第二話 そこは奈落という場所で
「え、エルダーリッチって…もしかしてあの伝説の?」
「その認識で間違っていない。よろしく、アレク」
…普通にやばい。
エルダーリッチって言えば神話に出てくる魔王にも匹敵するSSランクモンスターだ。
いや、ハッタリの可能性もなくはない…が、もうすでに本物だと確信している自分がいる。
「安心しろ。危害を加えるつもりはない。さっきお前の記憶を見たからな。事情はわかっている」
「じゃ、じゃあ、た、食べたりしないか?うううまくないぞ!めっちゃんこまずいぞ!」
「食べたりしない。そもそも、ここでは時間がものすごくゆっくり流れている。腹はほとんど減らない」
時間がゆっくり流れている?もう訳がわからない。
…あ、忘れてた。
「ここはいったいどこなんだ…ですか?」
「タメ口でいい。ここは、貴方が思っている通り奈落」
奈落……そうか。俺は、死んでしまったのか…生きてる間は碌なことがなかったけど、死んでもなお地獄行きとは、つくづく運がないな、俺って。
「勘違いするな。お前は死んでいない。そもそも奈落は死んで行くところじゃない」
俺の絶望した表情を見てか、ホムラは言った。
「奈落というのは単にここの場所の呼び名。私が勝手につけた。身を蝕むような魔素の影響で強力なモンスター湧き出る、まさしく地獄のような場所という意味」
「身を蝕む魔素?全然、そんな風には感じないけど…」
魔素が濃いとは思うが、身が蝕まれている感じはしない。
「多分、スキルの影響。そんなことより、お前は強くなりたくないのか?」
「…なりたいよ!なりたいけど、いくら頑張ってもスキルが獲得できないんだ。俺は強くなれない…」
「何を言ってる?そんなに強力なスキルを持っていたら、他にいらない」
彼女は心底意味がわからないといった表情で、首を傾げて言った。
「ははっ、変なことを言うんだな。記憶を見たならわかるだろう、俺のスキルを。あれのどこが使えるって言うんだ…」
「それはお前が使い方を知らないだけ。それどころか、そのスキルが凄まじすぎて容量使いすぎてる。だから、新しくスキルを獲得できない」
「容量?人間には獲得できるスキルに限りがあるってことか?」
「そうだ。人それぞれ容量は違うけど、たしかに限界がある。限界までスキル取得できるものなどそういないからあまり知られていない。それだけ、お前のスキルは凄いということ」
「お前なら、スキルの使い方がわかるのか?」
「…わかる。だが、もう少し詳しく調べる必要がある」
「…頼む!俺にスキルの使い方を教えてほしい」
俺は頭を下げて懇願した。
…これまでバカにされ続けたスキルが、いきなり実はすごいものだったと言われても普通は信じられない。
だが、彼女からはそれが真実だと信じさせる何かがあった。
熟練の、達観した、超越した何かが。
俺はそれ信じることにした。
「元よりそのつもり。ここは退屈。ちょうどいい暇つぶしができてラッキー」
「ありがとう!」
勢いよく礼を言った。
それにしても彼女は一体、いつから、そして何故こんなところにいるのだろう。
何故、エルダーリッチになったのだろう。
今更ながら、そんな疑問が出てくる。
良く見ると、本当に美少女だということがわかる。
これからこんな美少女を師事するのか。少々、理性に仕事してもらわないといけないな…
モンスターだと思えば簡単だが、それすらも忘れてしまいそうな容姿だ。
何しろ人間だと言われても何も疑えない。
色々と謎が渦巻く中、俺は強くなるために特訓を開始した。