
そもそも、生まれた時から持っているということは赤ん坊の時からが持っているスキルということ。
もともと赤ん坊が持っていても不自然でない?ってくらいの効果しかないと言う。
確かに、と思う一方で、気づかなかったら一生雑魚のままだったのかと軽く震える。
そう思えば、俺を囮にしたやつにも感謝すべきなのか?いや、囮にするのはいかんだろう。
だが、俺の中にほとんど怒りは消えていた。
また、スキルは使えば使うほど成長し、病気を負うほど、怪我をするほど、筋トレをするほど、効果が上がる。
ほかのスキルの使い方を教えるためにも、今はこの「丈夫」と「強化」のスキルで土台を作るそうだ。
正直、地味。そして、地獄だった。まさしく、奈落。
回復魔法を使用してもスキルは成長するらしく、容赦なくボコボコにされ、治され、ボコボコにされる。
その間、避けてみろだの、反撃してみろだの言われた。
最初は無理だと思ったけど、しばらくすると避けたり、反撃したりもできるようになった。
それをすると次の日は倍の威力とスピードでボコボコにされるのだけれど。
体感では、永久にも一瞬にも感じられる日が過ぎた。
まじめにおそらく六ヶ月くらい。一年の半分が過ぎた。
僕の体は見違えるように丈夫になった。
もはや丈夫どころが、皮膚は頑丈に、筋肉は柔軟性を兼ね備えた強靭なものに。
そして、もっとも変化が大きいのは精神面だろう。
あの苦痛を耐えきった俺は、ひとりの人間として成長したと胸を張って言える。
ミノタウルスと相撲をさせられ、毒の海で泳がされ、ありとあらゆる攻撃魔法を打ち込まれた。
いまなら、生半可な攻撃なら無傷で生還できる自信がある。
そうして、土台が出来上がった俺は、さらなる高みへと足を踏み出そうとしていた。否、さらなる地獄へと無理やり押し出されそうになっていた。
「今日からお前のスキル「歩法」「受け流し」そして、魔法について教える」
「あ、そうだ。「受け流し」っていまいち使い方が良くわかってないんだよ」
「それについても後で教える。ついてこい」
そう言って、ミノタウルスと相撲をしたところに連れてこられた。
「そもそも、歩法って言うのはただ単純に歩くだけのスキルではない。どこでも、どんな風にでも歩けるスキルだ」
「??結局どういうことなんだ?」
「要は空中でも水の上でも、時間の隙間でも影の中でも歩けるってことだいいからやってみる」
「いや、いきなりやるって言ったってって出来るわけ「やれ」…はい」
俺は空中を歩くイメージで歩法を発動する。
「お、おお、おおおおお!!!歩いてる!俺今、空中を歩いてるぞ!!」
「走れる?」
「やってみる。おお、走れた」
「じゃあそのまま時間の間を走ってみて」
「時間の間ってなんだ…」
奈落は地上より時間の流れが遅いって言ってたし時間は流れるもので間違いないだろう。その間を走るってことか?
そもそも時間が流れていたとしても隙間なんてあるのか?
とりあえず、やってみるしかないか。
時間の間、間、間…いっそ時間が止まってくれればわかるんだけどなぁ。
「ってうわぁ!?止まってる?」
刹那悟る。このスキルの使い方を。
そして、ここが時間の間だと。
なるほど。こういうことか。
「出来たよ」
「そうだな」
「多分、このスキルは全部わかった」
「…のようだな。では、次へ行こう」
これなら余裕かもしれない。あの地獄を耐えきったんだから、次もいけるだろう。
そんな、甘いことを考えていた。これから、永遠に思える地獄を見ることを知らずに。
この時のホムラの表情は少し、嬉しそうに見えた。